#3 令嬢の反撃
「ええ……それでは皆様! 宴もたけなわでございますが、そろそろわたくし共の生徒による余興を披露させていただきたく存じます!」
「おお……それはそれは!」
そうして、今の秋桜女学院校長の言にもある通り宴もたけなわな頃。
「……皆様。余興は、わたくし冨士谷綺沙が務めさせていただきます……」
くっ、冨士谷綺沙!
よくもまあ、抜け抜けと!
「(さあこれで……私の音色で招待客皆メロメロよ!)」
「(ええ、綺沙お嬢様……さあ! あなたのターンでございます、どうぞ存分に!)」
むう……獣王も!
すっかり勢いづいちゃって!
そのまま、バイオリンの弦に弓をかける。
「(!? え……こ、こんなに私、見られて……!?)」
……と、その時。
綺沙は何と、あがり症を発症してしまったようで。
ガタガタ、足が震える。
「(お嬢様……。)」
「(!? な、何よ獣王……その目は!?)」
そこに追い討ちをかけるように。
獣王の視線が、鋭く綺沙に突き刺さる。
「お、お聴き下さい――」
……そこからは、はっきり言ってちょっと聞くに堪えなかった。
音は固い上に度々外され。
更に。
「(む!? げ、弦が切れた!)」
弦が途中で切れる、なんてアクシデントが!
「お、おい……これが本当に秋桜女学院の生徒なのか?」
「ああ、見るに堪えんなあ……」
ヒソ、ヒソ……
ええ、そうね同感です。
だから!
「おお、この音色は!」
「う、美しい……な、何だこの音色は!」
「(な……ふ、吹子生さん!)」
ええ、私が代わってあげたわ!
綺沙さん、あなたを出し抜く形でね!
―― 令嬢の世界は駆け引き……なればお嬢様! 狡猾さこそ主役令嬢の決め手です!」
――いいえお嬢様! 令嬢の品位とはすなわち思いやり――優しさです!
……ええ、そうね笹生に天尾!
ようやく私、分かったの!
◆◇
「皆様、お聴きいただきありがとうございました……そして、そちらの冨士谷綺沙さんですが。申し訳ございません、彼女は私とバイオリンを取り違えていたようですわ。」
「! な、何と!?」
そうして、演奏が終わり拍手喝采の中。
私はそう、皆に言った。
「ええ、それで彼女は実際の力が出せず。あろうことか、私のメンテナンス不足により弦も切れてしまいまして……ですから皆様。私が下手を打てば、失敗をしていた所を彼女は救ってくださったのです!」
「おお……な、何とお優しい!」
私のその言葉に。
パーティー参加者は、納得してくれたみたいだわ。
◆◇
「はい、あなたのバイオリンよ。」
「ええ、返すわよ……何、恩を売ったとでも思った?」
あらあら。
控室にて、私が綺沙とバイオリンを交換すると。
綺沙は、そう嫌味を言って来た。
「いいえ、まあそうね……これで、バイオリン盗難の件はおあいこということで☆」
「なっ……!? あ、あんた……くう……ふんっだ!」
だけど私がそう返すと。
綺沙は言い返そうとするもできず、そのまま走り去ってしまった。
「おやおや……しかしお嬢様、実にお見事でございました!」
「え、ええさすがですお嬢様! しかし、今のは……」
あら、素直に賛辞を述べてくれた笹生とは違い。
天尾は、今の綺沙への私の発言がちょっとお気に召さないみたいね。
「ええ、確かに天尾の言う通りよ。……だけど、そうね笹生。令嬢に必要なのは狡猾さ、ボーっとしていたからさっきみたいに危うく出し抜かれるところだったわ。」
「おお! ご納得いただけましたか、それでは!」
「な……い、いけませんお嬢様! 令嬢は」
「ええ、だけど! 天尾の言う通りでもあるわ、少なくとも表向きには! 思いやりは必要よ。」
私は笹生と天尾に、そう言った。
「え……お嬢様。私と天尾、どちらの弁を採用されるとおっしゃられているのですか?」
「どちらかじゃないわ……どちらもよ! 笹生の星の下に生まれたからにはその強かさを! 天尾の星の下に生まれたからには優しさを学ばせてもらうわ!」
「な……!?」
「お嬢様……」
ええ、私が分かったのはそういうことよ。
「という訳で……よろしく、私のお執事座さんたち♡」
「……はっ!! 香大里お嬢様のためならば!!」
……まあ、よかったわ。
私の執事たることを、二人は快諾してくれたみたいだから!
◆◇
「ひ、ひどいのよ獣王! あいつら私を」
「綺沙お嬢様……出し抜かれた以前に、何ですかあのバイオリンは?」
「う……」
一方、綺沙は。
獣王から、責められていた。
「だ、だって! あれは私のバイオリンじゃなかったし」
「言い訳はご無用です! これは……本当に他者を見下せるように、努力しなければなりませんね!」
「そ、そんなあ……」
……ま、確かに言い訳は言い訳よね。
何はともあれ。
獣王の私へのざまあは、もう少し先になるみたい。




