#23 水々華の告白/新たな試練
「私に、話?」
愛美は、すっかり目を丸くしているわ。
ま、無理もないわよね。
高嶺さん――自分の許嫁――に呼び出された愛美だったけれど、それは実は彼ではなく水々華だった。
自分の執事が許嫁の名前を使ってまで自分を呼び出しているんですもの、それは驚くわ。
「改めまして、お嬢様……私、お話ししたいことがあります。」
「え、ええ……」
水々華は、改めて自分の気持ちを言葉にしている。
だけど、中々本題に入ろうとしないわ。
これまた、内容が内容だけに無理もないけれど。
それでも、言わなきゃいけないことよ水々華。
さあ!
私は物陰からこの様子を見つつ、念を強く送っているわ。
「……申し訳ございません! お嬢様方に脅迫状を送り、人を雇い襲撃までさせたのは私です!」
「え……な、何ですって!?」
……ええ、いいわ。
まずは、言ってくれたわね。
◆◇
「ど、どういうこと水々華……? あ、あなたが」
「ええ。お嬢様方に脅迫状を送り、人を雇い襲撃までさせたのは私です!」
はい、大事なことなので二度言ったわ。
そう、彼女はあなたを襲いましたわ愛美。
「う、嘘よね……?」
「本当です! 私は……あなたと高嶺さんが仲良くしている様を見せられて、嫉妬が止まらなくて止まらなくて仕方がなかった! だからやったのです!」
「な……水々華、あなた!」
「くっ!」
あらあら、水々華がそう言ったら。
愛美ったら、彼女を平手打ちしたわ!
「あなた……いくら高嶺さんが好きだからって、私はともかくも! 彼を傷つけていい理由にはならないわ!」
あら、天尾と似たようなこと言うのね?
まあ、私たちも最初はそう思い込んだから無理もないけど!
「……やはり、お嬢様もそう勘違いなさるんですね。違います。」
「何ですって、違う? 何が違うって言うの! あなたは高嶺さんに」
「高嶺さんではありません! あなたですよ、お嬢様!」
「え……な、何ですって!?」
ええ、畳み掛けたわね水々華……
よく言ったわ!
まあ、でも。
「わ、私が好き……? 高嶺さんじゃなくて私が? で、でも水々華……あなた、女じゃない!」
愛美は、混乱しているわ。
仕方ないけれど、事実よ。
「女が好きな女だっていますよ、お嬢様……私は、お嬢様が好きなんです!」
「……水々華……」
愛美は、まだ何か反論しようとするけれど。
水々華の目を見て、どうやら本気だと悟ったみたい。
そのまま、俯いて何かを考えているわ。
「お嬢様……」
「! 待って! ……今、気持ちの整理がつかないの。あなたに近づかれるの、怖いわ……」
「!? ……はい。」
……まあ、仕方ないわね。
愛美の言葉に水々華は、後ずさりするわ。
◆◇
「はあ……私は、やはりあんなことを彼女にやらせるべきではなかったのだろうか。」
私たち吹子生家の中継車では。
天尾が自分の提案通りやらせたことに、一人悩んでいたわ。
「ああ、今さら気づいたか! ……お嬢様、やはり天尾に任せたことはいかがかと。私の言う通り、もっと祢冝田執事を利用する手があったのではと思っております。」
あらあら、ここぞとばかりに言うわね笹生。
まあ、でもね。
「そうね、笹生……ただ、もうこうなった以上水々華も鋼羽家も利用できないわ。だったら、この末路がどうなるか見届けましょう?」
「! ……はっ、かしこまりました。」
「お嬢様……ありがとうございます!」
笹生も天尾も、いい子ね。
何となくだけど私、愛美と水々華は何とかなるんじゃないかって思うのよ。
女の勘てものかしらね?
◆◇
「高嶺さん、ありがとう突然の呼び出しに応じていただいて。」
「いやいや、愛美さんのお願いだからね。」
それから数日たち。
愛美の方が、高嶺を呼び出していたわ。
「……ごめんなさい高嶺さん。婚約の話は一旦なかったことにしましょう。」
「え!?」
「(!? お、お嬢様!?)」
あらあら。
愛美、何を思ったのか分からないけれど。
突然そんなことを言い出したわ。
これには少し離れた所で待機している水々華も、驚きを隠せない様子ね。
「私ね、結婚より前に向き合わないといけないことがあるの。……でも、それに気づけなかったのよお恥ずかしながら。だから、まずはそのことに向き合う。」
「……そうか。」
……なるほど、そういう考え方なのね。
「ええ、でも高嶺さん。ご面倒なら他の相手を探されるべきですわ。私のこのことは、時間をかけないといけないことですもの。」
「……いや、僕は待つよ愛美さん! 不確かでも、君と一緒になれる未来を。」
「高嶺さん……ありがとう。」
高嶺さんも、一応は納得してくれたみたいね。
◆◇
「お嬢様……」
「水々華、あなたの気持ちを今一度聞かせてほしいわ。……どうなるか分からないけれど、あなたの気持ちを分かろうとしたいの。」
「はい……ありがとうございます……」
高嶺さんと話した後。
愛美は水々華に、そう声をかけた。
まあ、ちょっと虫が良すぎる展開かもしれないけれど。
今回も、天尾の策が功を奏したみたいよ笹生?
◆◇
「……と、いうわけで。どうやら水々華も解雇にならずに済んだみたい。」
後日。
水々華からもらったお礼の手紙を、私は天尾や笹生に読んだ。
「ええ、よかった! 一時はどうなるかと思いましたが、うまく行けたようで」
「ええ、今回もたまたまうまく行けたようで。まあ何はともあれ、先の八象家のみならず鋼羽家――いえ、その執事にだけですが。彼らにも恩を売れたということでよかったでしょう。」
天尾も笹生も、それぞれいつも通りの様子で喜んでいるわ。
「む……笹生!」
「ああたまたまじゃないか。八象家も鋼羽家も、お前の策は策などというレベルではない! どれもこれも幸運だったというだけだ。」
「……ふん! だが、両家に貸しを作れたのは事実! それではお前の今の言葉は負け惜しみではないか?」
止めなさい、天尾も笹生も!
でも笹生、今回は天尾の言う通りよ。
何はともあれ、天尾の策が成功したのは事実。
それにとやかく言うのは違うんじゃない?
私がそう言うと。
「ええ、申し訳ございませんお嬢様……しかし。そろそろお嬢様には私と天尾、どちらかにすべき時が迫っているのではないかと。私にはそんな風に思えてなりません。」
「な……お嬢様!」
あら、笹生。
なるほど……どちらかに、ね。
勘の鋭いあなたがそう言うなら、そうなのかしらね。
◆◇
「ふう、やっと辿り着いたわ獣王……」
「ええ、綺沙お嬢様……さあ、早く行きましょう! 最近出番がないからと、我々が忘れられているうちに!」
その頃、今彼ら自身が言ったように出番がなくて忘れられていた冨士谷家の面々は。
何やら、古びた屋敷を前にしていたのでした――




