#25 互いに牽制
「さあて……これからどうしたものかしらね。」
「ええ、香大里お嬢様……どうしたものか。」
洋館の大広間で。
私たちは気を引き締めたものの、すぐに途方に暮れたわ。
私たち――私香大里や、笹生に天尾。
更に。
「ええ、本当にツイていないわ……」
「ええ綺沙お嬢様、まったくです……」
綺沙に獣王の冨士谷家勢。
「早乙女さん……私少し怖いわ。」
「ご安心ください、砂葉お嬢様。何があろうとも、お嬢様はこの私がお守りいたします!」
砂葉に早乙女さんの佐波木家勢。
「……しかし、何なのかしらね。私たち良家の令嬢を財宝で釣ってこんなところに集めるなんて。」
私はポツリと、そう呟いたわ。
まあ財宝なんかに釣られる私たちも私たちだけど、という言葉は飲み込んだわ。
「か、勘違いしないでいただきたいわ! わ、私は別に財宝なんかに釣られた訳じゃないんだから!」
「そ、その通りです!」
あら綺沙、私の意図伝わっちゃったかしら?
私としたことが、そんな意地悪さを隠せなかったなんて不覚だわ。
「ええ、元より我が主人はあなた方がそんな目的のためにここにいらっしゃるなどとは露ほども思ってはおりません。察するに……我が主人と対決したいからというご理由ではないかと。」
「! え、ええ……そうよ、よく分かったわね笹生執事!」
笹生のその言葉に綺沙は、そう高らかな声で返したわ。
なるほど、お互い目的は同じようね。
私たちもあなたたちと対決したいという目的でここに来たんですもの。
「私たちは……財宝や対決には特に関心はありませんわ。ただ、私たちにこんなことを突きつけて来た方は一体誰なのか確かめたいという意図でここに来させていただきましたの。」
「はい、砂葉お嬢様!」
あら砂葉。
なるほど、あなたの意図はちょっと違うみたいね。
「なるほど、佐波木さん。あなたの意図はそうなのねだけど……こうも考えられないかしら? ここに私たちを呼んだ人物は、私たちの中にいると。」
「な……そ、それは!」
今度は綺沙が、そう言って来て。
天尾は私も疑われたと思って動揺を声に表しているわ。
へえ、あなたもかなり鋭いことを言うじゃない。
まあ私も考えていたことではあるけれどね。
これはもしや、綺沙や砂葉自身が仕組んだことではないかって。
勿論その場合、私も容疑者の仲間入りということになるけれど。
「あら天尾執事。その慌てぶりは何かしら?」
「天尾、落ち着きなさい。それでは私たちに疾しいことがあると思われてしまうわよ。」
「! はっ……も、申し訳ございません香大里お嬢様……」
綺沙がめざとく指摘して来たけれど、そうよ天尾。
少なくとも私たち自身には身に覚えのないことなのだから、堂々としていればいいのよ。
「ええ、まったくです香大里お嬢様……これだから天尾は。」
「な……笹生!」
「それはさておき。……佐波木のお嬢様。失礼ながらその場合、無論あなた方も候補の一人ということにはなってしまいますが?」
「む……わ、私たちじゃないわよ!」
あら笹生、相変わらずね。
でもお見事ではあるわよ、私のフォローと綺沙たちへの牽制を同時にやってくれるとはね!
「ああそうだ、笹生執事! 私の主人に失礼だぞ!」
「ああ、これは申し訳ない獣王執事……しかし。失礼と言えばあなた方もでは? うちの天尾のバカが余計な動揺したとはいえ、我らが主人を疑うような真似をされたのだから。」
「な……笹生執事!」
あらあら、ちょっと喧嘩っぽくなっちゃったわね。
まあでも冨士谷家の面々が私に失礼だったというのは事実だから、そこはきっちり主張しないとね。
でも、こんな他家の令嬢や執事に突っかかってしまうなんて……これも悪役令嬢っぽいかしら?
だとしたら、うまくこの場を治めないとね。
うまくこの場を治める方法……うーん、何かしらね……
「失礼しまーす! うわあ、広いわ兄様!」
「こらお嬢、はしたないぞ! ……遅れて申し訳ありません皆様。八象の令嬢とその執事、只今参りました!」
と、そんなピリピリした空気を変えるかのように。
大広間の扉を開けて、あの秀光執事とその妹にして八象家令嬢のカナが現れたわ。
「あら……よくいらっしゃったわ八象さん方! 吹子生さん……ご自分の執事ぐらい、もっとしっかり御せるようになられてはいかがかしら?」
「ええ、ご忠告ありがとう冨士谷さん……まあだけれど。私たちには何ら疾しいことはございませんから、ご安心を。」
「……ふん!」
そんな中でも、私に嫌味を言ってくる綺沙だけれど。
私も、ちゃんとそう主張しておきましたわ!
綺沙はご不満なご様子だけどね。
「あら……兄様、これって」
「な、何かあったのですか佐波木の皆さん?」
「いえいえ、何でもないわ!」
まあ、八象家の皆さんには砂葉がうまく説明してくれてるみたい!
◆◇
「我がお嬢様……そろそろ時は満ちたかと。」
「ええ我が執事……そろそろ第一段階を仕掛けましょうか。ふふふ……」
その日の夜。
例の招待主たる令嬢と執事のいる、この洋館内どこかにある監視室。
そこで彼女たちは、そんな不穏な会話をしていたわ。
◆◇
「お嬢! お嬢! くっ……カナ! どこへ行った?」
果たして、翌朝。
秀光さんが騒いでいるけれど、な、何ですって?
か、カナさんが行方不明?
なるほど、招待主さんたち。
今にして思えば、これがあなたたちの言う第一段階だったのね――




