表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

12.総員戦闘配置!

マリエの異世界冒険第二弾です。

好き勝手に書いて行きますので、宜しくお願いしますね。



本作品に登場する国・人物は架空のものであり、現実とは何の関係もありません。

似たような物を見た記憶があっても、気のせいです。念のため。


 見学を終えたランドル一行は要塞の会議室で見学の感想を熱く語っていた。その言葉一つ一つからいかに感動したのかが伺えた。

 それを聞いている伯爵達エルトリア側の面々は誇らしげにうんうんと聞いていた。ひとしきり話し終えて、まったりとお茶を飲んでいると、ドアがノックされた。ドアが開くと、衛兵が入って来てドアの脇で直立に立った。

「ハワード伯爵様ご一行様、到着になりました」

 衛兵の宣言と共に室内に入ってきたのは、ジョン、グレン、オリビーの三人だった。ジョンはニコニコとランドルの前に立った。対照的にランドルの表情は驚きに満ちていた。

「お久しぶりでございます、ランドル様。六年ぶりでしょうか?」

「お、お前は まさかジョン?ハワードの所のジョン坊か?立派になったなぁ、しかし、何故ここにお前が?いや、それは愚門か。お前が皇帝の暴挙を止める為に立ち上がったと言う事なんだな」

 思わず立ち上がったランドルであったが、再び力なく座り込んでしまった。

「国民の為に立ち上がったお前と、皇帝の言いなりの俺、今やお前の方が輝いているな」

 そして、力なくグレンの方を見ると大きく息を吐いた。

「グレン、甥っ子が立派に育ったな。お前の指導が良かったんだな。すっかり立場が逆転しちまった。今や俺は敗軍の将。お前が羨ましいぞ」

 ランドルとグレンは、王都にある名門クロエ騎士学校の同期でライバルであった。名門貴族出のグレンに対し平民出のランドルはいつも劣等感を抱いており、何とか勝ちたいと努力した結果戦功を重ねて今の地位を手にして伝説の賢者と言われるまでになったのだった。

「何を言うか、一対一だったら絶対にお前には勝てんよ。お前の才能はまさに賢者そのものよ。今回負けたのも、皇帝が愚かだったからよ、何もお前の責任ではないわ」

「しかし・・・」

「そんな事より、次の手を打たにゃあならん。侵攻軍の本隊が出発したぞ。六十隻、二万五千だそうだ」

「そんなに出て来たのか。どうするのだ?そんなに多くては手の打ちようがないぞ。要塞をもっと強化して備えないと  って、何呑気に構えているのだ?」

 慌てているランドルに対して、グレン達は落ち着いていて、笑顔さえ見て取れた。

「マリエ殿よ、将軍閣下はああおっしゃられているが、要塞の強化は必要か?」

 マリエは、お茶を飲みながら、上目遣いでグレンを見てからカップを置いた。それからゆっくりとランドルの方に向き直ると言い放った。

「そうね、ここまで来れるだけの実力があるのなら強化した方がいいわね、でもどう考えてもそんな力が有るようには見えないんだけど。指揮官も武装もね」

「な、二万からの兵力だぞ!」

「将軍様?海の上では、兵の数は問題になりませんのよ。全部沈めてご覧に入れますわ」

「あの鉄の船にはそんな力があるのか?確かに乗り移りにくくはあるが、そんなのは取り囲んでしまえば何とでもなるだろう」

「何とでもなるんだそうだ、マリエ殿。取り囲める程速度が出るらしいぞ」

「まあ、怖いわ、どうしましょう(笑)」

「マリエ様、遊んでいないで下さいよ、叔父上も悪乗りが過ぎますよ。今後の事もありますので、いっその事ランドル殿に実際にその目で見て頂いたらよろしいのでは?」

「そうね、時間が無いからさっさと行って壊滅させてくるわ。で、本当なの?この海戦に失敗したら山越えで侵攻するって言う話し」

「はい、あの皇帝でしたら、やりかねません。二百万の兵士に死の行進をさせるでしょう」

「ある意味、それってチャンスじゃないかしら」

 はっとした顔でマリエを見たのはオリビーであった。

「そうか、王都から二百万の兵士が居なくなるんだもん、こっちは潜入しやすくなるってことね?」

「そういう事。なるべくエルトリアに近い所で迎え撃てば侵攻軍が壊滅しても知られないで済むでしょ?知られる迄一か月やそこらは時間が貰えるって言う事だから、その間に部隊を配置しておいて山越え部隊が出撃してから部隊を潜入させて一気に片を付ければ終了ね」

「いや、簡単に言われるが、問題点がいくつかありますぞ?まず、六十隻の大船団を確実に殲滅出来るのですか?」

「出来るわよ、確実にね」

「では、部隊を潜入させるとおっしゃるが、そんな大部隊を送り込めるのですか?一か月分の食料も半端な量じゃないですぞ?我々も、それで死ぬ思いをしたんですから」

「部隊は、そういう任務専門の部隊があるから千名程もあればいいかしら?どう?ウイリー隊長」

 部屋の隅で椅子に座り話を聞いていた特別展開部隊の司令官ウイリー・ウッドコック准将は立ち上がり静かに口を開いた。

「ランドル様から頂いた王城の見取り図が精密でしたので、陽動部隊が敵の目を引き付けてくれれば百で十分であります」

「だそうよ、加えて言わせて頂くと、向こうに行くのに一か月もかからないから。そうねぇ、一週間もあればいいのでないかしら」

「いや、一週間などと、そんな事は物理的に不可能でしょう、ええ、不可能です。常識で考えても有り得ません」

 やれやれと言った顔でグレンはマリエを見てお手上げのポーズをした。

「やはり、実際にお互いの常識の差を見せないといかん様だな。ちなみに、三番艦のエピメテウスと四番艦のカブールを連れて来て居るから使ってやってくれ」

「そうですか、では付き合ってもらう事にしましょう。ランドル様?陽動作戦用に二千人程お貸し願いますか?」

「も 勿論です。準備させるので連れて行ってやって下さい」

「では、明後日出発としましょう。みなさん準備をお願いいたしますね」

 一旦会議はお開きとなった。みんなはそれぞれに自分の役割を果たすために部屋を出て行った。部屋には怪訝な顔のランドルとしたり顔のグレンが残っていた。

「なぁグレン。あの子は一体何なんだ?只の子供とは思えんが・・・」

「お前、耄碌もうろくしてきたか?さっき言った事をもう忘れたのか?」

「あの、女神だとか言う冗談か?」

「お前、冗談だと思っていたのか?偉くなったせいで目が曇ってしまったか?昔はもう少し賢かったとおもったがのう」

「そうは言うが、女神など存在するものなのか?伝説の存在なのではないのか?お前こそ、夢と現実の区別がつかなくなっているのではないのか?」

「俺も最初は疑ったさ。だがな、エルトリアでは五年前に一度降臨して国の混乱を収めたそうだ。その時は十八歳だったそうだ。そして、今回は我々に強力してくれている。十歳も若返ってだ。普通なら有り得ん事だろう。だがなお前も彼女がもたらしたオーバーテクノロジーを見れば信じられるさ」


「・・・・・うむ。どうせ一度は捨てたこの命、存分に使ってもらおうではないか。何が出て来るのか、我が祖国の未来がどこに行くのか、この目でしっかりと拝見させて頂こう」

 意気込むランドルの背中を軽く叩きながら、微笑むグレンだった。

「使って貰うのではなくて、自分で使いこなさないでどうする?歴代最高の大賢者様だろうが」

「おうっ」


 中年二人が盛り上がっている頃、マリエ達は海岸に向かっていた。海岸にはガリアの輸送船が乗り上げていて、沖合には水車が目立つ鉄製の巨艦が二隻。そして・・・」

 その後方にはさらに巨大な鉄の巨艦が・・・

「あれ?もしかして?輪っかが無い?スクリュー出来上がったの?」

 後ろに控えている二隻の巨艦には見慣れた水車が無かった。まさか、難航していたスクリューが完成した?ダメもとで絵を描いて置いて来たんだけど出来たんだー。

 小舟に揺られながら巨艦に近づくと遥か上方から声がかかった。

「うおぉーい!どうじゃあ、完成させたぞおっ!恐れ入ったかあぁぁ」

 造船責任者のマックスさんだった。おいおい、そんなに乗り出したら落ちるってぇ。

 舷側から乗り出す様にして手を振っていて、両側から他の人に抑えられているのが見える。ほんと、子供なんだから。

 舷側の資材搬入口から乗り込むと、息せき切ってマックスさんが階段を駆け降りて来た。ほとんど降りると言うより、落下して来た感じだった。

「まぁりえぇぇっ、どうじゃあぁ、やったぞぉ。二交代で休みなく造ったぞ」

「凄い、凄い、まるで造船の神様だわ、感動しちゃったわ」

「だろお?だろぉ?あの、すくりゅうって奴には手こずったが何とか物にしたぞ。水車作りが終わったエマ達が頑張って実験を繰り返してくれたんでな、意外と早く出来たんじゃ」

「そうなんだ。エマさんも来ているの?」

「いや、やっこさん、何日も徹夜したから顔中に吹き出物ができちゃってな、恥ずかしいから寝ているそうじゃよ。はははは」

「そっか、後でお礼言わないといけないわね。で?どうなの?スクリューの調子は」

「うむ、物凄く早くなったとは言えんが、あの邪魔な水車が無くなったから運用が楽になったぞ。最初はお前さんの絵にあった様に四軸を考えていたんだが、なかなか難しくてなぁ、間に合わなくなりそうだったから二軸で勘弁してくれ」

「船体が倍になったけど、強度は大丈夫だった?」

「ああ、横から波を食らうとポッキリいきそうじゃったんで、あちこちに補強を入れたぞ。お陰で、予定より重くなってしまったんで貨物の積載量がちょっと減っちまったが、そこんとこは勘弁してくれや」

 頭をボリボリ掻きながら申し訳なさそうに言うマックスさんだったが、想像以上に素晴らしい出来で、文句が言える訳なかった。

「んーん、こんな短時間で仕上げるなんて、まさにマイスターの称号を貰っていいと思うわ。ありがとうね」

「いや、ははは、そう言って貰えると頑張った甲斐があるってもんじゃ。後は、航海しながら不具合を直していくぞい」

「宜しくお願いしますね」


 こうして、ハード、ソフト両面で準備が整い、四隻の艦隊が出航して行った。補給部隊の木造船のホーリー・ウッドとラング・ウッドは一足先にガリアに向け石炭と予備の武器を満載して出撃していた。

 艦隊は旗艦のアルビオンを先頭に同形艦のプロメテウスが続き、新造の輸送艦エピメテウスとカブールがその後に続く単縦陣で進んで行った。途中、新造艦のテストを兼ねS字航行で舵の利きを確認したり、小島の周りを回って旋回性能を確認したりしながらゆっくりとした航海だった。その間にも、敵船団の様子は逐一もたらされていたので、何時でも好きなタイミングで仕掛ける事が出来ると言うのが最大の利点であった。。

「動向がこんなに筒抜けになっていたのでは、どれだけ兵力をつぎ込んだとしても、どんな名将が指揮したとしても結果は推して知るべしと言う事か」

 がっくり肩を落とした降将ランドルは舷側の手摺りを強く握りしめて思わずつぶやいた。

「そうねぇ、あなたの所の皇帝さんも早く無駄な事に気が付いてくれればいいのにねぇ。いっその事、みーんなバレバレで侵略など不可能だよーって教えてあげたら、諦めるかなぁ?」

 そう、無邪気に 無邪気?こういうのは無邪気とは言わないと思うのだが、そう言い放つマリエに、ランドルはこめかみを抑えながら溜息と共にゆっくりと話し出した。

「皇帝のケンタウロ十四世陛下は、名前を見れば判ると思いますが、十四代続いている皇帝一族の為宮殿の中の事しか知りません。庶民が汗水流して働いて得たお金で生かして貰っている事も知りません。畑仕事をしないと食料が手に入らない事も知りません。お金は自然に湧いて来るとでも思っているのでしょう。いや、お金の概念すら無いのかもしれません。苦労、競争、努力、空腹、政治、人との関わりかた、何も知りません」

「本来、ガリア帝国はもっと小さな国だったのですが、十四代に渡って侵略を続けて今の大国になったのです。でも、周りにはもう侵略するべき国が無くなってしまい、今の皇帝になってからは何の侵略成果もあげていないのです。そこで王族か陪臣が焚きつけたのでしょう、突然侵略をせよと言い出したのです」

「ご存じの様に、この大陸にはもはや我がガリア帝国以外にはあなた方のエルトリアしか無く、必然的にエルトリア侵攻をする事になってしまったのです。正直我が国の西に国家が存在する事事体知ったのは最近の事なのです。あの延々と続く山脈の向こうに国家が有るなどと知るべくもなかったのです」

 そこまで一気に話すと、髪の毛をかきあげてから遥か前方を凝視したランドルは話を続けた。

「今の皇帝は、と言うか我が国の皇帝は代々世間知らずで周りに言われるままに侵略をして来ました。今回は今までに無い位に侵略は難しいのに理解しようとしません。この大陸の全体像も判って居ないのに西に人の国があるらしいとの噂だけで今回の遠征が計画されました。目的地まで何キロあるのかも判らないのに船団を送り出しました。あなた達も把握されている様に最初の遠征は失敗して、私は牢に入れられました。皇帝は何人死のうが興味無いのです、大事なのは侵略する事だけですから。大将軍のデミティアヌスは今回の海からの侵攻が失敗したら、山越えをする様命令を受けていました」

 それまで二人の会話を後ろで聞いていた艦長のコリンが、思わず口を挟んでしまった。

「あほかっ!山越えなど、海路以上に不可能な事は子供でも分かる事ではないかっ!!  あ、失礼しました、つい」

 言ってしまってから、思わず両手で口を塞いだコリンが謝った。

「いやいや、おっしゃる通りアホですな、私も、いや誰もがアホだと思いますよ。分からないのは皇帝とその取り巻きだけでしょうな。だからこそですよ。私が打倒皇帝に賛同したのは。このままでは、両国国民が不幸になります。完全にこの体制を破壊しなくてはいけないとの結論に至りました」

 ランドルは、皆の方に向き直り、こう宣言した。

「私は、今の国の在り方は間違っていると思っています、説得が不可能なのであれば力づくで変えて行かなくてはならないと決心しました。解決に役立つのでしたら、私のこの命いかようにも使って頂きたい。宜しくお願いします」

 そう言うと、深々と頭を下げた。

「ま、そんなに堅苦しく考えないで。我々はこうして立ち上がったんですし、心配しなくても遠慮なく叩き潰しますから。その後の事はお願いしますね」

 冗談なのか真面目なのか、笑って言うマリエだった。みんなも、うんうんと頷いていた。

 そんなやり取りを聞いていたのか、船足が一段と力強くなった。

「ランドル閣下、予定通り今夜停泊中を強襲します。全力でやって宜しいのですね?」

 艦長のコリンがランドルに確認をとった。

「はい、今回の指揮官はセルトリウスで、兵も奴の配下ですので壊滅させちゃって下さい」

「分かりました。あの悪評高いセルならこちらも心が痛まずに済みます、徹底的にやりましょう。まだ時間が有りますので、閣下は部屋でお休みになられては?」

「大丈夫です。興奮しているのか眠れそうにありませんので、暫くここで海を見ています」

「分かりました。なにかありましたら乗組員に申し付けて下さい。それでは」

 ランドルに挨拶をすると、艦内チェックの為にコリンは下に降りて行った。他の人もそれぞれの持ち場に散っていった。マリエは行くところもないのでそのまま話し相手に残った。

「この艦は素晴らしい。船に詳しくない私が見てもレベルが違う事は理解出来る。我が国より百年以上進んで居るだろう。まともな戦いにならないであろう事は想像に難くない。只心配があるとしたら、ガリア船団は脆弱とは言え六十隻からの数を揃えて来て居る事なんだが、子供にこんな事を言っても理解が難しいかも知れんがな」

 自嘲気味に言ったランドルであったが・・・・

「確かに陸上であったら数の優劣は絶対ではありますね。でも、ここは海の上ですわ。海の上では、数より速度なんですわよ。数で優位に立つには取り囲まないとなりませんが、相手が優速だったら囲めます?こちらは好きなタイミングで好きな位置から攻撃をし掛けられます、これが何を意味しているか  分かります?」

「それに、我々はこの四隻の艦だけでは無いんですわ。敵の動向は逐一報告が来ますし海中にも攻撃隊が控えておりますの。ま、戦いが始まれば自ずと分かりますのでお楽しみに」

「海中にですと?」

「そう、今下では海中部隊の為の準備をしているわよ」

「下?」

 ランドルが舷側から下を覗くと荷物搬入用のプラットホームが開かれていて、その上では兵達が海中に投げ入れた網を引き上げていた。

「えーと、私には漁をして居る様にしか見えないのですが・・・」

「ええ、正解。漁をしているのよ。この網で獲れた魚がヒントね。ま、夜まで時間があるから考えてみてね。それよりも閣下にお聞きしたい事があるんですけれど宜しいですか?」」

「はい、なんでしょうか?」

「今回の侵攻が失敗したら山越えだとさっきおっしゃっていましたよね?この季節だから雪の心配はありませんけど、かなり高い山脈ですよ?何キロ歩いたら越えられるのか把握しておられるのかしら?」

「正直千キロ以上としか把握出来ておりません。私は把握出来たとしても完全な自殺行為と考えておりますが、皇帝はお構いなしなので愚かにも決行されると思います。ですので、その前に皇帝を倒してしまいたいのです」

「我々が掴んでいる情報では、百万とも二百万とも言われている様ですが?」

「そうですね、私も山越えの方は蚊帳の外で情報は何ももたらされていないのですが、私の情報網で調べた感じでは、二百万は固いかと。大将軍は山裾までしか行かないでしょうけど」

「二百万だとすると、王都の守りはどんな感じですか?」

「うーん、私が把握している限りでは、ほぼ無防備でしょうな。親衛隊のみになるでしょうから、まあ千名以内ですかね」

「でしたら、海岸でちょいと騒動を起こせば、王宮は空っぽ  ですね?」

 こういう時のマリエは、実に悪い顔をする。まさに、小悪魔的な?チールネルゼン伯爵に悪魔と言われるのも無理は無いのだが、本人に自覚は一切無し。もう一度言おう、自覚は一切無し。まあ、それがマリエの魅力の一つであると言えなくは無いのだが、みんながマリエを敵に回したくないと思う一瞬であった。

「そうですな。我々が、ちょいと騒動を起こして親衛隊を誘い出せばよろしいのですね?」

「はい、閣下程の知恵者であればお茶の子さいさいでしょ?」

「お茶の子? お茶が何だか良く分りませんが、陣地を造って立て籠もれば良いのですから、簡単ではありますな」

「ええ、その間に王宮を制圧します。危なくなったら引き上げて来て結構ですので。イノチダイジニ でお願いします」

「了解しました。小さな大将軍様」

 とても敵の中枢に殴り込みをかける打ち合わせとは思えない雰囲気であったが、マリエが居るといつもこの様な感じになってしまうのだった。


 気が付くと、艦隊の四隻が接近してきて、密集隊形になっていた。よく見ていると、各艦から先程の漁で取れた魚を輸送艦カブールに移し替えていた。やがて移し替えが終わると、カブールは艦隊の進行方向左に進路を変え、大陸の海岸線に向かって離れて行った。本隊はそのまま真っ直ぐガリアに向けて進んで行く。

「マリエ殿、あの艦は一隻でどちらに?それに、魚を移し替えていた様ですが?」

「流石、良くご覧になっていますね。閣下はこの海岸沿いに大きな海流が流れているのをご存じですか?」

「いやぁ、お恥ずかしいのですが、海の事はさっぱりと言うのが正直な所です」

「そう。この大陸南側には大きな海流が流れています。この海流は昼はガリアからエルトリアに向かって流れ、夜になると逆方向に流れが変わるんです」

「ああ、それで我々は寝ている間に戻されていたのですね」

「そうですね。あの船はその海流を逆手に取った作戦について居るの。岸近くまで行き、夜になったらさっき捕らえた魚を放出します。すると、魚は海流に乗ってガリア船団の方に流されて行きます」

「ふむふむ」

「その魚を目当てに水中部隊がガリア船団の周りに集まり・・・我々の合図で船団に襲い掛かる事になっています」

「いやいや、まったく訳がわからないのですが・・・」

「もうすぐ始まりますから、その目でお確かめ下さいな」

 そう言うと、マリエは下に降りてしまい、甲板上には頭の上にハテナマークを一杯浮かべたランドルとヒューゴが取り残された。

「閣下、一体何なんでしょうか?」

「私にもさっぱりだよ。ま、夜を待つしかあるまい。あの可愛らしい小悪魔殿のお手並み拝見といこうではないか。私はね、あの子 いや、あのお方は天が我が国に差し出して下さった最後の救いの手なんじゃないかと思っている。ここはすがってみようではないか、駄目でも私がこの命で償えば良い。少なくても今より悪くなる事もあるまいて」

「閣下、わたしも最後までご一緒させて頂きます。どんな未来が訪れるのか楽しみでありますな」


 徐々に日が傾き始め、艦隊はガリア船団停泊予想地点よりガリア側の海域を目指していた。艦内は徐々に慌ただしくなって来た。夜戦に備え、早めの夕食が配られ始めた。ランデル達は、甲板中央部のやや高い位置に設置されているこの艦の中枢である艦橋で待機する事となった。ここに居れば状況も把握出来るし、艦橋上部に出れば戦いをその目で直に安全に見る事も出来る、最高の場所であった。

 艦橋には、艦長のコリンを始め副長のトニー、航海長のオスカー、戦闘班長のルーフェ、操舵士のジェイク、観測員のピーター等艦の中枢メンバーが詰めておりまさに艦の中枢であった。

 もちろん、艦隊司令であるマリエもここに・・・居るはずなのだが現在は居なくて、どこか艦内を走り回っている  はず。

 艦尾の右舷と左舷には左右からは見えない様に覆いを付けたランタンが設置されており、夜間後続艦はこのランタンを目印に単縦陣で航行する。必然的に夜間の艦同士の間隔は昼間よりせばまってくるので操艦はより慎重になってくる。

 当然、今までこれらの航海に関する知識を持っている者はおらず、航海を繰り返す内に少しづつ蓄積していったものであった。ここが、ガリア国軍と反政府軍である彼らとの大きな差であり、最大の利点でもあった。

 又、昼間に航海訓練を兼ねてこの海域の海底調査を怠らなかったのも夜間航行を容易ならしめる事となったのは言うまでもない。何故言うまでもないのかは、、、言うまでもない。


「後方監視班より報告!プロメテウス、エピメテウス両艦とも本艦後方、予定の間隔で航行中」

 副長が後方監視班からの報告を復唱した。この艦には、伝声管という金属の管が艦内に張り巡らされていて、いちいち艦橋に来なくても各部からの報告が受けられる様になっていた。勿論マリエの提案である。現代で言う所の内線電話とでも言うべきか。

「艦長、そろそろ予定海域です」

 航海長のオスカーが海図を見ながら待機地点に到着した事を告げる。

「よし、後続艦に合図せよ。エンジン停止、ここでトリの報告を待つ」

 伝声管を使い、後方監視班とエンジンルームへ命令が伝えられる。艦尾では左右のランタンを交互に板で隠して点滅の様に見せた、停船の合図である。エンジンルームでは、燃料節約の為、少し前から石炭をくべるのを控えていたが、完全に休止し火の様子を見ながら最低限の石炭投入へと切り替えた。

 艦橋内は、海図台の上だけがうっすらと灯りで照らされているが、それ以外は夜目に慣らす為に基本真っ暗であった。

 海上に停止した艦隊はトリの報告を待った。トリは夜間でも飛行出来る為、こんな時の連絡には重宝する。が、飛べるだけであって、トリにはレーダーもビーコンも無いので、こちらで呼んであげないと到着出来ない。艦橋後方に立って居るマストのてっぺん、トップマストでは先程から担当者がトリ笛を吹いてトリを呼んでいる。トリは、この笛の音を頼りに海を渡ってくるのだった。

 待つこと数十分、慌ただしくマストから担当者が降りて来る物音がした。

「艦長!トリが到着しましたーっ!」

 艦橋後部のドアを開けるやいなや叫ぶ担当者。艦長に駆け寄る担当者の手元には通信筒が握られていた。艦橋内に居た全員が艦長の周りに集まって来た。

 艦長のコリンは、咳ばらいをしてから、通信内容を読み始めた。

「敵船団、想定通りポイント レッドデビルに停泊せり。隻数六十七」

「よしっ!」

「うむ」

「うんうん」

 みんな顔を見合わせて頷いた。ここまでは順調に来た、これからが勝負だ。

「だれか、マリエ様を呼んで・・・うおうっ!!!」

 マリエを呼ぼうとした艦長が突然叫んで床に転がった。みんな、何が起こったのかと艦長の居た場所を凝視すると、そこにはいつの間にかマリエが居た。いや、居たと言うか発生した?湧いて出た?まさにそんな感じだった。

「マ マリエ様っ!驚かさないで頂きたい。心臓が止まると思いましたよお」

 しかし、マリエは全く動じず平然としている。

「予定通りね。カブールにもトリは行ってると思うから魚の放出は直ぐに始まるわね。各部、最終チェックをして二時間後に出発。後続艦にも知らせてね」

 甲板上には火炎瓶が並べられた。ボウガン兵も配置に就いて弓の準備に余念がない。今回始めて使用される巨大ランタンもマスト上に複数設置されている。このランタンは後部が凹面鏡で覆われており前方には凸レンズが組み合わせてあり、ランタンの光を収束させて遠方を照らす、いわゆるサーチライトとなっている。専用の台上に設置されており上下左右に指向させる事が出来た。何に使われるのかは、お楽しみだそうだ。

 粛々と準備が進められ、定刻となりギアがニュートラルからドライブに切り替えられ、ゆっくりと巨大な水車が回り出した。それと同時に徐々に加速が感じられ艦は暗闇の中を進み始めた。後続艦も始動した様だ。

 暫く進むと進路を左に変えた。陸に沿ってエルトリアに向かって進んで居るはずだったが暗闇の為まったく見えない。もうしばらくすると、月明りに照らされて敵船団は右舷前方に見えてくるはずだ。みんな、手に汗を握って敵船団を今や遅しと待ち構えていた。


「右舷前方、敵船団見ゆっ!!」


 トップマストからの報告により、環境の空気ががらっと変わった。いよいよだ。

 暗い艦橋にコリンの声が響いた。


「全艦戦闘態勢っ!総員配置にちゅけぇっ!!」

 肝心な所で噛む残念な艦長であった。




『異世界転移は義務教育 ふたたび』

始まりました。

今回は、海戦物となるみたいです。

みたいと言うのは、マリエが勝手に動き回るのを、書き留めていくだけの作者なので

話しがどこへいくのかは、作者も知らないのです。

頑張ってマリエの活躍を書き留めていきますので

応援宜しくお願いします。

宜しければ、ブックマークお願いします。


P.S.

『異世界転移は義務教育 ふたたび』は、毎週金曜日か土曜日にUPする予定です。

余裕があれば、週の半ばにもUPしたいです。

勉強しながら書き進めて参ります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ