#14 お嬢様は覆面バンドマン
「……ここね。」
「ええ、どうぞお嬢様。」
「何なんだ、ここは……?」
私と天尾は、笹生に導かれ。
割とダサい服装やサングラスをかけて、ライブハウスとやらにいたわ。
何故私が、こんなところにいるかですって?
ええ、それはね。
「では紹介しちゃうよ〜……ギター担当、中国人の呉潘!」
「ウォオオ!!」
あら、まあこれはちょっと後回しにして。
今はステージの上で仮面の女性が話していることを聞きましょう。
彼女はバンドとやらのメンバーを紹介されているけれど。
うん、呉潘――ご飯?
気のせいか、なんかそんな気がするの。
「続いて……ベース担当、韓国人の米昭室!」
「ウォオオ!!」
米昭室――味噌汁!?
呉潘――ご飯と、味噌汁?
い、いいえまあ偶然よね……
「続いては……ドラム担当、アメリカ人のニック・ジャガー!」
「ウォオオ!!」
ニック・ジャガー――肉じゃが!?
ご飯と、味噌汁と、肉じゃが!?
「そして……私がボーカル、日本人のカナ! よろしくう!」
「ウォオオオオオ!!!」
ボーカルである仮面をつけた女性・カナが自己紹介したわ。
そう、このカナこそ私の同級生たる八象香奈――焼き魚!?
ご飯と味噌汁と肉じゃがと、焼き魚!?
し、下々のいえ、庶民の食卓そのものだわ!
え、ええさっきから偶然偶然と言い続けたけれど訂正するわ……。
これは、完全に狙っているわね!
「以上、私たち国際的バンド・Shock Tackのメンバーたちでした!」
「ウォオオオオオ!!!」
国際的(ただし、どこか日本臭い)バンド・Shock Tackのメンバーたち。
これが、八象香奈の率いるバンドよ。
◆◇
「何ですって? 他の令嬢の弱みを握った?」
「はい、左様でございます。」
あら、ここで時をお戻ししますわ。
時は、あのお見合い騒動のすぐ後。
笹生から、そんな話を聞かされましたの。
「お前……一間重家のことを調べるついでに、そんなことまで……」
「ああ、私はお嬢様に纏わる危険な芽を常に探しているのさ。誰かとは違ってな!」
「ぐっ……」
あらあら笹生。
相変わらずね……
まああなたのその手腕は買っているわ!
「これがそのご令嬢――八象香奈様です!」
あら、八象さんが?
私もあまり知っている訳ではないけれど。
まあ確かに、文武両道なお嬢様ね。
「それで、八象さんの弱みというのは何かしら?」
「ええ、よくぞ聞いてくださいました香大里お嬢様! それは……香奈様がご両親には内密に、ロックバンドのボーカルをしていらっしゃるということです!」
「何?」
ろ、ロックバンド!?
た、確か下々の者たちが嗜んでいるというゲスな……
って!
いやダメですわ、私ったら!
「そ、それは下々の……い、いいえ大衆向けの! す、素晴らしいものなのよねえ?」
「は、はいその通りでございますお嬢様!」
ああ、危ないわ……ま、また悪役令嬢まっしぐらな考え方をするところだったわ!
「ええ、お嬢様。今おっしゃりかけた通りでございます! あれは本来、ご令嬢が嗜まれるようなものではございません!」
あ、あら笹生そこはしっかり聞き取っていたのね……
でも!
そういう言葉尻を捉えるのは、あまり紳士の嗜みとはいえませんわよ?
私がそう言うと。
「おや、これは失礼いたしましたお嬢様。」
「そうだ笹生! お嬢様に対して失礼だぞ!」
あら、でも天尾。
私が悪役令嬢まっしぐらなことを言いかけたのは――まあ、こう言っては何だけど。
あなたが一向に、他者を思いやる令嬢になるための具体的な方針を示せないせいでもあるのよ?
私は天尾にそう言うと。
「はっ! も、申し訳ございません……」
「ええ、まあその通り……天尾! お前も悔しければ、もう少し先手を打ってはどうだ?」
「くっ……笹生!」
あらあら、あなたたち……今は仲間割れなどしている場合ではないわ!
私は更に、彼らをそう諭した。
「はっ、お嬢様!」
「申し訳ございません。」
そうしたら二人は、静まってくれたわ。
「では、笹生。気を改めて聞くけれど。八象さんがバンドとやらをしていることが、どう弱みになるとおっしゃるのかしら?」
「はっ、お嬢様! それは……このことを、香奈様のお父様お母様は承知していらっしゃらないのです。」
「! 笹生、まさか」
笹生のその言葉に、私も天尾も合点したわ。
「ええお嬢様、お察しの通りでございます。それで彼女は仮面をつけてバンドをしていらっしゃるのですが……これがもしご両親にバレれば、いかがでしょう?」
「……なるほど。」
「笹生、お前は!」
笹生、なるほどね。
このことを、八象の旦那様・奥様にバラすということ。
「いいわ、笹生。さあ、その情報を改めて確かめに行きましょう!」
「はっ。」
「お、お嬢様!」
私は、今回もひとまず乗ることにしたわ。
でもね天尾、あなたにもこれは好機よ。
このまま他の令嬢を、破滅させたら私は悪役令嬢まっしぐらなんですから。
私を止めてちょうだい?
◆◇
「さあ行くよ、皆!」
「ウォオオ!!」
「(そうだ、香奈……妹よ! 私はお前さえ良ければ、それでいいぞ。)」
そうして、今に至る私たちだけど。
そんな八象香奈を見つめるのは、私たちやお客様だけじゃなかったわ。
彼は八象家御曹司で、香奈のお兄様にして執事・八象秀光さん。
なるほど、お父様お母様はともかく。
お兄様はご公認なのね、これは面倒な障壁になりそうだわ!




