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最強火力の脳筋無双《バカサラス》  作者: 入江晃明
season1 導かれたバカ達
1/45

第01話 入学!この世の地獄、鬼城学園

 『最強』になる。

 俺はただそれだけの為に、今まで生きてきた……

 

 と言うのは建前で。

 なんか俺の実家が名門の端くれとかで、小さい頃から武術剣術の類を学ばされて来た。

 生まれてからついこの間まで、修行漬けの毎日よ。

 結果、俺は強くなり過ぎた。

 そしたら実家の連中が正式な後継者争いかなんかで、俺が邪魔だとかで。

 裸一貫、家を追い出された始末だ……


 そしたらよぉ、ほんのちょびっとも実家の外へは出たことなかった俺だが。

 あら見てビックリ、お誂え向きのトコがあるじゃねぇの。


 『鬼城学園』

 大陸直ぐ横のちっぽけな島国に建てられた、学園機関。

 数多の実力者がここへ集い、その覇を競う……

 強ければ強い程良い思いの出来る、まさに俺にうってつけ……楽園!

 

 ……俺はここで『最強』を示す。

 誰よりも良い思いをして、誰よりも華やかな人生を送るためにな!

 『試験』は既に受けた!他愛もねぇ、簡単な内容だったぜ。

 そして合格通知を受け取った俺はよぉ、何よりも大胆に……入学!



「え、何これ」


 自分でも呆れる程、とびっきり間抜けな面をした『え、何これ』、だったと思う。


 見て分かる通りのこの場所、ただの受付で俺は入学手続きをしていた。

 クラス毎の制服を受け取るっていう、最後の手続きを……


 今、俺に手渡されたのは……白地をベースに、黒のエンブレムが付けられた制服。


 クラスのランクはA〜Cに分けられている。

 基本的な制服のデザインは同じながらも、それぞれが異なった色のエンブレムをしていて……

 最高クラスのAランクが青、中堅のBランクが赤、そして……最低のランク、Cランクの色が……『黒』 


「はい、ですからこれが。

貴方に割り当てられたランクの制服となっております」


 と、係の姉ちゃんは笑顔で言ってはくれるが。


「どーゆぅことだァ!!コイツわぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は本気で怒りを露わにした。 

 納得のいく筈のない……その結果に。

 俺が最低最弱のランクに割り当てられた、この現実に!!


「えっと……採点済みの成績は、返却されましたよね?

轆轤鳳染(ろくろおうぜん)』様、高等部からの編入生として試験を実施。

合格基準、六割以上の中で。貴方の成績は、実技満点(五割)の筆記が一割。

ギリギリ基準点丁度で合格になったとの通知が」


 お手元に資料らしきものを掲げて、紛れもない現実を俺に突きつけてくる受付のお姉さん。

 その笑顔には無情さすら感じた……

 なんで……なんでこの俺の実力でC!?


「たの、頼むよぉ……そこんとこ、どーにかできないのぉ!?」


 必要以上の圧をかけて受付のねぇちゃんに詰め寄るが、たじろぐばかりで。

 つーかどう考えても強引に押し切れそうにもねぇ……

 クソ!なんとかここで挽回のチャンスはねぇものか。


 なんて考えてたらよぉ……


「おいおい、歓迎会で早々……やかましい奴が居るじゃねぇか」


 後ろでなんか視線を感じた。

 明らかに、俺を馬鹿にしているって視線を。


「おい見ろよ、アイツC()()()最低ランクのな!」


「なるほどそれだけ『低俗』なこった!ど底辺のCランクってだけあるぜ。

学もねぇ、社会の役に立てねぇような屑だけが、ようやくこの学園にしがみついてなるランクだもんなぁ!!」


 受付で少し騒いだだけでえらい食いつきじゃないの。

 えっと、最初に俺を馬鹿にしたリーダーらしき男と、取り巻きが数人。

 しかも全員あれ、エンブレムの色が……『青』

 アイツ等全員、Aランクで合格した連中ってこった。


「社会の屑?ピッタシのこと言うじゃねぇか。

アイツは今、受付のおねぇさんを恫喝した!明らかな屑!

治安を乱す悪党、こいつは許されるわきゃねぇよなぁ」


 完全に俺を指差して悪党呼ばわりかい。

 まぁ、側から見ちゃ間違いなく俺は悪党だろうが。

 受付のお姉さん恐喝罪で捕まりそうですが。


「よっ、実誠(さねみ)さ〜ん!いつものアレっすね」


 で?

 その実誠さんがなんで、ちょっとずつ俺に近づいて来てんのかな?


「中等部からの伝統、檜山実誠(ひやまさねみ)の公開処刑タイム!」


「人様に迷惑かける外道畜生共を、正統に、真っ当に、その拳で裁きを与える!」


「人間の屑にゃあ、この鬼城学園に居場所なんざねぇぜ!」


 取り巻きもまぁ気合入っちゃって、捲し立ててくれちゃいるが。

 当然、この学園内で通常の法律はほとんど通用しない。

 腕力が物を言うんだからよぉ、事の善悪も……実力で決着をつける。

 そして今……拳でって言ったよな?


「オメェさん、高等部からの編入生なんだってなぁ?なら知らねぇと思うが。

この学園では互いの同意を得た場合にのみ、ルール無用!生死不問の私闘が許されている!」


「その名も『毅然問う戦闘(デュエル・スタンド)』!

今から『正統』に、貴様への『処罰』が行われるッ!」


「ひれ伏せ!この檜山実誠の『剣』の前に!」


 ……って、剣持ってんじゃん。

 拳でやりあうんじゃねーのかよ……


<バギィ!>


 勿論抵抗するよ、拳で。


「って言おうとしたのが台無しじゃあねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 野郎が腰の剣に手をかけて、引き抜こうとしたその瞬間。

 抜刀するよりも早く、この俺のゲンコツを野郎の顎へぶち当てた。


「アペッ……シ!?」


「実誠さアアアアアアん!!!」


 ンッン〜、想像以上に良いブち当たり方で。

 これまたスンバラしい距離ぶっ飛んだんじゃないの、実誠サァン?


「き……貴様良くも!我々の実誠さんを!!」


 おお?リーダーをぶっ飛ばしたらんの次に、その取り巻き共がこぞって俺を取り囲む。


「テメェ等、カシラの仇討ちってか?

そんなの今時流行んないって、辞めといた方が良いよ。

それに、テメェ等じゃ俺にかなわねぇ」


「ほざくな下郎!」


「貴様に……実誠さんに変わって俺達が、そのひん曲がった根性叩き直してやるぜぇ!!」


 一ぃ二ぅ三ぃ……

 両手じゃ数えきんねぇな、この取り巻きの数。


「かかれぇ!!」


 一斉に突っ込んで来て……数で押し切ろうってか!


「無意味ッ!!」


 来いよテメェ等全員!

 俺の愛しのゲンコツちゃんでお陀仏よぉ!!


<<ドガッ!バキッ!グシャッ!!>>







「ふーん、なんか面白い奴が居るじゃない」


 ——男女、一組み。

今も尚ドンパチやっている凰染を、近場から眺める者達が居る。


「そうか?ただの頭がおかしい奴に見えるが」


「……アンタと大して変わらないでしょ」


「俺はあんな垂れ目じゃねぇ。

それに、俺はアイツよか強ぇ」


 黒髪を靡かせた両者は、未だ喧嘩をする凰染を横目に去っていった。


「案外あー言うのが、私達の求めてる奴だったりしてね……絶鹵(ぜろ)




 




 はい、さっきは調子に乗りすぎましたすいません。


 取り巻きの大半は、まぁ問題なくぶっ飛ばせたんだが。

 暴れてる最中にさ、他のなんか誰かに警備員さん呼ばれちゃってね。

 コッテリお叱りを受けちゃったのよまー、堪えるなぁ……

 そんでそのまま傷心のまま、入学式に参加しましたとさ現在。


 あ、結局制服は黙って着ました。

 つーか広いなここ、体育館?


 在校生、入学生ざっと数えて……三千ちょいか。

 それがまんべんなくビチィ〜っと詰め込まれて、それでも幾らか空きがあるみてぇだ、この体育館のスペース。


 まぁ、あんまし広すぎるのもあれなもんで。

 後ろになり過ぎるとまったく前が見えないんだよなー、コイツが。

 なんで上に設置されたモニター見なきゃ、大画面に映し出された祝辞を述べてる前の連中の映像が視認出来ない。

 つーかそこまでして見たくねぇって……

 しかもよりによって今流れてんのは、入試成績優秀者の発表。

 微塵も見る価値ねぇよ、ツーことで寝ます。


「ZZZ……」


 入学式用に敷き詰められたパイプ椅子に寝そべり、睡眠タイムへ移行した凰染。

 それはそれは大きな花提灯を浮かべながら、式が終了するまで爆睡しましたとさ。


















 ……うっうーん、急に肌寒くなったぞ。

 つーか肌触りがなんか気持ち悪いぞ。

 入学式シーズンつったって、まだ四月なんだからさ。

 凍えるくらい寒い日だってあるんだ、暖房付けろよスタッフ……


「もすもーす、起きてますかー?」


 はいはい寝てまーす。

 あと3時間は起きないコースですわ、これ。


「そろそろ起きないと死にますよー」


 ……死ぬ?何それ、寝すぎると死ぬの?

 いーやそうか、あまりにも寝過ぎてたのか。


 入学式も終わって片付けの時間になったから、未だ起きようとしない俺を見て、殺して強制処分しようってことね。

 上等だ、しばくぞ清掃員。


<ベチャ>


 目を瞑ったまま、その場でとりあえず起き上がろうかと思ったんだが。

 頭を上げたらなんか、ベチャって……顔面に当たったんですけど。


「何これ?」


 俺は今日一日でいったいどれだけ、この『何これ』という言葉を使うのだろうか?

 多分、今までの人生の中で最も頭を悩ませた事柄なんじゃないか?


 いや、そんなことどーでもいんだよ。

 それより何これ、俺の頭がぶつかったの、目の前で蠢いてる気色悪ぃー物。

 臓物の……壁?


「起きた、あ起きた!?良かった、まだ息が有ったのね」


「ギャアア!!ヘルプ、ヘルプミー!!」


 助けて!何これこの状況、夢なら覚めてー!!絶対コレあれでしょこれ!

 いつの間にかなんか巨大な生物に飲み込まれて、その胃の中で消化されてるパターンでしょこれ!!


「落ち着きなさいよ、まだ生きているんだからさー!」


 !?、……これは、人の声だ!

 良かった、肉壁に阻まれて姿は見えねぇが、まだ生存者がいたんだな!

 コイツを掻き分ければ……感動のご対面ッ、


「やった!誰であろうと仲間がいれば、心強い!」


 ……っと、同じくこの胃の中にいた同胞は……銀髪のガキ。

 まだ十代前半もいい所の、華奢なお嬢ちゃん。


「ガキじゃねぇか」


「!?何よその目は……なんなのよ、その反応はぁ!!」


 ……期待、してたんだぜ。


 こーゆーパターンならよぉ、あるじゃん?

 胃液でさぁ、女の子の服が溶かされて、あられもない姿を晒すってイベントが。

 いや、確かに溶かされちゃいるんだよこの子。

 上半身とかもう……マッパだもん。

 でも俺はもうちょい、大人の女性が良かったっつーかなぁ。

 もっとボリュームが欲しかったって言うかなぁ……


「!?……あんましジロジロ見ないでくれる」


 なんて考えながら真顔で見つめてたら、当然恥ずかしがるよね女の子だもん。

 うちの妹もそーだった。

 ボンキュッボンのねぇちゃんとの甘いイベントこそ起こんなくて、多少はがっかりだが。

 この子はこの子で可愛いから、助けてやんねぇとな。


 それに、ガキは好きだぜ。


「……ねぇ、なんで頭撫でてくんの」


「ちっちぇーから、撫でやすいだろ?」


「これは、屈辱よ……」


 少し撫でてやっただけでそんなこと言われたら、しょんぼりだな俺。


 とでまぁまず、こーゆーときは自己紹介から。


「そんじゃ、俺は轆轤凰染(ろくろおうぜん)っつんだ。

これから脱出するまでよろしくなー。嬢ちゃん、名前は?」


「は?え?あ、名前ねはい。

私は神咲琴音(しんざきことね)、よろしくね凰染……さん?君?」


「呼び捨てにしてくれ。

敬称付けて呼ばれんのは、どーにも性に合わん。

そして人に付けるのもだ」


「……分かった、凰染ね。

そしていーわよ、私の呼び方は琴音で」


 OK、大事な所は決まった。

 コイツはカンだが、どーにも琴音とは長い付き合いになりそうなんでね。


 つか、そんなことより……一体全体どーゆー状況なんだぁ、これ?



 それは遡ること、数時間前。





「まったく少しは無視しなさいよ!

一匹一匹相手してちゃあ、いつまで経っても」


「逃げきれねぇってか?」


 場所は変わって何処ぞの山中。

草木を、襲いかかる猛獣共をなぎ払い突き進む者が二人。

先程意味ありげに凰染の喧嘩を傍観していた連中だ。


 そしてここは鬼城学園管轄地、『魑魅魍魎ヶ園(ちみもうりょうがその)


 あらゆる種類の悪鬼羅刹、魑魅魍魎を管理する人工のビオトープ。

 主に鬼城学園生徒の訓練に用いられる施設であり、今回は新入生への歓迎会と称して、新入生全員をここへ転送したのだった。


 地獄のサバイバルセレモニー……

 死者も厭わぬ歓迎会とは、地獄の片鱗も見え隠れすると言う物。


「てかさっきから何処向かってんの?

まさかとは思うけど、あの化け物倒すってんじゃないでしょうね」


「無論」


 設定上この世界にはとんでもない化け物が生息しています。

 それはドラゴンだとかそーゆー部類の、幻想上の生物も含めて。

 そして今、凰染達を呑み込んでいる巨大生物もその。


「まっさかあんなデカブツ、現れるだなんて思わないでしょ?

見る限り強い……絶対に一筋縄じゃいかねぇ強敵、おもしれぇ!」


「だから、さっきのアナウンス聞いた?

アレは事故なんだって、本来は出てくるはずのなかったレベルの違うモンスター!

下手したらアンタでも勝ち目がないかもよ……」


「そんときゃそんときだ。

まぁ、あのバケモンと真正面からやり合うのも面白そうだが。

俺達のやっことは、そうじゃねぇだろ」


 あら、キチンと分かってたみたいね。

 私達の『目的』は……しっかりと。


「行くぞ(ひかり)。あれとやり合うのも、排出口も……あの山の上だ」






 一方その頃、胃袋内では。


「よし、突き破るぜ〜胃袋!」


 頼んだぜ、愛しの愛刀ちゃん。


「なんか、珍しい形状ね……それ。輪っか状の、武器?」


 琴音が俺の愛刀を指差して、物珍しそうに見てやがる。


「そりゃ当然珍しいからな、この愛刀……

武器としちゃ、チャクラムって部類らしい」


「聞いたことないわね、そんなの」


 ならその目に、見せてやるよ!

 俺の愛刀の切れ味ってやつを。


輪廻無双刃(オルティナ・チャクラ)……」


<<ズブシャア!!>>


「貫……通ぅい」


 

















「なんであんな化け物が、ここに!」


「化け物共がいる森に飛ばされるとは聞いてたが……

そんな、あの大きさは山ほどもあるぞ!」


「うろたえるな、俺達には……あの人が居る!」


 このセレモニーには、新入生の全員が強制的に参加させられる。

 つまり、あの男も……当然の如くいる。


「おいおい、歓迎式で早々。粋のいい獲物が居るじゃねぇか」


「……実誠さぁん!!」


 緩やかな丘の上、一面開けたそこに……男達は立っていた。


「お前等引いてろ、これだけの獲物だ。

俺も……お前等気にして戦えるほど、器用じゃあねぇ」


「実誠、さん……」


 取り巻きを全て後退させ、ただ一人前に出ていく実誠。

 既に抜かれたその刀を……右手に携え。


「行くぜデカブツ!そのフワフワ浮いてるデケェ図体、地面へ引き摺り落としてやる」


 遥か上空に浮かぶ巨体を前にして、地に足を付けることしか出来ぬ人間が、どう対抗出来ようか? 

 だが実誠は知っている、その対抗法を。

 だからこそ、実誠は全身の気をその刀身に収束させた。


檜山天元流(ひやまてんげんりゅう)、攻式……撞嶺瓦(しゅれいが)


<<ヴァウン!!>>


 刀身より放たれる斬撃エネルギー。


 そう、どう足掻いても射程距離が足りぬなら、ビームでも打てばいい!

 己の『気』を媒体とし、斬撃を具現化することに特化して剣術……それこそが『檜山天元流』!


「幸いだったなぁ。おそらく今ここで、あの浮遊したデカブツに一矢報いれるのは、この檜山実誠をおいて他にはいねぇ。」


「……実誠さん」


「この一撃、正面からぶち当たったならば、流石に効かざるおえまい?」


「実誠さん、いやあの」


「なんだよさっきからウルセェな。

人が勝利の余韻に浸ってるんだから、用事があんなら後で」


「あの怪物、まるで効いてないみたいなんですけど」


「……ふぇ?」


 実誠の放った斬撃は確かに届いた、命中していないわけではない。

 それでも怪物は一向に怯みすらしない。

 要するに実誠の斬撃は、毛ほどもダメージを与えられていない!


「うそぉん」


<<<ブモロロロロロロロロロロロアアアア!!!>>>


「!?」


 突然の咆哮。

 実誠の攻撃を受けてまんじりとも反応を示さなかったデカブツが、突如として痛みにのたうち回る咆哮を上げた!

 

 そう、この時ジャストッ!

 同時にデカブツの体内を掻き分けて、凰染達が外皮に到達したッ!!


「おっしゃお外の空気美味ぇ!!」


「くはっ!鼻にこべり付いたわも〜、臓物の匂いがぁ!!」


「ああ、しばらくモツ鍋も食いたくねえ」


 胃袋を突き破り、外皮に到達するまでの内臓部を全て無茶苦茶に引き裂き掻き分け這い出てきた二人。

 その行為は、デカブツに対し想像の域を脱す、絶大な痛みを与えていた。


「ったくでもよーやく外にたどり着いたわぁ。

とにかくお風呂!このベトベトをとっとと落としたいわ、つかここどこぉ!?」


「ともかく上にだけ掘り進んできたんだ。

大方出て来るとしたら、このバケモンの真上だろ。

なんか浮いてるし、つーかそれよりお前ほら」


 内臓を掻き分け這い出て来る際、制服までは粘液でボロボロに溶かされてしまった凰染だが。

 さらにその下、シャツをも自ら脱いで半裸となり。


「これでも着とけ」


 上半身スッポンポンの琴音へと投げ渡した。


「へ、あ、え!?ありがと……」


「ありがたくもねーだろうが、ボロ布一枚だろうが無いよかマシだろ。

 そいつを着とけ、じゃなきゃ風邪引くぞ」


 そう言うと直ぐに凰染は、ただ一人黙ってその先へ進んでいった。


「まって、勝手に何処行くのアンタ!?

一緒にこっから脱出するんじゃなかった……の」


 あれは……


「悪いな琴音。

俺、どーにもこういう扱い方されちまうと、何倍にもして返さねーと納まらねぇタチなんだ。

安全に助かりてーなら、こっから先は一人で逃げてくれ」


 気遣い、なんてもんじゃない。

 凰染はこれから、このデカブツに喧嘩を売る。

 常人ならまず、見ただけで尻尾を巻いて逃げ出すであろう怪物を前にして、この男は楽しんでいる。


 私は邪魔なのだ。

 存分にこの化け物と殺り合おうと言うのならば、そこには自分と……相手がいればいい。


「まさか、この化け物とやり合おうっての!?

なんで……無視してコイツから降りれば!」


「納まりがつかねんだよ、それじゃあ。

もういっそのこと、コイツの魂ぁとらねぇ限りな」


「だからってアンタ……その()!」


 琴音のために脱ぎ捨てられたシャツの下、凰染の背中には。

 脱出する際についたのか、深い傷が刻まれていた。


「あん、コイツか?コイツなら気にすんな」


「気にするなって……それ、さっきついた傷なんじゃ」


「返り血でもついて生々しく見えるかもしんねぇが、こいつは古傷だ。

今の俺はきっちり、元気全快よぉ!」


 そこまで言って凰染は、その刃を振るう。


「な!?」


「悪ぃ、モタモタし過ぎた」


 それは突如として、凰染達の周りに現れた。

 無数に蠢く触手……外皮の上に佇んだ外敵を察知してか、この化け物はその排除を実行したらしい。

 触手という攻撃手段を持って、凰染達を刈り取る為に。


「一度は食らった餌によぉ、腹わた抉り出されたって気分てのはどーだい?

そら心底痛ぇよなぁ、殺したくもなるよなぁ!」


「そんなこと言ってる場合!?

これ、完全に私達を殺しに来てるわよ!」


 襲い来る触手の波を、悉くをなぎ払う凰染!

 凰染の暴れっぷりで粗方周りの触手は片付いた様子だが。

 それでも、凰染達へ向かって来る触手の数は際限がない!


「だな、殺意MAXだ。

こりゃ早いとこ、弱点でもつかなきゃキリがねぇな」


「弱点て……そんなの、何処にあるか分かるの?」


「分かんね。どーにか手っ取り早く仕留められる手は……

よし、じゃあやっぱここは一発」


<ガキン>


「……取れたぁ!?」


 凰染は己の持つチャクラムに両手を掛け、強引に、チャクラムをまっ二つに取り外した。


「驚くこたぁねぇ、元々コイツは外れるんだ。

二刀に別れたコイツこそ、俺の愛刀……輪廻無双刃(オルティナ・チャクラ)!」


「凰染、後ろぉ!!」


<ザシュザシュッザシュ!!!>


 誇るかのように二刀を掲げていた凰染の、空きに空いた隙を狙って触手達が一斉に凰染の体を突き刺した。


「ガ、ハァ!」


 腕を、腹を、心臓すらも貫かれてしまった凰染。

 当然の如く吐血し、そしてまた当然の如く倒れていくものと思われた。


「凰……染。そんな、え……」


 それを目の前で目撃した琴音こそ、最も凰染の死を確信していた、だが。


「……ぎぃ!」


 等の本人こそが一番に、己の死を否定していた!



 

 人智を超えた超能力を発揮する神の遺物、神遺武装(アーティファクト)

 それは人類へ時に繁栄を、時に滅亡すらも与えた。

 人の手にあまる、その絶大な力を完璧にコントロールすることさえ出来れば、人類を新たな段階へ進化させるだろう。

 その為に設立されたのがここ、鬼城学園。

 神遺武装(アーティファクト)という力を使いこなす為にだけ集った、規格外の化け物達。


 ならばいよう、己が死をも克服する化け物をも……ここに!



絶叫(バドゥレイズ)ッ!!」


<ドグシュウウウウウウウウ!!!>


 凰染を貫いていた触手が、この一瞬で全て塵に消えたッ!

 それだけではない!みるみるうちに、凰染の体に空いた風穴がッ!


「『再生』……していく!?凰染の負った傷が、全部!!」


 傷口は塞がった、少なくとも致命傷に当たる傷は全て!


「高まるッ!高まってるぜこれはァァァァァァァ!!!」


「どーゆう理屈よッ!それはァァァァァ!!!」


 輪廻無双刃(オルティナ・チャクラ)の能力、それは再生と吸収。

 即死級のダメージであろうとその傷を完治させ、受けたダメージをそのままそっくり己の火力とする。


 ついでに自分自身の力も吸収分に上乗せさせ、一気に解き放つ凰染の十八番奥義ッ!!」


輪廻無双刃(オルティナ・チャクラ)激烈!破殺蓮華(レッテルディベルデ)ッッ!!!」


<<<グググガガアアアシュ!!!!!!>>>


 正真正銘ッ!凰染の本気が、デカブツにむけて放たれるッ!!


<<<ブモロロロロロロロロロロロアアアア!!!>>>


 貫通ッ!このデカブツのど真ん中にぃ、でっかい風穴をブチ開けたァ!!




 ———そしてこのデカブツは即死し、その浮遊状態を維持できなくなった。


「………………あり?なんかこれ、落ちてね」


「そりゃアンタ、この足場を殺したんだから。

落下して当然じゃない?」


「…………」


「…………」


 ちょっとの間を開けて、これから起きる惨劇をよーく理解した凰染と琴音。

 そうして二人は、考えるのを辞め……


「ってたまるかァァァァァァァァァァ!!!!!

こらそーいうことだよなぁ、つまりそーゆうことだよなぁ!!」


「どーもこーもこれやったのアンタでしょうがー!!!

どーすんのこれ、落ちるよこれ!かなり高いんだよこれ!!」


「まずい……思いの外さっきより落下が早くなって来た。

ほらなんか掴まれるものを!早く!振り落とされるゾォ!!」


 このままでは二人共助からない。

 そう考えた二人は、どうにか落下しても無事で済む方法を模索するが。


「!?、待って、ここだここ!!」


 ここで凰染、妙案を思い浮かべた。


「え、何ィ!?突起物あった!」


「突起物はねーけどよぉ、俺達にはこれがあるじゃねぇか!さっき穿り返した穴!」


「またぐちゃぐちゃになれってかァーー!!」


 助かるどころか、トラウマを穿り返されそうになった琴音であったが。


「もうこれしかねーだろ!

コイツん中入れば、きっと!クッション的なあれで助かる!低反発だから!!」


「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無無理無理無理!!!!!!

二度とここに入るくらいだったら、私は死ぬぅーー!!」


「んなこと言ってる、場合かぁ!!」


「ウギャッ!」


<ズミュッ>


 もうどうにでもなれと、無理矢理琴音を掴んで中に引き込んだ凰染。

 それが間一髪、落下前の衝撃に間に合ったようで、二人はなんとか助かりましたとさ。



















「あらら〜、落ちた落ちた。一足遅れちゃったわね」


 その頃一方、またもこちらの二人組は。


「バーカ、それよりこれ見ろ」


 先程向かっていたであろう、山の山頂へ来ていた。


「あのデカブツが出て来たのは……ここだな?」


「ええ、最初に感知したのがここだったみたい」


 本来あのデカブツはこことは違う管理区にいた存在。

 そいつがここに来るとしたら、通るのはこの場所。


「別個の管理区とを繋ぐこのゲート。

そいつが『事故』で、勝手に開いちまったからあれはここに来た」


「……そうなるわね」


「だとしたらこれは、明らかに故意的」


 それは乱雑に、ゲート全体を溶かし尽くしていた。

 まるで……とんでもねぇ熱量を一気に浴びせられたかのように。


「炎の属性(ディマギア)、やはりここに……野郎が」


「ええ、居るでしょうね」



 次回へ続く。

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