#19 最後のライブ……になっちゃうかしら?
「な、何だこれは……」
絶句する八象の旦那様・奥様に獣王・綺沙だけど。
まあそんな唖然としないで、ちゃんと目を見開いて見てあげてください。
特に八象の旦那様・奥様は。
これはあなた方の娘さんの、晴れ舞台なんですから!
何よりあなた方の息子さんのプロデュースした舞台なんですから!
「さあ皆……ちょっと今日は、厳かに行かせていただきます! さあ、ついて来て!」
香奈さんは大事な人たちがいるということもあって、俄然張り切り。
「父さん、母さん!」
「! 秀光……」
「秀光さん……」
そんな中、秀光さんが八象の旦那様・奥様の下へやって来たわ。
◆◇
「どうでしょうか、お二人とも。香奈、とてもクラシック楽器がうまくなったでしょう。」
「ええ、そうね……」
「……ふん、まだまだだ! こんな所で現を抜かしていなければ」
秀光さんのこの言葉に、奥様はともかく旦那様はまだご納得されていない様子ね。
「お言葉を返すようですが、むしろ逆です! ここでクラシックでないにせよ、別の音楽に触れることにより香奈はセンスや腕をより磨くことができたのです!」
「な……ひ、秀光! お前、親に向かって」
だけど秀光さんは、毅然とそう言い返し。
旦那様は、お冠のご様子だけど。
「まああなたも秀光も、そんな難しいお話はもう止めましょうよ! せっかくの晴れ舞台なのですから。」
「! 母さん……」
「な! お、お前まで……」
奥様も、助け舟を出してくれたわ。
「そうね、香奈が私たちに黙ってロックを楽しまれていたと聞いた時私もびっくりした――というより呆れたわ。何しろ私もあなたも、ロックなど見たこともなかったのですから。」
「あ……ああそうだ! そんなけしからんもの」
「か、母さん……」
だけど奥様も、そんなご自分の本音を吐露され始めたわ。
「でも、ロックはともかく今の香奈見てようやく分かったわ。あの娘は自分で自分の道を見つけようとしていると。そうね……香奈をこれほど突き動かしたロックとはどんなものか、是非見てみたいわ。」
「お前……」
「は、はい母さん! ……香奈、クラシックから通常営業に戻れ! 少し早いが、それが母さんの望みでいらっしゃるんだ!」
奥様のその言葉を聞いて、秀光さんはご自身のインカムで香奈さんに指示を送ったわ。
◆◇
「はい、兄様! ……さあ皆、いきなりのいつもと違う演出にも対応してくれてありがとう〜! これからは、通常運転になります! さあ、行くよ〜!」
「オオオオ!」
「な……何という振る舞いだ!」
そうして香奈さんは、いつものように観客を煽動するけど。
旦那様は、目の敵とばかりにロックをする香奈さんに目くじら立て始めたわ。
「素晴らしいわ……香奈!」
「ああ、まったく素晴ら……な!? お、お前……」
だけど奥様は違っていたわ。
私が最初にここを訪れた時と同じく、奥様は香奈さんの音楽パフォーマンスに聞き惚れなさったのよ。
「あなたには、これがけしからんものに感じられますの? こんなに観客の皆様も盛り上がっていらっしゃる、香奈は今様々な方たちを幸せにしているんですよ?」
「む……か、彼らは娘のあのはしたない格好や俗な音楽に踊らされているに過ぎん!」
あらあら。
やはり旦那様におかれましては、どこまでも認めていらっしゃらないご様子。
「素晴らしいわよね、獣王……」
「ええ、お嬢様……」
「な!? き、君たちまでか!」
あら、そう言えばいたわね。
獣王と綺沙も。
「……父さん、今すぐお認めになってくださいとは難しいこと百も承知です! ですが……今ロックをすることは、香奈にとってもファンの方々にとっても幸せなことなのです! 少しずつでも、お認めになっていただけませんか?」
「ええ、私からもお願いしますわ。」
「む……く!」
秀光さんと奥様にそう促され。
旦那様は、少し追い詰められたようになっていらっしゃるわ。
「……ふん、勝手にするがいい! だが秀光、後はお前の責任だ! このまま香奈が令嬢としての品位を欠くようならば、覚悟しておけ!」
「はい……父さん!」
旦那様はそう、厳しくだけれどどこか照れ臭く言い残し。
会場を去って行くわ。
◆◇
「……それで、ひとまずは香奈さんの道を認めてもらえましたと。秀光さんからのお手紙にはそうあるわ。」
「はい、何よりですお嬢様!」
それから一週間ほど経ち。
吹子生家で、私は天尾や笹生に秀光さんからのお礼のお手紙を読んでいるわ。
「今回の勝負は、天尾。彼の勝ちということで、よろしいわよね笹生?」
「はっ、お嬢様!」
あら、笹生。
意外にも、あっさりそう認めたわ。
「笹生……そうか、ようやく私を」
「図に乗るな、天尾!」
あらあら、だけど。
笹生は相変わらず、天尾に対して邪険にしているわ。
「私はお前を認めた訳ではない、今回はたまたま八象に恩を売れたことだけは評価してやるというだけだ! ……しかし、お嬢様。既に、次のネタはおさえてございます。」
「な! ね、ネタだと?」
へえ、これまた相変わらず動きが速いじゃない。
さあて、次はどのご令嬢かしら――
◆◇
「今日はいいお天気ね、水々華。」
「はい、お嬢様!」
場所は、良家鋼羽家の屋敷。
この家の令嬢にして、例によってと言うべきかしら私の同級生でもある鋼羽愛美と。
そのメイド……間違えたわ、女性の執事である祢冝田水々華・メアリージェーンは庭を散策していたわ。
「私もいよいよ、許嫁のお兄さんと結婚する時かなと思っていてね。……結婚は、楽しみでもあるけれど不安も多いわ。」
「いいえ、お嬢様なら大丈夫です!」
「ありがとう、水々華!」
そんな会話を交わす、執事と令嬢だけど。
「(お嬢様……実は私、好きな人がいまして……)」
水々華はそんなことを思いながら、自分の主人である令嬢を見ている。
笹生、まさか。
今回のターゲットは、彼女かしら?




