#5 勇者パーティーは再びパーティーへ
「さあて……いざ行かん、ていう所かしら?」
「まさに、その通りにございます。」
「はい、お嬢様!」
私たち勇者パーティー――もとい、令嬢と執事二人はパーティー会場前で息んでいたわ。
……とはいえ、実際にはこんなこと大声で言ってたわけじゃないのよ?
ただ、小声でこう言ってただけよ?
◆◇
「さあて、早速だが……天尾。君のお手並み拝見だな。」
そうして、会場内の控え室を兼ねた個室内に入るなり。
笹生は天尾に、そう言葉をかけた。
「あ、ああ! ……お任せください、お嬢様!」
ええ、天尾。
あなたの、ラストチャンスですものね。
「お嬢様、まずご安心なさいませ。ただでさえ高かったお嬢様の身体能力に加え、これまでの血の滲むような社交ダンス鍛錬の日々。お嬢様が他のご令嬢に遅れを取ることなど、あるはずがございませんから!」
「え、ええそうね……」
あ、ありがとう天尾。
そ、そうね。
なら大丈夫かしら。
「やれやれ……やはりお前は甘いな! それはあくまでこれまでの準備がどうかということであり、これからどうするかということではないだろう!」
「う……そ、それは!」
と、そこへ笹生が容赦なく指摘するわ。
ま、まあそうね……
「じゃあ、お前はどうするというのだ笹生!」
「おやおや……もう、私を頼るのか? それは事実上の敗北宣言と見ていいのかな?」
「な……ば、馬鹿を言うな! そこまで言うならば、お前は何を考えているのかと聞いているのだ!」
ううん、まあ確かに。
笹生、ならあなたはどうなのかしら?
「お嬢様、これを。」
「!? さ、笹生……これって。」
と、その時。
笹生が差し出して来たそれ――何やら薬っぽいひとつまみほどの小さなカプセルを見て、私は冷や汗をかいたわ。
ちょっとちょっと、あなた!
「ええ……下剤です。」
……もう!
天尾も天尾で、確かに優しさ故に甘いけど。
あなたは冷ややかさ故に鬼ね!
「……これを、誰かに飲ませろって言うの?」
「ええ、その通りです。」
「……笹生。貴様!」
あら、天尾も。
笹生には少し呆れたらしく、彼を咎めるわ。
「お嬢様、かねてより申し上げています通り! 仮にお嬢様が他のご令嬢を没落させなさらないとしましても、他のご令嬢はどうでしょうか? 例えばそうですね、冨士谷のご令嬢などは。」
「! ええ、そうね……」
ううん、笹生あなた!
相変わらず、痛いところ突いて来るわね……
でも、そうね。
――ここはやはり、復讐して!
私の恐ろしさを、分からせてあげないとね――
忘れた訳じゃないわ、いいえ忘れられる訳ないじゃない!
ヴァイオリンの恨みは恐ろしいわよ!
「し、しかし」
「ええ、分かったわ天尾! あなたの試練は……私がこの社交ダンスパーティーで、悪役令嬢になることを阻止することよ!」
「は、ははあお嬢様! ……え!? あ、悪役令嬢になる、ですか?」
私がそう告げたら天尾、キョトンとしてるわ。
◆◇
「ご機嫌よう、吹子生さん!」
「ええ、ご機嫌よう!」
そうして、いよいよパーティー本番では。
私は出会う令嬢たち一人ひとりに、にこやかに挨拶しているわ。
……今の私は腹に一物ありだけど、この令嬢たちもどうせそうなんだからお互い様よ!
――あ、悪役令嬢になる、ですか?
――ええ。冨士谷綺紗……いえ、他の令嬢でもいいわ。とにかく私は、隙を見て誰かの飲み物に下剤を混ぜる。だからあなたが、それを阻止して!
――は、はいお嬢様! ……って! だ、駄目ですお嬢様! そんなことをしては!
さっき私が天尾に告げた言葉よ。
ええ、まあやってはいけないことは分かっています。
前にも言った通り私が、強かさと優しさを兼ね備えようとしていることは事実よ。
だけど、具体的にどうするかはまだ分からない。
だから私、今は笹生の言う通りにやってみることにするわ。
それをあなたが止められたら、そのヒントが見つかるかも知れない。
私がそう言ったら。
――で、ですがお嬢様! もし、止められなければ?
天尾がそんなことを聞いて来たわ。
まったく、弱気じゃだめよ!
……だけどそうね、もしあなたが止められなければ。
私は笹生の言う通り他の令嬢に下剤を盛って、それで他の令嬢を陥れる悪役令嬢になる!
ただ、それだけよ。
――い、いけませんお嬢様。悪役令嬢などに!
――いい加減にしろ、天尾! これはお嬢様の心底ご納得できることなのだ。お前が口出しできることではない!
――くっ、笹生!
そういうこと。
そうして、今。
笹生や天尾と共にパーティー会場を歩く今に至るわ。
「あら……これはご機嫌よう、吹子生さん!」
「ええ、冨士谷さん。」
来たわ。
例の、冨士谷綺紗がね。
「お久しぶりでございます、香大里さん。……その節は、うちの令嬢がお世話になりました。」
ああら、冨士谷綺紗の傍らにいる獣王が。
皮肉か、そんなことを言って来たわ。
「あら獣王さん! いえいえ、そんなお世話だなんて。ほほほ」
私はそう、獣王に笑顔で応じながら。
広く持った視野の端っこに、冨士谷綺紗がテーブルに置いたグラスを捉えていたわ。
……さあ天尾、どうかしら?
私、あなたや笹生の前にいてあなたを直接見ることはできないけれど。
私がそのグラスを狙っていることは、多分分かっていると思うわ。
それであなた、見るからに挙動不審になってないといいけれど。
「……今日は社交ダンスがあったわね。あれだけヴァイオリンがお達者でいらっしゃる吹子生さんですもの、さぞかしダンスもお上手なんでしょう?」
「いえいえ! そんなそんな!」
冨士谷綺紗の、そんな白白しい言葉を聞きながら。
私は尚も、タイミングを窺っているわ。
さあ、天尾。
止めてごらんなさい――
「うっ……ゴホッゴホッ!」
「!? す、砂葉お嬢様!」
!? え?
な、何と。
私から離れた所にいた佐波木砂葉が、突然倒れた。
なんであなたなのよ!




