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 時計塔から降りると、またいつものフーライに戻った。

 もう帰り道についた人がほとんどで、少し閑散としている。


「今日はありがとうベティ。いい思い出になった」

「こちらこそ。楽しかったですよ……あ、そうだ。この髪飾り、お返ししないと」


 私は頭につけていたエメラルドの飾りに手を伸ばした。


「あ、待って。とっちゃだめ」


 焦ったフーライが手を伸ばし、私の手に触れた勢いで髪飾りがとれ、はらりと纏めていた髪が落ちた。


「あちゃー……」

「えっ??」

「見て!あそこにいるのフーライ様じゃない?」

「ほんとだ!素敵〜!えっ、誰か一緒にいる?」


 チッとフーライが舌打ちをし、私の手を引いてその場から離れようとする。

 急に引っ張られた私は訳もわからずついていく。いくつか角を曲がって、狭い道具入れに滑り込んだ。



「あれ?こっちの方に行かなかった?」

「絶対居たわよ。もう少し探そ!フーライ様〜〜!」


 道の掃除をするために建てられた共用の道具入れはとても狭い。

 窓もなく、灯りがあるわけなく、闇の中で私たちは抱き合っていた。

 フーライを探して歩いている女の子たちはまだその辺りにいる。

 少しでも動いて音を立てれば気づかれそうで、じっとするしかないが、先ほどから耳に吐息がかかってくすぐったい。


「んっ……」


 声が出そうになる私の口を、フーライの手が塞いだ。

 大丈夫、叫んだりするつもりはないわ、と目で訴えようと見上げれば、フーライは暗闇でもわかるほど顔を真っ赤にしている。


 その様子が可愛く思えて、思わずふっ、と鼻で小さく笑うと、睨まれた。

 すっ、とフーライの顔が降りてきて私の首に埋まる。

 びくりと震えた私の身体にあたった道具がカタンと音をたてた。


「こっちで音しなかった?」

「どこどこ?」


 首に針を刺したような痛みが走る。

 なに?噛まれた??

 抵抗しようとフーライの顔を両手で押し返すがびくともしない。

 いたーい!!でも叫ぶと見つかっちゃう!!!


「お姉さんたちフーライ様のファン?あっちで見たよ」


 誰かの低い声がした。


「マジ?ありがとー!」


 ぱたぱたと遠ざかる足音と、こちらへ近づいてくる足音。

 ぴたりと用具箱の前でそれはとまり、躊躇いなく扉が開かれ、同時に私は引き摺り出された。


「認識阻害用の髪飾り。忌々しいものを拾ってしまいました。お返しします」


 エメラルドの髪飾りがフーライに向かって投げられた。


「ジョシュア!」

「……心配、しました」


 涼しい顔をしているものの、背中は汗だくである。

 忍び護衛を撒かれた後、必死にあちこち探してくれたに違いない。

 そのまま帰り道につこうとする私たちに、後ろからフーライが声をかけてくる。


「またね、ベティ」


 緑の目が弧を描き、機嫌が良さそうだった。





 帰って風呂にはいった後、歯磨きをしている時に、鏡を見て首に赤い痣ができているのに気が付いた。

 あれ、これってもしかしてキスマークでは??あの時噛んだんじゃなくって吸われてた??

 やばい。結構目立つ。とりあえず部屋までいったら何か首が隠せるような服に着替えるしかない。首を押さえて洗面所を出ると、ちょうどジョシュアがこちらへ来るのとすれ違う。

 少しびくっとしたが、何でもない風を装い、すり抜けようとするも話しかけられてしまった。


「ベティ、皇太子とは何もなかったんだよね?」


 ぎくり。


「素性をばらしたりしてないよね?」

「あ、うん」

「キスされたり、プロポーズされたりは?」

「ないよ。むしろしてくれれば、完全にふってるわよ」

「それで諦める様な人ではないと思うけどね。……ところで、首どうしたの?痛い?」


 ぎくり。


 明らかに目を逸らしてしまった私。


「……見せなさい」

「大丈夫。大したことないから」

「見せろ」


 力でかなう筈もなく私の左手が取り払われた。

 痣をみたジョシュアが目を鋭くさせる。


「む、虫刺されが――かゆいかゆいな~~」


 駄目だ。明らかに棒読みになってしまった。


「へえ、虫刺されですか」

「そう。おっきいのが居てね。薬塗れば治るでしょ」


 あ、誤魔化されてくれる?……わけないよねえ、目が怖いもんねえ!


王太子どいつ皇太子こいつも手の早い……!ベティがシラを切るなら僕が教えてあげる。これは、こうやってつけるんだよ」


 鎖骨の下、胸の上に近い部分にジョシュアが顔を埋めた。

 きつく吸われたあと、生暖かい舌がちろりと垂れた唾液を舐めとって離れ、肌にはくっきりと赤い花が咲いたような痣になっている。


「わかりました?」

「ワカリマシタ」


 放心状態で繰り返す私の首に手が伸ばされる。弱い癒しの光がぽっと小さく光り、フーライのつけた痣が跡形もなく消えた。


「ふん」


 そのまま立ち去ろうとするジョシュアを引き止める。


「ちょちょちょ!消せるんだったらこれも!」


 私はジョシュアにつけられた方の痣を指差した。


「はっ。ご自分でどうぞ?簡単な回復魔法で消えるよ。あぁ、ベティには光属性の素質がないからできないんだっけ?ざまぁみろ」


 人の良いにっこりした顔で毒を吐かれた。

 今度こそジョシュアは立ち去り、私は1人廊下に残された。





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