楽しい開店準備その2
1週間後、店に備品が届きはじめ、ジョシュアに設置してもらっていると、ライナスがやってきた。
一粒一粒は小さいけれど、数が多くなると鉱石なのでとても重たくなる。
荷車をひいてわざわざ来てくれたようで、玉のたくさん詰まった籠を持ち上げようとしてもビクともしない。
「ははっ、ベティには無理だよ。店の中にいれてあげるから奥に行ってな」
「ライナス、ありがとう。ジョシュアーー!手伝ってあげて!」
鉱石玉は無事2人の手で運び込まれた。
籠は種類別になっていて、全部で30近くある。
汗だくのライナスとジョシュアのために、紅茶を淹れて、氷魔法を使って冷やしてから出すと、ライナスがぐいっと一息に飲んで、生き返る~~!と叫んだ。
「これだけの量を運んでもらうの大変だったでしょう?」
「まぁね。でも楽しみの方がデカかったからさ。例のやつ、できてる??」
例のやつとはもちろん、大きな魔法石のことだろう。
作ったはいいものの私では持ち上がらないそれを、ジョシュアが奥から運んできた。
ドラゴンエッグほどの大きさの、濃紫色の魔法石は、冷たくてつるつるとしている。
「はあああ~~!たまんねぇな!すげぇよ。こんなに濃厚で良質なの見たことがねぇ!この色とつや、かなりの魔力が一度に凝縮されないとこの色は出ないんだぜ。普通はまばらになって、色むらがでたりするんだが、均一で、どこをみても透明感が失われてない。完璧だ……どこをとっても美しい……。オレこの魔法石と結婚するわ……」
代金をお互いに支払い終えると、大事に布にくるんでから箱に入れて、さらに布でぐるぐるに巻いてから、ライナスは早く可愛がりたいから!とすぐに帰っていった。
その顔には、魔法石と結婚する妄想でもしているのかよだれが垂れていた。
届いた鉱石玉をストックと陳列用の皿に並べて配置していると、今度はケイトが訪れた。
「ベティ!!来たわ!!まぁ、素敵な花の壁ね。白い家具もとても可愛らしいわ。でもね、ベティ。いくらお店の雰囲気がよくっても、店員がダサいと駄目なのよ!!というわけで、できた服を持って来たわ!!」
「え!?もうできたんですか!?」
「あれから1週間もたつのよ。お貴族様のドレスとは違うんだから。さ、はやく着替えてみて頂戴!私はここで待ってるから」
「ケイトさん、何か飲みますか?」
「ありがとうジョシュア、暑いから冷たいのがいいわ」
2階に追いやられて、渡された紙袋をあけるとレモンイエローの服が入っていた。
広い襟ぐりで肩まで出るワンピースである。
初めてあった時に見せられたデザイン画のままのワンピースがそこにあった。
「かわいい……」
繊細な袖のレースにひっかからないようそっと手を通す。
生地は薄手で涼しく、裏地に大きな白の花柄が重ねてあり、うっすらと透けて見える。
胸元から裾にかけてギャザーがはいって、動きやすい。
サイズもぴったり。
階段を降りると、待ってましたとばかりにケイトが近づいてきて、頭のてっぺんから足の先までチェックされた。
「いいわね。かなりいい。この服にエプロンをかけて接客すれば、きっと誰しもが商品ではなく貴女を見るわ」
「喜んでいいのかしら」
「当たり前よ。女の子の店員は可愛くなくっちゃ。ましてやアクセサリーなんだから、可愛い貴女が身に着けていれば、絶対に真似してつけたくなること間違いなしよ。あら、その手につけているブレスレットがそうなの?」
「ええ。ジョシュアが作ったものだけれど」
私は左手をあげて見せた。ケイトは、ブレスレットとジョシュアを交互に眺めている。
「綺麗で似合ってるけど、色がねぇ、ちょっと……」
「ケイトさん」
私の後ろで作業していたジョシュアの声が飛んできた。
耳聡く自分の作ったものに言及されたのが聞こえたらしい。
文句を言わせないというオーラが背中越しに伝わってくる。
ケイトはベティの耳にこっそりと言った。
「ひえー。妹って大変ね。あんなお兄さん居たら結婚できそうにないわ」
「は、ははっ……」
まぁ本当は兄ではなく護衛ですからね。
「ともかく、もし気に入ったのなら、使ってほしいわ。あと2着持ってきているから、これも」
「そ、そんなにたくさん……」
「何いってるの。まだまだ作り足りないくらい。貴女を見てるとすごくデザインを考えるのも、針も捗るのよ。でも私の持つ予算じゃ今月はこのくらいが限度ね」
「いえ、折角ですから作っていただいた分の支払いはしますよ」
「ほんとう!?じゃああと10着くらい作ってもいいかしら!?」
「あの、ほどほどに……そんなに服があっても困ります……!」
きちんといっておかないと、ケイトは際限なく作ってきそうだった。
「ところでベティ。あなたって年はいくつ?」
「16ですけれど……」
「なんだ、やっぱり私とそんなに変わらないじゃない。私は17なの。ねえ、良かったら友達になりましょうよ。敬語もとって」
「まあ、うれしい。それは大歓迎だわ」
「というわけで、今回の服はその友達への開店祝いを兼ねたプレゼントだから!受け取ってね!」
「ケイト……ありがとう」
「ちゃんと着てウチを宣伝してね~~」
これは素直に嬉しい。
それじゃあまた店が開いたら、買いに来るわと言ってケイトは帰っていった。
「友達できてよかったね。令嬢の頃はいつもぼっちだったし」
「うるさいわよ!」
「それにその服、よく似合ってるよ。ケイトさんのいう事には一理あるけど、あまり可愛い恰好をしていると虫が湧くから……まあ、虫は叩けばいいだけなんだけど」
「??」
今のところすべてが順調である。
このまま、何事も起きなければいいけれど。
そう呟いたのがいけなかったのかもしれない。
完全にフラグだった……事件が、起きたのだ。