#4 令嬢鍛錬中
「さあー、お嬢様! 一、ニ、三、四!」
「一、二……はあ、はあ!」
とある昼下がり。
こんな時、令嬢ともある者優雅にお茶を飲んで過ごして……とも行かず。
あーあ、綺沙の奴。
獣王に、とてもしごかれているわね……
スクワットなんかやっちゃって。
「そうよ、今に見てなさい吹子生香大里……以前のバイオリンで掻かされた恥、忘れないわ! 次には……社交ダンスパーティーで恥を掻かせてあげる!」
「ええ、その意気ですよお嬢様……さあ! 私たちがザマァできるよう、奮闘せねば!」
……うん、やっぱりそう来るのね。
◆◇
「さて……次の社交ダンスパーティーですが。確実に、またも冨士谷のお嬢様と獣王は妨害工作を施して来るでしょう。」
「ええ……そうね、笹生。」
所変わって、吹子生家。
練習のためのダンススタジオの中で私と笹生、天尾の三人はストレッチしながら作戦会議をしているわ。
まあ正確には、私が開脚前屈していて笹生と天尾が後ろから押して補助しているんだけど。
あ、別に私補助なんかなくてもできるのよ?
今だって、床に顔どころか上半身殆ど着いてる状態だし。
「笹生……貴様、またよからぬことを企んでいるのではあるまいな?」
「まさか……お嬢様。やられる前にやり返す、先取り倍返しです!」
「な!? さ、笹生……貴様やはり、何も分かっていないな!」
天尾に笹生は、そう返しているわ。
ええと、確かその台詞って前にやってた庶民向け社会派ドラマの主人公が言っていたものだったわね?
「やられる前にやるのではもはや倍返しではない! 先制攻撃ではないか!」
「ふむ、だから言っただろう天尾? 先取り倍返しだと。さあ、お嬢様。」
「うん、そうね……」
私は顔だけそこで上げ、二人に話しかけるわ。
そうね、確かに。
「確かに、あの冨士谷は次の社交ダンスパーティーを復讐の機会と捉えるでしょうね。」
「ええ、さすがはお嬢様! 分かっていらっしゃる。」
私を尚も補助しながら、笹生は私を持ち上げてくれた。
同時に私も、私自身の上体を持ち上げ……もとい、起こしたわ。
「で、ではお嬢様! 笹生の言葉をそのまま」
「……だけど! 言ったでしょう? 私は強かにかつ優しく進める! それが悪役令嬢にならないために必要なことなの!」
「お嬢様……」
「ふうむ……まあ、お嬢様がそうおっしゃるのでしたら。」
私は、笹生と天尾にそう告げた。
「しかしお嬢様。お言葉を返すようですが……この前のパーティーにて、冨士谷のお嬢様に危うく先手を取られかけた点はお忘れではありますまい?」
「な……笹生!」
「うっ……」
む……笹生!
あ、あなた中々痛いところついて来るじゃないの!
「笹生、貴様! お嬢様に逆らう気か?」
「まさか。……お嬢様、誤解を与えたようでしたら申し訳ございません。しかし、私はお嬢様を非難したいわけではございません。」
「いいえそんな……え?」
と、思いきや。
笹生は、そう言ったわ。
「私が非難したいのは……お前だ、天尾!」
「! 私、か……ああ、お嬢様を非難するよりはマシだ。だが、私が何を非難される?」
天尾は笹生に、そう返すわ。
「この前先手を取られたこと、まさか自分のせいではないかとは毛頭思わないのか? お前の甘い教えが、危うくお嬢様を間違えた方向に向かわせるところではなかったのか!」
「く……それは」
これには天尾も、笹生の言葉に返す言葉もないといった雰囲気。
いやでも、私は別に気にしていないのよ?
「まあまあ笹生! 私は別に気にしていないわ」
「いいえ、お嬢様! ここは少し、厳しく臨まれることを提言いたします。あれは下手を打てば、お嬢様のみならず吹子生の家名に関わっていたかも存じませぬこと。それを天尾は、油断したのですから!」
「え、ええ……」
うーん、容赦ないわね笹生……
まあ確かに、そうなりかねなかったのは事実なんですけど。
「く、しかし!」
「まあお待ちなさい笹生! ……分かったわ、なら天尾には再びチャンスを与えましょう。」
「! チャンス、でございますか?」
私の言葉に、笹生は首を傾げるわ。
「ええ、次の社交ダンスパーティーできちんと私の護衛をできるかどうか。判断は、それからでも遅くはないんじゃなくて?」
「お嬢様……!」
「なるほど……元より、お嬢様の仰せのままに。」
ふふ、ありがとう笹生。
さあて。
「でも天尾……笹生の言うことはある程度その通りよ! あなたは優しすぎる。その過ぎた優しさは、甘さにつながるわ。」
「は、ははあ! 必ずやこの天尾、次こそは……!」
ええ、天尾。
申し訳ないけれどそういうことよ。
◆◇
「さあ、そろそろ着きますお嬢様。」
「ええ、そうね! ……さあて。」
そうして、パーティー当日。
私たちは会場に着いたわ。
いつも通りというべきかしら。
私もいつも以上におしゃれしてるけど、それに負けず劣らずのめかした令嬢たちがよりどりみどり。
「おお……やはり、ここは戦場ですね。」
「ええ、その通りよ! さあ来てごらんなさい他の令嬢たち!」
私は、改めて覚悟を決めた。




