#5 水仙の遺産
そんなに時間は経ってないが色々過ごしていく中で、僕は隣の席のヒドラという女の子とは仲良くなることが出来た。しっかりはしてないし賢くもないけど、可愛いところがあって僕はなんだかんだ気に入っているのかもしれない。
そんな彼女に『朝一緒に教室まで行こう』と提案されたから一応校門の前で来るのを待ってる。提案した本人が遅いってなぁ…こっちだって眠いのに…
ヒドラ「ごめんね!遅れた!!」
しばらくしたら走ってこっちに向かってきた。置いて先に行ってやろうと思うところだったよ。
ヒドラ「行こ!」
僕は小さく頷いて歩き始めた。
『「……」』
話す話題もなくてずっと俯きながら歩いてるだけだった。僕と歩いてるヒドラさんはなんでもない顔してるけど、黙っててもつまらないだろうから僕から話をした。
『…なんで遅れたの?』
もしかしたら単に寝坊とかかもしれないけど一応聞いておくことにした。まだこの人のことそんなにわかってないし…。
ヒドラ「…んとねー、私いつもかにちゃんに起こしてって言われるから朝電話かけるんだけど…」
は?前はまだヒドラさんよりお友達さんの方がしっかりしてる感じだったけど…そうでもないのかな…普通にアラーム設定すればいいと思うんだけど…
ヒドラ「今日は愚図って起きなかったから家行って1発殴ってきた、また寝ちゃったけど」
…!?大丈夫なのそれ!!死んでるんじゃないの!永眠ってことなんじゃないの…!!
朝から物騒な話を聞いて少し萎えた。自分で聞いたから彼女を責める気はないけど…
ヒドラ「あの人何してんだろ」
僕はヒドラさんが指さしてる方向に頭を向けた。そしたら、少し遠くのところで池の水を眺めてる人がいた。魚でも見てるのかな…魚いるのか知らないけど…この学園案外綺麗だしな…
僕はもうめんどくさい人とは絡みたくないから避けて行こうと思った。だけど…
ヒドラ「近く行こ!」
『…あ……え…』
なんで…なんで…!?嫌でしょ変な人に絡むの…!!また僕の疲労が溜まるよ…
ヒドラさんに腕を握られて引っ張られていったから逃げることもできなかった。だんだん池を覗き込む人が僕に近づいてきて…ドキドキする…あぁ…どうしよ…怖い…怖い…肉の塊になりませんように…襲われませんように…殺されませんように…
…なのにこういうときだけ時間が経つのが早い。その人はもう僕の真ん前にいる。
ヒドラ「何してんの〜?」
ヒドラさんはそう呼びかけた後にその人の目の前にしゃがんだ。この人…見たことあるな…
僕も覗いてみたけど、その人は水面に映った自分をずっと眺めていた。
ヒドラ「何してんの!!!」
無視されたからか、ヒドラさんはちょっと怒りながらもう1回呼びかけた。
ナルキッソス「…え…僕は忙しいから話しかけないでよ…」
次は無視せず反応したけど、僕らが邪魔者かのような
反応をされた。ヒドラさんは間を開けて舌打ちをしてから立ち上がった。
…怖いよ…ヒドラさん…。
ヒドラ「…ねぇからすくん。この人知ってる?」
『多分…ナルキッソスくん…』
全く知らない名前だったのか、興味なさそうに無言で僕の方を向くのをやめた。
ナルキッソスくんはイケメン…要するに美男子で、日頃からよく目立ってるし、モテモテだし、学年が違えど知ってる人は知ってる有名人だ。
ちなみに僕はあんまり好かない。
雰囲気が怖い…一応僕の後輩なんだけどな…。…あと…モテモテ……羨ましいっ!!
そんな思春期真っ盛りの僕を置いといて、ヒドラさんはまたナルキッソスくんに尋ねる。
ヒドラ「なんで池見てんの」
ナルキッソス「…はぁ…しつこいなぁ…ここにすごく綺麗な顔の人がいるから目が離せないんだよ…」
ちょっとえ?ってなった人もいるだろう…もちろん池に映る顔はナルキッソスくん本人の顔だ。
ヒドラ「…気持ち悪い……」
ヒドラさんは自惚れるナルキッソスくんを見て後退りしながらそう言った。その言葉を聞いてナルキッソスくんはめちゃくちゃ腹を立てた。
ナルキッソス「うるさい、横の顔面偏差値0.5の男は恋人か?あっち行けよ」
なんで僕に回ってきた!?顔に関しては別に何言われてもそんな気にしないけど…綺麗な顔じゃないの…わかってるし…。この様子だと僕にも腹立ってるんだろうな…僕関係ないのに…ヒドラさんの所為だ…
ヒドラ「お前よりからすくんの方が全然かっこいいよ」
一瞬、また僕の名前を出して…って思ったけど…
『……あっ!?えっ!?』
動揺してしまった。
別に嬉しくなんか…あるけど…
ナルキッソス「黙れ、さっさと消えろ!」
ナルキッソスくんがそう言い放った直後、ヒドラさんの表情が明らかに変わって、握られた右手が彼の顔面に…
『ちょっと待って…!』
ヒドラ「いっぺん殴らせろ!!!」
暴れるヒドラさんの胴体を抑えてなんとか止めようとした。柔らかかった。僕がぶっ飛ばされるかもと思ったけど僕にはそこまで強い力を出さないのか、普通に抑えられた。そして、ヒドラさんは急に大人しくなった。
ヒドラ「…ごめん…」
『行こう』
ナルキッソスくんは僕らを横目で睨みつけてたけど無視してヒドラさんを連れて昇降口まで歩いた。
ちなみに水仙の学名『narcissus』はこのナルキッソスくんが元になってる。他にも、自己評価の高い人のことをよく『ナルシスト』というが、これもナルキッソスくんが元になってる。水仙の学名『narcissus』がなぜナルキッソスくんが元になったのか、わからない人も多いと思う。(ここで触れない、申し訳ない…)そういう人は調べてみよう!!面白い話が見れるはず!!