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#9 乙メイド座に生まれ変わってもいいかも?

「さあ綺沙お嬢様! 一、ニ、三、四!」

「一、二……はあ、はあ!」


 とある昼下がり。

 こんな時、令嬢ともある者優雅にお茶を飲んで過ごして……とはやっぱり前の通り行かず。


 あーあ、綺沙の奴。

 獣王に、またとてもしごかれているわね……


 スクワットなんかやっちゃって。


「そうよ、今に見てなさい吹子生香大里……以前のバイオリンで掻かされた恥と社交ダンスで罪を着せること叶わなかった屈辱忘れないわ! 次には……私が王お坊ちゃまの婚約者になってやる!」

「ええ、その意気ですよお嬢様……さあ! 私たちがザマァできるよう、奮闘せねば!」


 ……ええ、あなたたちならそんなことだろうと思ったけれど。

 ただ、一つ言わせてもらうわ。


 別に筋トレしても、お見合いで選ばれる訳じゃないわよ?


 ◆◇


「お嬢様。本当にこの前は申し訳ございません! 私がよりうまくできていれば、お嬢様の命を狙う者たちを暴き出すこともできたでしょうに」

「もういいのよ、早乙女さん。私こそ、無茶苦茶なお願いをしてしまったわごめんなさい。」


 一方、こちらは佐波木家。

 砂葉はまだ謝る早乙女執事を、宥めていたわ。


「お嬢様、相も変わらずお優しいお言葉……しかし。いかがなさいましょう、これでは次にお見合いをしている場合ではないのではとも」

「いいえ、早乙女さん! 王さんにそれでは失礼よ。少なくとも、会うだけのことはしてみるべきだと思うわ。」

「……はっ、お嬢様! 承知いたしました。」


 あらあら。

 まあ、悪いことは言わないから暗殺されそうなら辞退すればいいのではとも思うけど。


 そちらの方が、私にも都合がいいし。


 ……そうよ佐波木砂葉。

 綺沙はともかく、あなたよ。


 私にとって、悪役令嬢ルートを歩みかねないきっかけとなり得る存在は!


 ◆◇


「ええええお嬢様……さぞかしお辛かったでしょう! このニッカ王女という方とご自身を、重ね合わせていらっしゃったのですね?」

「ぐすん……分かってくれるかしら天!」


 その頃、私はと言うと。

 天を相手に、私が今の執事たちを雇った理由を話していたわ。


 いやー、やっぱり女同士だとこういうことまで分かり合えるものなのね。


 男の執事たち相手じゃ、こうはいかないものよ。

 最初から、こうしていればよかったかしら。


『お嬢様の星座はどの乙メイド座ですか? 〜令嬢はどのメイドの星の下に生まれるかが主役と悪役の分岐点なのです!〜』


 ってタイトル変えてもいいほどよ?


 いえ、タイトルだけじゃないわ。


吹子生香大里(ふいごうかたり)

 主人公、はたまた悪役令嬢どちらかに転ぶ予定の令嬢。


 月星座:獣王のお執事座→笹生のお執事座or天尾のお執事座→浅曽の乙メイド座に転生すべく奮闘中!』


 ってプロフィールも変えちゃっていいぐらいよ?


「ううむ、この私たちを差し置いてあのメイドめ!」


 あらあら、そんな私たちのガールズトークを見て天尾ったら嫉妬しちゃって。


 これだから、モテる令嬢は辛いわね〜!


「まあしかし、香大里お嬢様も乙女。我々のような野郎よりも、同じく乙女の方が相通ずるものがあるのだろう。」

「な……さ、笹生!」


 あら、笹生。

 随分と物分かりが良すぎないかしら?


 普通、こんな風にメイドに出番取られていたら執事は面白くないものよ。


 言うなれば、天尾の反応こそ自然な反応というべきかしら?


「お、お前は悔しくないのか! あんなポッと出の」

「既に言った通り! ……ここはもしかしたら我々の出る幕ではないのかもしれない。それならば、むしろあのメイドに任せておけばいいだろう?」

「笹生、待て!」


 あらあら、だけど笹生ったら。

 天尾にそう言うや、部屋を出て行こうとするわ。


「ああ、少し私には野暮用もあってな。既に旦那様にはお話が通っている。悪いが、お嬢様を任せたぞ!」

「笹生!」


 いつになく無気力なことに、笹生ったら。

 そんな素気無い言葉を残し、部屋をもう出て行っちゃったわ。


 ◆◇


「……というわけでございまして。申し訳ございませんお嬢様! まったく笹生めが、いつになくやる気のない様子でございまして。」


 天尾が私に、そう報告して来たわ。

 ええ、そうね。


 今にして思えば、私はこの時笹生の様子がおかしいことについてもう少し関心を持てばよかったんだけど。


「ええそうね……まあでも、よろしいんじゃなくて? お父様から許可が出ているんですもの。」


 そんな言葉を、天尾に返していたわ。


「ええ、まったく呆れた執事ですわお嬢様! ……しかし、ご安心ください。この私が、そんな笹生執事の分も――いえ、天尾執事の分さえも。あなた様を王お坊ちゃんにふさわしい、ただでさえ魅力がおありながらも更に輝く令嬢にして差し上げます!」

「まあ……ええ、ありがとう天!」


 まあ、そんなことを言ってくれるなんて。

 この時の私には、天が救いの女神に見えたわ。


「な……あ、ああ頼もしいな浅曽メイド! お、お嬢様を頼むぞ……(この女……何か、何かは分からんがともかく! 恐ろしさを感じる……)」

「ええ、必ず。(今に見ていなさい、無能な吹子生家執事たち。必ず私が……ほほほ!)」


 ……まあ、愚かにもというべきだったかしら。

 そう、私はこの時知らなかったの。


 天の腹に、イチモツありということを――

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