#20 鋼羽の令嬢と許嫁
「お嬢様、準備はよろしいですか?」
「ええ、いいわ水々華……」
鋼羽家の、愛美の部屋で。
愛美の髪を梳かしつつ、メイド……間違えたわ執事の水々華は彼女に微笑みかけた。
◆◇
「どうぞお客様、こちらへ。」
「あらありがとう。……さあて、外で待っていてもらえるかしら水々華?」
「ええ、お嬢様。」
そのまま二人は、とある庭園のある高級フレンチのお店に入ったわ。
「なるほど……鋼羽さんが今回のターゲットなのね。」
「ええ、お嬢様。」
それを見守る――というより見張るのは私香大里や笹生・天尾の吹子生家面々。
今回はお店の方に協力していただき、店内に仕掛けられたカメラによって。
私たちは、離れた車の中で彼女たちを見ているわ。
彼女――鋼羽愛美。
また例によってと言うべきかしら、私の同級生よ。
スポーツも勉強も学年では中頃……といった具合にあまり目立つ存在ではないけれど。
鋼羽家以上の名家御曹司との結婚が決まっていて、もしそうなれば確かに脅威ではあるわ。
だけど、彼女に今何があると言うのかしら笹生?
「だが笹生、一体愛美殿やその執事殿に何があるというんだ? 見たところ、特には」
「ああ、それは勿論。大概の令嬢やその名家は、問題などお首にも出さないものだからな! ……しかしお嬢様、この笹生そのお首にも出されぬ問題をきちんと掘り出してございます。」
ええ、私が感じていたことを天尾が言ってくれたわ。
それに対して笹生は……何ですって?
問題を?
「ええ、本日は許嫁の方とおデートの日なのですが……実は脅迫状が届いているそうでして。」
え、何ですって!?
き、脅迫状?
◆◇
――鋼羽愛美から離れろ、彼女を幸せにできるのは貴様のような男ではない。
「……ごめんなさい、私のせいで」
「いや、大丈夫だよ。それより……愛美さんは大丈夫?」
貴島高嶺。
愛美の許嫁にあたる、名家の御曹司よ。
「ええ、私は何ともないわ。……でも、水々華たち使用人の面々には心配をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいで。」
「愛美さんは優しいね……でも、これは愛美さんが悪いんじゃない。脅迫している犯人が悪いんだから。」
「ありがとう、高嶺さん。」
あらあら。
何か、いい雰囲気ね。
と、その時だったわ。
「!? ま、愛美さん危ない!」
「きゃっ!」
え!?
な、何と!
突如、店の窓ガラスが割れて。
高嶺さんは、愛美を庇ったわ!
「え……? な、何これ!」
「お、お嬢様!」
「ふうむ……お嬢様、この映像からは分かりませんが。外から狙撃されたものと思われます!」
そ、狙撃ですって!?
ま、まあ私たち名家の令嬢にはよくある話だけれど……
とにかく。
「カメラは動かせるかしら?」
「申し訳ございません、この設置位置からでは今の映像が限界かと。」
あら……それは残念だわ!
せっかく私のライバル令嬢を狙撃してくれた人のご尊顔を、拝ませていただきたかったのに!
「お、お嬢様! そんな」
あら、私がそう漏らすと天尾ったら取り乱し始めたわ。
ごめんなさい、半分本音で半分冗談よ。
「あ、はい申し訳ございません。半分冗談ですか……って! もう半分は本気ですかお嬢様!」
あら、言葉尻を捉えるとはあまり感心しないわね天尾?
「ええ、まったくですお嬢様……天尾! 今お嬢様は私の意見――他の令嬢を没落させるという意見も取り入れてくださっているのだ、前回はたまたまうまくいったからと図に乗るな!」
「くっ、笹生……」
ええ、まあそういうことよ天尾。
……さて。
「揉めるのはこのくらいにして。……さあ、直接拝みに行きましょう。あの愛美たちを狙撃した者たちを!」
「な! そ、それは……お嬢様の御身を考えればお勧めできかねます」
「ええ、お嬢様がそうおっしゃるのでしたら! さあ、SPと私たちが全力でお守りいたしますので行きましょう!」
「な……笹生! こういうときはお嬢様を止めるべきでは」
いいえ天尾、悪いけど止めないで?
これからが、いいところなのよ?
私は天尾に、更にそう告げた。
「……はっ、お嬢様!」
天尾は、不承不承といった雰囲気だけど承諾してくれたわ。
◆◇
「く、どこだ!」
「どこに逃げた!」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「水々華……ええ、私も高嶺さんも大丈夫よ。」
その頃、店内では銃声を聞きつけた水々華が愛美たちの様子を見に来て。
鋼羽家のSPたちも、店外で付近を警戒しているわ。
まずいわね、これは気をつけないと。
私たちが周りをうろついていたら、吹子生家が鋼羽家令嬢を殺そうとしたなんて勘繰られかねない。
私たちはそう思って、結局この日は車に戻ったわ。
「高嶺さん……でも私怖い……」
「愛美さん……」
「(……チッ!)」
高嶺さんに縋り付く愛美だけど、それを見て内心舌打ちをした者がいたわ。
え、私?
いいえ、違うわ!
私、この時は誰かが彼女たちに対して内心舌打ちしてること自体知らなくて、後で知ったのよ?
舌打ちしたのは。
「(お嬢様……高嶺さん……また、そんなにベタベタと!)」
なんと愛美の執事、水々華だったわ――




