断じてデートではないがデートだったら最高
映画を無事に観終わり近くのレストランで休憩する千鶴と優斗。
「うぅ……ごめんね、なんか泣いちゃって…」
「たしかに最後は感動するよね」
まだ映画の最後の感動シーンを思い出して涙が出そうになるのを堪えて話す千鶴。
「優斗はどうだった?」
「結構よかったよ、最後まで楽しめた」
「分かる。めっちゃよかった、特にーー……」
「(本当に楽しく話すよな〜、まぁそこが可愛いんだけど)」
熱く語る千鶴を可愛いと思いながら聞く優斗。
「ーーへいっ!お待ち!!」
突然、店員から差し出されるパフェ。
「えっ?いや俺達注文は……って真理?」
「ま、真理!?」
差し出してきた店員は千鶴と優斗の同級生の真理だった。
「よっ!まさかこんな所で会うなんて」
「真理なんでここにいるの?」
「なんでってそりゃバイトだからだよ」
「そうだけど、なんか意外」
「意外とはなんだよ、まぁ別にいいけど」
「いいんかい、ところでこのパフェ頼んでないんだが?」
「ああそれは奢り…」
「マジ?」
「優斗から千鶴への奢り」
「はぁ!?」
「なんだよ、彼氏くらいなら当然じゃないか?」
「か、彼氏?」
「違うのか?てっきりデートかと思ったが…まぁいいじゃないか、はい。領収書、んじゃごゆっくり〜」
一方的にパフェを置いてさらにはきっちりと領収書まで置いていき仕事に戻る真理、呆然とする千鶴。
「本当にアイツはどっからでも現れるな、なんかごめんな真理のせいで話が止まって」
「ーーん!?いやいや大丈夫。それよりこれどうしよう」
「ああそれは千鶴ちゃんが食べていいよ、真理が言っていたように俺の奢りにするから」
「ほ、本当にいいの?」
「うん」
「じゃあ、いただきます…」
申し訳なさそうに恐る恐るパフェを食べる千鶴。
「…おいしい」
「そうか…よかったな(真理の奴、余計な事をしたと思ったがナイスだ)」
美味しそうに食べる千鶴の顔を見て満足する優斗は真理に感謝する。
「(どどどうしよう、美味しいけど優斗がずっとこっちを見てる〜、奢ってもらったのは嬉しいけどやっぱ一人で食べるのはダメだよね、さすがに酷い女と思われちゃうよね)」
千鶴は食べながらずっと見てくる優斗に困惑していた。
「ゆ、優斗食べる?」
「おれ?いや、いいよ(美味しそうに食べる千鶴が見れるだけで満腹だ)」
「でも…美味しいよ?(せめて一口いや二口は〜…)」
遠慮する優斗に奢ってもらった分一口でも返そうとする千鶴は自分が持っていたスプーンで一口分すくい上げ優斗の目の前に運ぶ。
「一口でもいいから食べてみて、美味しいから」
「えっ!?で、でも…(あれ?そのスプーンさっきまで千鶴が使っていたスプーンでは?)」
「ーーハッ!ごめん、つい…自分が使ったスプーンは嫌だよね(何やってるの私!無意識でもそれはマズいでしょ〜)」
無意識に自分がやっていたことに気づいて千鶴は新しいスプーンを手に取り再びすくい上げ優斗に渡す。
「悪い、ありがとう」
「うん…」
「たしかに美味しい(平常心だ、乱したら変な空気になる。平常心…だけど……)」
「…でしょ(やらかした〜、完全に汚い女だと思われた…けど……)」
「「(…惜しかった)」」
ほんの少し期待した二人は同時に悔しがる。
そしてレストランを出る二人は帰路につく。
「今日は楽しかったな」
「うん…」
「いやしかしまさか真理に会うとはな」
「そうだね。ビックリしちゃった」
「しかし真理は本当に千鶴ちゃんに優しいよね。何かあったのか?」
「あ〜、えっとね。恥ずかしい話なんだけど入学したての頃にぶつかった時に私を保健室まで運んでずっと見ていてくれたの、その時から仲良しになって友達なの、本当にいい人でね私を一番に考えてくれる人。だからさっきの事は優斗に迷惑だったらあとで真理に言っとくよ」
「いや迷惑じゃないよ、そっか真理と千鶴ちゃんが仲良しだったのはそういう事だったのか〜」
「うん。あれ?でもなんで優斗は真理と仲いいの?さっきも普通に会話してたし、会話してる所をあまり見たことない」
「ああそれは桐谷から少しだけ話を聞いてな、真理ともほんのちょっと話しただけでまぁあとはあんな感じだよ(桐谷から頼まれて色々と情報を聞き出していたなんて言えない…)」
「へぇ〜(な〜んで私の方が付き合い長いのに真理は呼び捨てなの〜)」
話し始めると普通に会話出来ることに気づく千鶴と優斗は学校のことを軽く話すとふと千鶴が何かに気づく。
「あっ、クレーンゲームだ」
ゲームセンターだ、映画館に来る時は電車の出来事で頭がいっぱいで気づかなかったが帰りは気づいた千鶴。
「少しやっていくか」
「いいの?」
「まだ時間はあるだろ、それにせっかくの日曜日だ。もう少し遊んでから帰ろう」
「やったー!」
ゲームセンター内に入り見て回る千鶴と優斗。
「久しぶりに来た」
「高校に入ってからあまり来なくなったもんな」
「そうだね、あ!アレいいな」
千鶴の目に入ったのは手のひらサイズのクマのぬいぐるみのクレーンゲームだった。
「とってあげようか?」
「いいの!?」
「余裕だよ(ゲーム苦手で取れるか分からないけどここで魅せる!)」
優斗はあまりクレーンゲームをやらないが少しでも千鶴にいい所を見せようと挑戦するが中々取れず苦戦する。
「む、難しいな(ヤバいな、さすがにここまで苦戦するとなるとダサい…)」
「大丈夫?(そういえば優斗はゲーム得意じゃなかったんだ)」
「だ、大丈夫次は行ける(行けないかも、本当の事をいうしかないか?)」
次で行けると言ったが取れず優斗は正直に言おうとした。
「ごめん、やっぱ…」
「私に任せて」
優斗と入れ替わり千鶴が挑戦するとあっさりと二つ纏めてと取れてしまう。
「す、すげぇ…」
「ごめんね、優斗ゲーム苦手だったのに任せちゃって…」
「覚えてたの?」
「うん。いつも私に負けてばっかりだったよね」
「あれか〜、恥ずかしいな。どうもゲームは苦手で……」
子供の時からずっとゲームを得意としてる千鶴は対戦相手に優斗と千尋をしていたが圧勝する千鶴を思い出す。
「人には得意な事と苦手な事があるのは当然だよ、それよりこれ二つ取れちゃった。どうしよう…」
「千尋にあげれば?」
同じクマのぬいぐるみを二つ取ってしまった千鶴は悩む、そして一つ優斗に差し出す。
「……あげる」
「え?いやいいよ」
「えっと…その……、さっきのパフェのお礼とまでいかないけど今日のお礼(ツンデレみたいに言うなよ私!普通に言えよ!!)」
「気にしなくてもいいのに……ありがとう千鶴(ぐはっ!もう今日一緒にいただけで十分なのに、オーバーキルしてきた!)」
恥ずかしそうに渡す千鶴にオーバーキルされる優斗。
「え?いま…(ここにきて呼び捨て!?はぅ!)」
「あっ!いやごめん千鶴ちゃん(やべっ、つい…)」
「いや大丈夫なんだけど、前まで呼び捨てだったのになんで呼び捨てしなくなったの?(ええい!もう聞いちゃえ)」
「その〜……特に理由はないんだけど不思議と呼んでいた(千尋と付き合ってなお呼び捨てしたら嫌われそうだったなんて言えない)」
「別に呼び捨てでもいいよ、前みたいに」
「だ、大丈夫?」
「うん」
「分かった、そうするよ千鶴」
「そっちの方が昔と同じでいいよ優斗」
笑う千鶴にほんの少し近づけたと思った優斗も笑う。
だがしかし、同時に思った。
「「(カップルかよ!!)」」
そんなこんなで家の近くまで帰ってくる二人。
「今日は楽しかった。ありがとう優斗」
「俺も楽しかっよ。千鶴」
これがカップルなら最高だと思った二人、もどかしい気持ちがありながらも我慢して手を振り別れて家に入る。
その夜、千鶴と優斗はその日にあった事を思い出して寝れたとか寝れなかったとか。