勇者の資格 他4篇
【勇者の資格】
ある朝、男は家を出ると、庭にいかめしい聖剣が突き刺さっているのに気がついた。
「なんだあれは!」
怒った男が近づいていった。剣のすぐ前には、「これを抜いた者を勇者と認める」と書かれた看板が立っていた。
「こんないたずらをしたのは誰だ!」
怒りに任せて剣を引き抜こうとしたが、まるで抜けそうにない。男は、地球と綱引きをしているような気分になった。
「ちくしょう! 犯人を見つけて、絶対にとっちめてやる!」
男の怒りは収まらなかった。そして腹いせに、聖剣の前の看板を引き抜いた。すると驚くべきことに、看板が口をきいた。
「おめでとうございます、あなたが勇者です!」
【選ばれた男】
「すごいぞ! 俺は選ばれた人間だったんだ!」
「なんだって!」
「見ろ、額にMの紋章が!」
「それM字ハゲだよ」
【割りの良いバイト】
定職に就いていないと稼ぎが少ない。俺はいつものように、良いバイトはないものかとインターネットを巡回していたら、とても良いバイトを見つけた。24時間拘束される代わりに、24万円貰える。つまり時給に換算すれば1万円。
これだけ待遇が良いと逆に不安だが、どうやら治験のバイトらしい。なるほどね、新薬の実験か。普通の人なら怖いだろうが、俺は違った。金がもらえればそれで良い。早速電話した。訊いたところでは、命の危険はまずないということだった。
「今日はどうぞよろしくお願いします」
バイトの当日、俺は医者に言った。
「よろしく。君はなかなか勇気があるね」
「勇気、ですか」
「うん、今時こういうの、やってくれる人は少ないからね」
そんな風に言われて、俺は段々と不安になってきた。
「でも、命の危険はないって聞きましたよ」
「うん、まず死ぬことはないだろう」
それを聞いて俺は安心した。一方で、何の薬を飲まされるのかも知らずに来てしまった事は軽率だったとも思った。もしかしたら変な薬かもしれない。もちろん、時給1万円もらえるのならどんな事だってするけども。
「それなら安心です。時給1万円のためなら、多少のリスクは背負いますよ」
俺がそう言うと、医者は不思議そうな顔をした。
「時給1万円だって?」そして、素っ頓狂な声でそう言った。
「そうです。24時間拘束で、24万円貰えるんならそうでしょう?」
計算では確かにそうなる筈だ。何も間違っていないよな。
「もしかして君、なんの薬を飲むのか知らずに来たのかい?」
「なんの薬だろうと、時給1万円貰えるのには変わりないでしょう?」
「変わるよ。これから君が飲むのは、1時間が1年間に感じるようになる薬なんだから……」
【選ばれた男2】
「すごいぞ! やっぱり俺は選ばれた人間だったんだ!」
「なんだって!」
「見ろ、後頭部にOの紋章が!」
「円形脱毛症だよ」
【副作用のない薬】
「副作用のない薬を発明しました」
「なんと、そんな薬ができるのかね」
「ええ、人間には一切副作用が生じません」
「それは素晴らしい。で、一体なんの薬なんだ?」
「人間を一瞬で殺す薬です」