まさかのすれ違いから始まるストーリー
高校二年の椎名 千鶴と高校一年の椎名 千尋は双子姉妹。
姉である千鶴はとても臆病な性格な上に何事も引っ込み思案で友達も少ない、対して千尋は活発的でいつも元気という正反対の姉妹だった。
姉妹は容姿は平均的で姉は黒髪ロングに対して妹はポニーテール、勉強は姉の方が優秀で妹はテストでは一桁という。まさに正反対がありめちゃくちゃ分かりやすい双子姉妹と学校内では注目されているとかないとか、同じ学校に通い姉妹仲良く登校する。
「ちーちゃん、そろそろ時間だよ」
「待ってお姉ちゃん。よしっ!」
制服に着替えた千鶴が部屋で髪を結ってる千尋を呼びに来た。
「いってきます」
「いってきま〜す」
「「いってらっしゃい」」
少し急ぎ足で家を出た先に待っていたのは一人の男の子。その男の子は高校二年の谷田貝 優斗、至って普通の男の子、誰に対しても優しく分け隔てなく接することから友達の幅も広かった。双子姉妹の家がお隣同士ということもあり幼馴染という関係だった。
しかしただのお隣同士だけじゃない。
「おはよう、ユート」
「おはよう、千尋。千鶴ちゃん」
それは妹の千尋と優斗は恋人関係だということ。しかし同級生である千鶴と気まずい雰囲気になることはなかった。今でも普通に接してる三人だった。
「お、おはよう優斗…」
千鶴は前髪を弄りながらあまり優斗の目を見ないように挨拶を返す、引っ込み思案ということもあり人との会話にも慣れてない千鶴は誰に対しても同じだった。
「とりあえず門の前までちょっと走ろう」
「そうだな」
「うん…」
本当は千尋の準備で遅くなったが千鶴は言わない、言えなかった。それは単に言うタイミングを逃しただけ、千尋と優斗は手を繋いで走る、そのうしろを追うように走る千鶴だが運動もあまりしないためすぐに体力が底を尽きる。
「お姉ちゃん。大丈夫?」
「大丈夫。先に行ってていいよ」
「ダメだよ、ほら手を繋ご」
「いいよ、私は」
「いいから遅れちゃうよ」
「あっ、ちょっと…」
無理やり手を繋ぐ、高校生で三人手を繋ぐという珍しい光景だがそれがいつもの三人だった、そして他の学生に見られる前に手を離すため殆どの学生は知らない、そして学校の門の前に着くと手を離す。
「お!やっと来た千尋〜!」
「あっ!圭ちゃん!じゃあユート、お姉ちゃんまた放課後ね」
門の前で待つ千尋の友達は千尋を見つけ大きく手を振ると千尋も手を振り返して走って向かった。
「じゃあまたあとで」
「うん」
千鶴と優斗は軽く手を振り見送る。
ここまでがいつもの朝、遅れそうな時もあるが早い時もある。そして千鶴と優斗は一緒に教室に向かう。
「千鶴ちゃんは昨日のアニメ観た?」
「あ、うん観たよ」
廊下を歩きながら優斗は千鶴と話す、千鶴はこう見えてオタクでゲーマーという見た目通り、否たまたま見た目と性格とハマってしまった物が不幸になっていたがそんな千鶴でも優斗は変わらず接してる。
「いや〜、あの回はめちゃくちゃ面白かったな。特に主人公が…」
「あの…」
「ん?」
「優斗はいつも私とそんな話をしてつまらなくないの?」
優斗はいつも千鶴と話す時はアニメやゲームの話をする、時には他の話をするが大体がそれだった。
千鶴はそんな優斗を本当は楽しいのか聞く。
「いいや全然、むしろ楽しいよ」
「そう、なの?」
「そりゃあ俺の知らない事を知ってるから話せて楽しいよ」
笑う優斗、そんな優斗の顔を一瞬だけ見た千鶴は心臓がドキドキする。
「そうなんだ……」
「んでさ……ーー」
千鶴は優斗に恋をしていた。
しかし、それは千尋に先を越されてしまい言うタイミングを逃してしまったからだ。かといって千尋にその事を言ってしまったら千尋を傷つけてしまうことから黙っていた。
そのため優斗と二人で話す時は千鶴は楽しくて顔がニヤけそうになるが落ち着いて深呼吸をする。
「……聞いてる千鶴?」
「んっ!?聞いてるよ、聞いてる」
何度も頷く千鶴、前髪が長いため表情はギリギリ隠れるが口元は見えてしまうためしっかりと口元は無を作る。
「それよりさぁ、今週日曜日映画観にいかない?」
「ええ、映画?」
「そ!前にさ、友達から誘われたがその友達が急に用事が出来て行けなくなったらしいんだよ」
「そしたら千尋と行けばいいんじゃないかな?」
髪を弄りながら余所見する、しかし内心は行きたい気持ちでいっぱいだが恋人関係じゃない相手、ましてや妹の彼氏と行くとなるとそれは色々な意味で気まずくなると思い断る。
「千尋は練習試合があるらしいんだ、だから行けない」
部活に入部している千尋、水泳部に入部している。強豪校ではないがそれなりの成績を修める高校なため練習試合は頻繁に行っていた。
「へ、へぇ〜……じゃあい……」
「おっすー!優斗〜」
「おお!おはよう桐谷」
行こうと言おうとした矢先に同じクラスの二階堂 桐谷に遮られる。
「優斗悪いんだが今日もいいか?」
「悪いと思っていたらやってこい、減るもんじゃないからいいけど」
「サンキュ!おっ!千鶴おはよう」
「おは…よう……」
桐谷は優斗からノートを受け取り軽く千鶴に挨拶すると走って教室に向かうが途中で先生に注意されるのを目撃して優斗はため息を吐く。
「全く…困った奴だが本当にいつも楽しそうだ」
「……そうだね」
「返事がまだだったな映画は行く?」
「えっと……考えとく」
「オッケー、じゃあ土曜まで待つわ」
「ありがとう…」
答えをあとにして教室に入り千鶴は席に着くと頭を抱え机に打ちつけそうな勢いで伏せたあと前髪で顔を隠しながらも優斗の方を見つめる。
「(あ〜、どうしようなんで答えなかったの私は〜〜)」
答えは決まっていたはずなのになぜ後回しにしてしまったのかと後悔した。
だが、最も頭を悩ませていたのは優斗だった。
「(やっちまったーーー!)」
優斗は平然とした顔で友達と話しているが千鶴の視線が突き刺さる。
「(どどど、どうしよう、間違えた?なんか視線めちゃくちゃ感じる)」
しかし、なぜ妹の千尋と付き合ってるのは千尋の猛烈アピールにより断れなく付き合う事になってしまった。
元々、優斗は断れない性格に加え昔からの幼馴染から関係を壊したくない気持ちが強く、さらに千鶴に恋をしていたが優柔不断さが仇となり優斗は千鶴に告白する前に妹が告白してきたため断れず付き合う事となった。
心の中で葛藤する優斗、それは千鶴も同じだった。
一方、千尋はというと。
「(二人ともくっつかないかな〜♪)」
優斗と千鶴が繋がることを楽しみにしていた。
千尋は元々、優斗が千鶴の事を気になっていたことに気づいていた、そのため離さない為にも先に千尋は優斗に告白した。だがこれはあくまで作戦であり当然失敗を予想したが告白に成功してしまい付き合う事になってしまったこと、後出しで「なし」なんて言ったらそれこそ離れてしまう原因になってしまうと恐れそのまま付き合い続けた。
「(今考えたら他にいい考えがあったけどまぁいっか…、とりあえず映画だね)」
優斗にはあまり千尋自身を好きにならないように部活に入部して土日を主に練習試合に充てた。
映画のチケットは遠回しに千尋が手配していた事だった。
「(お姉ちゃんとユートがくっつけばそれでいい)」
姉一番に考える千尋は千鶴と優斗がいい方向に向くように鼻歌を歌いながらノートに色々な作戦を書いていた。