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星祭りに誘われて

 

 今日も朝早く来る冒険者達(きんにく)の接客を終えて小休憩をするころ、ケイトが遊びにきてくれた。

 最近は風が冷たくなってきたので、ジョシュアのいれてくれた暖かいココアがとても美味しい。

 昼間作ってくれていた、ピンク色のベリーチーズケーキをお茶請けに、私たちは盛り上がっていた。


「ライナスまたフラれたんですって。今度は花屋の子。知ってる?ピンクの髪のふわふわした子」

「知ってるわ。でも彼女確か、すごく年上じゃなかったかしら」

「そうそう。ライナスとはそんなに離れてないけどさ、あの人子供っぽいところあるじゃない?冒険がどうとか、かっこいいモンスターの話とか、魔法石の話ばっかり。そのせいか思ってたのと違うって言われちゃったんだって」


 まぁ確かに、大人の女性に向かってする話じゃないわね。


「ライナスさんも悪い人ではないんだけどね」

「まぁね。でも毎回毎回わたしのところに泣いて愚痴こぼしにくるのはやめて欲しいわ。いくら幼馴染とはいえ……」

「幼馴染だったの?」

「あれっ、言ってなかったっけ?私が小さい頃、ライナスはいいお兄さんだったのよ。勇者とお姫様ごっこをしたり、魔法石当てクイズをしたり……よく考えたらライナスその頃から変わってないわね」

「ふふっ。それって何歳の話?」

「もう10年も前よ。筋金入りのオタクだわ。見かけはそんなに悪く無いのに。……ねえ、ベティはどうなの?」


 首をかしげる私にケイトは話を続けた。


「周りにいい人いないの?ほら、隣の食堂の3人息子とか」

「え?うぅ〜ん……お隣さんをそんなふうに思ったことはないなぁ」

「ベティには俺が居るからね!!」


 りんりーん。扉の鈴が勢いよく鳴った。

 長い黒髪を下ろし、耳にはいつものエメラルドをつけたフーライである。

 店の外から話を聞いているなんて、とんだ地獄耳だわ。


「えっ?ベティ、この方って」

「はじめましておじょうさん。俺のことはフーライって呼んでね」

「ふふふふ、フーライさまぁ!?」


 ケイトの声が裏返った。

 私の耳に口を寄せて「これってホンモノ??」と囁き聞いてくる。

 私はこっくり頷いた。


「ああ〜〜久しぶりのベティ!会いたかったよ。寂しかったかい??北部の討伐に出掛けていてしばらく来れなかったんだ!」

「あの、もしかしてベティとフーライ様って」

「ただの客と従業員です。それで注文書は?」

「冷たい!!」


 フーライが拗ねた。

 口を尖らせ注文書を手にしているままこちらに渡そうとしない。


「国にために働いてきた俺にさ〜せめて労いの言葉とかさ〜〜」

「お勤めご苦労様でしたアニキ」

「かわいく言って??」


 めんどくさいなぁもう!!


「あまりうるさいとつまみ出しますよ」

「注文書ですお願いします」


 しおしおとカウンターにある椅子に座って項垂れるフーライだったが、5秒しないうちに立ち直った。


「そうだ!!思い出した。注文書だけじゃなくてベティにお願いがあったんだ」

「お願い?」

「そう。今度の星祭りに一緒に行かない?」

「星祭りってなんですか?」


 注文書に書いてある品物を探し出して籠に入れながら尋ねる。


「知らない?帝都3大祭りのひとつで、願い事を描いた灯籠を夜空に流すんだよ。それが星みたいだから、星祭り」

「へえ〜〜」

「ね、俺と一緒に行こう?出店を回って、灯籠を飛ばして。ベティとデートしたい」

「うーん……」


 星祭りの灯籠は見てみたいけれど、ジョシュアがダメって言うだろうな。付き添いオッケーならともかく、デートってふつう2人で行くんでしょう?この間絶対絆されちゃいけないって釘も刺されたし、断るしかないわね。と、口を開こうとした時、やり取りを見ていたケイトが言った。


「素敵じゃない。ベティ行ってきなよ!あ、もちろんその時の服は私に任せて!張り切って作るわ」

「そちらの友人は服飾屋さん?」

「ケイトって言います。家族で仕立て屋をやっていて、ベティの服はだいたいわたしが作ってるんですよ」

「ケイト、でも私……」


 まずい、はやく断らないと、と思った時には、フーライが顎に手を当ててニヤリと笑っていた。


「そりゃいい。ぜひ祭り用にベティに作ってくれ。代金は俺が払う」


 やった、皇太子様からの注文なんてすごい!!と喜んでいるケイトを前に断れただろうか?もちろん、断れるはずがなかった。


「……やってくれましたね」

「楽しみにしてるよ、ベティ。じゃあまたね!」


 注文の品をいれた籠を受け取り、さっさとフーライは帰っていった。

 これ以上居座ると、ケイトのいないところで私がなんとか断ろうとするのがわかっているのだろう、引き上げがはやい。


「ありがとうベティ!ほんとありがとう!私いつも以上に頑張るからね!」

「え、えぇ」


 ケイトが私の両手をブンブン振っている。

 2階から聞こえる「飲み物のおかわりはいりますか?」というジョシュアの声に、私はどう説明したものかと頭を悩ませた。




 結局、店を閉め夕食をとった後、素直に経緯を説明すると、ジョシュアが無言で私を見つめてきた。心なしか部屋の温度が下がっている気がする。


「その……ごめんなさい」


 無言は続き、居た堪れない気持ちに潰されそうになり、私は目を逸らして俯いた。

 はあ、とジョシュアのため息が静かな部屋に大きく聞こえた。


「仕方ないね。皇太子が上手だった。流石は戦上手と名高い将軍と言われるだけの事はある」

「……油断したわ」

「デートには僕もついていく。一緒ではなく、忍び護衛として。まぁ、皇太子はあぁ見えて1人歩きを許されるほどの実力があるから、暴漢や無法者なんかは心配しなくとも大丈夫だと思う」

「うん」

「問題はベティだよ。いい雰囲気になったり、迫られたりした時に逃げられるかどうか……そうなったらすぐに割って入るから。いいね?」

「はいっ!」


 本当に大丈夫かなぁ、とジョシュアはもう一度ため息をついた。




七夕なので少し意識しました。


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