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白百合姫は毒に染まる  作者: 嘉ノ海祈(旧 九条聖羅)
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護衛騎士ミカエルⅠ

 あの後、私は庭園の端に倒れていたところを一人の騎士に見つけられ、部屋に戻されたらしい。どうやってあの花園からそこまで移動したのか分からない。どうやら待女は騎士と話が終わった後、私がいないことに気づき私を探したのだが姿を見つけられなかったらしい。それを近くにいた騎士に報告したところ、城中で捜索される騒ぎになったようだ。

 

 実はあの時、騎士は待女に侵入者の報告があったため、注意をするようにということを伝えにきていたようだ。そんな報告のあとに姿を消したので、私は何者かによってさらわれたのではないかと勘違いされたらしい。実際にはそれよりも恐ろしい体験をしていたのだが…。


 そんなわけで、今後はもっと注意が必要だということで私にも専属の護衛騎士が与えられることになった。それがこの男、ミカエルだ。


 寡黙な男それが彼の第一印象。何があっても彼は感情を表に出さないし、ただ真面目に任務を遂行するだけの男だった。十八歳の成人したての新人騎士だそうだ。ただ、貴族院での成績はかなり優秀であったそうで将来有望の新人だと聞いている。


 王女と言えども、私は側室の産んだ子どもで第三王女。護衛の優先順位としては正室が産んだ他の二人の王女や王太子である第一王子のほうが先なので、あまり私に優秀な人材を割くことはできない。そこで、新人の養成ついでに彼を私にあてることにしたようだ。


 だが、当の私はそんなことはどうでもよかった。そんなことよりも呪いをどうにかするのが優先だった。なんとかならないのかと思い、私はとにかく王宮図書館に通いつめ、必死に隅から隅まで文献をあさり続けた。始めは私の行動に驚いた様子の待女だったが、私がもともと読書を好んでいたこともあり、あまり疑問には思わなかったようで数日もすれば慣れたようだ。


 流石に私が何を読んでいるのかを見られるとまずいので、待女には図書館への送り迎えだけ頼み、私が図書館にこもっている間は王宮に戻り他の仕事をするように命じた。始めは渋った待女だったが、図書館にあまり大人数で入るのは他の人の迷惑になりよろしくないということ、護衛のミカエルは同行させるということを伝えどうにか納得させた。


 あれから五年の月日が経った。私は必死に呪いに関する文献を探し続けたが、全く見つけることができず、悶々と悩み続ける日々を送った。この国の最古の歴史を持ち、トップレベルの蔵書数を誇るこの図書館で見つけられなかったのなら他で見つけられる可能性も薄い。結局、この五年間で得られた成果は王宮図書館の全ての蔵書を読みつくし、年齢にはそぐわぬ膨大な知識を身につけたということだけだった。


 中々呪いを解く方法を見つけることができず、悩んでいた私はこの五年の間、せめてもの悪あがきにできるだけ善行を行おうと必死になった。いいことをしていればもしかしたら神様が救ってくれるかもしれない。そんな取り留めもない発想でできる限りの行いをすることにしたのだ。


 せっかく図書館で様々な知識を得たので、私はその知識を総動員して民の生活を改善する手助けをすることにした。図書館で文献を探す傍ら、下町にお忍びで出かけては民たちの悩みを聞き出し、解決にむけて行動を続けた。作物が育たず悩む農民たちに、肥料の作り方を教え、土壌が適していない作物を育てている農民には新たな作物を紹介し育てさせた。


 商売が伸び悩み、新たな商品が欲しいと言っていた商人たちには、外国から輸入された文献から得た知識をもとに、様々なお菓子の作り方や、布の染め方、新しい家具のデザインや装飾、それから鉱石の磨き方について教え、それをこの国に合うよう改良しながら売り出させることに成功した。新たな商品の開発に伴い、職人たちの技術も発達し、いつの間にか国の産業レベルがあがり、貿易が盛んになっていた。


 ある時には、文官になりたいという貧しい子供にであい、平民でも文字の勉強ができるように学校を開くことにした。始めは規模も小さく、私費で教師を雇い、知り合いの商人に借りた蔵でやっていたのだが、だんだん希望者が増え、もともとそんなに与えられていない私費では賄いきれなくなった。だが、困っていたところに私が助けた商人たちが、子供たちのためにと売り上げの一部を寄付してくれることになり学校を続けることができた。


 その後、商人に知識を貸しアイデアを売る代わりに、売り上げの一部を学校に寄付してもらうという形で学校の存続を維持し、無事に学校から初めての文官試験合格者を出すことに成功した。


 そんな感じで私はこの五年間、必死に善行を行いながら呪いの解き方を探し続けたのだ。しかし、それが報われることはなかった。ついに蔵書を読みつくし、色々な情報を嗅ぎまわったが結局呪いを解く方法を見つけることはできなかった。

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