令嬢は料理を振る舞うようです
案の定、私は彼らに置いていかれ、一人でゴブリンキングを倒す羽目になってしまった。
それに加えて、奴らが撒いた薬によっておびき出されたゴブリンやオークなども集まってきて討伐することになった。
まあ、現状、私は生きているし、問題ないが、あの3人やっぱり許すまじです!
今度、魔物のフルコースをご馳走して差し上げようかしら…。
今は私がまとめて討伐したゴブリンキングやオークなどの下処理をしている。血抜きとか...。あと、部位ごとに切って使いやすくすることも大切。
あの時のことは、別にあの人たちがいたからと言って状況が良くなるとは思えなかった。
あっけなく殺されていただろう。
Cランクの強さはゴブリン数体の群ならば難なく倒せるレベルらしい。その数十倍強いゴブリンキングに加えて薬でおびき寄せられたモンスターを倒せるかは定かではない。
まあ、薬は彼らがまいたのだれけども。
とりあえず、今日使うお肉を切って、残りはストレージにしまっておこう。
私は、ゴブリンの手足を切り離して、これから料理に使う右足以外の全てのゴブリンの肉をストレージにしまった。
肉を収めるついでにストレージから、調理器具一式を出して、早速料理を始めた。
今回のメインディッシュはもちろんゴブリンキング。ゴブリンよりもさらに身が引き締まって美味しいとか。ゴブリンしか食べたことないので楽しみだ。
青年は私がゴブリンを調理しているのを不思議そうに見ている。
魔物を食べるなんて、外道ですって?
まさか!だって家に「魔物でもいける調理ブック1〜20」がありますもの。私の中ではベストセラーです。
まあ、著者は、私ですが、何か?
本家にいた時は出された食材をどうにかして、食べれるようにしなければならなかった。
変なテンションになったが、とりあえずストレージから、調味料や調理器具、魔物の肉などを出した。
それを見ていた青年はふと、疑問に思った。
(ストレージって、そんなに入るものなのか)
私は青年を見た。
そうよね…普通は魔物の肉なんて食べないわよね。けど、これは魔物の素晴らしさをお伝えするチャンスですよ、サルビア!
「貴方知らないの?ゴブリンは、ランクが高いほど筋肉質で、美味しいらしいわ」
「美味しいらしいわって…いや、普通ゴブリンというか、魔物自体食べないだろ」
青年は私が下味を付けているお肉を見つめて「ゴブリンか…ゴブリンだよな…」とか呟いている。……無論、私は食べますが…。
私は鍋の中に水とゴもブリンキング等の骨を入れて赤魔法の火を火種に使える魔道具の上に置いた。
あと、ゴブリンではなく、ゴブリンキングです。
ここ、大切です。
「そうなのですか?でも、普通は人によって違いますし、肉を食べない国自体もあるとか。そもそも、食事の用意をしようとした時に話しかけたのは貴方なのではなくて?
てっきり、貴方も魔物の肉を食べたい変人なのかと思っていました!違うのですか?」
「いや、正確には話しかけたのは、魔物を討伐したすぐだがな。……俺も魔物の肉には興味がある。……本当に食べられるのか?」
「…食べられます」
私は…。
当たり前だが、魔物なので加熱しても抜けない毒も含まれている。
万が一のことしかない。見た感じ、彼は強そうだし、普通の冒険者ではないだろう。だが、責任は取れない。確認は必要だろう。
「とりあえず、貴方、毒耐性はありますか?高めのランクの。最悪の場合もありますから、一応教えてください」
「最悪って?」
「最悪…...死にます」
「まじか...いや、大丈夫だ。大抵のことでは俺は死なねえからな」
「そうですか…」
やっぱり普通ではないですね。
先ほどから彼を鑑定しているがステータスがいくつかモザイク状態で見えない。私は確信した。
彼は強いと。
「あぁ、俺の名前はトワだ。夜ご飯をごちそうになるんだからな、なにか手伝うことはないか?」
「あっ、名前!…私はサルビアです。じゃあ、この包丁で、ゴブリンキングのお肉を一口サイズに、切ってください。切り終わったら、野菜もお願いします」
「分かった。ああ、そういえば、お湯がわいてるぞ」
トワさんは鍋を一瞥した。
私は、急いで鍋に近づき、布をミトンの代わりにして、蓋を開ける。
「あち…。沸騰してますね。ありがとうございます」
私は、沸騰したお湯に塩と醤油を入れて味を整える。お玉で、味見皿に少量取って飲んだ。味は、いい感じなのでは…けど、もう少し、醤油を入れても大丈夫かな。
「スープは完成ですね」
温かいうちが美味しいので、唐揚げが上がる前に頂きますか。
トワさんもどうぞ。あー引かないでください。
食材は、魔物の骨と塩、醤油のいたってシンプルですよ。意外に魔物がいい味してるんですからね。
グイっといってください。遠慮しないでくださいね?
トワさんは、飲む前から、「ゴクリ」と意気込んでいたが、実際に飲んでみると意外に美味しかったらしく、お代わりしていた。
…よかったです。トワさんは毒耐性があるようでしたし。美味しいので、問題ないでしょう。
まあ、問題はありますが、死ななければ大丈夫ですね。鑑定で確認済みだ。
そうこうしているうちに唐揚げも完成した。
もちろんゴブリンキングだが。
「美味しいですね。人にご飯をふるまうのは初めてだったので上手くいってよかったです。
そういえば、トワさんは、どちらの出身なんですか?この国でトワという言葉や名前は訊いたとありませんもの」
そう、トワという意味自体が、この国に根づいていないため、彼がこの国の出身ではないことが分かる。
ちなみに私は、ここ「ムーン・ロッシュ」の隣国、「ラ・グロット」から来た。
「俺は…ずっと遠くから来た。サルビアが知らねえとこだよ。これでも、サルビアより大分年が離れているんだ。…数10歳位……っていうかサルビア、訊いているのか…」
トワは私をまじまじと見ていた。
いや、聞いていましたよ。
別にスープの美味しさに感動して殆ど抜けたとか、そんなことありませんから、本当に。
だから、そんなトワさん、不機嫌オーラ出さないでください。
「聞いていますよ。ところで、唐揚げを早く食べないと硬くなってしまいますよ。アフフフ…熱いうちが、ベストなので」
(聞いてねえだろ、絶対…)
「分かった…分かったよ…...」
トワさんは投げやりに答え、大口で唐揚げをあっという間に食べた。見ていて気持ちいい食べっぷりですね。私も唐揚げを食べながら、トワさんの言ってた事を頭の中で咀嚼してみた。
ここからずっと遠く…そうですか。この国以外に13か国ありますが、遠くですから、温かい海に囲まれた「エテ・エテンネル」辺りでしょうか。…いや、鑑定で見える限り彼は…。
「ご馳走様でした!はああ、食べました。いいお話がたくさん聞けてとても充実でした!」
「ほんと、サルビアのどこに唐揚げ数十個と大量のスープが入ったのか、不思議でしょうがねえ」
「まあ、私のスキルは『捕食』、つまり何でも死ぬほど食べられるということです。そして、食べたものは何でも栄養になります。幸せです」
初対面の人にスキルを伝えることは、普通なら気が引けますが、相手もレベルの高い鑑定を持っているので、言わなくても分かってしまう。
ここは、お互いの信頼関係を築く段階として些細な嘘でもつかない方が吉でしょう。
ちょっとした駆け引きです。
「補食…何だそのチートスキルは!」
「…ちーとですか?」
「ああ、異次元ってこと」
「そうですか…?トワさんの加護は、何ですか?」
私は、事前に鑑定で調べたが、細かい内容は見えなかったため、一応、確認しておく。
「サルビアは鑑定を使ってるんだろ?…出来れば、察してほしかった…俺には加護はねえよ」
「…そうですか。すいません。少し信じられなかったので…」
加護...
この世界では、生まれた子に必ず一つの加護が与えられる。女神から民に与えたギフトのようなものだ。
貧困層にも、裕福層にも必ず、一つ与えられることから、「いかなる人でも平等である」や「加護こそがこの世界の真理だ」と説く一定の女神信者がいる。
中には、加護を利用し悪事を働くものもいるが、何時の時代も善があれば、悪もまたあることが自然の摂理だと私は思う。
だから、トワさんが加護を持っていない状態は、不安定な立ち位置にいる事になる。
女神はトワさんの存在を認めていないのに関わらず、この世界に留まっていることになる。
つまり、
「異世界人…」
「ああ、そういうことだ」
しかし、異世界人が召喚されたと言われているのは、数100年前…彼の姿から見るに、辻褄が合わない。
彼は何歳なのだろうか。
「まあ、加護に代わるスキルはあるが、今はまだそこまで言う程の仲じゃねえ…」
「そうですね」
「まあ、多少の秘密はつきものだろ。その方が上手くいくときもある…お互いにな!」
確かに、情報を知りすぎると自分の身に危険な火の粉が付くこともあるのかもしれない、私も含めて。少ししゃべり過ぎたかしら…。
反省した。
けれども、もう今後出会うこともないでしょう。彼が異世界人だという情報ですら、聞けてよかったのかしら。きっと、その情報は各国が喉から手が出るほど欲しいに違いない。
「私が情報を国に売るとは考えなかったのですか?」
「ん、だってあんたは、そういう利益を求めるタイプではないだろう?あと、髪、ちゃんと隠すなら染め直したほうがいいと思うぜ、地毛の赤が目立つ」
「髪…これはイメチェンです。ですが、ご忠告感謝します」
私たちは夕飯を食べ終わると解散することにした。
私は、ギルドに討伐依頼の報告を済ませた後、事前にとっていた宿に戻り、早めに就寝することにした。討伐した素材はストレージに入れておくと時間が経過せずそのままの状態で保管することが可能なので、翌日に買い取ってもらうことにした。
寝る前、不思議と今日の出来事が駆け巡った。
こんな刺激的な体験は何時ぶりだろうか。
「私は、家を出てよかったのかもしれない…」
ふと、そう思った。
たった1日でも刺激的な生活を送ってしまえば戻りたくないのが必然。ただ、家に残してきた侍女のことが少し気がかりではあった。
私はベット脇に置いてあった灯りを消した。
読んでいただきありがとうございます!
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