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ゴブリンの王都と恐竜

「ここがゴブリンの王都か、大きいね」

「うん、あの城壁とか、すごい高さだよね。ダムみたい」

「100mはありそう。しかもまっすぐじゃないよ。傾斜がついてる」


 ゴブリンの王都の城壁は100mはあろうかという高さで、衝撃に耐えるためなのだろうか、傾斜がついているタイプの城壁であった。幅も城壁の上ですら30mはあろうかという厚みだ。おまけに広さもすさまじい、昨日のゴブリンの街も100万匹以上いそうな規模はあったが、この王都は1000万匹以上軽くいそうな大都市だった。


「あれ? ところどころ補修のあとがある?」

「ほんとだ、なにか襲ってきたのかな。でも、ゴブリンが見栄えなんて気にするはずなから、実用性重視でこの大きさのはずだよね。昨日の街は虫用っぽかったけど、実用性重視でこの大きさ、なにと戦ってるんだろうね」

「傾斜のせいで上りやすそうだから、同じゴブリンや虫モンスターが相手じゃなさそうだよね」

「どうしよう、とりあえず、昨日と同じ作戦でいく?」

「そうだね。でも、まずはゴブリンゴーレムでダークグリーンゴブリンを回収するね」


 そして、ぷうがゴブリンゴーレムにダークグリーンゴブリンの死体を回収するように指令を送る。ゴブリンゴーレムはダークグリーンゴブリン達をぽいぽいっと猫トラックの荷台に入れる。もちろんゴブリン王も積み込んだ。作業が終わるのを待っていると、ゴブリンの王都の北東から、大声が聞こえた。ちなみに3匹はゴブリンの街から北に向けて進んで、王都の手前の丘に居るため、王都からみたら南の方向にいた。


「がおおおおおんっ!」


 明らかにゴブリンのものとは違う咆哮だ。


「何の声?」

「あっちだね」


 そう言ってぴぴは北東に目を凝らす。すると、ゴブリンの王都から無数の大砲による攻撃が始まった。


「なにかが攻めてきたみたいだね」

「うん」


 王都の周辺は3キロ以上にわたり木々が伐採されており、ここ、南の丘からもすごい眺めがいい。そんな3匹から見える位置に、ついに咆哮の主が姿を現した。北東方向の大森林の中から、木々をなぎ倒しながら、現れたのは、超巨大な恐竜であった。その姿はティラノサウルスみたいに手が小さく、頭の大きいタイプの恐竜だった。ただ、ティラノサウルスのようさスタイリッシュさはなく、ティラノサウルスの胴体と頭の比率よりも大きい頭の比率。正面から見てもでっぷりしている丸いボディ。まるでぷうのゴブリンゴーレムのような、愛くるしさというかポッチャリ感のある姿だった。


「おお~、恐竜だ。恐竜だよ。ぴぴ、ぷう」

「うん、恐竜だね」

「恐竜だね~」


 巨大な恐竜に、ハピは大興奮である。ぴぴとぷうはそれほどでもないようであった。


「あれ? すごくない?」

「だってハピ、こっちに来るとき、あの超大きい竜にあったじゃん」

「いや、あれは大きすぎて目すら全容がつかめなかったし」

「まあそうなんだけど、あの竜に比べたら、ミジンコ以下だよ」


 どうやらもっと大きい竜の知り合いがいるため、ぴぴとぷうには物足りなかったようだ。


「そっか」

「でも、どうしようね~、流石にあれ相手じゃ、ゴブリンゴーレムじゃ勝てそうにないよ~」

「しばらくはほっといてもいいんじゃない。こっちに来る気配ないし、案外ゴブリンの王都をあの恐竜が殲滅してくれるかもよ」

「なるほど、漁夫の利作戦っていうわけだね」


 巨大恐竜は城壁から襲い掛かる砲弾や魔法をものともせずに、どんどん城壁へ近づいていく。


「ぎゃおおおん!」


 恐竜は咆哮をあげると気合十分といった感じで、盛大に城壁に体当たりした。どうやらこの頑丈な壁も、その壁についたキズも、この恐竜が原因っぽかった。


 どおおおおおおおんっ!


 すさまじい衝撃が3キロ以上離れているはずのぴぴたちのところにまで伝わる。


「すごいパワーだね」

「うん」


 体当たりにより、城壁の上から攻撃していた遠距離攻撃手段を持つゴブリンが何匹も下に落ちる。恐竜は攻撃されるのもきにせず、落ちてきたゴブリンをもぐもぐ食べる。どうやら恐竜はゴブリンを食べに来ているらしい。


 勇敢に戦うゴブリン達がいる一方、逃げ出すゴブリン達もいた。ゴブリン王が倒れたせいか、統率に混乱が生じているようである。ぴぴ達が見える王都の南門からも、続々とゴブリン達が逃走していく。


「ゴブリン達が逃げちゃうね。どうしよう」

「雑魚ばっかりってわけでもなさそうだね。そこそこ大きめなのもいるね」


 どおおおおおおおんっ!


 2回目の体当たりだ。今度は警戒していたのか、1回目よりも落ちてくるゴブリンが少ない。恐竜は頭上からの攻撃も気にせずに、他の場所へ行くようだ。なんとぴぴ達のいる南門のほうへやってきた。そこには当然城門から逃げ出してるゴブリンの群れがいた。そのゴブリンの群れを見つけると、恐竜は嬉々として襲い掛かる。大きなお口でがぶっ、もぐもぐ、大きなお口でがぶっ、もぐもぐ、とゴブリン達を捕食していく。


「恐竜が移動してゴブリン食べてるね」

「うん、よくあんなまずそうなの食べる気になるよね。味見すらしたくないのに」

「うん、そうだね・・・・・・」


 味見してあまりにも不味く、八つ当たりで盛大にゴブリンの村を襲いまくったぷうは、力ない返事しか出来なかった


「ちょっとゴブリンの様子を探るね」

「うん、わたしもやる~」


 ぴくぴくっとぴぴとぷうは耳をすませる。


『王様はどこにいったんだよ。王様じゃないとあいつ追い払えないだろうが』

『王様も近衛も南の街の応援に行ってるんだよ。もどってくるまで俺達でなんとかするしかないだろ』

『いや、お偉いさんが言ってたんだが、王様はさっきやられたらしい』

『はあ? じゃあ、どうすりゃいいんだよ』

『やられたのは王様と近衛だけだ。王都を守る4大将軍は全員ご健在だ。ただ、指揮系統が混乱してるのも事実だし、一部がパニックになって逃げ出してる。俺らは大将軍が指揮系統を復活させ、指揮してくれるまで、待つしかないだろ。幸いあのデカブツもいまは逃げ出した連中を食ってる。そのうち腹が膨れるか飽きたら出て行くだろう』

『ちっ、それしかねえな』


 こんなティラノサウルスもびっくりの巨大恐竜に定期的に襲われるとは、ゴブリン達もなかなかハードな生活をしているようだ。


「混乱してるみたいだね~」

「うん、4大将軍とやらは倒してもいいところだよね」

「うん」

「あの恐竜やっつけよう」

「どうしたのハピ、突然」

「これ見て」


 そういうとハピはメイクンモンスター辞典の1ページを開いていた。


☆8個:ビッグヘッドランドドラゴン:大きい顔が特徴の巨大なグランドドラゴンの1種。東の大陸の巨獣の森に住む。大きな頭部でなんでも食べる。意外なことに雑食性。好物は肉だが、魔素を取り込めればなんでもいいらしく、木だろうが土だろうが何でも食べる。そして、どんなものでも体内で魔素にまで分解できる脅威の消化器官を持つ。大人の個体は巨獣の森から出ることはめったにない。エサとしてすら認識していないのか、巨獣の森を調査している学者達が襲われたことすらない。それどころか、他の肉食恐竜に襲われた際、助けられた学者すら存在する。ただ、子供は好奇心旺盛なためか、まれに巨獣の森の周辺に出現する。しかも興味津々なのか襲ってくるので大変危険。また、子供に手を出すのはタブー。子供が他の肉食竜に襲われた際、どうやって探知しているのか不明だが、すぐに親が駆けつけてきた。子供と大人の区別がどの大きさで分かれるのか、細かいことはわからないが、最低50m、最大200mくらいまでの個体が発見されている。


「うん、見たよ」

「ふっふっふ、では説明しよう。ここに変なマークがあるでしょ? これはお姫様がおいしいモンスター候補として書いたマークなのですよ」

「ほう、話を聞こうではないか」


 おいしいモンスターと聞いて、おかしなスイッチが入ったぴぴであった。


「これはオフレコだから内緒にしててね。特に戦闘が得意の猫達には。いまはたぶん猫の国のグルメブームの雰囲気的にも、大々的に発表していいと思うんだけど、お姫様の能力に関することなの。お姫様の戦闘能力って、先生や女王様よりちょっと劣るでしょ?」

「うん」

「理由は戦闘を嫌ってたからとか言われてるけど、実際はCPを全部戦闘用にまわすんじゃなくて、一部探知系の能力にまわしてたからなんだよね。その探知系の能力っていうのが、おいしいものサーチなの。同じ非戦闘系の能力っていうことで、我輩のような、非戦闘系の猫の間ではそれなりに知られてるんだけどね」

「なるほど、そういわれてみれば、お姫様のおいしいものに対する嗅覚は、ダントツの性能だったね。ただの食いしん坊パワーかと思ってた」

「あう、お姫様としては、食いしん坊みたいな能力だから、内緒にしててほしいらしかったんだけどね。いっそ能力のせいって広めたほうがいいのかな。まあ、それは置いておいて。そういうわけだから、あれ倒そう。しかも、今ゴブリン達を襲ってるのって、たぶん子供でしょ?」

「そうだね、50mくらいしかないもんね」

「ってことはだよ、いまここで子供を倒せば、親がやってくるってことで、そうしたら親も食べれるってことだよ」

「親もおいしいの?」

「子供と親だと肉質とかがぜんぜん違うはずなんだよ。肉も魚も、年齢でまったく違った味わいになるんだからね。セットで狩れるなら、お買い得だよ」

「なるほど、それは是非にも狩らねばならないね」


 ぴぴ達が恐竜を食べるかどうするか相談していると、突然恐竜はゴブリンを襲うのをやめ、来た道をもどりだした。


「あれ、恐竜が帰ってく?」

「たぶん、お腹いっぱいになったんじゃない? 1000匹以上軽く食べてたし」

「これは大変、やっちゃおう」

「うん、ぷうもいい?」

「へ? あ、うん、いいよ~」


 この中で一番食いしん坊のぷうが反対するはずも無かった。お姫様のおいしいものに対する嗅覚がするどいことは、なんとなくぷうも気づいていたのだ。むしろどれほどおいしいのかと、すでに心ここにあらずという状態だった。


「じゃあ、行ってくるね」


 そういうとぴぴは一気にビッグヘッドグランドドラゴンに襲い掛かった。ぴぴは猫トラックから飛び出すと、ぴょ~んっと大ジャンプする。そして、足の裏から爆風を発生させ超スピードでドラゴンに接近する。そして必殺の火の爪(1本バージョン)で、すぱっと首を切り落とすのだった。さらに、即座に空間収納にいれて、同じようにして戻って来る。まさに電光石火の早業だ。


 そして猫トラックの荷台に恐竜をぽいっと入れると、猫トラックに乗ってきた。


「ただいま~」

「おかえり~、流石ぴぴ、一瞬だね」

「瞬殺だね~」

「うん!」


 ハピとぷうにほめられ、ぴぴはうれしそうだ。


「じゃあ、親が来るまではゴブリン狩りでもする?」

「「うん」」


「「グガオオオオオッ!」」


 ドスドスドスドスッ! メキメキメキメキッ


 そんな会話をのんびりしていたら、北東方向から大きな咆哮とともに、地響きのような足音が鳴り響く。ついでに森の木々もなぎ倒されているようだ。


「もう来たのかな。早いね」

「うん。あ、見えた~。あそこ~」

「でっか~い」


 番なのだろうか、2匹の超巨大な恐竜が現れた。先ほどの子供の3~4倍の大きさはあるだろうか。とにかく大きい。若干大きさに違いがあるため、片方はオスで片方はメスなのかもしれない。どっちがどっちかは知識不足でわからないが。


 大きいほうの恐竜が、ピョンッとゴブリンの王都の城壁の上に飛び乗った。あの頑丈そうな城壁であっても、流石にこの巨体の重さは支えきれないのか、恐竜が乗った箇所はあっけなく崩れてしまった。だが、恐竜はそんなこと気にせずに瓦礫の山の上で、きょろきょろしながらスンスン鼻から大きく息を吸い込んでいた。おそらく魔力反応がなくなったことで子供が死んだことには気づいているようだが、それでも懸命に探しているようだ。


 小さいほうの恐竜は正確に子供が死んだ場所がわかるのか、ぴぴが子供を襲った場所で、大きいほうと同じようにスンスン鼻を動かしていた。


 そして、大きいほうの恐竜は、一通りきょろきょろし終えると、小さいほうの恐竜の方を向く。なにか意思の疎通があったのだろうか、大きい恐竜はおもむろに口を開けて息を吸い込むと、ゴブリンの王都のど真ん中目掛けて、ブレスを撃つようだ。


「じゃあ、行ってくるね」

「うん、お願いね」

「まかせて!」


 ぴぴは猫トラックから出て恐竜退治に向かった。


(なかなかの威力のブレスだね。ちょっと放置すれば、恐竜がゴブリン達を倒してくれるかな。それに怒って強力な身体強化魔法が掛かっているのか、なんか硬そう? ストレスを発散させて身体強化魔法が解けるまで待ったほうが、肉がやわらかくなるかな)


 ぴぴのこの肉に対する知識が正しいのかは、わからない。ただ、ゴブリン相手に肉質が悪くなるほど過剰な運動はしないだろうし、適度な運動なら、きっとお肉にもいいだろう。


「ガアアアアアアアアッ!」


 大きい恐竜の大咆哮とともに、巨大な火炎ブレスはゴブリンの王都に向けて発射された。巨大なブレスはゴブリンの王都の真ん中付近をなぎ払った。我が子が死んだのは間違いなくこの周辺であるし、駆けつけた時間からしても、その遺体をそう遠くに運び出せるわけでもない。となればゴブリンの王都に隠されていると判断したであろう親恐竜達は、王都を破壊し始めた。


「なにあのブレス。何の抵抗もなく建物も城壁も消してるよ。溶けたりすることなく、建物が消えることなんてあるの?」

「あれは火炎ブレスだけど、すごいエネルギー密度だね。高エネルギーを収束させてるから、溶かして蒸発させてっていう物理法則を無視して、当たったものすべてを消滅させちゃってるね。収束のさせ方が上手なのかな。エネルギーを周囲に撒き散らすこともしてないから、より高密度エネルギーになってるんじゃないのかな」

「へ~、なかなか物騒だね。ぴぴは大丈夫なのかな?」

「大丈夫だよ、ぴぴの火の爪も大概だしね~。たぶん、恐竜がゴブリン殲滅するのを待って、仕留めるつもりなんだと思うよ」

「なるほど、あれ? あのちっこいの、こっち向いてない?」

「本当だ。ちょっとやばいね~」

「うん、やばそうだよね~。って、どうしようぷう、あれはやばすぎるでしょ」

「ゴブリンゴーレム、猫トラックに貼りついて、追加装甲!」


 そう言うとぷうはゴブリンゴーレムを、猫トラックに追加装甲のように多いかぶさせた。と同時に、小さいほうの恐竜はレーザーのようなブレスを発射してきた。5mもある剣ゴブリンゴーレムが目立ったのだろうか、子ども恐竜が荷台にいるのがばれたのだろうか、そこは不明だ。


「あうあうあうあうあうあう」

「ちょ、ハピ重い、上に乗らないで~」


 しばしの間、すさまじい熱と爆音と衝撃が猫トラックに襲い掛かっていたが、次第にそれも収まっていった。


「あうあうあうあうあうあうあう」

「ハピ、もう収まったみたいだから大丈夫だよ~」

「ふう~、よかった、ぷうも猫トラックも大丈夫そうだね」

「ハピに押し倒されたせいでちょっと痛かったんだけど」

「あう」


 ガラガラガラ


 ぷうが猫トラックに付けていた追加装甲が崩れ落ちると、視界が広がった。レーザーブレスが通ったあとに残っていたのは、猫トラックだけだった。2匹がいた丘も丸く削り取られていた。王都はすでに恐竜のブレスで跡形もなく消滅し、恐竜2匹もいなくなっていた。すると、荷台に倒した恐竜をぽいっとしまったぴぴが猫トラックに戻ってきた。


「ただいま」

「「おかえり~」」

「ぴぴ無事だったんだ。よかった~」

「怒ってたせいか、身体強化魔法で恐竜が硬そうだったからね。それが収まるまで様子見してたら、ちょっと時間掛かっちゃった」

「そっか、ぴぴが無事でよかったよ」

「このくらいならぜんぜん平気だよ。そうそう、2匹ともちゃんとしとめたからね」

「おお~、流石ぴぴ。目にも留まらぬ早業だよね」

「えへへ」

「それじゃ、ゴブリンの王も倒したことだし、妖精の国に向かう? でも、その前にご飯食べたいな」

「私もご飯」

「わたしも~」

「じゃあ、すぐに用意するね」


 そう言うとハピは、荷台から一番大きな恐竜の首を取り出した。そして、切断面から肉の塊をぶちっとちぎる。それをいつものご飯皿においてCPを流すと、あら不思議、ドラゴンステーキの完成だ。味はすさまじく美味しかった。


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