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令嬢は討伐に向かうようです




私は魔物の雄叫びを聞き、瞬時にそばに置いていた外套を羽織った。


「トワ、聞こえた?」

「あぁ。この近くで魔物が出たらしい。ドラゴンじゃないか、この雄たけびは…」


トワも鳴き声を聞いて起きたらしい。


「どうして、ドラゴンが…」

「分からない、だが、すぐそばにいるということはここも大分危険だ」

「ええ…」


本当は今すぐ逃げるべきなのかもしれない。けれども、先ほど出会った少女の言葉が頭をよぎる。


『ーーサルビアたちにリトをお願いしたいーーー』


そう私に懇願した彼女の姿が頭の片隅から離れなかった。

トワが振り向いて私を見た。


「どうした?」

「……...」


加えて、私の好奇心は「逃げる」という選択をしたくなかった。

『補食』を持つ私にとってドラゴンも他の魔獣と同様に強さに圧倒される以前にその味や肉質に興味がわいてしまう。だが、これは私情である。いくらトワが強いと言っても、ただで済むとは思えない。

…私はトワに傷ついて欲しくない。だから、私には「ドラゴンを倒しに行きませんか?」なんて、口が裂けても言えなかった。


しかし、トワが何かを察したのか、私の目を見て、言った。


「…サルビア、俺に気を使わなくてもいい。行きたいんだろ、ドラゴンのところに。俺の人生は長いんだ。そう簡単には、死なねえよ」 


「そうですが、どうしてですか?」


でも、どうしてわかったの?


「サルビアと出会って、数日だが、サルビアは気持ちが表情に出るから分かりやすいんだよ」


「……」


何も言葉が出ない。

漠然と嬉しさがこみあげてきた。


「昼にサルビアと出会った少女のことが少し気がかりだ。昼に見かけたということは、そう遠くには移動できないだろうし、な。それに、どうせ「ドラゴンの肉はどんな味なのでしょう!!!」とか考えているんだろ。わかりやすいんだよ!」


そうトワに指摘され、私は両手で頬の筋肉をほぐしてみた。

そんなに分かりやすいでしょうか?自分では、気づきませんでした。


それと…、


「トワ、今のは私の真似ですか?私は、そんなかすれた高い声ではありません。高い声をだせてももうしないでください。似てません。…次、ものまねしたら、毒を持った魔物の料理をそのままお出ししますよ」

「てか、すでに出してるだろ?最近やたらと毒耐性の数値が伸びているんだが、絶対サルビアの料理が原因だ。味はうまいんだけどな。そもそも毒を持っていない魔物自体が少ないんじゃないのか?」


ちぇ…ばれていましたか。トワさんを鑑定すると「鑑定できません」と表示されるくらい高い毒体制を持っていたので大丈夫だと思って、言ってませんでしたね。…ふふふ。


「そうですか?...。さ、さあ、準備も出来ましたね?ドラゴンの叫び声がする方へ行きましょう!」

「今、話をそらしたよな?」

「ええ?何のことでしょうか。とりあえず、早くいきましょう!」


私は、「絶対そらしたよな…」とか独り言を呟いているトワを横目に「じゃあ、私『フライ』で行きますね」と言って緑魔法で、高速でドラゴンに向かう。


「ちょ、…サルビア。…『フライ』」


私たちは、ドラゴン討伐に向かった。



・・・・・・・・・一方、ドラゴンが出現した場所では、混沌が渦巻いていた。


「運が悪かった」で片づけていいものか、ドラゴンは、奴隷を所持している商人の馬車の近くに現れた。


「早く、急いで片づけろ!!!!!!馬車に積んだ馬薬草だけでも運び出せ!!大事な商品だからな」

「お前ら、おとりになれ。お前らは、俺の奴隷だ。早くしろ。」


主の発言に対して「「嫌だ!!!」」と誰かが叫んだ。そう叫んだ人は、あっという間にドラゴンの餌食となる。


「リナ、早く逃げよう。この首輪は、どこまでも僕たちを追跡する。でも、今を生き抜かないと、この先は生きていけない」

「…うん」


「「「…早く!!!!!!「前に出ろ!!」はやく!!!」」」


主と主の仲間が大声で命令し続けた。

首輪には服従する魔法もかけられているのか、魔力が少ない者から順にドラゴンの前へと足を進めた。

目の前には白く大きいドラゴンが1体。


「「「あああああぁ」」」


そして、呆気なくドラゴンに食べられる。それの繰り返し。


「生憎、僕たちには効果が薄いようだ。逃げようリナ」


そう言って、リトがリナの手を引いたとき、ドラゴンが2人の存在に目を向ける。

ドラゴンは2人を凝視する。2人もそれに気づく。


「は、はやく!!」


…走る。ただただ、雪の中を走った。それでもドラゴンが追いかけてくる。

雪の上を走るため思うように足が動かせなかった。それでも、ひたすらに足を動かす。


「くそ。動け僕の足!!!はやく、…もっとはやく…」


逃げる2人にさらなる悲劇、首輪が2人の足を止めた。


「リト、主から、一定の距離を離れると首輪によって、これ以上遠くには進めない」

「そんな……」


2人の顔には悲壮感が伺える。


「…リト、ごめん。」

「…え…...っっぐぁ、……...」


「ごめんね」


「…リナ?どうして…」


リナはこぶしでリトのお腹を力強く殴り、ヒットさせた。リトは地面に膝をつき、そのままうつ伏せに倒れた。そして、倒れたリトの体を風魔法で吹き飛ばす。


(辺りは雪が積もっているから、落ちても軽症で済む…リトは大丈夫、だいじょうぶ…)


リトがリナを守りたい気持ちと同様にリナもリトを守りたかった。


「リトが、逃げる時間を少しでも稼げれば…ばかだな…。…私も」


リナは自嘲する。

彼女は自分の行く末を知っている。もちろん、死に方を知っている。けど...、


「でも、怖い…こわいよぉ…」


最後に漏らした、本音。風で掻き消える小さな呟きは誰にも届くことが無かった。


リナの得意な緑魔法でドラゴンの足止めを試みるが、数十秒で呆気なく崩れた。

彼女の頭上に真っ白なドラゴンの口があった。ドラゴンのよだれがリナの頭をゆっくりと滴る。

リナはドラゴンを睨み付けた。


(ああ、死ぬ...)


そう直感したときには、リナの姿はなく、真っ白な世界に真っ白なドラゴンがいるだけだった。




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