1.新たな旅立ち
マリエの異世界冒険第二弾です。
好き勝手に書いて行きますので、宜しくお願いしますね。
本作品に登場する国・人物は架空のものであり、現実とは何の関係もありません。
似たような物を見た記憶があっても、気のせいです。念のため。
あたしの名前は、まりえ。職業は・・・学生なのだ。
今は、西暦二千百二十三年四月。日本は少子化の影響で子供の数が激減し生徒が集まらなくなり私立の学校は次第に数を減らし公立の学校も統廃合を繰り返した。事態を重く見た国はやっと重い腰を上げ三十年くらい前に今までの学校制度を廃止し自宅でのリモートワークをメインとする教育形態に移行した。母様の子供の頃は小・中・高・大っていう学校があって毎日通学してたらしいが、今子供達で通学するのは、医療系や介護系、技術系、運動系の一部の学生だけ。ちなみに、あたしのクラスには福島から山梨までの生徒が居る。リモートスクールならでわだ。あたし達一般人は、四歳で国営のリモートスクールに入りネットで勉学に励み十八歳になると卒業して就職する。更に勉強したかったり、資格を取りたい人は専門の学校に行く事になる。
運動会や遠足、文化祭や修学旅行なんてものも昔はあったらしいけど、今は無い。記録映像でしか見たことがない。小中高の区別は無くなり、国営のリモートスクールで15年の一環教育となっている。
でもいいことばかりでなく、他人と接触しなくなり、団体行動や社会活動を経験する機会も皆無となってしまった。そこで教育省とIT省が共同で超スーパーコンピューターロジコマによる仮想空間を造り、学生生活最後のカリキュラムとして、最終学年は仮想空間にて1年間社会活動を経験する事が義務となった。
あたしも、去年最上級生になり異世界に行って色々な経験を積んで来た。が、なぜか認められずに留年となってしまい、今年再度異世界に行く事になった。
原因は全く分からず、あたしは再度転送されるのを待つ身の上になった。
あたしは、次回の転移に備え向こうで困らない様に、毎日ネットを駆使してあらゆる雑学を詰め込んでいた。
そして、あたしは今ここに居る。こことは、ここである。
それ以上の事は分からない。だって、いきなりここに居るんだもん。分かるのは、今は昼間だって事とやや暑いって事だけ。四月なのにやや暑いって事は南の方なんだろう。あたしの回りには人っ子一人居ない。これで社会活動になるのか?
そして、一番大事な事は、あたしの手足が短くなっている事。さすがに八頭身とは言わないけど、それなりのスタイルはしていたはず。それなのに今のあたしの手足の長さは、以前の半分?そうねえ、七、八歳程度の長さしかない。これはえらいこっちゃ ですよ。只でさえ異世界で生活するのって大変なのに、子供になっちゃったら、どうやって生きて行けばいいんだ?また、浪人しろって事なのか?あたし、役人を怒らせる様な事、したか?
いやいや、今そんな事ブツブツ言ってもしょうがない。とにかく、生き延びないと。まず、ここはどこっ!そこから解決して行かないと。
周りを見回すと、そう、これは、たぶん、ネットで見た、じゃんぐる と言う奴に似ているかも。物凄い鬱蒼とした森の中にぽつんと一軒家 じゃなくって、佇んで居ります。はい。
とにかくここから出ないと、何が襲って来るか分からないもん。でも、どっちに行ったらいいんだ?森で迷子になったら川を下ればいいって書いてあったな。川は?だめだ、まったく水の音がしない。しかたがない、標高の低い方へ・・・だめだ、まったくの平地だ。
しかたがない、とにかく真っ直ぐに進めばどこかに出るでしょう。短い足でよちよち歩こうではないか。
歩き出したはいいが、短い足では歩きにくい。下草は足に絡まるし、倒木は乗り越えられないので迂回しなくてはならないしで時間の割に全然進んで行かない。おまけに、暑いせいで喉が乾く~。
「喉が渇いたあぁ」
ありゃ、声も幼くなっている。もしかして、あたし、子供として転移させられてしまった?もしかして、留年するとハンディが付くの?
んもおおおおおおぉぉぉぉ 毎回なんなのよおぉ。
ガサリ
ぎくっ、今なんか音がした?草を掻き分ける様な音が・・・
あたしは、周りを見回した。どこ?どこ?
ガサガサっ
こっちかあぁ、あたしは音のした方向、そう、あたしの左の方を見た。逃げなきゃ、逃げなきゃ、でも足が動かない。前回の転移の時は魔王だったから怖い物無しだったけど、今回は幼女。十分にきょわい! いや、怖い。
えーん、だれかあぁぁぁっ。
そんな心の叫びは誰にも届くはずもなく、運命はあたしに死刑宣告をした。そう、草むらからそいつが顔を出した。
低い姿勢から突き出したつるんとした顔。その表面はうろこの様な皮膚に覆われていた。全身はメタリックな赤紫。口からは舌が出たり入ったりしている。その先は え?三つ?三つに分かれている?
そう、草むらから顔を出したのは、あたしの知る限りでは とかげ?あれ、何ていったっけ?あ、そうだそうだ、がらぱごすおおとかげだっ!色は変だけど。
身の丈三メートルはあろうおおとかげだった。
どうしよう。逃げる? でも足が動かない。 食べられる? それは嫌。 戦う? それしかない?あたし、ゲームの勉強もして来たんだからね。魔法でやっつけちゃうんだから。
あたしは、ゲームの真似をして、右手を前に出して叫んだ。
「ファイアー!」
だめ、何も起こらない。だったら
「サンダー!」
これも駄目だあ、
えーっと、えーっと、後なにあったっけ?
なんて考えていたら、とかげが突進してきたーっ!
「いやあああぁぁぁぁぁっ!こないでええぇぇぇぇっ!」
あたしは、へたり込んだまま恐怖のあまり、両手を前に出してとかげを止めようとしていた。もちろん、無意識に。
「・・・・・・・・・・・・」
おかしい、とっくにかじられているはずなのに、何も起こらない。
どうなっているんだ?怖いけど、あたしはそうっと目を開けてとかげを見た。
「!!!」
どういう事?とかげが前に進めなくなっている。いや、正確には僅かづつ接近して来ているようだ。どうしたんだろう?さっきのあたし位の速度で接近しとうとしている。もしかして、逃げ切れる?
あたしは、恐る恐る立ち上がってくるっととかげを背にして、駆け出そうとした。そのとたん
「うひゃああああぁぁぁぁっ!」
前方の木が物凄い勢いで迫って来たっ!
あたしは、思わず両手で木を受け止めようとして両手を突き出した。
バキバキっ!!
その木は、周りの木を巻き込みながら彼方に吹き飛んで行った。
あたしは、状況が理解出来ずに立ち尽くしてしまった。
「????????」
これって・・・・・・。
あれだよね。
木が迫って来たのでなくて、あたしが木に向かって突進 した? でも、あたし、そんなに早く走れないはず。よね?そう、あのとかげみたいにちまちまとしか
「!」
まさか?入れ替わった?あたしととかげ。あたしのもたもたした脚力がとかげに行って、とかげの剛脚があたしに?
あたしは、思わず自分の短い足をみたが、そんなに筋肉もりもりにはなっていない。よかった。
ううううんんんんんっ。
能力だけを吸い取ったって事?だから、木も吹き飛ばせた?
うーん、うーん、ま、ここは異世界だから何が起きてもおかしくはないか。
と、言う事はあのとかげの腕力や脚力は幼女並みって事?ちょっと確かめてみたいかも。
あたしは、落ちていた木の枝を手にとかげの元に近づいて行った。どうせ、本当なら助からないんだし。もう何も怖くないじょ でなく、ないぞー。何か言葉が変だが、今はどうでもいい。
もたもた歩いて来ているとかげにそろそろっと近づき、横に回り脇腹を木の枝で突っついてみた。
やっぱり!木の枝がとかげの脇腹に突き刺さった。とかげは痛そうにもがいて居る。あたしは調子に乗ってとかげの後ろに回って尻尾をむんずと掴んだ。
本来なら尻尾の一振りで吹き飛ばされているはずなのだが、異様に力が弱い。あたしの筋力がアップしている証拠だった のか?
そのまま、尻尾を掴んだまま砲丸投げの選手の様にぐるぐると回転してみた。すると、おそらく何トンもあるであろうとかげが軽々と振り回せてしまった。
やっぱり、あたしは強くなった のか?
信じられないが、信じるしかないようだ。そのまま手を離すととかげさんは飛んで行ってしまった。
なぜこんな事になったか分からないけど、とりあえず、この森から出よう。あたしは手に入れた能力で森を駆け抜けた。あまり速度を上げると木にぶつかるので、軽く流す様に走り、三十分も走っただろうか、突然視界が開けて森から抜け出す事に成功した。
森から抜け出たあたしは砂浜に立っていた。そうか、ここは海沿いだったのね。海ならこの浜を走れば、誰か人間に出会うだろう。
あたしは、砂浜を走った。しかし不思議だった、本来なら一分だって走れないのに三十分も森を走れて、あまつさえ今は浜を走っている。いったいどうなっているんだろう?スタミナも貰っちゃったのかな?ラッキー
途中喉が渇いたので川を探したのだが、川は見つからず、窪みに雨水の溜まった岩を見付け、その水で渇きを癒した。
まだ体力がありそうなので、あたしは又走り始めた。きっと産まれてきてから走った距離より今日走った距離の方が長いかもしれない。いや、絶対に長い。
「ん?」
前方に砂浜が途切れている場所が見えて来た。川?河口なのかな?少し速度を落としながら近づいて行くと、確かに河口の様になっているのだが、何か違和感を感じる。河口は森の木に覆われていて、巨大なトンネルの様になっている。河口にたどり着いて奥を覗き込んでいたら、不意に声を掛けられた。
「おいっ、お前誰だ?見た事が無い奴だな」
いきなり後ろから声を掛けられてビックリして振り返ったら、更にビックリしてしまった。そこには、剣を持った若い衆が三人も立っていたのだ。なんなの?剣?あたし、警戒されているの?どう対処していいのか分らずにじーっと見返していたら、一番年長者と思われる人が突然笑いだした。
「はっはっはっ、アラン、こんな小さい女の子に剣を向けるもんじゃないぞ。ほれ、ビックリしているじゃないか」
そう言ってあたしの前にしゃがみ込んであたしの頭に大きな手を置き、にこにこと聞いて来た。
「お嬢ちゃんは、何でここに居るのかな?名前は?他に誰か居るのかな?」
うーん、小さなとかお嬢ちゃんとか、言われたのは何年ぶりだろうか?あたし、そんなに小さくなっているの?
「あたちは、まりえ。一人。気がちゅいたらここに居た」
!!!? な なんだー?あたち だとぉ?気がちゅいたら? なんじゃ、この幼児言葉わっ!!舌が回らないのかあぁ?
「しょうかしょうか、お嬢ちゃんはまりえちゃんって言うんだ。気がちゅいたらここにいたのね。船から落ちたのかな?とりあえず、こっちにおいで」
うわあぁぁぁぁっ!恥ずかしいから幼児言葉はやめてくれえぇぇぇっ!
そのまま、抱きかかえられて森の奥に連れて行かれた。この短い足で歩くのは大変だからしかたがないか・・・
あたしをどうするつもり?森の奥に集落でもあるのか?とにかく、今は大人しく幼女をしているか。状況が分からないと動き様も無いからね。
服装からすると、農民では無さそうだな。貴族でもなさそうだし、一般市民か?でもなあ、三人共剣を持っているし、鍛え上げた体をしている感じがする。動きに無駄が無い。戦闘職なんだろうか?そもそも、ここはどこなんだ?まずは、そこを探らないとだな。
三人共、一言もしゃべらず、かなりの速度で森の中を歩いて行く。冒険者なのかなあ?服装は、動きやすそうで無駄の無い軽装。でもみすぼらしくはないし、清潔感もある。髭を生やしている人も居るが、ちゃんと手入れもされている様だ。
などと、いろいろ観察をしていると、急に開けた場所に出た。そこは、ログハウスの様な家がいくつも並んだ集落の様だった。それも、かなり大きい。こんな森の中にこんな大きな集落があるなんてビックリ。村と言うより街ね。なんだろう、凄い違和感のある街なのよ、ここ。周りを見回していたら違和感の原因が分かった気がする。
三人は真っ直ぐに中心に有る大きな建物に入って行く。ここが目的地か、ちょっと緊張するなあ。だって、あたし内気で引っ込み思案なんですもの。
「御屋形様、ただいま戻りました」
あたしを抱きかかえている人は、こちらに向いて椅子に座り執務机で何やら書き物をしている人物に直立不動で報告をしている。ん?直立不動?
「ご苦労。ん?どなたかな?そのお嬢さんは?」
だよねえ、場にそぐわないよねぇ、あたし。
「はっ、浜で拾いました。放置する訳にもいかず、連れて来ました。どうも、船から落ちた様であります」
あたしは、床の上に降ろされた。
「ほうほう、お嬢ちゃんは、どこの国から来なさったかな?」
うーん、一番に聞きたいだろうけど、一番聞いて欲しくない質問ではある。日本から来ましたって言えればいいんだけど、そうもいかないからなあぁ、どうしよう。
仕方が無いから、あたしは頭をゆっくり横に振った。ここは、白を切る一手だ。
「ううん、記憶でも無くしたのか。放り出す訳にもいかんか、ハリー、オリビアに預けて面倒を見て貰いなさい」
「はっ、直ちに手配を致します。では、失礼致します」
三人は、礼をするとあたしの手を引いたハリーと呼ばれた兄さんを先頭に部屋を出た。礼儀正しさ、言葉使い、立ち居振舞い、これは軍隊だな、さっき集落の中での違和感の理由が確信に変わったきがする。集落なのに、お年寄りと子供がまったく居なかったのが違和感の原因だわ。軍隊なら若者だけなのも頷ける。
「どうしたのかな?難しい顔をして」
黙って考え込んでいたあたしに、ハリーが訊ねて来た。
「んーん、なんでもにゃい」
うーむ、なんかしまらないなぁ。しゃべる練習しないとだめだわ。
ここが軍隊だと思って周りを見ると、違和感が無く見れる。みんな若いし、キビキビ歩いている。やはり軍隊なんだね。でも、なんでこんな森の中に居るんだろう?アランと言われた兄さんともう一人は途中から別れて行った。ハリーはとある家の前で立ち止まりドアをノックした。
「オリビー、入るよ」
ドアを開けると中には二十台半ばと思われる女性が剣を磨いていた。
「あら、どうしたの、ハリー」
「実はなぁ、この子なんだが、ちょっと面倒みたやってくれんか?」
「えっ?どうしたのその子」
「浜で拾った。御屋形様がオリビーに頼めって。すまんが頼むよ」
ハリーは、両手を擦り合わせてペコペコ頭を下げている、なんか力関係が判る光景で笑いを堪えるのが大変だった。ぷぷぷ
「仕方がないわね。これで貸し四つね。忘れないでねぇ」
「ううう・・・」
剣を置いて立ち上がったオリビーは でかかった。出かかったじゃあない、それじゃ、〇ンチになっちゃう。大きかったのだ190センチ位は有るだろうか。あたしの前まで歩いて来てしゃがんだが、、、しゃがんでもあたしよりでかかった。
「お嬢さん、お名前は?」
にっこりと微笑んで聞いて来るオリビーは、物凄い美人で、女のあたしでも赤面してしまい思わず後ずさりしてしまった。
「ま まりえ」
「そっか、マリエちゃんね。あたしはオリビア。オリビーって呼んでね。お腹空いてなあい?何か簡単な物用意しようねー」
「後はやるから、行っていいわよ、ハリー」
そう言うとさっと立ち上がって奥へ歩いて行ってしまった。あたしは、呆然と立ち尽くすのみであった。
「じゃ、お姉さんの言う事をようく聞くんだよ」
そう言うとハリーは出ていって、あたしは一人部屋の中に残された。
取り敢えずする事が無いので、室内を観察して気が付いた事があった。物が無い。一般家庭なら多少なりと不要とも思える物があるものだが、必要最低限の物以外何もない。あんな、若い美女の家には不釣り合いな位殺風景だった。生活感が感じられない。やはり軍隊の何かしらの施設よねぇ。変な所に来ちゃったなぁ。
キョロキョロとしていたら、オリビーがパンと豆のスープを持って戻って来た。
「どうしたの?珍しい物でもあった?」
にこにこ微笑みながら食事をテーブルに置いて、自分も椅子に座った。あたしの反応を楽しんでいるのかな?なら、期待に応えないといけないかな?
「ここは、軍の施設なんでしょ?いただきましゅ」
あたしは、スプーンでスープを口に運びながら、ど直球で返事を返した。思った通りオリビーの目が鋭くなった。当たりの様ね。
「ハリーから何か聞いたのかな?」
あくまで冷静に返事を返してきたけど、目が笑っていませんことよ、おねえさま。
「ううん、何にも。でも、ばればれじゃない?」
「あらあ、どうしてバレバレなのか、お姉さんに教えてもらえるかしら?」
ますます、顔はにこやかなのに、目だけは鋭さ増し増しになってきております。
「まずは、みんな、キビキビしていて姿勢がいい、あきらかに訓練を積んでいるのが見え見え。それにこの集落には年寄りと子供が居ない事。部屋の中が不自然に殺風景。みんな、同じ革靴はいてる。もっと聞きたい?」
オリビーの顔が驚愕で固まっている。驚かせ過ぎたかな?秘密を知ったから始末されるかな?
「いい、いい、まいったわね、あなたなにものなの?」
オリビーは、両手を上げて降参のポーズをしている。
「ただの子供よ。みんな冷静に見れば判る事でしょ?」
眉間に皺を寄せてあたしを凝視しているオリビー。信じられない物を見たっていう顔をしているわねえ。驚かせ過ぎたかな?
あたしは、澄ました顔で黙々と食事を頂かせて貰った。だって、お腹空いていたんだもん。
「んー、美味しかった。ご馳走様でした、お姉さま」
あたしは、にこっと微笑んだ。
オリビーは、暫く難しい顔で何やら考えていたけど、意を決したのか、いきなり立ち上がった。
「ちょっと来て頂戴」
さっきまでの温和な顔で無くなっている所を見ると御屋形様の所にでも連れていくのかな?
あたしは、手を引かれて歩き出した。やはり、さっきの建物に向かっていた。きっと、今後の対応についての指示を貰いに行くんだな。ま、いつでも逃げられるから、暫くは様子をみようかな?情報も欲しいしね。
御屋形様の家の前に着き、階段を登り、いきなりドアを開けるなり叫んだ。
「御屋形様、宜しいでしょうかっ!」
「オリビーか、どういたした?」
「この子、とんでもない子でした。あたし達の正体を知っていますっ!」
「知っている?どういう事だね?」
御屋形様は、持っていたペンを置いてあたしに視線を送ってきた。
「この子、いきなりここは軍の施設だろうって言うんです」
オリビーは、先ほどのやり取りを詳しく説明した。
「なるほど。なかなか、興味深い子供のようだ」
御屋形様は立ち上がり机を回ってこちらに来てあたしの前に立った。
「さ、お嬢さん、お座りなさい。少しお話しをしようじゃないか」
あたしを長椅子に座らせて、自分は向かいに座った。オリビーはあたしの後ろに立っている。
「さて、お嬢さんは我々の事をどう考えているのかな?」
御屋形様は、ウエーブのかかった金髪を後ろに撫で上げている。端正な顔つきでブルーの目が綺麗なおじ様って感じね。悪くないわよね。歳は三十ちょい過ぎかしらね。
「そうね、軍の特殊部隊って所かしら。普通の部隊ならこんな森の中に潜んでいたりしないでしょ?浜で見た河口みたいなのは船の出入り口なのかな?だとしたら、海軍の特殊部隊?」
すると、突然御屋形様は笑い出した。
「わっはっはっ、いやあ大したもんだ。まだ年端も行かないのにたいした観察眼だ。いやあ、まいった、脱帽だよ」
なんか、凄く楽しそうだ。てっきり敵視されるかと思っていたので、ちょっと拍子抜けしちゃった。
「自己紹介が遅れたね。俺はジョン・ハワードここの司令官だ。で、ハワード伯爵家の三男坊だ」
「ハワード様、宜しいので?正体不明の者にその様な事を話してしまって」
オリビーは、慌てて諫めるがこのハワードさんはとても嬉しそうだ。
「かまわん、この子は信用出来るようだ。オリビーは、俺の敵と味方を判別するスキルを覚えているな?この子は大丈夫だ」
「はぁ」
「しかし、不思議な娘だ。外見はせいぜい八歳程度なのだが、俺のスキルは二十歳位だと言っている」
ぎくっ、なんてスキルを持ってるんだ、このおっさん。ばれてるじゃん。
「俺の所属しているのは、ガリア帝国と言う。皇帝のケンタウロ十四世は野心の塊のお方でな、常に版図の拡大を狙っている。我がハワード伯爵家は皇帝のやり方には反対だ。しかし、表立って反対は出来ない。そこで、三男の俺が密かに軍を起こしてここに立て籠もっているという訳だ。あくまでも、ハワード伯爵家であると分からない様に海賊として活動をしている」
「ほへー、国営の海賊?」
「ははは、ま、そんな所だな」
「で、海賊として皇帝の侵略を防いでいると」
「微々たる抵抗なんだがな。今は力を蓄えている所さ。近々我が国の西にあるエルトリア共和国という所に攻め込もうという動きがある。かの国は五年程前に大規模な内戦をして国内が疲弊している」
「そこを攻めようと?」
「うむ、かの国に攻め込むには海のルートしかないのだよ。陸は間に巨大な山脈があって越えられないのだ」
「それで海賊なのね」
「うむ、攻め込む皇帝の船団を襲撃するには、この海賊島が丁度良いのだよ」
「海賊島?ここって島だったんだ。で、戦力的に対抗しうるの」
「むむむ、痛い所を突いてくるなあ、所詮私兵だからなあ、戦力的に国軍とは真っ向から戦えない」
「奇襲中心になるのね?」
ジョンはオリビーに向かって肩をすくめて見せた。
「な?たいしたもんだろ?この子。我々と対等に会話が出来るんだよ」
「はい、驚きました」
「敵の船を攻撃する武器は?」
「武器?敵の船を襲う時は、横づけして乗り込んで白兵戦が基本だが?」
「それじゃあ、損害がばかにならないじゃない。人数の少ないこっちの方が不利なのは自明の理でしょうに」
「ほう、難しい言葉を知っているなぁ」
白兵戦がメインだなんて、なんて原始的な戦いをしているんだろう、ここの人は。しょうがないなあ、面倒な事には首を突っ込みたくないんだけどなぁ。
「ね?あたちに船を見せて貰えます?もしかしたら、なにかアドバイス出来るかもしれないわ」
あ、ふたりで顔を見合わせていますね。子供の戯言とでも思っているでしょう。ま、仕方がないけどね。
「オリビー、宜しく頼む」
「はい、承知しました」
え?え?こんな得体のしれない子供の言う事、真に受けるの?自分で言っておいてなんだけど、いいの?こんな小娘の戯言聞くの?
「さっ、行くわよ」
オリビーに促されて部屋を出た。あたしは、思わずオリビーの事を見上げちゃった。
集落を横切り、又森の中に入っていったが、今度はちゃんと道が作られていて歩きやすかった。人の通りも多く、途中何人もの人とすれ違った。
「おっ、オリビー隠し子かあぁ?」
「誰の隠し子だあ?」
「御屋形様の隠し子?」
なんだろう、ここには基本子供が居ないせいなのか、すれ違う人はみんな誰かしらの隠し子だと思うらしい。一番多かったのは、やはりオリビーのようだ。いちいち反応するから、からかう方もからかい甲斐があるのだろう。
そうして歩いていると、突然森が切れてかなり広い湾に出た。湾と言っても只の湾じゃない、森の中の湾だ。ホント秘密基地だわ。向こう岸まで一キロ以上はあるだろうか。岸には、木造の作業場みたいな建物が数多く並び、桟橋には全長百メートルはありそうな巨大な帆船が二隻。その半分以下の小さな帆船が、んーと、一杯(笑)
森に隠された秘密の港?なんか、かっこいいかも(笑)
原子力船なんて当然無くて、まだ帆船の時代なのね。それも、初期の帆船?なんていったっけ、ほらムカデみたいに両脇に脚が一杯出ているやつ。ああ、そうそう、ガレー船。あんな感じ?ひょろっとしたマストに申し訳程度の帆が付いて居て、両脇に無数のオールが出ている奴。船体は木製で松脂の様な物が塗られていて、全体に真っ黒ね。武装は無いんだぁ、だから接舷して乗り込むしかないんだ、納得。
「ね、ここって、製鉄は出来るの?」
オリビーは、一瞬驚いた様だったが、胸を張る様に答えた。
「もちろんよ。ほら、あの海沿いにあるのが鍛冶場よ。何だって作れるわよ」
「鉄があるのに船は木製なのね?」
「あはははははは、しっかりしている様でも、まだ子供ね。いい?鉄は重いの。だから鉄で船を作ったら沈んじゃうのよ」
「・・・・・・・」
そっか、この時代はそんな認識なんだ。どうやって説得しようかな。前途多難だわ。子供向けの理科の実験でもしないといけないかもねぇ。
「ねえオリビー、もう一回ジョンの所に行こう。頼みたい事があるの」
「頼みって?変な事考えていない?」
「変な事じゃないよ。大事な事」
「ほう、どんな大事な事なのかい?」
振り向くとジョンが立っていた。いいタイミング。
「ね、ジョンも鉄で船を作ったら沈むと思うの?」
「いきなり何の事を言って居るんだい?」
笑いをこらえながら、オリビーがジョンに説明する。
「この子ったら、鉄で船を作るって言うんですよ、そんな物作っても沈んでしまのに。まだ子供なんですねぇ」
まだ笑ってるし、このおばちゃん。
「じゃあ、聞くね。食器は何で出来てるの?」
「そりゃあ、陶器でしょ」
「陶器は何から作る?」
「土に決まってるでしょ?何当たり前な事聞いてるの?」
「土は水に浮く?」
「浮くわけ無いでしょう」
「じゃあ、陶器で出来た湯呑も浮かない?」
「えっ?そ それは・・・」
「陶器の破片は水に浮く?浮かないよね?なら、なんで湯呑は浮くの?」
「・・・・・」
「なるほど、そういう事か。そこまでは考えが及ばなかったなぁ。湯呑みたいな形にすれば鉄も浮くのか」
「そうだよ。ねえ、鉄って沢山あるの?」
「ん?鉄かぁ、それなりに有るが、ここの近くに有る島で鉄が産出されるから必要なら取り寄せられるぞ」
「船の強化と武装を搭載したいんだけど」
「武装を?」
「そう、今みたいに白兵戦してたら数で劣る海賊さんに勝ち目は無いから、武装して遠くから一方的に敵を叩くの。戦いは直ぐにでも勃発しそうなの?」
ふっふっふっ、あたしは一方的に叩くのが好きなのだ。正々堂々と後ろから闇討ちする それがモットーだもん。
「いや、まだ先の事だろうと考えている。だから、精鋭を集めてここで準備をしているんだ」
「なら、何とかなるかも。数で勝てないのなら、武装の優位性で勝つしかないでしょ?」
「うーん、なんだか、海戦の専門家と話している様な錯覚を覚えてしまうのだが、ほんと、君は何者なんだい?」
「うん、内緒だけどある国で軍事顧問をしていた事もあるの。信じる?」
「あははは、君はいったい何歳なんだい?でも、信じよう。俺の心が信じろと囁きかけるんだ。で、どうしたらいい?」
「まずは、作戦会議ね。ジョンの部屋に鍛冶屋の責任者と造船の責任者を呼んでもらえます?そこで、詳しく話します」
「分かった。オリビー、直ぐに呼んで来てくれないか?」
「了解しました。失礼します」
オリビーは、体をひるがえすと作業小屋に向かって走っていった。
やれやれ、また忙しくなっちゃったよ。
『異世界転移は義務教育 ふたたび』
始まりました。
今回は、海戦物となるみたいです。
みたいと言うのは、マリエが勝手に動き回るのを、書き留めていくだけの作者なので
話しがどこへいくのかは、作者も知らないのです。
頑張ってマリエの活躍を書き留めていきますので
応援宜しくお願いします。
宜しければ、ブックマークお願いします。
P.S.
『異世界転移は義務教育 ふたたび』は、毎週金曜日か土曜日にUPする予定です。
流石に毎日はきつかったです。