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#22 愛美と水々華

「あれは……私が執事として鋼羽家に勤め始めた頃だった。私は執事なのに、メイドメイドと呼ばれていて……」


 私たち吹子生家の中継車内で。

 水々華は、過去を語り始めたわ。


「……でも、そんな私を庇ってくださったのが愛美様だった! 私は……そんな愛美様をお慕いした!」


 なるほど、それがあなたが愛美を好きになった経緯だったのね。


「……だが、駄目だ! だからといって、嫉妬してお嬢様やその許嫁を脅迫するなどと」

「……そんなこと、分かっているわ!」


 ええ、まあ今天尾が言った通りよ。

 確かにそんなの、執事のやることじゃないわね。


「まったく、天尾! こういうときは何が正しいかではなく何が本人の本心かということだ。」

「な……さ、笹生!」


 あら、笹生。


 天尾を貶めるのは相変わらずだわ、でも珍しく嵌める対象を庇うなんて。


「……祢冝田執事。あなたがやったことは確かに万死に値するが。それでもあなたがそう感じていたのは事実、誰にも否定されることではない。」

「あ……ありがとうございます。」


 水々華も戸惑っているけど、とりあえず礼は言ってくれてるわね。


「……しかし、どうしたものか祢冝田執事。このままあなたは、愛美様の許に帰れるか?」

「……そうね、あなたたちにもバレちゃったし。」


 ええ、そうね。

 まあ、ここからが本題ってところかしら。


 どうしてくれましょう。


 このまま愛美に、実はお宅の祢冝田執事こそが襲撃の犯人であなたに横恋慕していて許嫁の排除を狙っていましたとバラすかしら。


 そうすれば、鋼羽家もそんな執事を入れるなんて見る目がないと言われて評判が落ちるのを恐れるでしょうからそれをネタに鋼羽家に要求して――


 ……って!

 嫌だ、私ったら。


 また悪役令嬢っぽいことを考えてしまったわ……

 ま、まあ今のは私の本心じゃないわよ?


 さ、笹生の言いそうなことを考えていただけのことなんだから、誤解しないでよね!


 ……と、私がそんなことを考えていると。


「では祢冝田執事。このことを黙っている代わりに、より鋼羽家の隠していることを探って来てはくれないか?」

「な!? わ、私を強請る気ですか笹生執事!?」


 あらあら、やっぱりあなたはあなたね笹生!

 でもちょっと、それを切り出すにしても早すぎるんじゃないかしら?


「強請るだなどと。私はただ、どちらがいいかと聞きたいだけだ。このまま表面的にでも愛美様との穏やかな日常を過ごしたいか、はたまた愛美様に自らバラすないしはバラされることによってその日常に終止符を打つか。」

「そ、それこそ強請っているでしょう!」


 笹生の言葉に愛美は、叫んでしまっているわ。

 ま、まあ今回ばかりはあなたに同意よ水々華。


 強請ることの良し悪しはともかく、ちょっとストレートすぎるわ笹生。


「待った、笹生!」

「おや、天尾……何だ、私の邪魔をしたいのか?」


 と、そこへ天尾が声を上げたわ。


「ああ、結果的には邪魔になってしまうとは思うが……笹生、今回はお前から聞いたことを参考にさせてもらうことにした! お前がさっき言っていた、"こういうときは何が正しいかではなく何が本人の本心かということだ"という言葉をな!」

「……ほう?」


 あら、あなたも珍しいわね天尾。

 あなたが、笹生から学ぶなんて。


「じ、じゃあ天尾執事……あなたは、私に何て言ってくれるつもりなの?」

「……はい、祢冝田執事。」


 水々華が、期待の眼差しを天尾に向けているわ。


 笹生も期待――というより、何か試すような底意地の悪い光が宿った眼差しを向けているわ。


「祢冝田執事……では。あなたは、愛美様に告白するべきです!」

「……え!?」

「……はあ、やれやれ。」


 ……ちょっと、天尾あなた!

 まったく、笹生といい。


 今日の吹子生家執事は焼きが回っているのかしら、話に迂遠さが足りないわ。


「わ、私に何をさせようって言うの!?」

「今言った通りです。……こんなに愛美様のことを思っているのであれば、その気持ちは本人にぶつけてしまうことでどうにかすべきかと。」

「……そ、そんな正論は!」


 あらあら、天尾。

 あなた、さっきの笹生以上にストレートだわ。


 水々華の奴、顔を真っ赤にしちゃっているわよ?


「まったく天尾! お前は」

「そ、そりゃあ私だって……何度そうしようと思ったことか! でも……しょうがないでしょ? お嬢様には、既に心に決めた人がいらっしゃるんだから!」

「……ほう?」

「! 祢冝田執事……なら! 尚更やってみるべきです!」


 あら、だけど。

 水々華も、何やら満更でもない雰囲気だわ。


 ◆◇


「高嶺さん、ごめんなさい! 遅くなったわ……え!?」

「お嬢様。」

「なん、であなたが……水々華。」


 そうして、それから数日後。

 高嶺さんに呼び出された愛美だったけれど、それは実は彼ではなく。


 無論、水々華よ。


「お嬢様……私、お話ししたいことがあります。」


 まあ、こうして。

 私たちも物陰から見守る中、水々華のターンが始まったのでした――

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