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11.無条件降伏

マリエの異世界冒険第二弾です。

好き勝手に書いて行きますので、宜しくお願いしますね。



本作品に登場する国・人物は架空のものであり、現実とは何の関係もありません。

似たような物を見た記憶があっても、気のせいです。念のため。


「いよいよだな。総員上陸用意!全員に厳命する。下船時武器は持たないように」

 ランドルの意表をつく命令に、船内は騒然となった。

「ここで戦っても、只の犬死にでしかない。勝つ見込みも、敵に一矢報いる可能性もゼロだ!只、無駄に死ぬだけでしかない。戦っても名誉にはならない。戦って全滅しても残された家族には全滅した無様な兵士の身内として日陰の生活しか残されていない。ここは、降伏して生きながらえるのが一番だ。今回の侵攻は、皇帝の支配欲の為の侵攻であって、我々には正義は無い!ここは生き残って捲土重来を期そうではないか。反対の者は自分達だけで行きたまえ、私に従える者は下船用意をして船内で待機だ」

 しばらく船内は騒がしかったが、船が浜に到着して錨を降ろすと、するすると上陸用の小舟が数隻浜に漕ぎだして行った。納得がいかない強硬派の面々だろう。百名程が上陸して前方にわざとらしく設置されている遮蔽物に向かって駆け出して行った。

「ヒューゴ、あれを見ろ。あのわざとらしく設置してある遮蔽物を。あれは、我々が上陸後あそこに集まる様に設置してあるとは思えんか。我々の行動が筒抜けだった証拠と言ってもいいだろう。あそこまで準備されている所を見ると、守りは万全と見るべきだろう」

「確かに不自然ですな。我々が来る前提で用意されているとしか思えません」

「ん、おそらく我々が港を出たときから監視されていたんだろうと思える。我々の動きは全て筒抜けだったのだと確信した。内部に内通者が居たのだろうか」

「分かっていて、奴らは何故我々を黙って上陸させたのでしょう?」

「理由は補給だよ。我々には補給が無い。あちらさん的には、戦わなくても勝てる状況だからな。守りだけ固めてじっとしていれば、味方に被害は出ないし、我々は時間が経つにつれて食料が無くなっていくから飢え死にするだけだ。私でも同じ事をするだろう。相手にも中々の知恵者が居る様だ。この事だけでも我々に勝機は無い」

「なるほど、どうせ降伏するのなら抵抗の意思が無い事を示した方が、その後の交渉をする余地があるんですな」

「そうだ、しかし血気にはやる者はどこにでも居るものだ。あいつらは痛い目に遭わないと分からない人種の様だ。暫く様子を見ようではないか」

 十三隻の船団は錨を降ろしたまま静観する事となった。二隻足りないのは途中で水漏れが激しくなって放棄したからだった。やはり、付け焼刃で造られた船なので、強度が足りなかったのだろう。二隻の乗組員と食料は他の船に移し替えてきたので、移された船の船内環境は想像を絶するものになったと思われる。

 強硬派が上陸して三十分程経っても敵は一切反応がなかった。睨み合いをしている内に陽が陰ってきてあたりは薄暗くなってきたが双方動きの無いまま夜戦へと移行していった。

 船からは良く分らないのだが、時々キラリと光る物が月明りの中に見える。おそらく強硬派が暗闇に紛れて敵の城に迫っているのだろう。見つかっていないとは思えないのだが覚悟の上なのだろう、我々には黙って見ている事しか取る道がなかった。

「ランドル様っ!後方から敵の船が、巨大な船が物凄いスピードで突っ込んで来ますっ!」

「やはり、待ち構えていたか。全船マストの先に白旗を掲げよっ!大至急だっ!攻撃はならんぞっ!」

「降伏の判断は正しかった様ですね、上陸して戦闘をしていたら、挟み撃ちにされて確実に全滅していました」

「うむ、勝てるとは思っていなかったが、流石にここまで完璧にはめられるとも思っていなかったぞ。いや、ここまで完璧にやられると笑うしかないな」

「ランドル様、笑っている場合じゃあないですよ、次の手を打たないと」

「次の手は考えてある。強硬派が全滅したら、私が行く。松明と白旗を用意してくれ」

「お一人で行かれるのですか?無茶なっ!」

「大丈夫だ。敵は手を出してこないさ」

「あっ、火の手が!」

 舷側で強硬派の動向を見ていた兵士が叫んだ。もうあたりは暗くなって来ているので火の手が上がったのが良く見える。おそらく、敵が火を使った何かしらの攻撃をかけたのだろう、やがて火の手は徐々に収まっていき、再び暗闇が辺りを支配した時には物音ひとつしなくなっていた。

「いよいよ私の出番だな。ヒューゴ後を頼むぞ、絶対に攻撃はするなよ。上陸船を降ろせ~っ!」

 ランドルを乗せた小型の上陸船が降ろされて行き、松明を赤々と灯しながら船は浜に向かって進んで行った。そう言えば敵の艦隊はどうなったのだ?

「敵の艦隊はどうなっているかっ!」

 ヒューゴは誰へともなく問いただした。

「敵艦は、我々から二~三百メートルの所で停船していまーす。攻撃をして来る気配はありませーん」

 完全に挟み撃ちだな、後はランドル様の話し合いに期待するしかない様だな。松明は、ゆっくりと敵陣に向かって進んでいる。攻撃はされていない様で良かった。


  その少し前、洋上には海岸に殺到する艦隊があった・・・

「速度おとーせぇ、速度半速、左に回頭だ とりーかーじぃ」

 コリンの命令と共に、二隻の巨艦は速度を落としながら左に旋回を始めた。敵船団と同航するコースを取りつつ速度を落として行った。

 敵船団の姿が徐々に大きくなって来た。

「艦長っ!敵船のマストに白旗でーす」

「攻撃は中止!警戒したまま待機。敵船と距離をとって停船するぞーっ!」

 コリンの顔には安堵の色が広がっていた。

「マリエ様、さすが知将ランドルです、己の置かれている状況が分って居る様ですね。無駄な戦いはしなくて済みそうで良かったです」

「艦長、まだ・・・」

「終わった訳では無い、気をぬくんじゃあない。  ですね」

 コリンは、いたずらっ子の様な顔をして笑っていた。

「うん、段々陽が落ちて来たから、敵の襲撃に気を付けてね。警戒は厳重に」

「はい、総員周囲への警戒を厳とせよ!油断するなよーっ!」


 海上で船同士の睨み合いが始まろうとしていた頃、ユタ海岸要塞では、少数の敵の突撃を火炎瓶で難なくくい止めて、次の攻撃に備えての準備に余念がなかった。

「レイモンド司令、敵の先鋒はちょっと拍子抜けでしたね。数も少ないし、何の策も無いただの無謀な突撃でしたが」

「あれは囮で、何か他に目的が有るのかも知れん、警戒は厳重にな」

「はっ!既に斥候を何隊か出して敵情を探らせております」」

「それでいい」

 まだ、本格的な戦いにはなっていないので、兵士達にはゆとりがあった。ただ、敵の先鋒がたかだか百名程度で突撃して来た理由が分らず、不気味ではあったのだが。

 暫く暗闇の中の睨み合いが続いたが、何隊か出した斥候の内一隊が敵の捕虜を捕獲して連れて来たとの報告が上がって来た。レイモンド達要塞守備隊の首脳達は捕虜の待つ一室に向かう事にした。

「捕虜には、礼を逸しない対応をしているのだろうな」

 急ぎ足で廊下を歩くレイモンドは報告に来た斥候の隊長に問い掛けた。

「はっ、向こうも礼儀正しかったものですから、こちらも礼儀正しく対応出来ました。どうも、先遣隊の指揮官の将軍だと言っておりましたが」

「将軍だとお?なぜ将軍が一人で敵陣に?意味が分からん。海上の方はどうなっておるか?」

「海上もこちらと同じくお互いに睨み合いを続けております。今だ戦闘にはなっておりません」

「そうか、誰かっ マリエ様達を呼びに行ってくれ、大至急だ。何か、想像していたのとは違う展開になっている様な気がする。後方におられるアンドリュー閣下にもご足労を願え。急げよ」

 矢継ぎ早に指示をだした要塞司令官のレイモンドは訳が分からないと言った感じで眉をしかめながら目的の部屋に向かった。

 やがて目的の部屋に到着すると、部屋の警備をしていた兵士がうやうやしくドアを開けた。部屋には、用心の為、特殊部隊のウイリーが警戒しながら先頭を切って入室した。次いで戦闘責任者のエドワード・アルトマン少将、数名の補佐官に続いて最後に要塞司令官のレイモンドが入室した。

 室内には立派な身だしなみの男が一人机を挟んでこちら向きで椅子に座っていたが、レイモンド達が入室して来ると立ち上がって出迎えていた。全身から醸し出す雰囲気は将軍と言って問題はないだろう。

 出迎えた敵方の指揮官の正面に立ったレイモンドは、ここに至って表情を和らげた。

「お待たせしました。当要塞司令官のレイモンド・ライルと申します」

「此度はお騒がせしまして大変申し訳ありません。ガリア帝国侵攻軍先遣隊の指揮官をしております、ランドル・ドネルと申します。階級は将軍であります」

「ようこそおいでくださりました、さっ、まずはお座り下さいランドル閣下」

 会見は穏やかな雰囲気の中で始まった。

「して、閣下。いくつか質問をしてもよろしいでしょうか?」

「はい、知りたいのは私の行動の真意ですな?」

「ええ、海路はるばる来られたのに少人数でしか攻撃をして来ないのも不思議ですし、後続の兵が降りてこないのも、閣下が単身来られたのも合点がいきません」

「でしょうな。順を追ってお話ししましょう」

 と、ここでレイモンドはランドルの話しを手で制止した。

「お疲れでしょう、まずはお茶でも飲んでからゆっくりとお聞かせ下さい」

 レイモンドが目で合図をすると従者が慣れた手つきでみんなの元にお茶とお茶菓子を用意した。

「さっ、冷めないうちにどうぞ」

「それでは、頂きます」

 一口お茶を飲んだランドルは目を見開いた。

「こ これは、戦場でこんなに美味しいお茶を頂けるとは・・・」

「気に入って頂けてなによりですな」

「いやいや、我が国では宮中でもこんな美味しいお茶は無いですぞ。貴国はなんと豊かな国なのだろう」

 お茶を飲み始めたとき、ドアが開いて国軍最高司令官のアンドリュー・エドワードが入室して来た。

「お、お茶会の最中でしたか、あ、そのまま そのままで結構ですよ。遅くなりましたが、エルトリア国軍最高司令官のアンドリュー・エドワードと申します。お見知り置きを」

 立ち上がろうとしたランドルを手で制止て自己紹介をするとレイモンドの隣に着席した。従者は素早くお茶を用意した。

「丁寧な挨拶恐れ入ります。自分はガリア帝国侵攻軍先遣隊の指揮官をしております、ランドル・ドネルと申します」

「ま、硬い話は後にして、まずはお茶でも楽しんでくだされ。まもなく、エルトリア最高軍事顧問殿が参りますれば」

「はあ」

 次々にやって来る高官に面食らっているランドルであった。なぜか、みんな最高顧問の話をした時にニヤニヤしたのか不思議でしかたがなかったが、ここは来られる迄待つしかないのであろう。

 それから、長い航海での苦労話しで盛り上がった面々であった。しかも初対面なのに、敵味方であるという事も忘れてしまう程の盛り上がり様で、廊下にも笑い声が漏れ出していた。

 廊下では、途中で一緒になったマリエと護衛のオスカーそれにチールネルゼン伯爵が顔を見合わせて、漏れ出て来る笑い声に面食らっていた。

 伯爵は、ドアの前の兵士を手で制止ドアを開けた。すると当然ながら全員の視線が集まった。みんなの視線など物ともせず、伯爵は異国の指揮官に向かって杖をつきながら歩を進め、その面前で胸に右手を当て、深々とお辞儀をした。

「おそくなりました、エルトリア共和国で政務顧問をしておりますチールネルゼン伯爵と申します。此度はエルトリア共和国の全権大使として参っておりますので、宜しくお願い致す。そして、このちんまいのがエルトリア共和国最高軍事顧問で艦隊司令官の・・・」

「マリエと申します。そしてこちらは私の護衛のオスカーと申します。どうぞ宜しくお願い致します」

 マリエとオスカーも伯爵をまねてうやうやしくお辞儀をした。

「なんと、こんな可愛らしいお嬢さんが、最高軍事顧問とは、いやあ参りました。完敗ですな。自分はガリア帝国侵攻軍先遣隊の指揮官をしております、ランドル・ドネルと申します」

 何が完敗なのか分からないが、取り敢えず、伯爵とマリエは席に着き、オスカーは壁際に下がって腕を後ろに組み待機の姿勢を取った。

「さて、どこまで話しがすすんだのかな?随分と和気あいあいとしていた様だが」

 伯爵は周りを見回してから、アンディーに問い掛けた。

「はい、伯爵とマリエ様の起こしをお待ちしておりました。詳しい話はこれからになります」

「あ  あの、本当に。本当にこの可愛らしいお嬢さんが最高軍事顧問なのですか?いや、疑っている訳ではないのですが、素直に信じられないといいますか、あのぉ、何と言ったらよいのか・・・」

 本当に困惑している感満載のランドルであった。

「はっ、はっ、はっ、信じられないのも無理はありませんな。こいつは、我が国が危機になると天から降りて来る女神でな、何度も助けられておるのじゃ。だがな、可愛いのは見た目だけでな、一旦戦いになると魔王もかくやと言う位えげつない戦いをするのじゃ。戦わなくて良かったですな」

「ぶーっ、おっちゃん、酷くない?その言い方!そんな事言うのなら、おっちゃん達の味方するの辞めてランドルさん達の味方しちゃおうかなあぁ」

「わはは、冗談じゃ、じょうだん」

 そう言って笑うと、マリエの背中をバシバシと叩く伯爵であった。

 そんな二人のじゃれ合いが目に入らないのか、じっと渋い表情でランドルを見つめていたオスカーがおもむろに声を発した。

「あの、申し訳ありません。自分の様な者が発言出来る場でない事は重々承知しておりますが、発言をお許し下さい」

 オスカーのあまりにも真剣な表情に何かを感じたのか、アンディーは頷いてから目で発言してもいいと合図した。

「ランドル様は、あのランドル様なのですか?帝国歴代最高の賢者と名高い、大将軍の片腕のランドル将軍なのですか?」

 ランドルは、ほう と感嘆の声をあげてオスカーを見つめた。

「いかにも、私はデミティアヌス様の片腕として辣腕を揮って来たランドルです。あなたは、私をご存じなのですかな?」

「以前、戦勝パレードでお姿をお見掛けしました。報告で、ランドル様が出て来られていると伺っていましたが、その姿を拝見するまで信じられませんでした。こんな先鋒で前線に出て来られる様なお方ではないはずです。ましてや、こんなお粗末な作戦を実行されるなど有り得ません。国の英雄が何でこんな危険な任務を?何でこんな無茶な作戦を?私には信じられないのです」

「そうですか。そんなに私の事を買いかぶらないで頂きたい。あの、猪将軍をお止めする事も出来なかったただの無能者ですよ」

 そこまで言うと、ランドルは姿勢を正した。

「今回の侵攻は、皇帝陛下の命令なのです。大将軍は陛下には逆らえません、こんな補給線を無視した作戦など作戦とは呼べません。私も散々無理だと諫めましたが、最後には投獄されてしまいました。出兵せねばならなくなった時、今回の降伏を決意しました」

 そこまで一気に喋るとお茶を一口飲んで一息ついた。

「ここまで来るだけで我々は性も根も尽き果てます。上陸したとしても戦いなど無理な注文です。あなた方は戦いに応じる必要はないでしょう、ただ、守りを固めてじっと待っていれば、我々は食料が無くなり自滅するでしょう。あなた方の作戦は最善の作戦でした。一体どなたの発案なのでしょう?」

 みんなは、一斉にマリエを見つめた。

「なるほど、あなたは戦いの何たるかを良くご理解されている様だ。さすが女神さまですね。我々には最初から勝ち目がなかったという事でしたか」

 ここで、黙ってきいていたアンディーが口を開いた。

「ひとつ分からない事があるのですが。何故、勝ち目が無いにもかかわらず、無謀な突撃をされたのでしょう?」

「申し訳ありません。あれは私の方針に従えない反対派の独断でした。お手数をお掛けして申し訳ありませんでした」

「なるほど、そうだったのですね。やっと、納得出来ました。で、今後の事ですが、どの様にお考えなのですか?」

 アンディーに話を向けられて、ランドルは震える手をきつく握りしめ、絞り出す様に話し出した。

「我々は無条件降伏致します。私の経歴や名誉などどうでもいいです。兵達の命に比べれば些細な事です。兵達を助けて頂けるのでしたら、私の処刑も甘んじて受け入れる覚悟であります。どうぞご自由に処分なさって下さってかまいません」

 ふむふむと顎を撫でていた伯爵はマリエを覗き込んだ。

「どうだ?お前さんの考えはどうかな?」

「ん、部下を思いやれる者は本当の武将だと思う。こういう人は中々得られるものでは無いと思う。処分するには惜しいと思うわ。ねぇ、ランドル将軍、さっきどの様な処分も甘んじて受け入れると仰ってましたわよね?」

「はい、男に二言はありません。どうぞ、遠慮なく処分を決めて下さい」

「おっちゃん、あたしが処分を決めていいかな?」

「ん?おまえが決めるのか?構わんが」

「じゃあ、処分を言い渡します。ガリア帝国の辣腕軍師殿は、今日この場で今、この時をもって死んで頂きます」

「おっ、おいマリエ」

 思わず伯爵が口を挟むが、マリエは意に介せずそのまま続けた。

「そして今、たった今から新しく生まれ変わって頂きます。皇帝と大将軍を処分しますので、その後のガリアを纏めて頂きます。よろしい?」

「え?皇帝と大将軍を処分ですって?そんな事が出来る訳が・・・」

「勿論、私達だけでは無理でしょう。だからあなたが解放軍を組織して私達をフォローするのよ。何でも受け入れるって今宣言したわよね?それとも、あれは嘘だったの?」

「い いや、嘘ではありませんが、あまりにも突拍子も無い話しなので・・・」

「ここに攻め込むのだって、突拍子も無いんでなくて?」

「確かにそうなんですが、具体的にどうするおつもりなので?」

「それは、これからあなたと一緒に考えるのよ。ガリア国内の事はあなたに聞くのが一番でしょ?男なら腹を括りなさいっ!」

 ガリアでこの人ありと言われた大賢者のランドルも八歳児の前では蛇の前の蛙の様だった。はたしてどんな返事をするのか、みんなの視線はランドルに集中していた。

 ランドルは、自身の四十数年の人生の中で一番難しい決断を迫られていた。確かに、国王にしてやると言われているのだから、美味しい話しなのではあるが、どう考えても可能とは思えなかった。出来る位なら既に自分でやっている。この女の子は一体何を考えているのだろう。女神だ?悪魔だ?わたしには只のほら吹きにしか見えないのだが。こんな子供に自分と国の未来を託してもいいものだろうか?ランドルの頭の中は高速回転していたが、結論が出なかった。

 受け入れると宣言してしまったのだ、失敗したら自分が全責任をとって処刑されればいいだけだ。今処刑されるのか、この先処刑されるのかの違いか。

「分かりました、微力ながら全力を尽くしましょう。ただ、一つだけ要望があります。兵の損害は最小限にお願いしたい」

「当たり前じゃない、損害を気にしないで戦うならバカでもできるわ。損害を出さない様に戦えるから賢者なんでないの?」

「いや、その通りですな、うん、その通りです。被害を出さない様にこの能力をフルにつかいましょう」

「そうと決まったら、最初の仕事をしてちょうだいな」

「船の中の兵達ですな?下船させてよろしいのですね」

「うん、アンディー下船した兵の対応よろしく」

「はい、夕食の炊き出しの用意をしましょう。宿舎は日が昇ってから造らせます。では、部下に指示を出して来ます」

 そう言うとアンディーは駆け出して行った。

「ランドル閣下、夕食はまだですよね、話の続きは食事が終わってからにして、取り敢えずは食事をしましょう」

 と言う事で話し合いはお開きとなった。マリエは、廊下に出ると特別展開部隊の司令官ウイリーを探して彼の元に行き小声で囁いた。

「たぶん、大丈夫だと思うけど、念の為、部下を展開させて彼らを監視させて頂戴、万が一に破壊工作でもされると面倒だから」

「御意、既に部隊に招集は掛けてあります。二十四時間監視を行います」

「悪いわね。お詫びに敵地一番乗りでもどう?(笑)」

「いいですね、期待しています。では」

 そう言うと、音も無く駆け出して行った。


 その後、作戦会議が深夜まで続いた。先遣隊が送られた経緯、ガリア国内の情勢、得られた情報は多かった。その情報を元に作戦案を練る事にした。勿論ガリア最高の賢者が関わっているのでこの降伏も高度な罠である事は否めないので、こっそりとガリア国内に展開中の連絡員を総動員して情報の裏取りが行われる事になった。

 ランドル将軍が一番驚いていたのは、出航以前から軍の動きが筒抜けであった事。ここまで筒抜けであれば、作戦の成功など願うべくもない事だった。彼としては、この逆の事をしたかったのだが、事すでに遅しだった。

 それと、反政府軍がハワード伯爵家の三男坊を首班としている事。大将軍の強引さに反対勢力がある事は知っていたが、まさか国内の、それも国内有数の伯爵家が反旗をひるがえしていたとは知らなかった様だった。もっとも、伯爵家は直接関与はしておらず、反政府軍の立ち上げは三男ジョンの独断であり内緒の資金提供は家宰であるベネディクト子爵の裁量であった。ジョンの傍にいつも控えている執事のセバスはベネディクト子爵の実の兄であった。そんな関係でいつでも心配なく潤沢な資金が得られたのだった。

 夜が明けてからランドルとアンディーとマリエは、兵達の説得を行った。万が一を考えて城壁の上からの呼びかけではあったが、兵達は全員一致で反政府軍への参加を了承した。ただ、兵達の心を掴んだのは、ランドルでもアンディーでもなくマリエだった。その光景は  そう、まさにアイドルのコンサートの様な状況だった。最初はマリエの演説が響き渡っていた会場も、次第に興奮のるつぼと化し、マリエの呼び掛けに拳を突き上げて応える兵士が続出しだした。マリエが手を振るとマリエの名前を叫ぶ大地を揺るがす様な叫び声が辺りに響き渡った。マリエ親衛隊ガリア支部の誕生の瞬間だった。

 戦務参謀のデビットは部下と共に、ガリア兵の中に入って行った。大工仕事の出来る者、穴掘りの得意な者、食料調達の得意な者、泳ぎの得意な者、白兵戦の得意な者、弓の得意な者、とにかく一人一人細かく聞いて回り、兵達の適正を調査して得意な者ごとに部隊を編成する為だった。兵達は皆協力的であったので作業は殊の外捗はかどった。

 昼食後、ランドルと副官のヒューゴは沖合に停泊している二隻の鉄製の戦艦を案内して貰っていた。浜から小舟で向かったのだが、近づくにつれそびえ立つ舷側に声も無く、口をまん丸に開けたまま真下から見上げていた。

「こんなに舷側が高いのでは、戦いの時乗り移って占拠できませんな。だが、あんな高い所まで縄梯子で上がるのは大変ではないのですか?」

 この世界での海戦は、相手の船に乗り移っての白兵戦が唯一の戦法だったので、ランドルがそう思うのも無理なかった。

「ははは、大丈夫です。乗艦の時はこの舷側下部にあるドアから入りますので」

 そう言うと、案内役のオスカーが舷側に接舷すると舷側からぶら下がっている紐を三回引いた。すると、ニメートル位上でドアが開き乗組員が顔を出した。

「ランドル様をご案内する、下の荷物搬入口を開けてくれ」

 乗組員が引っ込んで少しすると、一メートル位上の壁が横五メートル、縦二メートルの大きさで下に向かってゆっくりと開いて水平位置で停止し大きなプラットホームになった。更に端の部分が艦尾に向かって七十五度の角度で下がって階段となった。

「乗員は、通常あの小さいドアから入りますが今日は荷物搬入口からご案内します、さ、どうぞ。足元にお気をつけて下さい」

 艦内にはいると巨大な貨物室になっていて、出迎えの乗組員が二名待っていた。

「申告致します、オスカー他二名の乗艦の許可を願います」

 ぴしっと直立で敬礼するオスカーに、出迎えた乗組員も直立で敬礼を返し

「乗艦を許可する」

 なんと規律の正しい船だ。ランドルはここでも感心した。

 その乗組員は、申告受領が終わると笑顔でランドルの元にやって来て右手を差し出し握手を求めた。

「わたしは、本艦アルビオンの艦長をしています、コリン・グレイプと申します。あの名高いランドル将軍をお迎え出来て光栄に御座います」

「乗艦許可感謝致します。ランドル・ローマンと申します、今は只の敗軍の将です。それにしても素晴らしい船ですな、こんな凄い船と戦わなくて良かったと思います」

「さ、艦内をご案内致しましょう」


 一行は貨物室からボイラー室へ

 部屋に入ると熱気が押し寄せて  来るはずなのだが、現在はボイラーは停止しているのでひんやりとした空間だった。

「この部屋はボイラー室と言いまして、石炭と言う燃える石をここで燃やして動力を発生させます。その動力で艦の両脇に有る水車を回して進みます。風が無くても、漕ぎ手が居なくても高速で都央時間航行が出来ます」

「なんと!これは、、、神の御業みわざですか?」

 思わず口からこぼれ出たセリフだった。

「いえいえ、きちんとした技術ですよ。多少ぶっ飛んでいますけどね」

「こんな技術、一体どこから手に入れたのですか?普通有り得ないでしょう」

 思わず艦長に詰め寄るランドルだったが、艦長はにこやかにそれを制して一言。

「神のおぼし召しです」

 それを聞いてランドルはがっくり肩を落とすも、

「そうですよね、他国に戦を仕掛ける国になんか、この様な技術は授けて貰えませんよね、うん、納得しました」

 その後も艦内を見学して回ったランドルは晴れ晴れとした顔をしていた。

「この船に使われている技術は我々より優に百年は進んでいるでしょう。この技術があれば皇帝打倒も不可能ではないと確信しました。皆さん、ご強力お願い致します」

 深々と首を垂れるランドルであった。




『異世界転移は義務教育 ふたたび』

始まりました。

今回は、海戦物となるみたいです。

みたいと言うのは、マリエが勝手に動き回るのを、書き留めていくだけの作者なので

話しがどこへいくのかは、作者も知らないのです。

頑張ってマリエの活躍を書き留めていきますので

応援宜しくお願いします。

宜しければ、ブックマークお願いします。


P.S.

『異世界転移は義務教育 ふたたび』は、毎週金曜日か土曜日にUPする予定です。

余裕があれば、週の半ばにもUPしたいです。

勉強しながら書き進めて参ります。


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