#13 イチの秘密
「お、お嬢様とはどういうことですかイチさん!」
「……ふう。バレてしまっては仕方ありませんわ。」
王さんの追及に、イチはため息を吐き。
「ごめんなさい皇古人さん、私は一間重市。」
「一間重……あの名家の!?」
そう、答えたわ。
「そう、私は確かにこのお嬢さん方と同じく名家の令嬢よ。だけど……私があなたとお会いしたのは本当に偶然よ! あなたを初めて見て、いい人だと思ったの!」
「市さん……」
あらあら。
この期に及んで、何て白々しい!
「ほう、まったく演技力の高くていらっしゃることで……ですが市さん。ご令嬢であったことを隠していらっしゃったのはどういったご事情で?」
ええ、でかしたわ笹生。
そうよ、さあどうお答えになるかしら?
「それは、最初から分かってしまえば皇古人さんに引かれてしまうと思ったからですわ! ……皇古人さん、信じてください。私は、あなたを一番にお慕いしています!」
「イチさん……」
はあ、まったく!
またまたこの期に及んで、本当白々しいわ!
王さんも、こんな女にまんまと乗せられてしまっている。
王さんも王さんよ!
「失礼ながら……そろそろ、おままごとは止めていただきたく存じます!」
「な! き、君、先ほどからイチさんになんと無礼な!」
ええ、そうよ笹生言ってやりなさい!
「王様、無礼は彼女です。 ……我々を謀るのも大概にしていただけませんか? もう調べはついているのですよ、あなたの妹様についても!」
「!?」
「え? い、妹?」
あら。
何、そこまで調べがついてるなんて意外だったかしら?
「どうぞいらしてください、二治美さん!」
「二治美……あなた!」
笹生が呼ぶや。
現れたのは――
◆◇
「あ、あなたは……?」
「彼女こそ浅曽さん――本名、一間重二治美さんです!」
「な、何!?」
時は、笹生が屋敷に戻って来た際に遡るわ。
彼女は普段と違って、化粧している状態で現れたから分からなかったけれど。
天――一間重二治美。
市の妹よ。
どういう訳か、私のメイドとして働い――いえ、潜入していたようね。
まあ正確には、どういう訳かなんて考えるまでもないわ。
「差し当たり、あなたは……一間重家からのスパイといったところかしら。」
「……申し訳ございません。」
私からの問いに、二治美はYESかNOではなくそう答えたわ。
「浅曽……貴様! お嬢様や私たちを騙したのか!」
「止めろ、天尾! 仮にも、名家のお嬢様であられるお方だぞ。」
「む……も、申し訳ございません……」
「いいえ、いいのです……」
天尾は怒鳴りつけるけど、笹生に窘められたわ。
まあ、そうね。
ここで彼女に態度を硬化されたりしたら、堪りませんもの。
「では改めまして。二治美お嬢様、吹子生家にメイドとして入り込んだ訳は察するに、今王皇古人様とお会いになっているお姉様――市様のお企みを成就させるためですか?」
「! え、そ、天のお姉様?」
「何!?」
「……はい。」
だけどそこで笹生は、私たちに思いもよらなかったことを口にしたわ。
何ですって、天のお姉様? 企み?
「……申し訳ありません! 私はあなたたちがお見合いで王さんと出逢われた中で姉が偶然の――運命の出逢いをしたように演出するため、吹子生家や冨士谷家・佐波木家の動向を探っていたのです!」
「! な、何ですって!?」
「な!?」
「……ほう。」
あらあら。
二治美は私たちに、そう打ち明けてくれたわ!
◆◇
「へえ……二治美! あなたはこの姉を裏切る気なの?」
「ごめんお姉様……私は! やっぱりこれ以上ご令嬢方を……何より! 王さんを騙しておけない!」
そうして、今に至るわ。
ええ、よく言ってくれたわ二治美!
さあ市さん、次はあなたよ。
「運命の出逢い? よくもまあ、そんな演出を考えたものね!」
「市さん、あなたのされたことはあまり褒められたことではありません。」
綺沙も砂葉も、口々に市を責めるわ。
そうしたら。
「……はーあ!」
問い詰める私たちの言葉に。
市は、面倒臭げにため息を返すわ。
「い、イチさん……」
「ええ、あと少しでうまく行くところだったのだけど。……申し訳ありませんわ、皇古人さん! そう、お見合いをしていたあなたの前に偶然を――運命を装って現れることで籠絡しようとしていたのですわ!」
「そ、そんな……」
まったく……浅慮との誹りも仕方ないわね!
まあ、そんなのに負けかけた私たちも。
籠絡されかかった王さんも大概ですけどね!
「だけど、むしろちょうどいいわ……さあ皇古人さん! ここでお選びになられて。この女性たちはあなたと同じく、お見合いだからと相手をお選びになろうとしたわ! でも私は違います、やり方はどうあれあなたを自分から選ぼうとしたのですから!」
「イチさん……」
な……ちょっと!
「ちょっとあなた! この期に及んで、何を」
「綺沙お嬢様! あのような者の言うことに乗せられるなどはしたないですぞ!」
「む、獣王……ごめんなさい。」
あら……まあ、そうね!
私もあやうく、はしたなく見られるところだったわ!
「イチさん……すまない。あなたが僕を自ら選ぼうとして下さったことはありがたいけれど、その気持ちに応えることはできません。」
「な……み、皇古人さん!」
あら。
まあ、当然といえば当然よね!
「う、嘘でしょう皇古人さん! 何故」
――う、嘘でしょキング王子! 私とあなたが結ばれることは決まっていたのよ!
「イチさん……申し訳ありませんが、選ぼうとしていただけたならもっと普通にアプローチしてほしかった。僕を籠絡する、などというあなた自身のお考えは好きになれない!」
――ニッカ王女。……申し訳ありませんが、私はあなたの心を好きになれない。私は……もっと心の美しい方に心惹かれたのです!
「そ、そんな……」
あらあら……
王さんに市が振られるシーンが、いちいちあの悪役令嬢物と被って見えているわ!
まあこんなこと考えたら、それこそ悪役令嬢まっしぐらでしょうけど……
ザマァないわね、一間重市!
◆◇
「結局は、また私がお嬢様のお役に立てたな天尾!」
「くっ……笹生!」
そうして数日後。
私の屋敷でカップやポットを洗いながら、笹生は天尾に嫌味を言っているわ。
あれから王さんは、留学して出直すことにして。
市も一間重家で、きっちり養育し直されることになったんですって。
……まあ、また悪役令嬢まっしぐらな考え方でしょうけど。
二人とも私に屈辱を与えたんですからね、ザマァないわ!
「くっ……だが! 次は必ず」
「おやおや。ならば、次の手は打っているのかな?」
「そ、それは……これから!」
「まったく……お人好しな上に先手を打たないからお前は甘いのだ! 私は既に、先手を打っているぞ?」
「な……何!?」
あらあら、そんな風に私が思っていたら。
笹生、相変わらず仕事が早いわね!
……だけど天尾、笹生は他の令嬢を破滅させる方針を私に授けているから。
あなたも頑張って、私にもっと良心を授けるのよ!
◆◇
「さあ皆! 盛り上がっているかしら?」
所変わって。
何やら小さなライブハウスで、仮面をつけた女性が煽っているわ。
笹生、もしかして。
この仮面をつけた人が、次のターゲットの令嬢なの!?




