本当の正義
煌我『あの女は殺し屋なんだ』
さつき『!!!』
煌我『下手に動けば、もみ消される筈、そうされない為の確固たる証拠を掴むまでは、何もしない方がいい』
さつき『・・・はい』
煌我『ところで、、その手にある物は』
さつき『あ、これですか?これは・・偶々みつけた店に可愛らしいケーキがあって、思わず買っちゃったんです』
煌我『見せてくれないか?』
さつき『??・・何故ですか?』
煌我『おれ、パティシエを目指して修行中なんだ・・けど店長の厚意で俺が作ったケーキを置いてくれる事に・・その袋は、俺が働いてる店の物・・もしかしたらって思いから見せてほしいと思った』
さつき『わかりました・・あ、わたし”さつき”って言います、夢野さつき』
煌我『俺は藤崎煌我』
さつき『藤崎さん?』
煌我『ん?』
さつきは、逸らす事なく見詰められる事に慣れていない為、照れてしまい緊張から頭が白くなりつつあった。
さつき『い、いえ・・あ、それじゃあ開けますね』
袋から取り出し開けたのを見た煌我
煌我『俺が作ったんだ!』
さつき『これをですか?』
煌我『ああ』
さつき『凄い!! これ一番、気に入ったやつなんです』
煌我『ほんと?』
さつき『はい』
煌我『良かったぁ・・食べてみて感想くれないかな?こういう機会、そうそう有るもんじゃないし』
さつき『わかりました・・けど、恥ずかしいので、あんまり見詰めないで下さい』
煌我『ん?恥ずかしいって、、わかった』
と携帯を見始めた。
さつきはケーキを一口、口にしてみる
さつき『!!!』
頭を抱えるさつき
煌我『どうした?』
さつき『んーーー!!』
煌我『口に合わなかったのか?』
さつき『これヤバいです』
煌我『そんな馬鹿な、ヤバいだなんて・・いったいドコが?』
さつき『え??』
煌我『だから、どの辺がヤバいの?味?食感?』
さつき『いえ、ぜんぜん美味しいです、ヤバいって言うのは美味し過ぎてヤバいって意味で』
煌我『なんだ・・さつきちゃんの反応見てたら、口に合わないのかもって思っちゃったよ』
さつき『すいません』
煌我『謝る事は無いよ』
さつき『はい』
と・・もう一口、ケーキを口にするさつき。
その頃、黄龍飛が住む中国風の邸宅
見るからに重そうな鉄棒を上下左右前後に8の字を描き振り回す龍飛は終えるとサンドバッグの前に行き、動きの起こりを見せずに掌を放った・・大きい音と共に揺れるサンドバッグを背に、龍井茶(ロンジン茶:中国緑茶)を口にし、玄関のドアの方を見た。
勢いよく開いたドアから飛び込んできたスポーツサングラスに上下、黒の女
十猫虎(以降、十猫虎の台詞部分は猫虎表記)
猫虎『遅くなりましてまして申し訳御座いません』
龍飛『首尾は?』
猫虎『師父(シフ:師匠の意)の仰せのままに』
龍飛『さすがはシーマオフー、毎回・期待通りの働きをしてくれる』
猫虎『全ては師父の為に』
龍飛『十猫虎・・その痣はどうした?』
十猫虎の右腕に目立つ痣
龍飛『お前に傷を付けるとは、ナカナカの手練れのようだが?』
猫虎『形にハマらない、どこの門派にも属さない不規則な動きを見せる男でした』
回想
十猫虎が歩いていると
男『姑娘(クーニャン:お嬢さん)私の退屈を紛らわす手伝いをして戴けませんか?』
高く大きい木の枝に立ち、見下ろす上下・白の男は声を掛けた後、飛び降りて、十猫虎の前に立った
猫虎『ふんっ』
相手にする事なく歩を進める十猫虎の右肩に手を掛けるが、十猫虎は右に反転しつつ手を払い、密着させるように男の右腕を、背後に回ると同時に極めようとするも、男も右に反転、背後に回ると、軽く曲げた人差し指と中指の二指を十猫虎の背に付け、拳を放つ・・寸勁
※大きく振り上げ勢いをつける事なく、僅かな動きで強大な力を発揮する、脱力が物を言う技術
勢いに身を委ねつつ、前転を2回し、振り返ると男からの蹴りが二発、躱した十猫虎目掛けて左拳を放つ
右手で捌き、螺旋のように手を動かすと左胸上部の腕に近い箇所を打つ
よろけた勢いのままに左足で、十猫虎の頭上を狙う・・躱す十猫虎の動きの起こりと同時に右肘、それも避ける十猫虎目掛け右縦拳、捌こうとするも変則的な動きで一拍子遅れて拳を放つ・・間に合わず攻撃を腕に受けてしまった十猫虎
龍飛『ほう・・その痣の形状からして、拳を用いたようだな?男の名はルーヴァインでは?』
猫虎『名乗らずに攻撃をしてきたので名前までは』
龍飛『どのような風貌であった?』
猫虎『長髪で、左目が青く、手首から先にテーピングを』
龍飛『やはりルーヴァインか・・』
猫虎『御存知なのですか?』
龍飛『噂を耳にしただけだ・・師につかず、実戦を重ねる事で強さを手に入れた男』
猫虎『・・・』
龍飛『十猫虎、お前にも真武酔仙経を教えよう、最終套路(さいしゅうとうろ:最後の形)を学ばなくとも、功夫(ゴンフー:修行で培われた能力)は高みに達する、奴は天才、仙武掌せんぶしょうのみの今のままでは勝ち目は無いだろう、技術自体は隙が無い、だが外功(がいこう:肉体の鍛錬)ばかりではなく、内功(ないこう:気功)を共に行う事で仙武掌は今より高みに達する』
猫虎『・・・』
龍飛『無論、今やっている内功とは比べ物に成らぬ・・・来い』
奥の部屋に行き、本棚を動かすと、地下へと続くであろう空間が・・梯子は有るものの、下まででは無く、途切れている
龍飛が飛び降りると、十猫虎も続く。
{驚きだわ・・・こんな所があったなんて・・・}
龍飛は伝え始めた
一方、さつきは、煌我と別れ帰宅していた。
アニメ【拳聖神機パルダー』をパソコンで見ている
パルダーは、人間の男《天龍寺・蒼馬:てんりゅうじそうま》の姿をしたサイボーグのアクションもの
さつきが通う養成所の講師、如月麻衣が主役の声を担当している
麻衣は、老若男女問わず演じられる七色の声を持つ人気声優
《画面上》
蒼馬『く・・今度は俺の方から行かせてもらうぜ!!』
敵と戦う蒼馬
《再び龍飛邸宅》
龍飛『あとは1人で試行錯誤するといい・・・私は少し遊びに出て来る』
遊びといっても龍飛にとっての遊びは暗殺の仕事を実行する時
猫虎『お見送りを』
龍飛『いらん』
猫虎『お気を付けて』
その頃、さつきはパルダーを見終えると、コンビニに向かって歩いていた
そこに黒い自動車が猛スピードで近づいてきた
『夢野さん!!』
叫ぶと同時に”さつき”を抱き寄せる。
さつき『如月先生!!』
黒い自動車は、2人の前に停車すると、中から3人の男が出てきた。
男たちは、2人を見ると笑みを浮かべ、車の中に押し込もうと・・・だが!
掴まれたのを軽く外し、さつきを引き寄せると
麻衣『夢野さん、私の後ろに』
さつき『はい』
麻衣『正当防衛・・という事で覚悟してね・・あなた達』
右掌で男の頬を・・男が避けると更に一歩踏み出し肘を胸の中央、壇中穴に・・勢いよく吹き飛ぶ男
そこに、もう一人が掴みかかろうと突進してくる
麻衣は左足で男の耳を蹴ると、その足を地に着ける前に男の壇中穴を蹴る
更なる1人の顎を目掛け、右足で動きの起こりを見せずに蹴り上げた。
麻衣はスマホを取り出すと
麻衣『みっちゃん・・・という訳で・・という訳なんだけど、後の事おねがい』
みっちゃんとは、麻衣の専属マネージャーの事である
状況が掴めないでいるさつき
麻衣『夢野さん』
さつき『え?あ、はい』
麻衣『夢野さん、あなた、こんな時間に何処に行こうとしてたの?』
さつき『あ、コンビニに』
麻衣『夢野さん、今日は偶々、私が通りかかったからいいものの、あなた可愛いんだから気を付けなさい・・こんな時間に女の子が一人で出掛けたりしないの・・いい?』
さつき『・・えっと、先生の作品、拳聖神機パルダーを見てて、あ、見終えたんですけど、飲み物が切れちゃって、近くに自販機も無いし、コンビニに買いに行こうと』
麻衣『そう・・なら私が同行するわね・・あ、見てくれて有難う』
さつき『いえ・・あ、後は大丈夫なので、先生は帰って下さい・・今こんな目に遭って、続けて・・って事は無いので』
麻衣『油断すると痛い目に遭うわよ?飲み物が無くてもいいの?そういう訳にはいかないでしょ?私の事は気にしないでいいから・・あなたは黙って言う事を聞いてればいいの・・・ね?』
優しい口調で諭す麻衣・・とても、さっき男を3人倒した同一人物とは思えない。
さつき『はい、わかりました・・御迷惑おかけして済みません』
麻衣『いいわよ、別に・・あそこのコンビニ?』
さつき『はい・・あ、先生』
麻衣『な~に?』
さつき『その・・さっき』
麻衣『男たちを倒した事?』
さつき『はい』
麻衣『昔ね・・といっても5年ぐらい前なんだけど、仕事帰りに公園付近で暴漢に襲われたの・・その時に助けてくれたのが師匠・・師匠って呼ぶなって言うんだけどね・・助けてもらったお礼に手料理を御馳走したら、蹴り主体の3つの技を教えてくれて、その技を師匠が居なくなった後も磨いていたの』
さつき『そんな事が・・・』
麻衣『夢野さん・・今日の事は秘密にしといてくれない?』
さつき『あ、はい』
麻衣『二人だけの秘密』
と・・コンビニ前に到着・・笑みを浮かべる麻衣・・さつきも笑顔になる。
2人は中に入ると飲み物を買って出て来た
さつき『麻衣先生、助けてもらったオマケに、コンビニに同行してもらって、更には買ってもらえるなんて・・今日は済みません』
麻衣『気にしない、気にしない・・・』
『あれ?なんで2人で??』
声のする方を見ると、円空寺隼人が立っている。
さつき『隼人くん』
麻衣『あなたこそ、なんで?』
隼人『僕はバイトの帰りです』
麻衣『そう・・私たちは偶々・会っただけ・・・ね?』
さつき『はい』
隼人『そうなんですか』
麻衣『そうだ円空寺くん、夢野さんを家まで送ってあげて、ボディーガード』
さつき『先生・・大丈夫です』
麻衣『なに言ってるの?こんな時間なんだから1人で歩くのは・・』
と・・・言い終わる前に
隼人『任せて下さい』
麻衣『送り届けても家の中に入ったら駄目よ?』
隼人『わかってます・・送るだけです』
笑う麻衣
麻衣『じゃっ、よろしくね』
さつき『先生、ありがとう御座いました』
振り向かず手を振る麻衣
隼人『夢野・・行こう』
さつきは頷く
さつきの家の前に到着するまで、2人は無言だった・・が・・隼人の心の中だけは高揚していた
さつき『ありがとう・・それじゃ、また』
《廃墟》
龍飛と老人が対峙している