#10 王坊ちゃまとのお見合い
「はじめまして……佐波木砂葉と申します。」
「はい、はじめまして。王皇古人と申します。」
迎えた、私たちのお見合いの日。
とある料亭で。
私たちはそれぞれに、振袖着ておめかししているわ。
まずは佐波木砂葉のターンね。
「何かご趣味は?」
「あ、はい。どれもこれも中途半端なのですが、茶道や花道書道と"道"のつくものは一通り経験しておりまして。」
「ほう! ええ、こう申し上げては失礼かもしれませんが。見るからに立ち居振る舞いに、"道"のつくものを嗜まれていたことが滲み出ていらっしゃいます。」
「あ、あらそんな……お上手ですね!」
あらあら、まあ和やかにかつ順調そうに進んでいますこと。
……やっぱりね、佐波木砂葉。
あなたよ、私を悪役令嬢ルートへと追いやりそうなのは!
◆◇
「はい、よろしくお願いしますわ王さん!」
「あ、はい……どうも、冨士谷さん。」
そうして、冨士谷綺沙のターン。
獣王の筋トレのせいか、綺沙は。
割と力強く、王さんにアピールする。
「ははは……お元気がよろしいですね。」
「ええ! 私は剣道柔道合気道截拳道と、一通り"道"のつくものを嗜み。それによって、常に身体をベストな状態に保っていますわ!」
「な、なるほど……」
ちょっと王さん、引いているわね。
……とはいえ。
「(うん、強そうな女性だ……魅力的だ。)」
王さんからの受けは、必ずしも悪くないわね。
そう、あなたも油断ならないわ冨士谷綺沙!
◆◇
「はじめまして、吹子生香大里と申します。」
「はい、王皇古人です。よろしくお願いします。」
……さて、いよいよ私のターンね!
しかし、どうしたものかしら。
しとやかタイプの砂葉に、パワータイプ(?)の綺沙。
タイプを被せて競合するのもいいけれど、それだとリスキー。
そう、私がもっとも悩んだのはやっぱりその方針よ。
ここは――
「おや? この練り切りは」
「ええ、私がご用意しましたわ。王さんは、練り切りがお好きだとお聞きしておりますので。」
「それはそれは……わざわざリサーチしていてくださったんですね、ありがとう!」
ふっ、さあどんなもんかしら!
どちらかというとフィーリング重視な砂葉・綺沙と違って、私は情報戦型よ!
天に調べてもらったわ♪
「ご趣味は山登りでしたわね? 私もこの頃は行っていないのですが、昔はよく行っていまして」
「おやおや! 趣味が合うなんて嬉しいですね、ええ山登りです。あの澄んだ空気の中汗をかくのは、実にいい気分でして!」
おおおおおお!
首尾は上々ね……ありがとう天!
◆◇
「ううむ、大丈夫なのかお嬢様は」
「ええ、大丈夫。私が直々にお嬢様に仕込ませていただきましたから、今頃お話に花を咲かせていらっしゃるでしょう!」
その頃、別室で待機している天尾と天だけど。
天の言う通り、私は今順調よ!
「しかし……やはり心配で」
「旦那様のおっしゃる通りですわ……やはり殿方ではお嬢様のことはお分かりにならない。お嬢様とは女同士である私こそ、理解できることも多いわ。」
「む……浅曽! お前」
「お静かに! ……お嬢様の晴れ舞台を、汚されるおつもりですか?」
あらあら、まあ喧嘩しないでちょうだい二人とも!
でも、私が見事結婚できたら一緒に喜んでくれるわよね?
◆◇
「坊っちゃま。いかがでしょうか、三人のお見合い相手たるお嬢様方は。」
「ああ、そうだな。いずれも面白く、美しい女性だよ。」
その夜、とあるバーで。
グラスを傾けながら王さんは、執事にそう返答していたわ。
なるほど、三人とも好印象なのね。
だけど。
「では、坊っちゃま。僭越ながらお聞かせ願えないでしょうか? 今のところ坊っちゃまは、どなたがお気に入りなのですか?」
……ええ、よくぞ聞いてくれたわ王さんの執事さん!
いえ、私はまあこの時近くにいた訳ではないのよ。
でも、気になることよ!
さあ、王さん。
砂葉なの? 綺沙なの? それとも……
「うん……そうだな。三人とも確かにお美しい。」
……いえ、焦らさないでください王さん!
その中から、誰がいいか聞いているんです!
「ただ……どうもお見合いというのがなあ。」
……え!?
な、何ですって!?
「ぼ、坊っちゃま? お見合いは、お嫌でしょうか?」
え、ええまたよくぞ聞いてくださったわ執事さん……
「いや、嫌ではないさ。ただ……父がお膳立てしてくれた、いかにも用意された未来という気がして。どうもな……」
あら……それはそれは。
ま、まあ分からないこともないわよ王さん?
令嬢も御曹司も、決められたレールの上を行くような人生ですもの。
「せめて……婚約者ぐらいは自分で決めないとと思うんだけどな。……うん?」
と、その時。
王さんの前に、グラスが置かれたわ。
「ええ、あちらのお客様から。」
「え……お、おお!」
「うふ……はじめまして。私、イチと申します。」
……ええ!?
い、いやこんな展開ありなの!?
な、何とキング王子……じゃなくて王坊ちゃまにお酒を奢ったのは。
何やら、妖艶な美女だったわ――




