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シナリオからは逃げられない


 食事は1日に3度、きちんと運ばれる。覆面をした影が1人、そっと扉の外へ置いて合図だけして消えるのだ。

 まず私たちが最初にしようとしたのは、ジョシュアの首輪の解除だった。しかし、首輪の認識阻害は解除できても、首輪自体には古代文字まで使われており、国宝レベルの技術が使われていたためどうしても解除ができなかった。

 私一人では、すべての罠をかいくぐって逃げるには時間がかかりすぎる。毎日少しずつ解析をするが、日毎にどうやらパターンがある用で、仕組みを把握するのには最低でも2週間ほどが必要に思えた。


 その日も集中していると、フリードリヒが訪ねてきた。私は、気づかれないように何でもない風を装う。


「今夜、俺の誕生祭が王宮で開催されることになった」

「あら、お誕生日でしたか。おめでとうございます」

「それに出席してほしい」

「はい?」


 有無を言わさず、ドレスと装飾品が運び込まれた。


「いったい何故?」

「ベアトリクスは私の婚約者だろう。私を1人で出席させる気か?」


 蜂蜜色の髪に、暗く赤い瞳。ディランが現れた。


「なっ……!」

「ベアトリクス。何故追手が来なかったのか?誤魔化しとおせると思っていたのか?私が見逃したからに決まっているだろう。迎えに来たんだ、もうすぐシナリオは終わる。そのためには君がいなくては」


 それは、私の死が近づいているという事だ。



 万が一でも逃げ出さない様に、ディランに見張りを置かれてしまった。

 赤いドレスを着て、金の装飾を纏う私の姿は、パッケージで見た悪役令嬢ベアトリクスそのままだった。


「ベティ、聞いてください」


 ジョシュアが私の髪を結いながら、見張りに聞こえない様に話しかけてくる。


「おそらくですが、ディラン様がこちらに来られる際、罠は解除されている筈です。僕が暴れますので、その隙にお逃げください」

「でも、それではジョシュアは……?」

「今夜がシナリオ最終日だというなら、ぶち壊してやりましょう。どんな手を使ってでも」


 ディランが来る前触れが届いた。

 私の髪を結い上げて、ジョシュアは金の飾りではなく、私の腕に嵌まっていたタイガーアイの魔石のついた紐を使った。


「はじめます」


 椅子を振りかぶって見張りの頭を殴る。甲冑の上から殴られた程度ではびくともしないが、相手が驚いた隙にジョシュアは見張りの剣を奪った。

 すぐに気づかれて、残りの見張りがジョシュアを捉えようと迫ってくる。


「行って!!」


 叫ぶジョシュアに向かって、私は風魔法を放った。ジョシュアの周りの見張りが吹き飛ぶ。


「行くなら、一緒よ。約束したでしょう!私から離れないって!」


 ジョシュアに向かって手を伸ばすと、はっとして手を握り返してくれた。

 そのまま二人で外へ飛び出す。


「やはりこうなるか……」


 私たちをみたディランがそう呟いて杖を模した剣を引き抜き、構えていた。


「動くな!ベアトリクス!」


 剣の柄に嵌められた魔法石が赤く光り、剣を魔力で染めていく。

 魔力を帯びた剣と打ち合って、ジョシュアの持つ普通の剣は絶えれずヒビが入り折れてしまった。

 私は雷と水の魔力をねって、麻痺魔法を飛ばすが、簡単に弾かれる。


「動くなと言っただろう」


 ジョシュアの足場が凍り、縫い留められた。


「くっ……」


 つかつかとディランが抵抗するジョシュアに近づき、白い宝石を首輪に近づけると、からん、と音を立てて首輪は二つに割れて床に落ち、魔力が開放された。


「なぜ……」

「最終決戦は、全力でなければ意味がない」

「これもシナリオのうちだというの……」

「そうだ。まもなく始まる」

「ベティ!!大丈夫か!?」


 廊下を走ってフリードリヒが駆けつけてきた。

 その後ろからは、アプリコットオレンジの髪の、聖女クロエがやってくる。


「ディラン様」


 伺うようにディランを見るクロエに、ディランは大きく頷いた。


「場所は違うが仕方ない。始めよう」

「わかりました。ベティ様、貴女は隣国に竜を放ち襲わせた挙句、フリードリヒ様を惑わせた悪女です。そのようなことはもう、やめてください」

「何のことだか、さっぱりよ」

「……言っても、聞いてくれないのですね。仕方がありません。私があなたを倒します!」


 聞く耳がないのはどっちよ!!

 これがイベントだっていうのなら、そんなものに付き合ってやる訳なんてない。

 私とジョシュアは手を取って逃げようとしたが、あっという間に白い光に包まれて気を失ってしまった。


「ベティ!!」

「フリードリヒ様!私、ベアトリクス様を倒しました!」

「え!?あの一瞬で!?」

「フリードリヒ様?私、ベアトリクス様を倒しましたっ!!」


同じ事を2回言うクロエに対し、フリードリヒがはっとした顔をして続けた。


「あっ……何故か急に気分が……」

「大丈夫ですか?きっと洗脳が解けたんだわ。誰か、フリードリヒ様をお願い」


 気を失ったベアトリクスの前に立ちはだかって警戒するジョシュアを置いて、フリードリヒとクロエはさっさと引き上げてしまった。


「ジョシュアと言ったか。そのままさっきの部屋でベアトリクスを寝かせてやれ」

「……」

「話はそこでしよう。ベアトリクスが気絶した今、転移は難しいだろう」



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