アイス売り 他4篇
【アイス売り】
「温かいアイス、温かいアイスはいかがですかー」
良く通る声で言いながら、女が道を歩いていた。
「温かいアイスだと」
興味を持った男が女を呼び止めた。
「はい、温かいアイスでございます」
聞いて男は疑った。
「そんなものあるわけないだろう」
彼はすでに半世紀以上生きていたが、そんなものは見た事がなかった。
「いいえ、確かに温かいアイスでございます」
「ふむ」
男は女をじっと見つめた。どうも、嘘をついているように見えなかった。
「では1つ頂こうか。いくらかね」
「150円になります」
男が金を払うと、女はアイスを差し出した。男はアイスを受け取って、がっかりした。
「これが君の言う、温かいアイスかね。全然温かくない、普通のアイスじゃないか」
「いいえ、すぐに温かくなりますよ」
女は一つ指を鳴らした。雪が降ってきた。すさまじい風が吹き、直ぐに吹雪になった。気温はマイナス40度を下回る極寒となった。
男は持っていたアイスに頬を寄せた。そのアイスの温かいことといったら……
【余命3分】
「あなたの寿命は残り3分です」
「そんな」
医者に言われて男は泣いた。まさか、あと3分しか生きられないなんて。
「泣いてる時間がもったいないですよ。残り少ない時間を有効に使わないと。ほら、もう1分経ってしまいました。あと2分ですよ」
医者がそういったとき、超巨大隕石が地球にぶつかって、地球は粉々になってしまった。
残りの2分間、男は一人ぼっちの宇宙空間で退屈に過ごした。
【突然のTS】
朝、目が覚めると女の子になっていた。
「うわあ、女の子になってる」
「まさか、そんなはずはありませんわ」
「うえーん、本当なんです。証拠をお見せします」
「どれどれ」
◆◆◆不審者情報◆◆◆
きのう夕方、帰宅途中の女子学生が、上下ジャージの中年男から「女の子になってる」などと声をかけられるトラブルがあった。心配した女子学生が近づくと、男は男性器を露出し、女子学生が悲鳴をあげると西方へ走り去っていった。
男は40歳くらい、身長170cmほど。小太りで白髪交じりの短髪でした。
【すごいヘルメット】
「10階から落としても壊れない頑丈なヘルメットを開発したぞ」
「それはすごい、すぐに試してみよう」
数分後、ビルの下には無残な男の死体と、傷一つ付いていないヘルメットが落ちていた。
【新聞配達】
新聞配達の朝は早い。毎朝早起きして新聞を届けなければならない。なんと言ってもまだ寒い外へ出るのは辛いが、無事に新聞を届けることができた時、喜んでくれるのが何よりのやりがいだ。
今日もまたあの音がなった。新聞が郵便受けに入る音だ。僕はそれを聞くと一目散に外へ飛び出し、新聞をくわえてリビングに座る主人へと配達する。
「お、今日も新聞配達ありがとう。マロン」
言いながらご主人が頭を撫でてくれた。そうだ、このために僕は毎朝がんばっているんだ。