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交差点のようにすれ違う

 休み時間、千鶴は職員室から先生に任されたノートを教室までに運んでいた。


「ちょっと重いな〜」

「大丈夫千鶴?少し持とうか?」

「あはは、大丈夫だよ真理ちゃん」


 少し先を歩く千鶴と同級生の進藤 真理。

 真理は高校入学当初から千鶴の親友で千鶴がトイレから出ようとした時に真理とぶつかり千鶴だけが倒れ保健室に運ばれ責任感が人一倍ある真理は千鶴が起きるまで傍にいた事から真理は千鶴の面倒を見るようになった。


「本当に?駄目なら早めに言ってね」

「う、うん…(言えないんだよね…)」


 目の前を歩く真理は既に千鶴の半分以上持っているため言えるはずもなかった。

 そして、階段を登り踊り場に差し掛かった所で降りてくる男子生徒と軽くぶつかる千鶴。


「ーーあっ!」

「千鶴っ!」


 階段から落ちそうになる千鶴だったがタイミング良く後ろから誰かが千鶴を支えた。


「ちょっとお姉ちゃん大丈夫!?」

「ち、ちーちゃん!?」


 後ろからタイミング良く支えたのは妹の千尋だった。千尋は千鶴を立て直して一息つく。


「ちょっと千鶴大丈夫〜、千尋ちゃんナイスタイミング!」

「ああ、うん。ありがとうね。ちーちゃん」

「完璧なタイミングだったね、お姉ちゃんも気をつけなよ」

「うん……」


 千鶴とぶつかった男子生徒はすでにいない、予鈴のチャイムが鳴り千尋は颯爽と教室に戻って行った。


「いい妹さんね」

「はい…私よりいい妹です」

「そんな事は言わない、千鶴にも千鶴のいい所があるんだから。ね」

「ありがとう、ございます…」


 真理は椎名家の事情も千尋と優斗が付き合ってるのも全て知ってる、それは真理が聞いた訳じゃなく千鶴が気づかないうちに全て話していた。しかし千鶴本人は全て話したとは思ってない、真理はそんな所々抜けていつも弱々しい千鶴をほっとけないからこその付き合いだった。

 真理は軽く微笑むと千鶴の荷物全部持つ。


「ここからは私だけで運ぶからあとは大丈夫」

「えっ、でも…」

「任せなって、千鶴は前を見て安全を確認しなさい」

「うぅ…そう言われたら…そうするしか……」


 全くその通りだと思い返す言葉が見つからない千鶴は従うしかなかった。


「……急げ、急げ」


 ふと下の階から小走りで上がってくる男子生徒、それは優斗だった。


「あれ?千鶴ちゃんに真理。どうしたこんな所で…」

「………あんた全部持ちなさい」


 睨みつけるような視線で見つめたあと持っていた荷物全て優斗に渡す真理。


「えっ?えっ?なんで???」

「全く乙女のピンチって時になんで来なかったのかしら……」

「ん?乙女のピンチ?(何かあったのか?)」

「千鶴が階段から落ちそうになったのよ」

「えっ!?大丈夫だったのか?」

「なんとかね、千尋ちゃんがナイスタイミングで来てくれたから」

「千尋が!?(うっわ!千尋には感謝するけど俺がもう少し早ければ…)」

「ほら千鶴、早く戻ろう」

「う、うん…。優斗少し持つよ」

「いや大丈夫大丈夫、持っていくよ(ここで持たせるわけにはいかない、真理どころか千鶴に軽蔑される)」

「でも〜…(恥ずかしい所を見られなくて助かったけどここで全部持たせたら優斗に嫌われる)」


 先程、落ちそうになった千鶴を持たせる訳にはいかない優斗と全て任せる訳にはいかない千鶴と謎の攻防が繰り広げられる。


「全く……ホントに仲良いんだから……」


 そんな些細な攻防にため息を吐くしか無かった真理は二人の秘めた思いは知らなかった。

 一方、その頃千尋は思い出す。


「ーーん?あれ?あそこで私が出ていったら意味ないじゃん、普通はユートが出る場面だったよね?ま、いっか…」


 廊下の途中で思い返したが姉が無事ならいいと思い教室に戻った。

 結局、優斗が全て運び無事に授業が始まった。

 一番前に座る優斗は真面目に授業に取り組み、その端では桐谷が友達とふざけ合い先生にチョークを投げられ、時々小声で友達と話す真理、そして一番後ろの席で優斗を観察する千鶴と賑やかさと静かさが混在する教室がいつもだった。


「(う〜…、映画観に行きたいけど言うタイミングどうしよう〜)」


 千鶴は険しい顔をしながら悩む。


「(帰り道?いやいやちーちゃんがいるからダメだ)」


 当然、千尋が遠回しに手配した映画のチケットとは知らない千鶴は千尋の前で優斗と映画に行く約束するのは変な誤解に加え気まずい事になってしまうと考えた。


「(じゃあメール?あ、メールだ!!………どうやって送る?行きます?映画行かせてください?え〜何どうすればいいの?)」


 スマホを持っているが大体は会って話すためメールなんてものは使わない、いざと言う時にどうやって送るか悩む。


「……るさん……千鶴さん?」


 突然、先生から名前を呼ばれ反射的に返事をして立ち上がると周りは驚いて一斉に千鶴の方を見る。


「はっ!は、はい!!」

「おおぅ!ビックリした、まぁいいわ凄い険しい顔していたからこの問題何か間違っていたか?」

「えっと……行きます!…です」

「行きます?行きます…行きます……ああここか、なるほど確かに間違えだったわ、ありがとうね千鶴さん」

「あ……ま、まぁいいか……」


 テンパりたまたま映画に行く返事が黒板に書いてあった問題文の指摘と重なり事なきを得る。

 気づいた時には恥ずかしさが込み上げてきたが周りの生徒達は自分達のノートと教科書を見比べて確かに間違っていた事に気づき千鶴の答えに納得して一部からは感嘆の声を上げる。


「(めちゃくちゃ恥ずかしい……優斗もこっち見てた……)」


 顔から火が出そうなほど顔が赤くなる千鶴だった。

 そして午前の授業が終わり昼休みに入る。


「うぅ……なんか散々だったよ〜」

「さすが千鶴ね、私とかはまんま黒板を写していただけだったから気づかなかったよ」

「ありがとう……だけど違うんだよ〜」

「何が違うの?」

「聞かないで〜」


 二度と味わうことの無い恥ずかしさにずっと顔が赤く今にも泣きそうな表情の千鶴は目の前でお昼を食べる真理と話していた。

 すると走ってきたのか千尋が教室に入ってくる。


「お姉ちゃん!お弁当!!」

「ん?お弁当??」

「中身が違った、そっちが私ので、こっちがお姉ちゃんの」

「本当に?あ、本当だ」


 弁当箱を千鶴の机の上で広げると千尋の弁当箱はヘルシーなのに対して千尋の方はスタミナとここでも正反対差が現れた。


「じゃあ、はい交換」

「はい、ありがとう。あ、お姉ちゃん今日ここで食べてもいい?」

「別にいいよ」

「ありがと…」


 隣の席から椅子を借りて座る千尋、すると周りを見渡しある人を呼ぶ。


「あっ!ユート、ユートもこっちに来て食べよう」

「うえっ!?(ゆゆゆゆ優斗!?)」

「……あ〜、うん分かった(マジ!?ありがたいようなありなたくないような…)」


 先程まで優斗は桐谷達とお昼を食べていた、そんな矢先に誘われる一瞬即発な現場、言葉を間違えれば誤解を生む可能性がある場所、優斗にとってできる限り千鶴と千尋が同時に喋れる環境の中に飛び込む事は避けてきたがここに来てそれが来てしまった。

 当然、断れる事も出来なく少し重い足取りで千鶴と真理の間、千尋の目の前に挟まれる形で座る。


「(チャンスよ!お姉ちゃん!アタック!!)」


 ニコニコする千尋、しかしそれが逆効果になっている事に気づいていない。


「(なんかちーちゃんの笑顔がいつもより怖い気がする、なんで?私何かやっちゃった?)」

「(なんだいつもよりめちゃくちゃ明るい笑顔だが…逆に怖い、なんかやったか?)」


 沈黙の空気、チラチラと目配りする千鶴に笑顔キラキラの千尋、そして冷や汗をかく優斗、魔のバミューダトライアングルに巻き込まれてしまったかもしれない真理は意外にも平然として三人を微笑ましく見ていた。机一つで様々な思念が混ざりに混ざっていた。

 最終的に沈黙を破ったのは真理だった、簡単な授業の話から他愛のない会話と三人にとって当たり障りのない会話で終わった。


「じゃあまたねお姉ちゃん(う〜ん作戦失敗)」

「うん、またね(助かったのかな?)」

「またな(乗り切れた、サンキュ真理)」

「じゃあね千尋ちゃん(楽しかった、また来て欲しいな)」


 三人で千尋を見送ると真理が席に戻ろうとした優斗を止め話し始める。


「ねぇねぇ千尋ちゃんどう思う?」

「どう思うって……(困る質問来たよ、しかも千鶴がいる状態で…)」


 返答に困る質問に戸惑う優斗、チラリと千鶴の方を見ると千鶴はあまり興味なさそうに弁当箱を片付けていた。


「(めちゃくちゃ気になる!好きと答えると思うけどやっぱ気になる!!)」


 超気になっていた千鶴だった。


「え、え〜と普通に好きだよ(無難で済ます!)」

「普通に〜?じゃあどこまでいったの?」

「どこまで!?(そこまで聞くぅ!?)」

「千鶴も気になるよね?」

「さすがに千鶴の前だと〜…」


 姉の前でベラベラと妹の話をするのはさすがに嫌われると思い断ろうとしたが千鶴は食いつくように言う。


「き、気になる…」

「えっ!?千鶴ちゃんも?」

「うん…」


 千尋からはあまり話を聞けない、聞かない。そして自ら優斗の事を聞かないため千尋とどこまでいったのか全く不明確な千鶴はこのタイミングを逃すまいと真理に便乗した。


「(うんまぁそこまでいってないけどここは千鶴が姉のとしての何かを示そうとしてるのか?いやしかし逆に進展があまり無いと言ったら千尋との仲をめちゃくちゃ後押しして来そうだから正直困る……う〜ん)」


 まだ高校生ということもあり大した進展はない、まだ軽くデートする程度だったが答えに悩む優斗。


「…まさか優斗答えを悩むほど進展してるの?」

「いやいやいや違う違う!!」

「じゃあどこまで?」

「き、キスまでした!」

「ほう、なかなかやりますねぇ優斗クン」


 ニヤニヤする真理、優斗は咄嗟に昔からの幼馴染ならキスぐらいはギリ大丈夫だろうと当たり障りない嘘の答えを言い千鶴の方を見る。


「き、きす……(え!えぇぇーーー!!そこまでいったの!?私もう無理なのかな?)」


 妹に先を越されて少し残念に思う千鶴。


「(なななんでそんな残念そうな顔!?)」


 どっちか分からない優斗、キスしてよかったのか、それとも早すぎたのか嘘を言った事によりさらに分からなくなってしまったが急にしてないと言ってもそれこそ嘘と言われてしまい混乱に混乱を招く事態となる。


「じゃあ千尋ちゃんを大切にしなさいよ優斗」


 予鈴が鳴り席に戻る真理。


「あ、ああ…分かった(真理の野郎…際どい質問しやがって、一応注意人物だな)」


 引きつった笑顔で真理に軽く手を振る。


「(キス……い、いいなぁ……いいな?違う違う、そうじゃない!でも……)」


 モヤモヤと頭の中で葛藤する千鶴は完全に上の空だった。


「俺も戻る、また放課後でな千鶴ちゃん(何か考えてる、これは早めに嘘とバラしとかないと…)」

「ひゃい!!あ、うんまたあとでね(危ない危ない、また言いそうになった)」


 授業中みたいに優斗の前で言いそうになるがなんとか止めた千鶴はホッと胸を撫で下ろした。

 放課後、颯爽と教室に突撃してきた千尋。


「お姉ちゃん!ユート!帰ろ!!(やはりこの目で見たい!!くっつく瞬間を!!)」

「ああ、今行く(やはり来たか…)」

「帰りは本当に早いねちーちゃん(キス…したんだよね、ちーちゃんと……)」


 帰る時も三人一緒だったが昼休みに言った嘘を嘘と話さないといけない優斗は千尋にある作戦を打って出る。


「あれ?千尋今日は部活は?(今日は無かった日だがあえて聞く!!)」

「うん?無いよ〜」

「そ、そうだった。あはは忘れてた(ですよね〜)」


 呆気なく失敗に終わり、結局三人で帰った。


「じゃあね、また明日」

「バイバイ…」

「バイバ〜イ」


 家の前に着いて手を振り別れる、その後は晩御飯を食べお風呂に入りと千鶴と千尋は自分の部屋に入る。

 千鶴はベッドに倒れ込む。


「あ゛あ゛あ゛〜〜、もう!!いいなぁ〜いいなぁ〜!」


 羨ましさと悔しさが同時に込み上げ枕をサンドバッグに見立てポコポコと叩きつける千鶴。


「うぅ……先越されちゃった。でもやっぱり好き……キスがダメなら……あ゛あ゛〜〜〜〜……」


 漫画やアニメをよく見る千鶴は当然ドロドロ恋愛も読んでいたため妄想が加速して一人で悶えていた。


「はぁ〜、今日も失敗だったな〜、な〜んか上手くいかな〜い」


 隣の部屋で悶えてる姉とは逆に悩む千尋。


「ユートは私の事本当に好きか分からないけどやっぱ同級生であるお姉ちゃんがくっつくべきだよね、でもちょっとユートの事が好きだから離したくない、んん〜〜どうしよ〜」


 ノートを前に頭を抱え今日も悩む千尋だった。


「疲れた〜、全く真理の奴、無茶な事を聞きやがって…」


 お風呂から出て自分の部屋に入る優斗。

 向かいの窓には千鶴と千尋の部屋が見える、千鶴はすでにベッドの上にいるため見えないが千尋は机に向かって座っているため影が確認できた。


「千鶴はもう寝たのか、しかし千尋はこんな時間まで勉強とは凄いよな…」


 大ハズレの優斗、しかし優斗にはそう見えた。


「咄嗟に嘘を言ってしまったが千鶴どう思ったんだろう、妹だからといってやっぱキスは早かったか?そりゃ姉の前で妹とキスした、なんて言ったらマズかったよな、あとで謝らないと…。けど逆に全く進展がないと聞いて姉としたらどう行動するんだ?無視?いやあの二人は双子だぞ、仮にも正反対の双子だけど……ダメだ悩んでも答えは出ない!!とりあえず千鶴には謝らないと」


 優斗は一人ブツブツと呟きながらそう決めてベッドで横になり眠りついた

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