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#1 悪役令嬢の自覚

●吹子生家


吹子生(ふいごう)香大里(かたり)

16歳。

主人公、はたまた悪役令嬢どちらかに転ぶ予定の令嬢。


月星座:獣王のお執事座→笹生のお執事座or天尾のお執事座に転生すべく奮闘中!


吹子生(ふいごう)大海(たいかい)

46歳。

香大里の父。

厳格な性格。


獣王百雷(ししおうひゃくらい)

29歳。

香大里の元執事。

競争社会出身で、彼女に「他者を見下せるよう努力する」ことを教えた張本人。


現在は冨士谷の執事で、香大里のことをやや恨んでいて復讐しようと綺沙を(自分が思う所の)立派な令嬢に育て上げようとしている。


笹生陸(さそうりく)

24歳。

尚他者を陥れる悪役令嬢に転ばせそうな執事。


天尾重樹(あまおしげき)

26歳。

思いやりのある令嬢に転ばせそうな執事。




●佐波木家


佐波木砂葉(さばきすなよ)

16歳。

サバサバ系令嬢。

主役令嬢第一候補。


月星座:早乙女のお執事座


早乙女破真(さおとめばしん)

28歳。

砂葉の執事。

完璧執事。




●冨士谷家


冨士谷綺沙(ふじやきさ)

16歳。

表面は取り繕っているが腹黒系令嬢。

こちらも主役・悪役どちらにも転がりそうな令嬢。


月星座:獣王のお執事座

「おめでとうございます! コンクール優勝は…… 佐波木砂葉(さばきすなよ)さんです!」

「そ……そんなあ……」


 私が、まだまだ幼なかった頃。

 バイオリンコンクールで、私負けましたわ。


 ……いえ、回文をただ言いたかっただけじゃなく。

 本当に負けましたわ。


「うっ、うっ、お、お父様あ……」

「落ち着け、我が可愛い娘香大里(かたり)よ! よいか……これを悔しいと思うならば、次はお前以外にそう思わせられるよう努力するのだ! 他者を見返してやれ――いや、見下してやれ! そうだ、他者を見下せる人間になるのだ!」

「うぐ……は、はい!」


 私香大里(かたり)

 そう、この日こそ。


 私の運命が、始まった時でもあった――


 ◆◇


「おめでとうございます! コンクール優勝は…… 吹子生(ふいごう)香大里(かたり)さんです!」


 10年後。


 ……ふん。

 まあ、当然よ。


 ――他者を見返してやれ――いや、見下してやれ! そうだ、他者を見下せる人間になるのだ!


 この父の言葉も、ようやく果たせた……ように見えてまだ果たせていないわ!


 だってこのコンクールには、あの佐波木砂葉(さばきすなよ)は出ていないんですもの! 


「すごいわね……」

「羨ましいわ……」


 ……まあ、でもひとまずはいいわ。

 次は見下してあげるように努力する、佐波木砂葉(さばきすなよ)――


 ◆◇


「お嬢様……こ、今宵のディナーは」

「また自分で作るからいいわ! あなたたちの料理なんか、毒を盛られたと勘違いするレベルの代物ですもの!」

「は、はい……も、申し訳ございません!」


 まったく、どいつもこいつも無能ばかり!

 この家の使用人は、皆シロアリなんじゃないかと思うレベルよ!


 何もかも、私より低レベル!

 まあでも……


「どうかしら、獣王?」

「ええ……相変わらずの美味! さすがは香大里様、これは三つ星が取れるほどかと。」

「ほほほ……ありがとう♡」


 ……まあ、彼だけはまだマシかしら。


 そう彼――筋骨隆々でオールバックな獣王(ししおう)執事だけは。


「三つ星シェフもこれで見下せるかしら?」

「ええ、ええお嬢様はきっと! 私という執事の星の元に生まれてくださったお嬢様ならば!」


 ふっ……

 ええ、そうね。


『他者を見下せるよう努力する』それがお父様に命じられたこと。


 だから、それを実現できる執事を見つけようとし見つかったのが彼。


 ――お嬢様! あなた様は私という執事の星の下にお産まれになられたお方……されば、私はあなた様をお守りする星となりましょう! お嬢様は、『他者を見下せるよう努力する』ことを目指されるのです!


 彼が私の家に来て、言ってくれた言葉がそれ。


 獣王のお執事座に生まれた私。

 そう、私と獣王は。


 堅い運命で、結ばれているの――

 ……でも。


 そんな私たちの堅い運命にヒビ入れる出来事は、ある日突然起こった。


 ◆◇


「……なあに、これは。……小説?」

「はい、旦那様からです。」


 それは。

 メイドが持って来た、本の山が原因だったわ。


「旦那様が、下々の者たちが嗜み申し上げるような下賤なものも一応見ておいた方がよろしいとおっしゃいまして。」

「なるほどね……まあいいわ。下々の者たちの文化も、この私が理解して差し上げようじゃないの。」


 私は、しょうがないからそれらの本を読むことにしたわ。


 ……だけど。


 ◆◇


「う、嘘でしょキング王子! 私とあなたが結ばれることは決まっていたのよ!」

「ニッカ王女。……申し訳ありませんが、私はあなたの心を好きになれない。私は……もっと心の美しい方に心惹かれたのです!」

「き、キング王子!」

「……では!」


 ……う、嘘でしょ!

 私は、所謂"悪役令嬢"物を読んで衝撃を受けた。


 この作品に出て来るのは、ニッカ王女という人。

 その人は、能力は高いけれど他者を見下している人。


 ……私!? って思うぐらいよく似ている人だったわ。


 ◆◇


「お、お父様! このお話では悪役令嬢が追放されて惨めな思いをするとなっています……このままでは!」

「ま、まあ落ち着け香大里!」


 それからすぐ、私はお父様にそう申し上げた!

 最初こそ、お父様は今一つ要領を得ないご様子だったけれども。


 私が事情を説明した上で。


「わ、私は破滅してしまうのでしょうか!?」


 尚もこう、強調すると。


「う、うむ……我が愛しき娘よ! お前がそんな風に悩んではいけない、そんなことにならぬよう何人でも代わりの執事をつける!」


 真剣な面持ちとなり、取りあってくださった。


 ◆◇


「そういうことだから、すまぬ獣王君。」

「はっ……致し方ございませぬな。」

「獣王、ごめんなさい……」


 お父様は事情を話し。


 そうして元の執事獣王は解雇され、新たな執事二人が現る。


「……という訳なの。どうしましょう、私悪役令嬢になって破滅してしまう!」

「いえいえお嬢様! でしたら他のお嬢様を破滅させる方向でお考えになればよいのです!」


 ……こう語るのは。


 新たな執事の一人、笹生陸(さそうりく)


 これは尚他者を陥れる悪役令嬢に転ばせそうな執事ね……


「何を言うか貴様! ……いけませぬお嬢様、令嬢たるもの誰にも常に優しくあらねばなりません!」


 対照的にこう語るのは、天尾重樹(あまおしげき)

 これは思いやりのある令嬢に転ばせそうな執事ね。


 私は主役令嬢になりたいけど……令嬢の世界は足の引っ張り合い!


 だから天尾の言うような思いやりだけじゃ、足元掬われるわ!


 でも。


「他の令嬢は蹴落としてなんぼ! お嬢様、お気にされることはありません!」


 笹生の言う通りにやってちゃ、悪役令嬢まっしぐらだし!


 ああ、私はどうしたらいいのお!


 ◆◇


秋桜(コスモス)女学院……両家の娘たちとは名ばかりの成り上がり者や惰眠を貪り私腹を肥やす者たちの掃き溜め。それを思い知らせてやらないとね。」


 その頃。

 私と同じく秋桜(コスモス)女学院に通う両家の子女・冨士谷綺沙(ふじやきさ)


 彼女の屋敷には、何と。


「ええ綺沙(きさ)様。身分というものを弁えない彼女たちの生き汚なさ、それぞ! 醜い女そのもの!」

「ほほ……ええありがとう。私たちはやはり気が合うみたいね。」


 だけど、私の屋敷を解雇(すなわち追放)された獣王は別の令嬢のお執事座となり。


「私のために、尽力してくれるかしら?」

「勿論でございます! 必ずや、私を捨てた元主人をあなたが見下せるよう――私がザマあできるよう、尽力させていただきます!」


 ……いやいやいや!

 あなた、かなり根に持っているじゃないのよ!


 ……ま、まあ当然よね……


 ◆◇


「ふう……さあて、そろそろ眠りましょうかしら……」

「お嬢様、ではメイドを呼んで参ります。」

「ええ、ありがとう早乙女(さおとめ)さん。」


 ……佐波木砂葉(さばきすなよ)


 私を差し置いて、バイオリンコンテストで優勝した令嬢!


 生まれた執事の星は、早乙女破真(さおとめばしん)のお執事座。


「お嬢様におかれましては、他のお嬢様方からのごやっかみに苦しまれているご様子で」

「いいえ、まあ人が私をどう思おうとそれは彼ら彼女らの気持ちとしては正しいんですから。私は特に気にしていないわ。」


 ……鼻につくほどに、サバサバしたコメントね!


 まあ、だけど……


 悔しいけど、今のところ私が知る限りじゃあこの令嬢が一番主役令嬢らしいわ!

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