#6 犯人探し
「砂葉お嬢様! くっ……ただちに、グループから医療チーム要請を! そして、会場を全面封鎖です!」
「は、はい!」
会場中には、佐波木砂葉の執事・早乙女さんの声が響き渡り。
給仕の男性たちはバタバタと、会場に厳戒体勢を敷く。
もはや社交ダンス――ひいては、私自身や天尾をテストするどころではなくなってしまったわね。
「な、何? し、獣王! 佐波木さんが?」
「ええ、お嬢様! 落ち着いてください。」
冨士谷綺紗は――いえ、会場中は当然というべきか動揺に包まれているわ。
私、努めて騒がないようにしているけど。
却って不自然で、疑われかねないかしら?
なら。
「あ、天尾に笹生! どうしましょう」
「お、お嬢様!」
「ええ、一旦落ち着いてくださいませお嬢様。ここは、状況を確かめねば。」
私が今度は努めて騒いでみたら、二人も乗ってくれたわ。
だけど、天尾。
あなた、ちょっと動揺してるわね。
「……ご安心ください、お嬢様。お持ちのあれは私がスリ取らせていただきました。」
笹生が耳元で囁いてくれたのはそんな言葉ね。
あらあら、ありがとう。
まあ、私から見つかったらあらぬ疑いをかけられかねないわね。
◆◇
「これは……幸いというべきか災いというべきか分かりませんね。」
「さ、笹生! お前いい加減にしないか、ここは人が死にかけてるんだぞ!」
ま、まあそうね天尾……
割合に不謹慎な笹生を、彼は嗜めたわ。
再び、控え室にて。
警察が到着した後私たちは、事情聴取に備えてここに待機しているの。
まあ笹生も、更に彼に促されて私も。
他の令嬢に下剤盛ろうとしていたんですもの、人の事は言えないわね……
「しかし……誰が砂葉さんに毒など?」
「……そうね、笹生。佐波木砂葉にそこまで恨みを持っている者といえば」
◆◇
「は、はあ!? わ、私が!?」
「お嬢様、はしたないですよ!」
「……ごめんなさい。」
そう、私たちが疑った相手。
それは綺沙たち。
「いえいえ、別にあなただけを疑っている訳では……ただ。あくまで形式上のことですので。」
とは言っても、事情聴取しているのは私たちじゃなくて警察よ。
かといって、私たちが警察に冨士谷綺紗への疑いを伝えた訳ではないわ。
あくまで警察と、私たちの疑いがたまたま一致していただけよ。
「……ふむふむ。特に先ほどの身体検査でも毒物の携行は認められませんでしたし。何より被害者が倒れた時、あなたたちは離れた所にいた。疑う余地は、なさそうですがね。」
「そうでしょ! そんなに言うならあの人――吹子生さんを調べてよ!」
む……冨士谷綺紗!
あんたの方も、私を疑っているのね!
「ええ、その通りですねお嬢様。……あのお方は、佐波木様を憎んでいらっしゃいました。私は元執事でしたので、よく分かっています。」
な……獣王!
あんた、どさくさに紛れて!
◆◇
「なるほど……それでこちらに来られたと。」
「ええ、まあ。」
そうして、また私たちの控え室では。
警察が来て、事情を聞きに来たわ。
「まあ……はっきり申し上げて心外ですわ! 私、佐波木さんに憧れこそすれ殺意を持つなど微塵もないといいますのに!」
私は――白々しいかもしれないけど――警察にそう言ったわ。
「は、はいその通りですお嬢様! 警察の方々も、うちの主人を疑うなどと!」
ええ、ありがとう天尾。
……とはいえ。
「では失礼ですが……身体検査をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「……はい。」
……来たわね。
―― ……ご安心ください、お嬢様。お持ちのあれは私がスリ取らせていただきました。
笹生、あなたは薬スリ取ってくれたのよね。
あ、駄洒落じゃなくて。
今あれはあなたが持っている。
身体検査などされたらもってのほかよ笹生、私たち無傷じゃすまないわ。
「……ええ、どうぞ! 私もお嬢様もこの天尾も、疚しいことは何一つとしてありませんので。」
おお、清々しいまでに白々しいわ笹生!
まさにアカデミー賞ものですわよ。
だけど。
本当に、大丈夫なんでしょうね――
「……うっ!」
「!? さ、笹生さん?」
「どうしました?」
と、その時。
突如として笹生は、お腹を抱えて苦しみ出した。
「だ、大丈夫か!? ま、まさか君まで犯人に毒を」
「い、いえ警察の皆様! も、申し訳ございません……先ほどのパーティーで食べ過ぎてしまったようでして、ずっと我慢をしていたのですが……」
「そ、そうか……は、早くお手洗いに行って来なさい!」
「は、はい……ありがとうございます!」
……なるほど、私も天尾も全てを悟ったわ。
笹生、まさかそんなところに下剤を隠すなんて。
「お、お手洗いに行って参ります! すぐに戻りますので!」
「い、いや別に……ゆっくりでいいぞ!」
笹生は尚も苦しみながら、控え室のドアノブに手をかけつつ天尾を横目で見るわ。
――……見たか天尾、お前にここまでできるか!? 見ていただけましたかお嬢様、私の忠誠心を!
――くっ……笹生!
あ、あなたたち超能力者か何か?
笹生は部屋を出る一瞬の間に、天尾と視線のぶつかり合いだけでそこまでの情報を共有したわ!
……まあ、そんな笹生の視線から全ての情報を得た私も人のこと言えないんだけど。
◆◇
「まったく、食べ過ぎとはな……執事ともあろうものが。まあいい、さあて。改めて事情を」
「お待ちください! 我が主人の前に、まずは私から話を。」
「! 天尾……」
と、その後で私たちは身体検査を受けた後。
気を取り直して事情聴取を続けようとする刑事を制したのは天尾。
――ご安心ください、お嬢様! 笹生めがいなくなった今……私が一人でお守りいたします!
改めて、超能力者かっていうツッコミは免れないけど。
天尾は私に、そんな思いを込めたアイコンタクトをしてくれたわ。




