15.帝国侵入
マリエの異世界冒険第二弾です。
好き勝手に書いて行きますので、宜しくお願いしますね。
本作品に登場する国・人物は架空のものであり、現実とは何の関係もありません。
似たような物を見た記憶があっても、気のせいです。念のため。
「そろそろいい頃じゃないか?」
ハワード伯爵家所有のボーデン島に帰っていたジョン達は、司令部に集まっていた。
デミティアヌス率いる二百万の侵攻部隊が延々と続く山脈へ進軍して、早半月が過ぎていた。王都の守りは、僅かに残った親衛隊のみとなり作戦実行には最適な状況となった。ちなみに、ドックには設営部隊の百名と護衛としてウイリーの率いる特殊部隊が残っていて、陣地の強化に励んでいた。
「どうなの?二百万の遭難部隊の行方は?」
マリエにしても、一番気がかりなのは山に入った二百万の国軍主力であった。
「連中には物見を貼り付けてあるのですが、最新の連絡では進軍速度が遅くなっているものの最後部まで山に入ったとの事です」
進軍速度の報告にマリエは反応した。
「遅くなってる?ちなみに、物見って敵のどのあたりを監視してるの?二百万の大部隊だよ?先頭と最後尾じゃ全然位置が違うよね?」
「おそらく最後尾かと・・・」
「それじゃあ駄目だわ。物見に連絡して先頭を確認して貰うって出来る?」
「はいっ、すぐにトリを飛ばしますっ!」
そう言うと従者は司令部から駆け出していった。
「なあマリエ殿よ。先頭かどうかなんてそんなに気にする所なのか?」
腑に落ちない表情のグレンだった。周りのみんなも不思議そうな顔をしている。
「しょうがないわねえ。考えてみて?細い山道を進むのよ、どの位の長い列になると思う?最後部が山の中に居ても、先頭がどこに居るか分かったもんじゃないでしょ?最後尾しか見ていないと先頭が山を降りていても気が付かないでしょ。それじゃあヤバイんでない?」
「まさか!たしかにそうではあるんだが、侵攻部隊の指揮官を任されている奴が山を降りるかなぁ。俺だったら降りるけどさぁ。って言うか最初から登らないし」
トニーは、おどけて笑っていたが、誰も笑わなかった。
「でも、皇帝からの厳命だったら?」
そう問うマリエの表情はなぜか嬉しそうだった。
「うーん、命令で、拒否出来ないんであったら、山に登るふりをして逃げ・・・・えっ?それって?」
「そうか、それでマリエ様はデミティアヌスの動向を気にされていたんですね」
合点がいったとばかりにコリンはしきりに感心している。
「そう、あくまでも希望的観測だけど、山に入ってしばらく山歩きをしてから方向を変えて別の場所から下山してくれる様にお願いしているのよ。進軍速度が遅くなったのなら下山を始めたのかなあって」
「お願いして下山してくれるんなら苦労しませんって。それで奴らは下山してくれるんですか?」
興奮したジョンが身を乗り出して聞いてくる。
「そんなのあたしに聞いても分からないわよお、あたしは、そのデミなんちゃらじゃあないんだから。それにまだ仮定の話しだし」
「あ、そうですよね、失礼しました。つい」
「でもね、下山してくれたらこの後が楽になるわよ。ねぇランドル閣下」
突然話を振られたランドルは一瞬ぎょっとしてマリエを凝視した後、ぽつりぽつりと話し出した。
「マリエ殿は、楽しそうですな。そうですな、もし下山したとして、私なら、そのまま王宮を襲いますね。はなから無理な作戦を強いられ、失敗すれば罰せられるのなら罰する者を排除してしまえば罰せられないで済む。二百万もの軍勢が手元にあるんです、不可能ではない。いや、僅かな親衛隊相手です、確実に勝てるでしょう。皇帝を排除して自分が国を掌握すればいいと考えるでしょう」
話し終えたとたん、室内は一瞬静寂が支配し、その後にはみんなの唸り声が響き渡っていた。誰も一言も発する事が出来ずに沈黙の重苦しい時間だけが過ぎていった。
その時、突然ドアが開き従者が入って来た。
「どうした?トリが着いたのか?」
ジョンが立ち上がりながら従者に問い詰める。みんなの視線も従者に注がれていて、従者はバツが悪そうに口を開いた。
「巨大なビッグホーンを捕獲したので召し上がって頂きたいと炊飯部の者が申しているのですが・・・」
ビッグホーンとは、この付近の島に生息する巨大なヒツジで肉はそれなりに美味しいらしい。
「ばかものっ!今は大事な会議中だと・・・」
言いかけたジョンを制したのはマリエだった。
「いいじゃない、今は出来る事は無いんだし、少し気分転換に食事にしましょうよ。今行きますので準備をする様に伝えて下さい」
マリエの助け舟でホッとした従兵はお辞儀をすると駆け出して行った。
「さあさあ、難しい顔しないでお肉を食べに行きますよお」
マリエは、通常運転だった。
広場にはテーブルが円を描く様に並べられて、その中心では巨大な焚火で肉が焼かれていた。
マリエが席に着くとその両脇にジョンとランドルが座った。
「マリエ様、のんびり食事などしていてよいのですか?」
やや顔面蒼白のジョンがマリエに顔を寄せて小声で問いかける。マリエは、相変わらずすました表情のままで中央で焼かれている肉を見ながら答える。
「大丈夫よ、たぶんデミなんちゃらが猪の様に真っ直ぐに進軍し続ける事は無いわよ。反逆者の汚名を覚悟で山を降りる決心をするわよ。上手くいけば、今頃山を降りて来ているでしょうね?ね、ランドル閣下」
「そうですね。そうなった時、あの巨大な軍団と対峙しなければならないって所が頭痛の種ですな」
みんなの視線がランドルに集中する。
「我々に取るべき選択肢はいくつかあります。ドッグに立て籠り二百万の敵兵と対峙する。このまま撤退して戦わない。あるいは、デミティアヌスと同盟して王宮を制圧し、奴が率いる新政権と和睦をする。でなかったら奴が王宮を制圧するのを待ってデミティアヌスを打つ。こんなところですかね」
みんなの動きが停止する。生唾を飲み込む音が聞こえる。一つ目と二つ目は想定内であったが、それ以外は完全に想定外だった。
「ど 同盟ですって?」
ジョンは声が裏返っていた。
「うむ。我々が海上で圧勝したと知れば、無駄な戦力の損耗は望まないでしょう。目的も同じなんだし。ま、そんな度量が彼にあればね。仮定の話しですよ」
ランドルはうつむきながら運ばれて来た肉の塊を突つきつつ答えた。
「もしですが、もし真っ向から戦ったら勝てそうでしょうか?」
「無理ね、どう考えても勝ち目は見えないわね」
恐る恐る訊ねたコリンにマリエは速攻で否定した。
「勝ち目が有るかどうかは考えば判るでしょ。もっともそうなったら無傷では返さないわ、半数は貰うわよ」
「その通り。彼も馬鹿じゃないから無駄な戦いはしないだろう・・・・上手くこちらの思惑通りに動いてくれると思いたい」
どうも、今回のランドルはずっと自信が無い様だった。それだけ、デミティアヌスの性格に不安要素が多いのだろう。
「ランドル閣下?そのデミ何とかの性格って、問題ありなものなの?」
興味深げにマリエが聞く。
「まず、実績に裏付けされた自信、この為に他人の諫言は聞きませんね。それと、彼は戦いにしか生きる意味を見出していない事が問題です。とにかく、戦いが出来ればいいのです。政治には興味が有りません。ですから、彼が王宮を制圧しても結局群がって来る私利私欲に特化した閣僚に好き勝手に政治をされる恐れがありますね。今と変わらないか、もっと悪化する事も考えられます。いや、その可能性が高いですね。でも、正直真っ向から戦いたくは無いですね、あの攻撃力は恐ろしい」
「戦争バカなわけだ。じゃあ、同盟は難しいかな。やはり標的は側近の大将で正解か・・・」
下を向いて暫く考えていたマリエが顔を上げた時、なんとも悪い笑顔を浮かべていた。そもそも、標的は側近の大将って何を言って居るのだか。
「お おい、マリエ殿 おぬし、何を言ってるんだ?物凄く悪い顔をしているぞ?」
マリエの表情におどろいたグレンが問い詰める。その問い詰める口調とは裏腹に腰が引けているのが妙に笑えるのだが・・・
「そう?敵の本隊の数を出来るだけ減らしたいんだけど、みんな付き合ってもらえるかな?」
マリエが悪い事と言うからには、本当に悪い事なんだろう。みんな、生唾をの見ながら何を言い出すのかとマリエに注目する。
「閣下、デミなんちゃらが山を降りてこちらに来た場合だけど、あのドッグの要塞で二百万の攻撃は凌げませんよね?」
「無理だ」
「じゃあ、半数の百万を一時間なら?」
「それなら、何とかなるだろうが、何を考えておるんだ?」
「王宮に連絡して防備を固めて貰おうかなって。同時に、海岸にエルトリアが攻め込んで来たとデミなんちゃらに知らせたらどうかしら。そうしたら彼はどうすると思います?」
「軍を二手に分けて対応してくる・・・・か」
「どっちかを先に潰してから残りをって来ませんか?」
正論を言うランドルにジョンが訊ねた。
「それは無いだろう。あの大軍がネックになっているからの。もし、五十万程度しか兵がいないのならあなたの言う様に片方ずつくるでしょうが、彼の元には有り余る兵が居る。分けて速戦即決を狙うでしょう」
「なるほど・・・・」
「彼にはこちら側の情報は皆無です。何かあって後からちびちび援軍を送るよりも、確実に叩くために一気に半数はドッグに向かわせるでしょう。で、王宮にも一気に方を付ける為に集められるだけの兵を向けるでしょう、自分が先頭になって」
パチパチパチ マリエが手を叩く
「半分正解。ポイントは、二百万の兵力が全て手元にあるのかという所」
「そうか、先頭が山を降りても、過半数はまだ山の中を行軍中だろうから手元にはわずかしか居ないはずだ。兵が集まるには時間がかかるだろう」
「そうしたら、まず、手元に集まった兵をドッグに差し向けて、王宮へは兵が降りて来るのを待って進撃ってなるわよね。兵の集まらない内なら叩くチャンスでない?」
「なるほど・・・・」
「ウイリーの部隊にガリア兵に化けてデミに接近して貰って、大蛇の頭を潰して貰ったらどうかなって。下山したばかりで混乱している時がチャンスだと思うのだけれどどう?」
暫くの沈黙ののち、ジョンが口を開いた。
「もし、山を降りて来るならやってみる価値はありそうですね。では急いで出航しましょう。もし、下山して来なかった場合は予定通り我々が王宮を叩くと言う事で行きましょう。さあ、出航の準備だ!肉は船に持ち込んで出航してから食べましょう」
港を出航した翌日、トリが情報を持って来た。報告によるとデミティアヌス達が進路を変えて入山地点から南に六十キロ程離れた所にある谷に現れたとの事だった。兵達は這う這うの体で川を下ってきたらしく、消耗しきっていて山から降りたはいいがその場から動けずに宿営を始めたという。その数はまだ百名程度との事だった。予定通りデミティアヌスと王宮とウイリーには連絡がされた。
「こうなるって分かっていたら、山裾に兵を配置して置けば良かったですねえ」
なにげに、ボソリと呟いた副長のトニーにジョンは謝った。
「すまんな、私にもっと先を見越す目があれば良かったんだが、マリエ様のおかげで遅ればせながら対応が出来ているんだ、良しとしてくれ」
「あ!申し訳ありません、そんな責めるつもりはなかったのです、つい・・・失礼しました」
深々と頭を下げるトニーを見ながら今度はランドルが溜息と共に呟いた。
「本当だな。マリエ殿の慧眼とアイデアには心底恐れいった。私がその年齢の頃など鼻をたらして野山を駆け巡っておったわ。大賢者などとおだてられている内に只の爺になってしまった様だ。初心に戻ってドッグの防御陣地では敵兵をしっかりくい止めてみせようぞ」
色々な想いを乗せて艦隊は海岸に近づいて行った。
ドッグの防御陣地では、ランドルの指揮の元千名の兵が守りを固めた。敵を少しでも分散させる為に、プロメテウスとカブールは、ドッグの西二キロ程の海岸に錨を降ろし百名程度の部隊を内陸に向かって進軍させた。もっとも、敵の目を引き付けるのが目的なので、接敵した場合は奇襲攻撃をかけたら即逃げ帰り艦隊の元に敵を呼び込み叩く事になっている。全員走り易い軽装なのは言うまでもなかった。
ウイリー率いる特務部隊は、ガリア兵に偽装して山へと向かった。
ー王宮SIDEー
王宮は急の知らせに騒然となっていた。あのデミティアヌスが二百万の軍勢を率いて押し寄せて来ると言うのだ、無理も無いと言うものだった。親衛隊は急遽集合が掛けられ王宮防御の為の準備に追われていた。休暇中の者も呼び出された。しかし、主だった文官達は王宮から消え失せていた。勝ち目が無いと理解した彼らは賢くも金銀財宝を持てるだけ持って逃げ出し、帝国の東の外れにある以前滅ぼしたビクター王朝の王城に住んでいる徴税の責任者であるマルコム大蔵卿の元へと逃げ出したのだった。比較的安全なかの地で様子見をして有利な方に付くつもりなのであろう。
文官が逃げ出した王宮では皇帝であるケンタウロ十四世が途方に暮れて走り回る兵達を塔の上から眺めていた。側近も逃げ出したので、どうする事も出来ないのだった。
「余はいかがしたら良いか?」
と、走り回っている兵に聞いてはみたが
「知るかっ!そんなの、自分で考えろっ!」
と、叱責されて座り込んでしまった。
「だれぞ、飲み物を持て」
と飲み物を欲しても、答える者は誰もいなかった。
居るのは、火事場泥棒の如く金目の物を持ち出す為に駆け足で部屋を出入りする下級兵士だけだった。
ー遠征軍SIDEー
焚火の前で酒を呑みながら険しい顔で周りを見回しているのは、元遠征軍司令官で現在は反乱軍の親玉に成り下がってしまったデミティアヌスだった。傍には、やはり苦虫を嚙み潰したような顔の副官であるメセナミン将軍が一通の手紙を覗き込んでいた。デミティアヌスは山を降りた所に宿営地を設置して後続の兵が山を降って来るのを待って居た。王宮襲撃は、遠征軍出撃当時から副官と決めてあった既定路線であった。
「全員が下山するには、後どの位かかるか?」
「まだかなりの日数がかかると思います。最後尾には腹心の部下を配しておりますれば、後半の部隊はもう下山を始めているはずです」
「そうか、まあいい、時間はまだ有る、兵が揃ったら王宮に向け進軍するぞ。王宮の奴ら、何も知らなくてたまげるだろうて」
「閣下、申し訳ありませんが、時間はもう無いかもしれません。奇襲も不可能かもしれません」
鬼の形相で振り返った総司令官は副官を睨みつけ言った。
「どういう事だ?」
「何故か、我々の行動は筒抜けになっております、ただいま届いた書状に御座います、ご覧下さい」
そう言うと、今まで見ていた書状を手渡した。
一瞥した総司令官は書状を焚火に投げ込み、副官の両肩をその剛腕で掴み恐ろしい形相で口を開いた。
「これはどういう事かっ!我々が下山した事が王宮にばれているとはどういう事かっ!おまけにエルトリアの蛮族共が攻め寄せて来ているだとっ!裏切者がおるというのか?王宮が裏切ったと言うのか?お前は知って居たのか?裏切者を」
「お待ちください、閣下。そんな者が居ると知っておればとっくに処分しております。それよりも、あの書状、真実だと思われますか?」
「お前はどう考える?」
質問を質問で返して来た主人に対してこの副官は顔色も変えず淡々と接している。
「わたしは、どちらでも良いと考えます」
「どちらでも良いだとお?」
「はい、我々は有り余る兵力を持っております。我々に敵対するのであれば叩き潰せば良いだけです。只気になるのは、何故このタイミングでエルトリアが攻め寄せて来たのか?王宮とグルなのか?何故、我々が山を降りるのを知っていたのか?」
「ふむ、首謀者を捕えれば判るであろう。すぐに出撃だっ!」
「お待ちください閣下。みんな疲れております、しばらく休ませなければ戦いになりません。それに、まだ兵の多くが山の中に居て数が足りません。しばらくお待ち下さい」
「むむむむむむむむ・・・」
「兵が一万集まったら海岸のエルトリア兵に向かわせよ!さらに五十万集まったら王宮に向かう!俺は暫く休む!後は任せた」
マントを翻すと幕舎の方に向かって歩いて行ってしまった。
「シールズ!」
シールズと呼ばれた兵士が副官の前に来て跪いた。
「何故我らの動きが筒抜けになっている?エルトリアの連中は船で来たんだろう、そんなに大軍で来ているとは思えないが念の為だ、すまんが敵の情勢を調べて貰えるか?」
「はっ、ただちに」
そう言うと、馬に乗って駆け出して行った。
「ナイセリア兄弟はいるか?」
すぐに、双子の武官が走って来た。
「閣下、お呼びで?」
「うむ、お前達は戦える兵を集めて海岸へ向かえ、キレーネの港だ。エルトリアの奴らが上陸したらしい。兵の数は一万と言われたが、嫌な予感がする。下山した兵の中から十万を連れて行け。頼むぞ」
「はっ、承知しました。しかし、本当に奴らが攻めて来たのですか?」
「信じられん事だが、本当らしい。さっさと蹴散らして、王宮の攻略に加わってくれ。まずはこのまま南に向かい海岸沿いに行って他に上陸していないか確認しながら行くんだ、いいな」
二人は兵を集めに、走っていった。これでいい、ナイセリア兄弟には少し苦労をしてもらおう。あいつらが果たしてエルトニア兵に対してどれだけ持ち応えられるのか楽しみであるな。
振り返って宿営地を見渡すと、山から次々と兵達が降りて来てるのが見える。あの中から海岸に向かう十万を引くと残りはまだ一万弱か。進撃開始にはもう少し時間がかかりそうだが、王宮の連中も守りを固めているだろうから、あまりのんびりはしておれんな。十万になったら出発する事としよう。
周辺の貴族共は、今回の件は様子見に徹するだろうな。よもや皇帝に付いて我々に敵対するような事はないだろう。戦力差をみたら結果は火を見るよりも明らかなのだから、決着が付いてから勝った方に擦り寄るのが賢いやり方であろう。
王宮制圧後の皇帝の処遇について考えを巡らしていると遠くから呼ばれた様な気がした。
「メセナミン様ぁ~!」
顔を上げると馬に乗った男がこちらに向かって走りながら叫んでいる。先程送り出したシールズだった。目の前に着くと同時に転げ落ちる様に足元に跪いた。
「どうした、シールズ。いやに速いではないか?」
「はっ、キレーネの港に向かう途中で港からの早馬に出会いました。敵が上陸して来たので、大急ぎで知らせに来たそうです」
「で?どんな様子なのだ?」
「はい、その者の言う事によると、突然船でやって来たエルトリア軍は、上陸後キレーネの港に建設中のドッグに立て籠もっているそうです」
「立て籠もっている?出て来ていないのか?なぜだ?敵の数は?」
「一万以上との事です」
「そうか、ごくろうだった」
なるほど、一万か。港からの早馬は・・・なるほど、そういう事か。順調って事なのだな。後は私次第って事であるな。
「メセナミン、状況はどうか?」
デミティアヌスが起きて来た。いちおう話しておくか。
「閣下、おかしな情報があります」
「おかしなだと?」
「キレーネに上陸して来た蛮族は一万以上だそうです」
「かなりの数だな。それのどこがおかしいのだ?」
「港にあるドッグに立て籠ったままで出て来ないそうなんです」
「増援でも待っているのかもしれんな」
「おかしいのは、その連絡をこちらに送って来た事です」
「それがなんだ?」
「おかしくはないですか?なぜ、こちらに知らせるのでしょう?知らせるのなら王宮でしょう。我々はまだエルトリアに向けて山の中を行軍しているはずではないですか?ここに居る事は誰も知らないはずなんですよ」
「む、言われてみれば確かにおかしいが、兵力ではこちらが圧倒的に上なんだ、みんな纏めて叩きのめせばよかろう、キレーネには増援を送って、我々は王宮に向かって進撃するぞ!」
こうなるとデミティアヌスは猪に変貌してしまい周りの話しなど耳に入らなくなる、メセナミンは諦めて配下に号令を掛けた。
「直ちに進撃を開始する!全員支度をして集合せよ!大将軍様に続けぇ!」
キレーネの港には十万が向かい、本隊は二万がデミティアヌスに続いて進撃を始めた。残りの百八十八万はまだ山の中で下山中だった。王宮で迎え撃つ親衛隊は非情呼集の兵を合わせて四千位だろうか。山の中の兵が居なくても一瞬で片が付きそうな戦力差であった。周辺の貴族に増援依頼をしてはいるが、どこからも返答はなかった。王宮からはほとんどの文官は逃げ出していて、城内に居るのは立て籠もって居る僅かばかりの親衛隊だけだった。城下町も住民が逃げ出してゴーストタウンとなっていた。
キレーネの港に向かったナイセリア兄弟率いる十万の軍は、宿営地から南下したが海岸線から数キロ地点で突如百名程の所属不明部隊に襲撃された。
弟のホウサ・ナイセリアは五万の兵を率いて追撃戦に移ったが、襲撃部隊は一撃すると撤退を始めた。後を追って海岸にでると、そこには巨大な二隻の軍艦が停泊しており、相対する事となったが、艦上からの激しい攻撃により兵の半数を失い後退を余儀なくされ、本隊に増援依頼をするはめになった。
兄のシルバン・ナイセリアは残りの兵を率いてキレーネの港にむかったが、報告通り巨大なドッグには敵兵が立て籠もっていた。海岸から回り込もうとしたが、港に停泊した見た事のない巨大な二隻の船から猛攻撃を受け、ドッグからも挟撃された為、大きな損害を出しながら一旦後方に退避して対峙する事になった。しかし少数部隊の奇襲が続き、時間経過と共に被害が甚大となって来た為、大きく後退して弟と同じく本体に増援を依頼する事を決断した。
この兄弟の増援依頼の決断がデミティアヌスの命を縮める事になるとは、誰も知る由も無かった。何故知る由も無かったのかは・・・以下省略。
宿営地にはメセナミンの腹心の部下であるカトラスが指揮を摂っていた。デミティアヌス率いる本隊が出発した後の彼の仕事は山から降りて来た兵を纏めて最前線に送る事だった。ナイセリア(弟)からの援軍要請が来たのは十万ほど兵が集まった時だった。どうするか悩んでいる所にナイセリア(兄)からの援軍要請の使者が到着した。
あの戦上手のナイセリア兄弟が援軍を求めるなんてただ事では無いと判断したカトラスは本隊の増援に送るはずだった十万の兵を半分に分け各ナイセリア兄弟への援軍として送り出してしまった。その後も兵が集まると断続的にキレーネへと送ってしまうのだった。メセナミンからは、ナイセリア兄弟から増援要請があったら優先的に兵を送る様に言い使っていたので、仕方のない事だった。彼の頭の中ではデミティアヌスの本隊は二万も居るのだから緊急性は低いと納得してしまっていた。確かに親衛隊とだけ対峙するのであれば十分な兵力なのであったのだが、今回に関しては敵方にマリエがいるというアクシデント・・?不幸が?あったのだが、彼には知る由も・・・・(以下省略)
『異世界転移は義務教育 ふたたび』
始まりました。
今回は、海戦物となるみたいです。
みたいと言うのは、マリエが勝手に動き回るのを、書き留めていくだけの作者なので
話しがどこへいくのかは、作者も知らないのです。
頑張ってマリエの活躍を書き留めていきますので
応援宜しくお願いします。
宜しければ、ブックマークお願いします。
P.S.
『異世界転移は義務教育 ふたたび』は、毎週金曜日か土曜日にUPする予定です。
余裕があれば、週の半ばにもUPしたいです。
勉強しながら書き進めて参ります。