まつ毛 他3篇
【時事ネタ】
今日はラッキーなことが続くから、商店街のガラガラを引いても当たりが出るに違いない。回せるのは1回だけ。1等はハワイ旅行、2等はゲーム機、3等は商品券……今の俺なら1等が当たるに決まってる。
「おめでとうございます! 1等大当たりです!」
ほらね。最早笑いが止まらない。俺は景品をもらってその場を後にしようとする。残念だったな、俺の次の人。もうそのガラガラに1等は存在しないんだ。俺は哀れみを含んだ目でガラガラを回す女性をなんとなく見ていたら、女性が出した玉は白色。つまりハズレだ。
「あ〜、残念でした。参加賞のマスクです」
聞いて俺は女性に声をかけた。
「すみません、景品を交換してくれませんか?」
【まつ毛】
彼のコンプレックスはまつ毛が無いことと、胸毛が濃いことだった。常日頃から、胸毛をまつ毛に移植できないものかと考えていた。
ある夜、彼がインターネットを巡回していると、胸毛がまつ毛に変わる薬を売っているサイトを見つけた。
「これはいい。早速買おう」
薬はすぐに届いた。彼はその日から飲んだ。
翌日、効果を期待して自分の胸を見てみたが、立派な胸毛は減っていない。むしろ増えているように見えた。
次の日自分の胸をみた時、彼は悲鳴をあげた。
胸に目がついていたのだ。
彼は動揺して気づかなかったが、胸の目は立派なまつ毛をしていた。
【雷】
Q. 高層ビルが建ち並ぶ都会のど真ん中で、彼にだけ雷が落ちた理由は?
A. 彼は巨人だったから
【やり直し】
20歳の誕生日、俺は5歳に戻った。ゴミだらけの部屋で寝ていた筈だったのに、気づけば薄暗い部屋で若い両親に囲まれ、目の前にはケーキ。ケーキにはロウソクが5本刺さっていた。夢かと思ったが現実だった。こんなに嬉しい事はない。ずっと、人生をやり直したいと思っていたんだ。
小学生の頃から劣等生。勉強もできない、運動もできない。さらにいうならそれを改善しようともしない。当時の俺は、自分のことでもどこか他人事のように、そのうちなんとかなるだろうと思っていた。結局、どうにもならないまま歳だけを取っていった。20歳。働きもしない。学校にも行かない。ただ家で引きこもっているだけの日々。動くにはもう遅い。もう一度子どもの頃からやり直せたら……と、思っていたことが現実になったのだ。これを変わるきっかけにしよう。今度の人生は絶対に無駄にしないんだ。
そう思った俺は精一杯努力した。人一倍勉強もしたし、スポーツにも励んだ。すると結果がついてきた。劣等なのは生まれつきじゃない。やる気が無いのがいけなかったんだ。神童とおだてられても調子に乗らなかった。自分で言うのもなんだが、まるで人が変わったようであった。
中学校は全国的に有名な私立中学に入れた。高校は主席で卒業し、日本一の大学に合格した。
1度目とはまるで違う人生。あの時は親に手を上げたりしたこともあったが、今度の人生では大学に合格した時、両親と泣いて抱き合った。やっと親を喜ばせることができた。両親は、俺の努力を褒めてくれた。
そしてついに、20歳の誕生日が近づこうとしていた。ここからは、2回目じゃない。少しは不安もあるが、きっと大丈夫だ。これまでに積み上げてきたものがあるんだから……
……おきたとき、なんだか体がおもいような、いつもとちがうかんじがした。今日はたんじょうびで、プレゼントがたのしみで、お母さんのところにいったら、やっぱりへんなかんじで。まわりがちいさくなったような、ゆめを見ているようなかんじがした。
お母さんはなぜかふあんそうで、ボクはくるまにのせられて、びょういんにとうちゃくした。
ボクはどこもわるくないのに、お母さんは泣いてしまって、そしたらおいしゃさんもふあんそうなかおで、
「理由はまだわかりませんが、思考能力が5歳程度のものになっています」
なんだかボクも、かなしくて泣いてしまった。