さらば妖精の国
王都のバトル大会が終わって1週間がたった。決してハピだけのせいというわけではないのだが、恐竜ゴーレムの戦いによってボロボロになった王都北の草原もぷうの手によって元通りとなり、妖精の国の王都ではこれまで通りの日々を送っていた。
ここは妖精の国の王都にある王城の一室、わんこ大臣の執務室である。中にはぴぴ、ぷう、ハピの3人に加え、この部屋の主であるわんこ大臣、その助手のブランシュ、それにクロ将軍と、アオイがいた。そして、何やら真剣そうな顔つきで話し合いをしていた。
「行くのじゃな」
わんこ大臣がまじめな顔つきで聞いてくる。
「うん」
「猫の女王には、わしのほうからも依頼完了の連絡を出しておく。これ以上ないほどの成果じゃったとな。本当にいろいろと世話になった」
「気にしないで」
代表してぷうが答える。我輩達が妖精の国でやることはもうない。しいて言えば美味しいチーズが出来上がるのを待つ必要があるが、それはただただ待つだけになりそうなので却下だ。
「ぴぴさん、ぷうさん、ハピさん。今までいろいろとありがとうございました。あなた方によってもたらされた各種素材だけでなく、あなた方にして頂いたトレーニングのおかげで、妖精の国の戦力は見違えるほどに上昇しました」
ブランシュがまじめにお礼を言ってくれる。
「本当に気にしないで。みんなと特訓したのは、みんなが強くなってくれれば、みんなが強いモンスターを狩れるようになるし、そうなればより美味しい食べ物の入手が楽にできると思ったからだからね。こちらとしても打算だらけだから」
「それでもお礼を言いたいのですよ」
「うん、ありがと!」
そして今度はクロ将軍が前に出て話始める。
「正直俺としては、ぴぴさんに一発も入れれなかったのがいまだに心残りなんだが。まあ、わがままは言わねえよ」
「うん」
どうやらクロ将軍達は大会終了後もぴぴと戦っていたらしいのだが、結局1撃もいれれなかったらしい。でも、残念ながらクロ将軍のぴぴに一撃入れる夢をかなえてあげることは、きっと永遠に無理なのでここは大人しく諦めてもらうしかない。
「それじゃあ、行くね」
「うむ。達者でな」
「お元気で」
「じゃあな!」
「「「またね~!」」」
我輩達4人はわんこ大臣の執務室を後にする。
「じゃあ、あとはうめ様とさくら様のところに行って。その後グラジオラス、シクラメン、ローズのところ。んで、最後にハンターギルドってことでいいか?」
アオイはどうやら最後まで案内してくれるみたいだ。
「うん、そうだね」
「じゃ、うめ様とさくら様のところに行くか」
アオイの案内でうめとさくらのいる部屋に向かって行く。部屋に入るなりうめとさくらが話しかけてくる。部屋にはうめとさくらのほかに、近衛師団のメンバーもいた。もちろん団長であるナノハナもだ。
「行かれるのですね?」
「うん、二人にもいろいろお世話になっちゃったね」
「いえいえ、お気になさらず。旧王都で作っているチーズに関しましては、私とうめちゃんで責任をもって完成させます」
「うん、よろしくね」
「あんたらがいなくなると少し寂しくなるが、あたしゃしめっぽいのは嫌いなんだ。フランクにいかせてもらうよ。じゃあね」
「うん、わたし達としてもそのほうがありがたいかな」
うめとさくらとの話が一区切りつくと、ナノハナが話しかけてきた。
「私からもお礼を言わせてください。いろいろとありがとうございました」
「ナノハナにはどちらかというとこちらがお世話になった気がするんだけど? ハピがグラジオラス、シクラメン、ローズの3人を連れまわしちゃったりしたし」
「ふふふ、そちらにはそちらの都合があるように、こちらにもこちらの都合があるのです。その上で、お礼を申し上げたかったのです」
「そうなんだ。よくわかんないけどわかったよ。あ、そうだ。たまにはイブキのことも気にしてあげてね」
「ええ、元部下ですので、もちろんです」
ちなみにイブキは、レーヴェを超強化できるということが先の恐竜ゴーレムとの戦いで多くの妖精軍のメンバーに知られたこともあり、ナノハナ指揮下の近衛師団から異動になっていた。異動先はもちろんレーヴェのいる師団だ。しかも、異動先での待遇はまさかの将軍職だ。
そう、レーヴェが副将軍に退き、イブキが師団を率いる将軍になったのだ。レーヴェは、イブキが異動になると聞くや否や。やった~、隊長がきた~! と大喜びし、女王であるさくらに将軍職をイブキに譲ることを表明したのだそうだ。弟気質のレーヴェには、トップは合わな~い、ってことだったらしい。
レーヴェのいた師団の他の主要メンバーも、そのことに反対しなかった。むしろ、やっと書類仕事をしてくれる将軍が来たと喜んだんだそうだ。苦労妖精イブキの苦難の道は、まだまだこれからも続きそうだ。
「それじゃ、またね!」
「「またね!」」
「お元気で」
「ああ、元気でな」
「お世話になりました」
さくら達の部屋を去り、今度はグラジオラス達のいる場所へと向かう。
「グラジオラス達はどこにいるのかな?」
「ん~、最近はまじめに魔法の特訓してるって話だから、たぶん近衛師団の訓練場だな」
「そうなんだ。順調そう?」
「ああ、順調に強くなってってるぜ。1対1ならまだまだ俺でも勝てるけど、昔みたいに3対1で勝てるほど楽な相手じゃなくなったぜ」
我輩達が廊下を歩いていると、どこからともなくその声が聞こえた。
「あ、はぴ達見~っけ」
「あら、本当ですわね。みなさん、ごきげんよう」
「よう、お前ら。こんなとこで何してんだ?」
いままではぷうがメインで対応してくれてたけど、この3人相手なら我輩の出番だ。
「相変わらず神出鬼没だね。我輩達3人を探してたんだよ」
「あたし達を? なんで?」
「ほら、こないだ行ったと思うけど、今日旅立つ日だからね」
「旅立つ。ですか?」
「はあ? お前あの話本気だったのかよ! なんでだ?」
「なんでって、妖精の国でやることは終わったし、猫先生って猫へのお土産のお酒を探しに行かないといけないから、次はエルフの国かドワーフの国にでも行く予定なの」
「ったく、しょうがねえなあ。お前らだけじゃ不安だし、俺達も付いていってやるよ」
「流石ローズちゃん、ナイスアイデア!」
「そうですわね。それがいいでしょうね」
「はあ、ダメに決まってんだろ。お前ら魔法の修行するんじゃないのかよ!?」
「そんなのぴぴとぷうにしてもらえばいいでしょ?」
「お、それもいいな。アオイもぷうに鍛えてもらったんだから、俺達だって構わないだろ?」
「そうですわね。ぴぴさん、ぷうさん。よろしくお願いいたします」
「いいわけねえだろ~! っていうか、なんでここにいるんだよ。いま訓練の時間だろうが! だれか~! グラジオラス達はここにいるぞ~!」
アオイがきれて大声で叫ぶ、するとどこからともなく近衛師団のメンバーなのだろう、お揃いの服を着た妖精達が現れる。さらに妖精たちに加えて、ブランシュの娘、ゆき将軍まで現れる。
「あなた達、ずいぶん長いお手洗いですね」
「えっと、その、あの、うんっと」
「や、ちょっとはぴ達に会ったから挨拶をな」
「ええ、そうですわ。今日旅立つ友人に、別れの挨拶をしていただけですわ」
「そうなのかい?」
突然前言を撤回して取り繕い始めたグラシクローの面々。ただ、ゆき将軍にはそんなの通用しなかったようで、こちらに確認してくる。まあここは武士の情けでここは話を合わせてあげよう。
「うん」
「ちょっと怪しいけど、まあいいか。それより、あんたらは今日旅立つんだったね。いろいろとありがとうね。またいつでも気軽に寄ってくれ」
「「「うん!」」」
ゆき将軍をごまかすことは出来なかったみたいだけど、スルーしてくれたみたいだ。まあ、お別れがお説教じゃ、しまらないもんね。
「またねみんな~!」
「じゃあな。おまえら!」
「また会えることを楽しみにしていますわ」
「「「またね~!」」」
そして王城を後にし、ハンターギルド本部に向かう。王都ハンターギルド本部のある王城前の広場は今日もにぎやかだ。するとハンターギルドの入口の前には、カリとエリカ、ピヨがわざわざ外で待っていてくれた。傍らには、馬車が止まっている。
「わざわざ待っててくれたの?」
「いえ、そんなに待っていたわけではございません。先ほどうめ様から、はやぶさ隊による伝令がありましたので。ただ、ギルマスは申し訳ありません、仕事が忙しいそうで」
「それはしょうがないよね」
「ありがとうございます。それと、ギルマスとうめ様からの伝言になるのですが、港までは距離がありますので、この馬車をお使いください」
「おお~、ありがとう!」
ギルマスとうめの気づかいにぷうが返事をした次の瞬間! 馬車の陰から炎の塊が飛び出してきた。
炎の塊は、ギルマスだ! 最後の最後で全力で襲い掛かってきたようだ。でも、襲い掛かってきたギルマスの背後にはすでにぴぴがいた。ぴぴはギルマスの炎をまるで気にしないように後頭部に猫パンチをペシッっと一撃入れると、あっさりとギルマスを沈めて見せた。すると間髪入れずに、人込みの中から複数の影が襲い掛かってくる!
わんこ大臣、ブランシュ、クロ将軍にゆき将軍、さらにレーヴェ、イブキコンビまでいる。と思ったら、アオイ、エリカ、ピヨ、カリンまで至近距離から襲い掛かってくる。
「みぎゃ!」
我輩がビックリしていると、チームわんがお+2のメンバーはぴぴがペシシシシシッっと素早く猫パンチで制圧し、ハンターチームのメンバーにはカププププッっとぷうが噛み付いていた。
おお~、びっくりした~って思っていたら、我輩の周囲にふよふよと光輝く玉が浮いている。これ、ローズの魔法の玉っぽい? って思ったら、無数の氷の矢が我輩を襲う。
「ふぎゃ!」
ぐう、手足が凍り付いて動けない。すると今度は地面が揺れたかと思ったら、シクラメンの妖精ゴーレムが地面から現れて、我輩を両手でがっつりとホールドする。そして妖精ゴーレムの胸元へと我輩を移動させると、妖精ゴーレムの胸がぱかっと開いて、グラシクローの3人が現れる。
「俺が氷の矢で動きを鈍らせ」
「あたしがゴーレムで捕獲する」
「そして私がグララビームで華麗に止めを刺します」
「「「これぞ私達の新必殺技。トリプルビューティースペシャルハイパー・・・・・・、アタ~ック!」」」
超至近距離から放たれたグララビームは、シクラメンの妖精ゴーレムの手ごと我輩を攻撃した。ローズは光の玉を器用に操って妖精ゴーレムの腕を守っているようだけど、我輩の顔は無防備だ。
「みぎゃあああああ!」
いったあああああああい! 我輩がグラジオラスのグララビームを食らっている間も、ぴぴとぷうの戦いは続く、どうやらこの広場に集まっていた住人みんな、刺客だったようだ。でも、ぴぴとぷうにあっさり全滅させられていた。
一通り戦闘が終わると、 ぴぴの猫パンチによりボロボロのギルマスが話しかけてくる。
「ちっ、結局一撃も入れれなかったな」
「うん」
「まあいい、またこいや。次ぎ合う時には、一撃入れてやるからよ」
「うん」
ギルマスの話が終わると、次はカリンが話しかけてくる。カリンはエルフ特有の長い耳に、若干痛々しいぷうの歯形がついている。
「みなさんと一緒にいた時間はそこまで長くなかったですが、私にとってはかけがえのない時間でした。お別れは寂しいですが、どうか、ご武運を」
「うん、カリンもね!」
そして次はエリカとピヨだ。エリカは耳に、ピヨは羽にぷうの歯形が付いてる。
「皆さん、いろいろとありがとうございました」
「あれ、それだけでいいの? エリカ。なんかいろいろ考えてただろ?」
「いろいろ考えていたのですが、ひくっ、うう、ううう~」
「あちゃあ、エリカ泣きだしちゃったよ。くそ、あたしまでもらい泣きしちゃいそうだよ。じゃあ、元気でね」
「うん。二人も元気でね!」
「それじゃ、またね!」
「「またね~!」」
「おう、また来いよ!」
我輩達はギルドというか王城前の広場を後にする。グララビームなんかでいろいろな建物が崩壊していたけど、それはもう我輩達の知るところではないのだ。我輩達は馬車に乗り河川港へと進む。これから向かう予定のエルフの国とドワーフの国はともに妖精の国の北にある。もう少し正確に言うなら妖精の国の北にあるのがエルフの国で、そのさらに北にあるのがドワーフの国だ。
陸路を北に進む手ももちろんあるのだが、今回はフラワーリバーを下って海から行く方法を選択した。理由はもちろん、ぴぴとぷうの大好物であるかつお節をゲットしつつ、我輩も魚介類に舌鼓をうとうという理由だ。
そして河川港でアオイとお別れをする。そう、妖精の国を去るのだ。アオイが付いてきてくれるのも、ここまでだ。アオイの耳にもぷうの歯形があり、ちょっと閉まらない空気だけど、そこはしょうがない。
「じゃあな、お前ら、そんなに長い時間じゃなかったが、楽しかったぜ!」
「うん、わたしも楽しかったよ!」
「我輩もだよ!」
「私も」
「わりい、このままじゃエリカみたいに泣いちまいそうだ」
「そうだね、わたしもだよ」
「うん、私も」
「我輩も」
「くそ、お前らもかよ。ぐすっ、ち、これ以上はまじでしめっぽくなっちまう。じゃ、またな!」
「「「またね!」」」
ぽっぽ~!
船は汽笛を鳴らし出港する。少し寂しいけれど、戻ってこようと思えばいつでも戻れるのだ。我輩達は涙をこらえ、まだ見ぬ美味しいものを探しに、妖精の国の王都を後にする。
当初のわんこ大臣からの依頼終了ということで、ここで一旦完結になります。
いままでお読みくださり、ありがとうございます。
作品を見直したりして、いつかエルフの国編やドワーフの国編を書けたらなと思います。
本当にありがとうございました。




