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悪役が生き残る方法

 

「ふあ……ぁ。よく寝た。あれ、私何してたんだっけ」


 身体を伸ばしてあたりを見回すと、ディランとジョシュアがこちらを見ていた。


「あれ?」

「起きたか、ベアトリクス……よかった」


 ディランがいつもの険しい顔ではなく、優しく甘やかすような声色で私を抱きしめた。

 蜂蜜色の髪が目の前にいっぱいに広がってきらきらと輝いている。


「えっ?えっ??」

「長かった……。ようやくこうして、君を生かす事ができた」

「どういうこと?」

「先ほど、誕生パーティーでフリードリヒ様がクロエ様との婚約を発表されました。ハッピーエンドを迎えたそうです」

「っじゃあ私はっ……また死ぬの……っ?」


 ジョシュアが笑って首を振った。


「私が説明する。ベアトリクス、少し長くなるがすまない」


 ディランの話はこうだった。

 実は予言書は、2つあった。

 1つは皆もしっている、『聖女の花は誰が為に』を事細かに綴った予言書A。

 もう1つは、予言書Aを知ったことでシナリオに変化が起きることを綴られた予言書Bである。


「私の弟、エルドレッドは予言書Aを知って、その結末で不幸になる貴女を良しとせず、足掻く私の為に筋肉をつけることで予言書を違えようとした」

「何故マッチョを選んだ……」

「正義感は強いが頭はあまりよくないんだ。騎士アイザックは予言書Aを読んで、自分の内なる乙女心とはまったく違う自分の行動に驚いていた。」


 やっぱり普通のシナリオでは乙女ではなかったんだわ。喫茶店で知った時は驚いたわよ。


「ベアトリクスは、毒を呷った記憶があるといっていたね?」

「はい」

「それは私のルートのハッピーエンドだ。実は私にとって今回は238回目の生なんだ」


 えっ?何その回数。


「予言書Bに触れたことで、どうやら記憶が引き継がれるようになった。何度も何度も繰り返すうちに、私はベアトリクスをなんとか助けたいと思ったんだ。貴女が最初考えたようにイベントを妨害したり、予言書に逆らって、時には自ら命を絶とうとしたこともある。しかし、どんなにやってもシナリオは進み、君だけが死ぬ」


 ジョシュアがことり、と紅茶を運んできた。ありがたく頂こう。


「イベントを失敗させても、クロエを殺しても、時間は巻き戻り、また最初からゲームが始められる。まさに呪いに等しいよ。だが今回だけは違った。予言書の存在と悩みを打ち明けると、エルドレッドがマッチョになった。その様子は、予言書Aではなく、Bに書かれているものと似通っていた。騎士アイザックの乙女心もそうだ」

「Bにはなんと?」

「隠しルート、と書かれていた。おそらく、前の世でディラン(わたし)のハッピーエンドを迎えたことで、鍵がようやく揃ったのだろう。ベアトリクスは学園には登場せず、諸々のイベントは省くがクロエは隣国の皇太子と婚約する、と書いてあった」

「それは、まさに今の状況ですね……」

「そうだ。私はずっと予言書Bの通りになるのを待っていた。この隠しルートだけ、ベアトリクスは最後に出てきてクロエに倒されて終わる。死んだ、という描写がない。私はこれに賭けていた」


 ディランは微笑む。


「ようやくだ。ハッピーエンドを迎えたが、時間は巻き戻らない。誰か知らぬ世界の主が、すべての結末を見て満足したのだろう。私たちは……解放された」


 では、もうシナリオに怯えなくてもいい?


「これでようやく、ベアトリクスは私のものだ」

「……え??」

「療養から帰ったことにして、学園に復帰させる。予定通り、18歳になったら結婚しよう」


 嬉しそうに言うディランに対して、私とジョシュアの顔が凍った。

 すっかり忘れていたが、私はまだ、ディランの婚約者のままなのである。



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