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勘違いは許さない その2

 


 夜通し仮眠をとりながら看病し、朝になるとほぼ平熱まで下がっていた。

 これなら無理せずゆっくり休めばもう熱があがることはないだろう。

 しっかり意識を取り戻したジョシュアが、私がつくった卵入りのパン粥を平らげてにっこりと笑った。



「ありがとうベティ。助かったよ」

「ううん。ジョシュアが熱を出したのはたぶん、私のせいよ。星祭りの日走り回って汗だくになったあと、そのまま夜道を歩かせたからきっと冷えたんだわ。それに、毎日私のお守りを1人でこなさせた上に面倒事を持ち込んでは頼ってばかりいて……疲れがたまっていたのかも。ごめんなさい」

「別にいいよ。仕事だし」

「仕事……」


 どこからどこまでが仕事なんだろう。

 もしかしたら私が嫌なことをしても、飲み込んで来たのだろうか。

 私がジョシュアを手に入れたあの日から……


「ベティ?」

「ごめんなさい」


 ベッドに座った病人に縋り付いて泣き始めた私に、ジョシュアが戸惑っている。


「そんなつもりじゃなかったの。最初はジョシュアにちょっと遊んで欲しかっただけで貴方を従者にまでするつもりはなかったのよ」

「ちょっと。話がわからないよ。最初からちゃんと教えて」


 ジョシュアと私が初めて出会ったのは私が6歳の時だった。

 父についていった王宮で見かけた男の子の、きらきらした銀髪を気に入って、お父様にお願いをしたことがきっかけだった。

 私がわがままをいわなければ、今頃彼は、国を左右するほどの筆頭魔術師にでもなっていたかもしれない。

 元は平民だというのに、それくらい有望視されていたジョシュアは、私のたった一言でただの従者兼護衛に成り下がった。

 それなのに、ジョシュアは文句ひとつ言わず私によく尽くしてくれた。

 トーワに来てからもそうだ。

 毎日甲斐甲斐しく食事をつくり、面倒を見、心配してくれる。

 危ない目にあえばすぐ私の盾になり、その強い力で敵を屠る。

 思えば、甘えすぎていたかもしれないわね。


 私はジョシュアが魔術師になる可能性を潰してしまったこと、色んな我儘を言って困らせてきたこと、国外逃亡させた挙句無理をさせて倒れさせたことなどを謝った。

 それなのに図々しくも、まだ一緒にいて欲しい、見捨てないでと泣いた。


「君の気持ちはわかったよ。僕の話も聞いてくれる?」

「うん」


 ジョシュアは、私の髪を優しく漉きながら撫でている。


「まず僕は魔術師になりたかったわけじゃない。させられそうになっていたところに侯爵から話しかけられて、渡りに船と自分で従者を選んだんだ。感謝こそすれ恨んでなんかいない」

「そうなの?」

「魔術師なんてのは、塔にこもって研究ばかりな上に、平民出であれば力を使い尽くされるだけだ。貴女の遊び相手の方がマシだよ。あの頃の貴女は我儘でプライドが高く、面倒な事もたくさんあったけど、従者や侍女に当たり散らすことはなかったし、どちらかというと侯爵様に言われた無理難題の方が厳しかったくらいだ。国外逃亡だって、ついていくって僕が言い出したことだけど、なぜかベティは不安になってしまったんだね?」


 私はこくりと頷いた。


「わかった。それなら僕は君に雇われるのをやめるよ」

「えっ……」

「そんな顔しないで。ベティが自分から望んでくれるようになったのなら、もう雇用契約を結ぶ意味は僕にはない。護衛じゃなくても、僕にいて欲しいって、そう思ってるんでしょう」

「うん」

「それって僕のこと、好きってことでしょう?」


 えっ?そうなのかな。

 キョトンとした私に、ジョシュアは苦笑した。


「自覚してないなんて酷いな。じゃあ選ばせてあげる。どちらにせよ潮時だ。僕のこと好きって言って?そうしたら護衛をやめてもベティの傍にいるよ。もし言わないなら、僕は君の元を離れ、国に帰る」


 そんなの傍にいてほしいに決まっている。


「さぁどうする?」

「ジョシュアが好きよ」


 私は即答した。

 口に出すのはちょっと照れるけど、友達って意味であってるわよね?


「そう。じゃあ、一緒にいてあげるよ」


 嬉しいはずなのに、ジョシュアが同じ言葉を返してくれないことに不安になる。

 私、嫌われてはいないわよね?


「ふふっ、その泣きそうな顔。すごくかぁわいい……」


 ジョシュアがわたしの顎を掬って、熱を孕んだ瞳で微笑んだ。


「ね、あんなにたくさんキスしたんだから、もう1回くらいいいよね」

「え?ジョシュア覚えて……っ」


 ゆっくり近づいてくる顔をさっと避けた。


「はあ。そういうことするんだ?」

「好きって言ったのは友達としてよ!!な、ななななに急に」


 好きって言ってから、ジョシュアの雰囲気がなんだか変だ。

 なんでこんなに急に迫ってくるの??


「ふぅん。なるほどね。ベティはそう解釈したんだ。ちょっと失敗したかな」

「なんのこと??ジョシュア、ほんとに変よ……」

「教えてあげる。もう護衛じゃないってことはね……」


 ベッドに座っていたはずのジョシュアが消えて、くるりと私の肩を回して押す。

 立ち位置が入れ替わって、私はベッドに押し倒されていた。

 訳もわからない間に、両腕が纏めてシーツに縫い止められていた。


「もう僕は我慢もしないし、遠慮もしない。覚悟してね」


 金の瞳が近づいてきて、鼻が触れ合いそうになる前でぴたりと止まった。

 目を細めて笑う気配がする。


「ほら、想像してみて、僕にキスされるの。どう?嫌だって思う?」


 キス?ジョシュアと……?

 薬の口移しはしたけど、そういう意味で意識するって、友達じゃないよね。

 もしかして、ジョシュアは私に恋愛感情で好きって言わせたかったの……?

 考えが追いつかなくて爆発しそう。


 真っ赤になって湯気がでている私を、ジョシュアはあっけなく解放した。

 キスされずに済んだことを、安堵する気持ちと共に、ほんの少し残念に思う自分に気づいてしまう。


「自分が今どんな顔してるか早く自覚してよ」


 風呂に入ってくる、とジョシュアは部屋を出て行った。



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