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退路は断たれた


「ジョシュア、どうしよう……」

「ベティはこのイベントを知らないの?」

「知らない。これがイベントかもわからないし、そもそもどうして隣国の聖女がトーワ(こっち)にいるの?」


 私が『聖女の花は誰が為に』を完全攻略しなかったのは、メインの話が同じだからだ。

 誰のルートへいっても、攻略対象の生い立ちやトラウマが多少異なるだけで、だいたい似通った話が続くのに飽きてやめてしまった。

 選択肢を選ぶのがへたくそで、ハッピーエンドを1つ迎えるまでに何度も何度もやり直したので、余計にそうだった。

 選びたい攻略対象者のルート以外の選択肢を間違えて選んでも、イベントが失敗するくらいでメインの話は変わらない。

 だいたい学園で恋愛をし、卒業するころに悪役わたしが断罪され、ハッピーエンドを迎えるか、1人でバッドエンドを迎えるか。

 だから隣国に来て、こんな風にドラゴンを倒すなんてルート、あるはずがなかった。


「いやっ……私は何もしてない。死ぬのは嫌……!」


 じわじわと迫る絶望を呑み込めず、ぼろぼろと涙があふれ出る。

 ジョシュアがそっと私を抱きしめた。


「ベティ。まだ決まったわけじゃない。もしかしたらシナリオが変わった結果なのかも」

「え……?」

「ベティがトーワに来たから、学園でシナリオが進まず、こっちで進んだ可能性だよ。もし何かが変わっているのならそれは、変えられるってことだ」

「変えられる……?」

「とにかく情報が欲しい。ヒューバートにもう一度鳥を飛ばそう」

「わかったわ」


 水色の石に向かって名前を呼び、こちらで起こった出来事を書いた手紙を持たせる。

 いつものように翠色の鳥が飛んでいき、()()()()()()()


「ベティ。ベアトリクス=ブラッドベリー。残念だよ」


 鳥は墜落し、石に戻って粉々に砕け散った。

 そこには、落ちた水色の破片を避けて手紙を拾いながら、フリードリヒが泣きそうな顔でこちらを見ていた。


「愛する君の無事を確かめて急ぎ来てみれば……君がスパイだったなんて」

「はい??」

「違うのか?たった今、隣国の公爵に密書を送ろうとしたろう?」

「違います」


 何故そんな勘違いをするのか。


「妃に迎えたくて身辺調査を行えば、君が隣国のブラッドベリー侯爵の一人娘であり、その従者と共に行動しているのはすぐわかった。何故王太子の婚約者がここにいるのかはわからないけれど、この手紙を見ればその理由ははっきりするだろう……どれ」


 封を開けて、緑の瞳が素早く文字を追う。

 見ればわかるだろうが、どこにもスパイらしき文言はない筈だ。


「え?これは……」

「誤解は解けましたか?」

「いや、ますますよくわからないな。もう少し詳しく話を聞く必要がありそうだ。悪いが城まで付いてきてもらうぞ。従者には魔法を使えない様にさせてもらう」


 カチリ、とジョシュアの首に金の輪がはめられた。罪人用の魔封じだ。


「そんな……それではまるで罪人のようだわ」

「すまない。彼の転移魔法はそれだけ脅威なんだ。せめて輪は不可視化の魔法をかけてあげるから」


 フリードリヒが呪文を唱えると、金の輪は見えなくなった。


「それでは2人とも、俺の手を握ってくれ。ロードリックに俺ごと召喚してもらう」


 フリードリヒが合図の光を打ち上げると、しばらくして周りに翠の光が集まり始め、私たち3人は召喚された。


 城へ到着すると、客人用の部屋を与えられた。

 すぐ隣に客人の従者用の小部屋もあり、ジョシュアはそちらへ案内されたが、私が不安がって涙を見せると一緒の部屋で聴取を受けることになった。


「では早速。まず、手紙の内容についてだが、さっぱりわからない。『ベティの知らないシナリオ』とはなんだ?この書き方だと、トーワの情報ではなく、隣国の出来事の方を知りたがっているように思える。それも、聖女クロエの近辺に限ったことばかりだ。君はクロエと何か関係が?」

「……全部話すわ。順を追っていうけれど、驚かないでね?」


 私は、ここが前世でいう乙女ゲームの世界とまったく同じであり、王太子の婚約者である身でありながら、断罪されて死ぬ未来を回避するため隣国に来た事を告げた。


「ベティが死ぬ?」

「ええ。シナリオではどのルートを辿っても、毒を飲んだり、殺されたり。しかも、それは私がどんなに努力しても変えられなかった」

「それで逃げてきた?」


 ええ、と私は頷いた。

 それから、シナリオから逃げて来たのに、いるはずのない聖女がトーワにいて驚いたため、逃亡の協力をしてくれた次期侯爵に連絡をとったと説明した。


「実は、聖女クロエは今この城に居る。彼女はこの帝都の危機を救った恩人だからな……それで、落ち着いて聞いてほしい。実はその聖女クロエから、『ベアトリクスが街をドラゴンに襲わせた』と聞いたんだ」

「ひっ……」

「だけど、俺の知るベティはそんなことしないだろう?君は、初対面の子供とアイスを楽しみ、誰にでも親切で甘いものが大好きな、ちょっと魔力が強いだけの女の子だ。現にさっきも、衛兵と一緒に戦っている姿を見かけた」


 フリードリヒは深くため息をつき、頭を振った。


「そんなベティが、悪女であるはずがない。隣国と連絡をとっているのを見たときは信じられなくて、胸が張り裂けそうだった。でも、隠していた訳を聞けた今は違う……俺は俺の見たものを信じる」

「私を、信じると?」

「そうだ。しかし、クロエの話は無下にはできない。既に俺以外のものにも、ベティが悪女だと吹聴されている。おかげで君の話も聞かずに、害そうとするやつもいるかもしれないから、しばらくはこの部屋に匿うことにする」


 そういってフリードリヒは出て行った。

 残ったロードリックが説明してくれる。


「この部屋は、歴代皇族の愛人を匿うための部屋で、限られた人しか近づけず、認識阻害の魔法と、逃亡及び侵入を禁ずる為の罠魔法がいたるところに設置してあるので、不用意に出ませんよう」

「……至れり尽くせりですこと」



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