第08話 どうしようもなく狭い世界で
「右手には……左回転。左手には……右回転」
俺の両手に死を乗せて、回転を与える……
「神殺嵐」
<<ヴァキューン!!!>>
突如として何もないところから出現した圧倒的破壊力の塊に、呑気してなくともその場にいた全員はビクッた!!
「ヌぬぬぬぬぬぬうん!!??この力は、避けきれん!」
「避けんで結構!このまま擦り潰されろや、ビチグソがぁ!!!」
絶鹵の放った神殺嵐は、即座に部屋中を覆い尽くした。
逃げ場なんてないまま、迫りくる嵐のように敵を襲う。
「おい絶鹵!俺も巻き込むつもりか!」
「うるせぇ凰染!テメェは構いやしねぇだろ!
それより詠斗、ヤベェのはテメェだ!!」
この中でただ一人、並みの耐久力を持った詠斗。
そんな詠斗に神殺嵐を真っ向から受け切ることは出来ない!
「構わないさ絶鹵……そのままやれ!」
だがそれで敵を下せるのなら、詠斗もまた構いはしない。
「……なら、容赦はしねぇ!」
「そうはさせぬッ!!」
それを意地になってでも止めようというのが、兄弟の本懐。
いや、そうせざるを得ない!!
「行くぞ弟よ……」
「無論……兄者!」
兄弟は突っ込んだ、その嵐の真っ只中へと。
そして全身を回転させた!神殺嵐の回転と同方向に!!
「まさか……受け切るつもりか!?」
「同方向の回転で流し、威力を軽減しているだと!!」
目に見えて減っていく勢い。
兄弟は無傷のまま、着実に神殺嵐の威力を削ぎ落として行き。
<シュン>
完全に消滅させた。
「一先ずは去ったぞ、我々の脅威が」
「これ程消費してしまっては、絶鹵、貴様の死もそう残ってはおるまい?」
属性の絶対量という制限。
それは高出力の技ほど、より多く消耗して行く。
「ああ、俺はもう不死性すらマトモに保てねぇぐらい消費しちまった」
「ならば勝機は」
「我等にあり」
唯一の属性である絶鹵が燃料切れのため、勝利を確信した兄弟。
だがしかし、属性を下そうというのなら無理にでも燃料を切れさせればいい。
「だが消費した分はキチンと、テメェに預けたぜ……凰染」
「なっ」
「ぬっ」
「巻き込んだだけだろうが……」
さっきの神殺嵐はただ消されただけではない。
凰染一人だけを巻き込んで、消えた。ならばチャージは十分!!
「なぜ生きている、貴様が、あれを食らってェェェェェェ!!!!!」
ゴキゴキ首を二回鳴らして。
「っま、こんだけありゃあ属性二人も削んのは余裕か」
「後は任せたぜ、凰染」
輪廻無双刃を振りかぶる凰染。この一撃で……兄弟を粉砕する為に。
「輪廻無双刃爆裂!心中謳歌ッッ!!」
「兄者ァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
「弟よォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
放たれた爆裂!心中謳歌の光に包み込まれて行く兄弟。
その速度からは逃れようがなく、その威力からは助かりようがない!!
よって兄弟はそのまま、ダウン!
「勝った!勝ったよ凰染、絶鹵!」
「だな……ま、対して苦労もしてねーが」
「ちょっと絶鹵、その台詞は俺のじゃねーのか?」
ともかく勝利した三人は、喜んで出口へと向かって行くのであった。
「って、呆気なさすぎるでしょう幕引きがぁ!!」
「……なんだ」
いきなり声が聞こえてきたな。
しかもどっかで聞いたことある声……なんだっけ?
たしかこの間絶鹵とやり合った時に聞いた……
「あれ見ろよ、出口の上にモニターが」
絶鹵の指差す先、ああ、よくさっきので壊れなかったな。
確かにモニターがある、そんでそこには……これまた見覚えのある顔が。
「どーもー、みんなの理事長刹那さんでーす」
理事長のバァさんじゃねぇか。
いや……見た目は若々しいんだけど、妙に若作りしてる感じがしてなんか。
「でね、ここでもうちょい君等には戦ってって欲しいんだよね?」
「そうか、ここに俺等ぶち込んだのはテメェか。
なら後でぶっ飛ばす」
「人の言うこと聞いてちょ!
それに、貴女達が私の言うこと聞いてくれないとー?」
「きゃー、助けてー」
!?、琴音の……声!?
「助けてー、凰染」
「このままじゃ私達ヤバイよー」
琴音と光の助けを呼ぶ声……だけど。
「棒読み過ぎん」
「棒読みだな」
明らかに言わされてる感満載なんだよなー。
これ、理事長と結託して、俺等になんかさせようって魂胆じゃ。
「た゛す゛け゛て゛よ゛み゛と゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!!」
……これまたどっかで聞いた感じの叫び声。
でもまぁ、モニターに写ってるあの子は見たことないし。
「あ……或子ォ!!」
なるほど詠斗、お前の彼女ね。
どうりで迫真の叫び声がそっくりだこと。
「でしょうねしょうねぇ。
虚貴詠斗クゥン、この子は正真正銘本物の絽江或子ちゃんよぉ。
貴方がもし、私の言うこと聞かなかったらどうなるか、分かるわよね?」
「くっ……外道が」
いや。
明らかに演技です。
「ならどうすればいい!
どうすれば或子を……無事解放すると約束する!!」
「それは簡単……貴方のその力を、存分に見せつければいい!!」
<<ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ>>
この地響きは……何かが、下から来る。
<<グルルルアアアアアア!!!!>>
鳴き声と共に、地中から現れたのは巨大な手。
まぁどう見てもヤバイのが来たってのは分かるが。
「言っとくが俺はまじでガス欠だぞ」
「ああ絶鹵、俺もかったりぃからこれ以上動く気はねぇ」
ツーことで。
「「頑張れぇ、詠斗」」
全部詠斗に任すことにしました。
「上等だ……或子待ってろ、今助け出す」
「ならばそいつを退けなさい!
でなければ、この子の命はないと思えぃ!!」
「或子ぉぉぉぉぉ!!!!!」
<バコス!!>
あ。
素手で勝った。
「おー勝った勝った、阿吽の兄弟を見事退けましたねー」
場所は変わってまったく知らない何処か。
ちょくちょく出てた理事長の息子、鬼城羅刹くんとその他二名。
「雑魚だったろ、そいつ等」
その中でも一際背の大きな人物が、椅子に踏ん反り返りながらそう言った。
「うん、瞬殺」
はい僕羅刹くん。
ちなみに今は大事な会議中なのです。
これでも、実は結構偉い立場だったりして……
『羅漢三厳将』、なんてくだらない呼ばれ方もしてますけどね僕達。
「そんな奴等を刺客に使っちゃ駄目だなぁ。
でも今回は僕の推し……絶鹵の活躍が見れたからいいか」
壁に寄り掛かりながらそうほざくのは、『無羅陰』
僕と同じく羅漢三厳将のメンバーだ。
「全部凰染ちゃんに持ってがれてた気がするけど、気のせい?」
「ああ、気のせいさ。
あれは絶鹵の貢献があってこそ、そもそも絶鹵が兄弟を消耗させていたからこそ」
笑顔で答えてきた。
だって仕方ないか、今羅陰は絶鹵ちゃんラブなんだから。
「でもねー、この子達とタメ張れるのなんて……そうはいないよ?」
「なんなら僕が行こうかな。
むしろ僕から行ってあげないと、きっと絶鹵は待っているのさ」
「やめときなって、それは母さんに止められちゃうよ?
母さんが知りたいのは彼等の実力であって、壊し方じゃない」
「……手は抜くさ。
僕も見たいのは、絶鹵が生きている姿だしね」
実力……かぁ。
その目で確かめたいだろうね、情報なんかじゃなく、もっと確実なそれを。
予言通りならば……世界を救うのは彼等なんだからね。
「そしたら羅刹、君が刺客になればいい。
力の制御だったら、君が一番うまいじゃないか」
「ふーん、でもねぇ……僕そんなに性格良くないから。
やるとしたら殺しちゃうな、みーんな」
どうしても。
だから母さんは僕を彼等と直接合わせようとしない。
少しでも僕を怒らせたら、どうなるか分かっているからね。
「それより、だ……羅刹」
緊張感のある声。
敵わないなぁ、どれだけ僕達がふざけていても。彼の声にだけはシャキッとさせられる。
ね、『轟襲疑羅幻』くん。
「他学園との集会……母君がやってくれたようだな」
「ええ、おかげでガソリンが高くなっちゃってまぁ。
いい具合に喧嘩売ってくれたんでしょうねぇ……我が母ながら」
そう、この鬼城学園以外にも神遺武装を扱う学園はいくらでもある。
そしてその各学園の代表が、定期的に集まって集会を開いている。
それがまた……学園のバックが国でも有力の権力者ときた。
学園の優劣が、そのまま国の優劣にも繋がる。
そこまで来ちゃあもうこの集会、世界の命運を握ってると言っても過言じゃないでしょう。
ま、今回は軽い経済制裁で済んだけど。
「あまりデカい面はしてくれるなと。
実際に働くのは、我々とそのガキ共なんだからな」
「僕でも大概人の話聞かないんですから、その親が息子の言うこと聞いてくれます?」
「無理な話だったか……すまんな」
「いえいえ」
まったく、類は友を呼ぶだよね。
僕の周りには、どうしてもこう自己中心的な人が多過ぎる。
「だが刺客というのは面白いかもな。
羅刹……羅陰、暇でもあれば行ってこい」
マジか……母さんと羅幻、どっちの顔を立てるかねぇ?
次回へ続く。