17.大団円?
マリエの異世界冒険第二弾いよいよ最終回です。
後少しです、後少しお付き合い下さりませ。
本作品に登場する国・人物は架空のものであり、現実とは何の関係もありません。
似たような物を見た記憶があっても、気のせいです。念のため。
「栗原 麻里絵さんですね?」
突如、王宮の中庭で亀の玄武と日向ぼっこをしているマリエの後ろに現れた男の人はそうのたまった。
突然声を掛けられてびっくりしたマリエは振り向きざま、間の抜けた声を出してしまっていた。
「はぁっ?」
「わたくしはこういう者でして」
身長百八十はあるだろうその男は礼儀正しく懐から名刺を出して来てこちらに差し出して来た。
「いやいや、名刺なんか出さなくても、きっちり七三に髪を分けてメガネをかけて、ぴしっとしたスーツを来ていれば、誰だか判るからっ」
「そうですか。それにしても、随分と小さくおなりですね」
じろじろと遠慮なく珍しい物を見るように上から見下ろしてくる失礼な奴だ、こいつ。
「あたしだって好きでこんなに小さくなったんじゃないわいっ!あんたらのせいでしょうがっ!」
いままで溜めていた鬱憤が爆発したのか、きつい物言いとなっていた。勿論マリエも意図してきつく当たって居たわけではないのだが、無意識に彼を鬱憤のはけ口にしてしまっていたのは致し方が無いであろう。
「ごめん、あんたのせいじゃないって分かっている。あんただって上からの命令で動いている公務員だって分っているよ。でもね、どこにぶつけたらいいの?この感情をっ!」
「ご心情お察しいたします。ですが、我々のプログラムは実年齢のまま転移される事になっておりまして、幼児化というのはシステム上有り得ないのです。実際、今までにこの様なことは一件も無いので、今回の事案には当局に責任はみとめられません」
「じゃあ、これは、このちんまい体は一体どう説明してくれるの?」
「わたくしも、こちらに来て初めて確認出来た訳でして、本部でも現在、状況の解析に追われている所なのです」
「全くの後手後手って訳?」
「はい、全くその通りでして、事案が発生してから対策が取られますので、事故の対応というものは得てして後手後手に回るものなのです」
「さすがお役所仕事ね。で?そのお役所はどこまで把握している訳なの?」
「はい、一回目の転送は我々のシステムによる転移では無い事が判っております。故に転移された事になっておらず再転移になったのです」
「どういう事?他に転移出来る者が居るって事?だから、他の転移者と一緒の世界に転移されたの?」
公務員氏の表情が固まった。目も口もこれ以上ないくらい開いている。
「い 今なんと?他の転移者と一緒と言いましたか?」
ずり落ちたメガネを直しながら、前かがみになりながら聞き返してくる。
「そうよ、前回は五年前のこの世界に転移して来たのよ。その時、他の転移者も居てそいつと戦ったのよ。そいつは、ここは自分の作ったゲームの世界だって言って居たけどね」
「それは、間違いないのですか?」
「そいつが言ってたんだから間違いないわよ、嘘をついていないんだったらね。それに、その時出会った人達と今回も又出会ってるんだからこの世界で間違いないわよ。ただ、あの時は魔法が使えたし、ドラゴンなんかも居たから、今回とは設定がだいぶ違っているけど、間違いなくこの世界だったわ」
ふむふむと公務員氏はしきりに首を傾げながらメモをとっている。
「ひとつの世界に複数名転移させるとお互いに干渉しあってバグを発生すると言われておりますので、その様な事は絶対に有り得ないのですがねぇ、そこからにしておかしいです、有り得ない事態です。有り得ない事態なので有り得ません」
「そんな事言ったって・・・そんな事言ったって、事実あたしは小さくなってここに居るのよ!これ以上確かな事実は無いでしょうにっ!!訳の分からない事言わないでよっ!!」
あたしは頬を膨らませた。
「ゲームの世界だと言って居たのですね、とすると他の民間の転移型のゲームと干渉しあったという事なのでしょうか?考えられる事ではありますね。我々のセキュリティーを上回る物が出来たって事ですからねぇ、大したものです」
「なに呑気に感心してるのよぉ!あたしはどうなるの?今回も無効になるの?又留年するのぉ?」
「事態を整理しましょう。まず、最初の転移ですが、こちらの記録では転移されて居ない事になって居ました。ですが、あなたから転移したとの申告があったとの報告が上がって来たのです。これは有り得ない事です。で、こちらでもシステム部が中心になって状況を精査しましたが転移したログが見つかりませんでしたので、問題無しとして調査は終了したのですが、最近になって正体不明のログが見つかりまして、あなたに状況をお聞きしようとしましたが、あなたに連絡が取れず、ご両親にお伺いした所再度転移なされたと聞き驚きました。そう、今回も転移したログが見つからなかったのです。正体不明のログがあなたの国民番号に何か悪さをしている可能性が出て来まして、システム部を総動員して行方を追いまして、やっと居所を突き止めてわたくしがやって来たと言う訳なのです」
「じゃあ、あたしは戻れるのね?単位は貰らえるんでしょうね、あたしのせいじゃないんだし」
光明が見えて来た喜びからか、マリエは公務員氏の胸倉を掴んで前後に揺すりながら詰め寄っていた。
「単位につきましては、戻り次第上司に上申しましょう。ただ、戻れるかと言う質問にはお答えしかねます。何故なら、あなたがこちらに来られたのは我々のシステムを使っていないからです。その時使ったシステムでないと正確に戻れない危険性があります。危険性が有る以上国としましては何とも申し上げられません。前例の無い事なので、戻って会議にかけないとなりません。会議を開くにも手続きが必要ですのでわたくしの一存では何とも」
「・・・・・・・・・」
公務員氏の胸倉を掴んだまま、マリエは燃え尽きた灰の様になっていた。そして、そのままずるずると崩れ落ち地面にへたり込んでしまった。
「我々も全力を尽くしております。今しばらくお待ちください。それでですね、今後の事態解決にあたって、直筆のサインが必要となりまして、承認の書類、委任状、本人の意思確認、許諾証明書、代理人任命書、会議開催要請書など教育省提出分とIT省提出分全部で三十四枚程あります。これらにサインをお願い致します」
そう言うと、持っていたアタッシュケースから分厚い書類を出して来て、にっこりとボールペンを差し出す公務員氏であった。
糸の切れた操り人形の様になったマリエは、ひたすら命じられるままめくらサインをするのだった。
サインを受け取ると公務員氏は何事かを告げて帰って行った。今のマリエには理解する気力が無かったので、何を言われたのかが分かるのは後の事だった。
それから数日が過ぎた。毎日ぼーっと過ごすマリエを見て、さすがに周りも心配になって来たらしく、入れ代わり立ち代わり見舞いと称して誰かしら訪れる様になったが、マリエはというと、相変わらず一日中王宮の中庭の芝生の上で遠くを見たまま誰とも口をきかずに過ごして居る。
「一体どうしたのだ?」
「変な物食べたか?」
「好きな男でも出来たか?」
周りは好き放題言って居る。原因が分からないのだから仕方がないのだが・・・。
そんなある日、再び公務員氏が現れた。
「お待ち同様です。お約束通り本部の決定をお知らせに参りました」
「!!!!!!!!!]
誰が声を掛けても反応しなかったマリエだが、この声にだけは秒速で反応した。反応ついでに、公務員氏の胸倉を掴み前後に揺すりながら、
「あれから何日経ったとおもっているのよっ!!どうなったの!?どうなったの!?帰れるんでしょ!?いつ帰れるのっ!?今っ!?今っ!?今直ぐっ!?」
胸倉掴んで、そんなに息まいたら、公務員氏も話せないでしょうにこまったマリエだった。気持ちは分かりますがね。
「栗原 麻里絵さん、くっ 苦しいです。まずは、落ち着いて下さい」
そりゃあそうだ、まずは落ち着こうよ。
「まず、教育省の判断ですが。条件次第で、卒業認定および採用試験を省いて公務員登用を認めても良いとの事です」
「条件?なにそれ?そっちが悪いのに条件って何?意味わからない。それに公務員登用ってなに!」
「コホン、えーと、あなたが干渉すると仮想世界の環境が非常に良くなる と言うのが上の判断です。この世界は、IT省が中心になってメンテナンスしているのですが、その調整が非常に難しいのです。ですが、あなたが絡むと、世界がより良い方向に向かって行くらしいのです。で、この際なので、そのメンテナンスをあなたに一任してはどうかという事になりまして・・・」
「なりましてって、何勝手に決めてんのよぉっ!あたしの人生だよ!?勝手に決めないでくれますっ!?」
「それで、あなたの所属なんですが・・・」
「あ あたしが話してる事をスルーするの?スルー?無視?難聴?難聴なの?あんた」
「IT省直属の公務員としてテコ入れが必要な仮想世界の管理をお願いする事となります」
「なりますって、、、決定なんかいっ!!」
「報酬につきましては、公務員規定に則って支払われる事となります」
「・・・・・・・・・・」
「尚、仮想世界派遣時は、出張扱いとなりまして、既定の出張手当が出ます」
「・・・・・」
「現世との行き来は、自由となります。いつでも行ったり来たり出来ます」
「・・」
「必要な情報を得に現世に戻る事も可能です」
「!」
「何か質問はございますか?」
「そんな事より、あたしは、いつ戻れるのよぉぉぉぉっ!!!!」
「先程も申しましたが、わたくしにはお答え出来ない事項となりますので、ご了承下さい」
「戻れなきゃ、何も始まらないじゃないのよぉぉぉっ!!」
「その点は何とも申せませんので、とにかく頑張って戻っていらして下さい。契約につきましては戻ってからと言う事になりますので」
「戻れないから騒いでるの分からないっ!?」
「あ、次の事案が控えておりますので、これにて失礼させて頂きます。戻られましたらご連絡頂けますと手続きが早く済みますので宜しくお願いいたします。では」
言うだけ言った公務員氏は煙の様に消えてしまったとさ。
一人残されたマリエは、王宮の中庭の芝生の上にぺたりと座り込んだまま固まっていた。何に向けてだか分からない怒りが心の全てを占めていた。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、何だってあたしばかりこんな目にあうんだよおおぉぉぉぉっ!!」
「今度転移したら、ぜえええええええったい、人の為になんか働いてやらないんだから!恐怖の大魔王でも何でも構わないっ!全人類の敵になってやるっ!そして、そして、全人類を滅ぼしてやるんだからっ!!」
マリエの決意はっ固かった。この世界で食べられている歯の欠ける様なパンよりも固かった。
しかし、マリエはその後元の世界に戻る事はなく王城にて人生を全うしたとかしないとか・・・
また、新たな世界で恐怖の大魔王として千人にも及ぶ勇者達の群れの前に立ちはだかる事になるとかならないとか・・・ 色々な憶測が囁かれている。
未来の事は、マリエにも作者にもどうしようも無い訳である。(どうしようも無い言い訳であるとも言える)
知って居るのは、未来の自分だけで、今の自分には知る由も無かった。何で知る由も無かったかは 知る由も無いのである。
マリエの未来に幸あれ
頑張れっ、マリエ 君には未来があるじゃないか たぶん。
END
『異世界転移は義務教育 ふたたび』
読んで頂きありがとうございます。
たいして面白くも無い話にお付き合い下さり有難うございました。
つたない語彙力ながら頑張って書いて来ましたが、まだまだ勉強不足と才能不足と経験不足を実感しております。
一旦今回で終わりますが、まったく別物を書くか、この続きを書くか思案中であります。
次回は多少は成長した所をお見せする事が出来ればと思っておりますので、また、ご縁がありましたら、読んでやって下さい。
読んで下さった皆様に感謝です。
では、次回作迄失礼します。