プロローグ
本編にはあまり関係がないので飛ばしてもらっても構いません。
杏奈は両手にたくさんの戦利品を抱えていた。
暑い夏の日、早朝から一番の電車にのって会場入りをして、前日に何度となく確認した、大好きなゲーム作品を取り扱ったサークルを回って、今日のために貯めたといっても過言ではないお給料を思う存分に散財して、可能な限り集めた、戦利品。
ずっと楽しみにしていて、大事に抱えたそれは、とても重かった。
厚手の生地にイケメンが印刷されたトートバックには、薄くとも数十冊分の本の重みに加えて、可愛いな、と衝動買いしたグッズも幾つか入っている。
それにほとんどのサークルが、おまけにくれた、色鮮やかなポストカードやびっしりと文字で埋められた虹色印刷のペーパー。
絶対に帰るまで離さないぞ!と決めたそれを、杏奈は本当に手離さなかった。
最後の瞬間まで。
たくさんの人が帰る道はごったがえしていて、それは駅のホームでも勿論列をなしていた。
電車が来てもスムーズに列は進まず、ちょっと身じろぎするくらいで隣の人と接触してしまう。
そんな中だった、どこかで誰かの叫び声がして、人が大きく雪崩を起こしたのは。
雪崩は杏奈の小さい身体も押し倒し、重みの中杏奈は意識を失って、たぶん、死んだ。と、思う。
確信が持てなかったのは、杏奈が目を覚ましたからだ。死後の世界かと思ったが、どうも違う。
どうみても日本人とは思えない色素のメイドさんに顔を覗き込まれており、そのメイドが呼びに行った人物があまりにも知っている人物によく似ていた。
「聖女の花は誰が為」という乙女ゲームの、登場人物。
杏奈が最初にあったその人は、ゲームの中にでてくるモブの神官だったが、やりこみにやりこみつくした杏奈にはすぐにわかった。
なんならそのモブ神官さまのでてくる同人誌もついさっき買ったばっかりだった。
歓喜、落胆、期待、困惑。いろんな感情がまぜこぜになって、杏奈が最初にしたことは世界の確認だった。
どうやらまだ推しは産まれていないらしい。
ならば、これから産まれてくる推しの為に、助けになりたい。
杏奈は筆をとった。これから起こるであろう事柄を事細かに記し、それによって紡がれる未来の物語を語ったそれはのちに、予言書と呼ばれることになる。
予言の巫女として、杏奈は尊ばれ、大好きな世界で穏やかに過ごした。その息を引き取るまで。
初投稿になります。応援よろしくお願いします。