9.開戦前夜
マリエの異世界冒険第二弾です。
好き勝手に書いて行きますので、宜しくお願いしますね。
本作品に登場する国・人物は架空のものであり、現実とは何の関係もありません。
似たような物を見た記憶があっても、気のせいです。念のため。
キレーネの港を出港して二時間程が過ぎた。エルトリア侵略軍の先遣隊を指揮するランドルにとっても初めての航海であった。ましてや、誰も経験した事の無い長い航海である。何が起こるのか想像も出来なかった。
これまでのランドルは事前にありとあらゆる事を調べ上げ、十分過ぎる対策を立ててから戦いに望んでいた。しかし、今回は全くの白紙だった。戦いの場になるエルトリア領の地形も不明。戦う相手の戦力に関しても不明。どの様な戦いをする敵なのかも不明。戦地までの長い航海も未経験。不安材料しかなかった。
ランドルには事前に準備出来る事は何もなかったのだが、それでもこの指揮官は何か出来る事はないか、遠い洋上を見据えながら思考に耽っていた。
「しかし、まだ夏には早いのになんて暑いんだ。海の上は陸上とは大違いなんだな。このまま気温が上がると、兵達の疲労もだが飲料水の残量が心配だ」
確かに、今日は朝から太陽がギラギラと照り付けていて、漕ぎ手の体力の消耗が一番の不安材料だった。すでに顔色の悪い者もチラホラと見える。船酔いの対策は何もしていなかったので、酔ったら吐くだけ吐いて耐えて貰うしかなかった。
ランドルは同じ船に乗り込んでいる腹心のヒューゴに話し掛けた。
「なぁ、どう思う?まだ出航したばかりだぞ?既にみんなフラフラじゃないか。こんな状態で向こうに着いたとしても戦いなんて出来るのか?そもそも辿り着けるのか?俺にはそうは思えんぞ」
「閣下ともあろうお方がそんなに弱気になられるとは」
「そりゃあそうだろう。俺はこんなやり方は反対だ。どう考えても成功するとは思えない。デミティアヌス様は一体何を考えておられるのか」
「取り敢えず、水の補給と休息を考えないといけませんね」
「そうだな、途中で水の有る島を探さないといけないな。しかし、船っていうのはなんて遅いんだ。ちっとも進まんではないか。まだ、キレーネの港が見えているではないか」
未だに後方に見えるキレーネ港を見ながらイライラするランドルであったが、船は相変わらずゆっくりとしか進んでいなかった。途中何度も漕ぎ手を交換しながら初日が終わろうとしていた。陽が陰って来たので気温が下がり灼熱地獄から開放された一行であったが、今度は漆黒地獄が待って居た。現代とは違い全くの暗闇なので夜間航行は昼間より危険 と言うか不可能であった。おまけに月明りの無い時期だったので完全な闇だった。松明を舳先につけようとしたが、漁師だけでなく兵士にも止められてしまった。なんでも、灯りを目掛けて突進して来る危険な魚がいるのだと言う。
「全くの暗闇だな。このまま進むのは危険だな。かがり火を焚けばいいと思っていたのだが、ちと海を舐めていたようだ」
暗くなってきた周りを見回しながらランドルは呟いた。
「そうですね、かがり火を焚いても船の周りしか明るくなりませんし危険魚の事もあります。危険を冒してかがり火を焚いても航路がずれたかどうかを確認する役にも立ちそうにありません。はぐれない様に一旦船を集結させて固定しますか?」
ヒューゴも身を乗り出して周りを見回し、頭を掻きながら提言する。
「うむ、このままだとはぐれる船が出て来るだろう。進行方向すら分からなくなってきたし、完全に暗闇になる前に手を打とう。頼む」
ヒューゴの指示で各船は集結を始めた。そしてお互いの船体をロープで繋ぎ空が明るくなるまで休憩することになった。作業が終わる頃には辺りは完全な闇に包まれていた。
「ランドル様、早めに決断して正解でしたね。これじゃ、前にも進めません」
「夜の海がこんなに真っ暗になるとは、事前準備の時間が欲しかったなぁ。ま、いまさらなんだがな。少し休めよ」
「閣下も休んで下さいね」
こうして夜は更けていき、兵士達は座ったままの睡眠であったが、過労の為みんな死んだ様に眠りに落ちていった。
翌朝、船上では大騒ぎになっていた。最初に目覚めた兵士が周りを見回したとたん叫び出したからであった。
「ん、どうしたんだ?何が起こった?」
騒ぎに目を覚ましたランドルは周りを見て愕然とした。
「・・・・・・こ これは一体どうしたと言うんだ?」
昨日の朝キレーネの港を出て、日が暮れるまで必死に漕いでかなり進んでいたはずだった。そう信じていたのに、遥か後方に置いて来たキレーネの港が何故か前方にあった。どう考えても後退したとしか思えない。
「ヴィッスルこれはどうなっているのだ?」
道案内の為に乗り込んでいる漁師の一人であるヴィッスルに問い掛けた。
「あっしら、夜は漁に出ないんでさあ。だから、よくわからねえんですが、もしかしたら夜になると海流が強くなるのかも知れねーっすねえ。そんでもって押し戻されてしまったんでねえかと。昼間は大した事はねえんですがねえ。誰も夜間は漁に出ないんで、夜間の潮流の変化については誰も知らねえんですよ」
そう、一日で進んだ距離はマイナス五百メートルであった。何か対策を立てないとこのままでは進撃など不可能であった。しばらく考えた後ランドルは意を決して命令をだした。
「縄をほどけ!一旦キレーネの港に戻る!」
大将軍からの叱責を覚悟の上で港に戻り対策を検討する事にしたのだった。
港に戻ると、埠頭の突端で顔面を真っ赤にしたデミティアヌスが仁王立ちで迎えてくれた。その姿を見たランドルは、うんざりして深く溜息をついていた。
「この戦い・・・・負けだな。いや、戦いにもならないだろう。俺の命運も尽きたようだ」
上陸すると予想通りデミティアヌスの怒声が降って来た。
「貴様っ、敵前逃亡して来たのかっ!覚悟は出来ているんだろうな!衛兵っ、こいつを逮捕して牢屋に突っ込んでおけっ!」
問答無用だったが、ランドルは内心ほっとしていた。これで無理な作戦に関わらなくていいんだと。その反面、代わりに行かされる者が気の毒にも思えた。
その後、指揮官を変えて何度か侵攻が実施されたが誰一人として成功はしなかった。岸辺を航行していて座礁したり、夜間に灯りを点けて危険魚ホーンヘクトに串刺しにされたり、水の残量が無くなり強い日差しも相まって脱水症状を起こし、港に戻れず息絶えたりで、それまでに失った船は二十隻を数え、失った兵士は千名を超していた。ここに至ってデミティアヌスは航海の難しさを理解したようで、牢獄に居るランドルの所にやって来た。投獄がら既に半月が過ぎていた。
「どうだ?牢獄の居心地は」
「最高ですよ、夜になっても押し戻されませんし、船酔いに苦しめられる事もありませんから」
「そう言うな。反省しておる。たかが船での移動がこんなに大変だとは思わなかった」
「たかが?たかがと思われるのでしたら、閣下が直接指揮を執られて侵攻されたらいかがですか?」
「それが出来れば苦労せん。そう言わず、もう一度出兵してくれんか?」
「お断りいたします。今の状況では何度行っても同じですから。兵を無駄に失いたくありませんので」
そう言うとくるりと後ろを向いてしまった。
「あれから皇帝陛下に侵攻を思いとどまる様、進言に行ったのだが怒りを買ってしまってな、海からが無理であれば山越えで行けと言われてしまったのだ。次回失敗したら山越えでの進軍は決定事項だそうだ。なので、再度貴様に頼みたいのだ」
「夜になると海流が強くなって押し戻されてしまうので、昼は海岸沿いを進み夜になったら流されない様に岩等にくくり付けて休み、昼の間の航海で少しずつ行くしかないですね。それにはあの船では駄目です。日数がかかるので、大量の食料と水を積む為にもっと大きな船が必要です。それにあの小舟では寝るスペーシも無いから日を追うにつれて兵が弱ってしまい向こうに着いても戦闘は不可能です。辿り着くにはまず大きな船です」
「分かった、お前の思う様にやって構わない。だからもう一度頼む、この通りだ」
頭を下げる事の無いデミティアヌスが深々と頭を下げている。こんな姿を見せられたら断れるランドルではなかった。
「大至急、大型船の建造をお願いします。全てはそれからです」
「分かった、国をあげて建造させる。必要な物は何でも言ってくれ」
こうして、半月ぶりに開放されたランドルであった。しかし、彼から出たのは溜息だった。たどり着くには大きな船が必要だとは言ったが、勝てるとは言っていない。再び勝てる見込みの無い戦いに行かなければならない自分の不幸に思わず溜息が出たのであった。
それから一か月半が過ぎ十五隻の大型船が出来上がった。小型船の時と同じ櫓を使って進む木造船であったが、大きさは百メートルと格段に大きくなっていた。ガリア帝国にはこの様な大型船を建造するノウハウは全く無く、初めての挑戦であったが国中の造船技師が総力を上げてなんとか造り上げたのだった、他のどの国もこの様な巨大船は持っておらず、その自信たるや物凄いもので、誰もが勝利を疑っていなかった。この巨大船に六千人の兵を乗せ再び前人未踏の航海に臨んだランドルであった。
勿論、今回の出航もエルトリア側には筒抜けであった。
今回は船体が大きくなったおかげで漕ぎ手も増えて、前に進む力も格段に向上し、横になって休む事も出来た。夕方になると岸に近づき水深の浅い所に錨を降ろして休み、夜が明けると又沖に出て前進をする事を繰り返した。順調に航海は続いたが、それでもまだ全行程の三割程度と思われた。天測の知識が無かったのであくまで感覚によるものだったが。船団は島を見つけると上陸をして水と食料を探しながらなので、なかなか前に進めなかった。
それでも島に上陸している間は漕ぎ手は休憩が取れるので前回程悲壮感は漂っていなかった。
「ほう、グレンおじさんこれを見て下さい」
ジョンは小さな紙切れを相談役でもあり彼の叔父であるグレンに見せた。エルトリアに行って居た使節団は応援で派遣された四百名の兵士達と海賊島に戻って来ていた。
「なんじゃ?トリが来たのか。どれどれ」
トリが運んできた紙切れを見たグレンはおもむろに顔をあげたが、その顔には何とも悪い笑顔が浮かんでいた。
「又性懲りもなくカモが出て来おったか。今度は大きなカモになってきたようだな。ま、嬢、、いやマリエ殿のおかげでどんなに大きい船でやって来ても我々の敵ではないがな」
「はい、一番艦のアルビオンは準備万端整っているし、二番艦のプロメテウスも連中が自滅してくれている間に完成して練習航海も既に何度も行っております。三番艦と四番艦は倍の大きさで、完成後は石炭の運搬とエルトリアからの食料輸送に使います。五番艦以降は万が一我々が侵攻した際の兵員輸送に使う予定です。その前に決着が着くといいんですけどね」
「うむうむ、順調だな。で、連中は上陸予定地点のユタ海岸にはいつ位に到着出来るんだ?」
「後ひと月と見ています」
「随分かかるんだな」
「報告だと、連中は途中の島で水と食料を調達しながら来ているそうなので時間が掛かるんですよ」
「そうか、連中には無傷でユタ海岸に上陸してもらうんだったな」
「ええ、そうです。言わば人質になって貰う訳ですからね、ここは我慢です。この後本隊が来ますから、その時は思いっきり働いて頂きます」
「この島に一番近づくのは、後二週間ってところか。連中、もしここに上陸しようとしてきたらどうするのだ?」
「ここは、航路から離れているので大丈夫でしょう。もし、こちらに来る様でしたら、今後の事もあるので全滅させるしかないでしょうね。ここの存在を知られる訳にはいきませんから」
「二週間あれば二隻の戦艦が稼働出来るな。なんとか間に合って良かった。エルトリアから借りた兵が配置に着いてくれているからこの島の防衛は万全だし、勝機が見えてきたかな?」
「ええ、マリエ様がこの島に降臨されたのは、きっと意味があるのだと、我々は間違っていなかったんだと思っています」
「そうだな、嬢 マリエ殿が居なかったらどうなっていたか。やはり、運は我々に有り だな。で、これからどうする?」
その時、ドアが開いてオリビー、ダニエル、マックス、コリンが入って来た。勿論その足元にはマリエの姿もあった。
「おお、来たな。敵が動いたぞ、今後の対応を話し合おう。取り敢えず座ってくれ」
従者がお茶を用意するのを待って、今後の行動の方針についての話し合いが始まった。
「まず、現在の状況を説明する。敵が再び動き出した。今回はかなり大型の船を造って来ている。と言っても、我々のアルビオンと同程度の大きさで木造の手漕ぎ船だそうだ。数は十五隻で推定戦力は七千人だ。途中の島で水と食料を調達しながらゆっくりと前進して来ているので、ここに最接近するのは二週間後を想定している。この船団にはユタ海岸に上陸して貰うので、我々は基本手を出さない。そのまま素通りしてもらって、帰りを襲う事となる。とまぁこんな感じなんだが、質問はあるかな?」」
ジョンの説明にみんな目をキラキラ・・・・?キラキラって、なんか違う感じがするけど、いよいよ来るべき時が来た!って感じでみんなアドレナリン全開になっている様にみえるんだよね。最初は決死の思いでこの島を立ち上げたらしいんだけど、あたしが来てから事態が急変して、気が付いたら圧倒的な戦力を手に入れたので、早く一戦交えたいと言う感じなんろうけど。いくら正義の為とは言え、いくら自業自得とは言え、戦争って国を挙げての殺人なんだって分かっているのかな?前回の転移で散々殺して来ちゃったあたしが言うのも説得力無いんだけど、ワクワクしながら戦ったらいけない気がするんだよね。ま、せっかく盛り上がっている所に水を差してもなんだから、あえて言わないけど正当防衛でもやる事は殺人なんだって事、理解して欲しいものだわね。勿論やる時は徹底的に殺るわよ。殺らないとこっちが殺られるんだもん仕方が無いわ。子供のあたしにはどうしようもない事です。はい。
「みんな、何もないか?マリエ様、いかがでしょう?なにか不備でもあるでしょうか?」
「特にないわね。ただ、この後戦いが始まったら暫くは休みも取れなくなるから、ひとまず、そうね二日か三日くらい完全休養あげたらどうかしら?気を張りっぱなしだと心も体ももたないんじゃないかなって思うんだけど。リフレッシュしてから戦いに望んだらどうかな?」
「なるほど、確かにその通りですね。早速交代で休養を取る為の準備に入りましょう。他に何もなければこれにて解散します。三日後に再度ここに集合して下さい」
この会議の後、海賊島は三日間だけではあるが、全面休業となった。最もアルビオンとプロメテウスの罐たき要員と島の北端の見張り要員だけは交代での休みとなる。
突然降って湧いた休暇に戸惑いながらも、海で泳ぐ者、釣りをする者、宿舎でゴロゴロと惰眠を貪る者、みんな思い思いに時間を使っていた。
マリエはする事が無いので、浜をうろついていた。すると前方に人が大勢集まって騒いで居るのが見えた。なにごと?
近づいてみると、どうやら集まっているのはマックスさんの所の若い衆、つまり、鍛冶グループの面々が集まって何かをしようとしている様だった。人垣の間から覗いてみるとどうも小型のボートを取り囲み何かを乗せようとしていた。あれっ?もしかしてこれって?
「あ、マリエ様。見てくださいよ、休みが貰えたので仕事の合間に考えていた物を造ってみたんです」
えーと、いくつかある鍛冶グループのひとつのリーダーをしている何とかさん。そうそう、クリプトさんだ。
「クリプトさん、これってもしかして蒸気エンジンを小型化したの?」
「はい、超小型化してみたんです。で、両側に水車があると重くなるし邪魔なので一つにして最後尾に設置してみました。いかがでしょう?」
「いい!このアイデア最高!水車をひとつにってそれも最後尾に設置するなんて良く思い付いたわね」
「はい、とにかく小さくしたかったので削れるものはみんな削っていったらこうなったんです」
「なるほど。これは、上手くいくわよ。だけど、水車を高速回転させると頭から水をかぶっちゃうから、水車の上に跳ね上げ防止のガードを付けた方がいいわね。ここね、後方に向かって長く突き出した感じでね」
「あっ、それは考えていませんでした。薄い鉄板でいいですよね、ここに余っている鉄板があるのでこれで代用しましょう。おいっ、これ付けちゃってくれ」
部下に指示をだすと、あっという間に水避けが装着された。流石、毎日しごかれているせいか仕事が早い。エンジン本体は仕事の合間にみんなで手分けして造っていたそうで船体は以前浮力試験用に造ってそのまま放置されていた物の流用なのですぐに出来上がったのらしい。なんとも仕事の好きな人達だこと。
「では、これから試験航海をしたいと思います。大きさ的に二人乗りになります。少ししか石炭が積めないので短距離しか運航は出来ませんねえ、ま、試作品ですから」
その後、数人掛りで浜に引き出されたミニボートは、みごと海に浮かびみんなから拍手喝采をうけた。
「よーし、ストレプトどんどん火をくべろ~!」
まだ、波打ち際にいるので、必死に火をくべるストレプトさんの表情が見て取れる。徐々に煙突から煙が上がり出したかと思うと、船体後尾に据え付けられた水車がゆっくりとだが回り出した。それと同時に浜からは歓声が上がりやがて歓声はストレプトさんへのヤジに変わっていった。
「ほれーっ、もっとしっかり石炭くべろーっ!」
「全然動かないぞおーっ!」
「何やってるんだ、もっとしっかりくべんかあぁぁい!」
みんな言いたい放題であったが、一様に笑顔であった。いい気分転換になってる様で良かった。あ、そうだ。クリプトさんに言わなくちゃ。
「クリプトさん、ひとついいですか?」
「あっ、はい、なんでしょうか」
「あの船体だと、石炭少ししか積めないですよね」
「ええ、小さい船ですからね、石炭庫はあれで限界なんですよ。せっかく造ったんですから、もう少し何とかして実用化に漕ぎ付けたいんですけどねぇ」
「石炭庫、増設しましょう」
「え?今言った通り現状ではあれ以上船内に余裕がないのですが・・・」
「船内は駄目なんですよね?余裕が無いのは船内ですよね?だったら?」
「あっ!船外かあ。表に増設すればいいんですね?」
「ただ、四角い石炭庫を増設すると水の抵抗が増えて速度が落ちますよね?」
「そうか、水の抵抗の少ない形状で増設すればいいんですね?」
「うんうん、本体の両側に船型の石炭庫を造設すれば転覆もしずらくなりますし、浮力にもなりますよね」
「ありがとうございますっ!おーい、すぐ作業にかかるぞーっ!」
みんな、駆け足で工房にすっ飛んで行った。
ミニボートは、そんなやり取りの間にもどんどん速度を上げて進み出していた。しかし、、、そんな彼らの雄姿を見守っていたのはあたし一人だった。気が付いたら誰も居なくなって船上でガッカリしているストレプトさんの顔が妙に滑稽だった。
ボートは波しぶきをあげて順調に航行を続けていた。これは成功なんでないかな。石炭庫さえ造設出来たら量産化もありね。
しばらく航行を続けていたボートが舳先を浜に向けて来た。石炭が無くなったのだろう。やはり今のままでは航続距離が短すぎるみたいね。
「何だよー!誰も居ないじゃないかあぁ」
浜に戻って来たストレプトさん達が怒っている。ま、そうだよねえ。
理由を説明してしばらく浜で待っていると、大きな増設用の船を乗せた荷車がやって来た。ほんと、みんな手際がいいわあ。
怒っているストレプトさん達を尻目に船が荷車から降ろされ、ボートの脇に置かれていきそれを溶接班が手際よく溶接していく。
胴体が三つ横に繋がった形で安定感は良さげだった。両脇の船の内部は石炭庫になっていて水がかからない様に上部にはカバーが掛かっている。出航時は両脇の石炭を使用し、緊急時に本体内の石炭を使う運用になるだろう。問題は何に使えるか。小さな船体の優位性を利用して偵察用?いやいや、波に弱いし航続距離も短いから不利よね。攻撃には使えないから港でタグボートにでも使えるかな?今後は大きな艦も増える事だしね。
再びボートは洋上に出て行った。徐々に速度を上げていくボートは安定していて、安心して見ていられた。
「クリプトさん、このボートは成功でしたね。何に使えると思いますか?」
「使う、、、ですか?」
「そう、せっかく作ったんだもん有効に使わないともったいないじゃない。実用化するんでしょ?」」
「そうですねえ、小さいので凌波性に難があると思うし居住性も悪い。長い航海はしんどいですかねぇ。ま、無難にタグボートですかねぇ」
「うん、それでいいんじゃないかな?網を引いて魚取りにも使えそうよね」
「ははは、それはいいですねえ、暇な時は網を引かせてもいいですよね」
こうして戦い前の平和な時間が過ぎていった。
それと共に、運命の時は刻一刻と近づいて来ていた。
『異世界転移は義務教育 ふたたび』
始まりました。
今回は、海戦物となるみたいです。
みたいと言うのは、マリエが勝手に動き回るのを、書き留めていくだけの作者なので
話しがどこへいくのかは、作者も知らないのです。
頑張ってマリエの活躍を書き留めていきますので
応援宜しくお願いします。
宜しければ、ブックマークお願いします。
P.S.
『異世界転移は義務教育 ふたたび』は、毎週金曜日か土曜日にUPする予定です。
余裕があれば、週の半ばにもUPしたいです。
勉強しながら書き進めて参ります。