#2 令嬢のおもてなし
「う、嘘でしょキング王子! 私とあなたが結ばれることは決まっていたのよ!」
「ニッカ王女。……申し訳ありませんが、私はあなたの心を好きになれない。私は……もっと心の美しい方に心惹かれたのです!」
「き、キング王子!」
「……では!」
◆◇
うう、何度見ても辛いわ泣けて来るわ……
悪役令嬢は破滅する運命にある!
……と、思っていたんだけど。
「あら? これは……悪役令嬢だけど、追放された先で意外と楽しくやってる話? 更に悪役令嬢が追放先を立て直したら出世した話ですって!? な、なるほど……あ、悪役令嬢になるのも悪くないかもしれなくってよ笹生に天尾!」
私は予想外の事態に、身じろぐ。
な、なるほど……追放された悪役令嬢にも、まだ先はあるのね!
なら二人とも、私別に悪役令嬢になってもいいんじゃない?
……と、思っていたんだけど。
「いいえお嬢様、おすすめはできかねます!」
珍しく異口同音に、笹生と天尾はそう一緒に答えてきた!
「な、何ですって?」
「ええお嬢様。確かに中身は悪役令嬢でもおよろしくございますが……あくまで、表向きには! 主役令嬢でございませんと。」
……うん、まあそうね。
ごめんなさい、私。
つい、追放先でのスローライフはさぞかし楽しいだろうな〜とか考えちゃったのよね!
「まあ……ご心配は不要です。この笹生がいる限り、たとえお嬢様が悪役令嬢などになられても代わりに他の令嬢を破滅させて差し上げます!」
「な……ま、まだ言うか貴様! いけませぬお嬢様、悪役令嬢などになられては! この天尾がいる限り、お嬢様を悪役令嬢などにはさせませぬ!」
あ、あらあら……
ま、まあありがとう二人とも。
そうね、あなたたちがせっかく来てくれたんだし。
ここは私が、まずは悪役令嬢にならないように努力しないとね!
「な……お、お嬢様!」
「ええ、よくぞ言ってくださいましたお嬢様! ……見たか笹生!」
「ふん……お嬢様に少しばかり気にかけていただけたからと、図に乗るな!」
「な、何だと!」
あら、二人は更に険悪になっちゃった。
……でも、駄目よ。
「お待ちなさい、二人とも! 私の前よ、そんな醜態を晒す気かしら?」
「!! は、ははあ! も、申し訳ございませんお嬢様!」
おーっ、ほほほ!
ええええ、それでいいのよ我が執事たち!
私に仕える者ならば、首を垂れて這いつくばいなさい!
身の程を弁えなさいな愚民ども!
……って!
いけないいけない、私ったら!
「ああ、間違えたわ! ……ごめんなさい、ちょっと言い過ぎたわ私。」
「!? お、お嬢様?」
ああ、いけないいけない。
私ったら、まだこんな風に考えていたんだわ。
――お嬢様! あなた様は私という執事の星の下にお産まれになられたお方……されば、私はあなた様をお守りする星となりましょう! お嬢様は、『他者を見下せるよう努力する』ことを目指されるのです!
うう、獣王……
もう未練なんかないつもりだったけど私、あなたに毒されたままだったのね!
◆◇
「お久しぶりですね、皆さま。」
「おやおや、これはこれは香大里さん。今日は一段とお綺麗ですな?」
「ふふ、ありがとうございます。」
その数日後。
私たちが通う秋桜女学院による令嬢の嗜みとして。
名士たちが集うパーティーへの、参加をしていた。
「これはこれは、香大里お嬢様。ご機嫌麗しく」
「! あ、あなたは獣王!」
と、そこへ。
私に挨拶をして来た令嬢と執事を見て驚いたことに。
それは例の冨士谷綺沙と獣王!
「冨士谷綺沙です、初めまして。……あなたの元執事である獣王の、現主人です!」
綺沙は笑顔でそう言ってくるけど。
その顔は微妙に引き攣っていることや、"元"と"現"を強調して来る言動に滲むマウンティング感情を、私は見逃さなかった。
「では、ご機嫌よう。」
「ええ、ご機嫌よう……」
私と綺沙は、表面上は笑顔を交わして互いに去る。
「お嬢様……」
「そうね。さあて。」
こういう時の、私の嗜みは。
わざと――それでいて何気なく見えるように、
他の令嬢の靴に、足を引っかけて。
そのまま転ばせて、その娘を笑いものに――
「お嬢様!」
「(……はっ! いやダメダメ、いけないいけない!)」
……いやいや、私ったら!
天尾に声をかけられて、はっとした!
そんなの、まさに悪役令嬢まっしぐらじゃないの!
「いかがなさいました、お嬢様?」
「えっ? あ、いいえ何でも。ほほほ……」
私は突き刺すように見て来る笹生の目に、曖昧な言葉を返した。
「令嬢の世界は駆け引き……なればお嬢様! 狡猾さこそ主役令嬢の決め手です!」
「いいえお嬢様! 令嬢の品位とはすなわち思いやり――優しさです!」
「! あ、天尾も……」
そのまま、私に狡賢さを促して来る笹生とは反対に。
天尾はあくまで、優しさを要求して来る!
「おやおや、いいのかな? ……お嬢様、既に我々は出し抜かれております。」
「……えっ!?」
「な……何!?」
◆◇
「こ、これは……な、ない! 私のバイオリンがない!」
笹生の言葉に、私が彼や天尾を連れ立って控室に戻ると。
何と私のケースから、バイオリンがなくなっていた!
「犯人は分かっております、冨士谷家のご令嬢です!」
え!?
あ、あの冨士谷綺沙が!?
「あ、あの女……!」
「何ということだ……し、しかしお嬢様冷静になさいませ! 何かされたからといって冨士谷のご令嬢に手を出してしまわれたら、それはいけないことです!」
く……ええ、そうね天尾!
毎度お馴染み、至極冷静なご意見ありがとう――
「ふっ、甘いな天尾! ここでそんな綺麗事を言っても始まらん!」
「な! さ、笹生貴様!」
あ、ああ天尾も笹生も……
ごめん、一旦黙ってえ!
「! お、お嬢様申し訳ございません……」
「ええ、申し訳ございません。お嬢様を感情的にするつもりはございませんでした。」
あ……
ご、ごめんなさい天尾も笹生も!
そ、そうよねこんな短気な令嬢じゃあ……
や、やっぱり悪役令嬢まっしぐらよね?
「いいえ、そんなことはございません。……さあ、これを。」
……へ?
こ、これはバイオリン!?
ど、どこから!?
「これは……冨士谷のご令嬢からくすねさせていただいたものでございます!」
「な!? さ、笹生!」
……あらあらあら。
や、やっぱりあなたのやり方はまさに悪役令嬢まっしぐらね……
「……さあ、香大里お嬢様! これを使い、冨士谷のご令嬢に復讐を!」
「な……なりませんお嬢様! 復讐など!」
……でも、そうね。
ここはやはり、復讐して!
私の恐ろしさを、分からせてあげないとね――




