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ゴブリン王

「ふあ~、おはよう~」

「「おはよう」」

「ゴブリンゴーレム達はどこまでいったかな~、ちょっと楽しみだよね」

「うん」

「じゃあ、さっそく行こっか、ゴブリンがまた根城にしても嫌だし、この街は吹き飛ばしてく?」

「う~ん、もうすでに廃墟じゃない?」

「うん、わたしにもそう見える」


 昨日のハピの銃ゴブリンゴーレムを使った手榴弾乱舞により、すでにほとんどが廃墟になっていた。


「あれ? なんか動いてない?」

「あ、ほんとだ、なんだろう」


 廃墟になった街には瓦礫とゴブリンの死体しかないはずなのに、なにかもぞもぞ動いている。


「あ~、虫だね。ゴブリンの死体を食べに来たんじゃないかな」

「うん、いっぱい居るね~」


 ぴぴとぷうは虫に大して特に嫌悪感はないようだ。でも、ハピは青くなっていた。何も言わずに最上階から東西南北、街のすべてをチェックしていく。


「あうあうあう、完全に虫に包囲されてる」


 軽くパニックである。


「どうしたの? ただの虫タイプのモンスターだよ~?」

「どう考えても気持ち悪い、ぷう、銃ゴブリンゴーレムを呼び戻して、殲滅しなきゃ」

「倒しても倒しても、永遠にやってくるよ~。相手するのも無駄だから、乗り物に乗って無視でもいい~?」

「うん!」

「じゃあ、ちょっとまってね。移動用のゴーレム、猫トラックを作るから」


 そういうとぷうは猫型ゴーレム(ゴブリンのお面バージョン)を作り出した。軽トラよりも小さい、かわいらしいトラックだ。車輪はついておらず、太く短い足がついており、普通の猫と同じく足で移動するようだ。そしてなにより、カモフラージュのためだろう。ゴブリンのお面が顔についていた。


「どうみても大きな猫だね」

「ゴブリンのお面つけてるからセーフだよ~。頭が運転席で、胴体は荷台になってるの~。荷台は空間拡張と状態保存の効果があるから、ぴぴの空間収納にはいってるダークグリーンゴブリンも入れれるよ~」

「なるほど、でも、虫の群れに突入するのに、この猫トラックで大丈夫?」

「ふふふ、見よこの爪を~」

「おお~、すごい立派な爪だね」

「そう、この爪なら虫モンスターはすぱすぱ切れるし、垂直の壁だって爪を立ててどんどん登れるよ」

「運転方法はゴブリンゴーレムと一緒?」

「うん」

「じゃあ、運転は我輩にまかせて」

「いいの?」

「うん、ぴぴとぷうはゴブリンの王都戦が控えているし、なにより我輩、レースゲームは得意だったのですよ」

「それなら、お願いね」

「それじゃあ、わたしはこの建物を破壊しておこうかな」


 そう言うとぴぴは、けほっと毛玉を吐くように火の玉を口から出した。そして、ミニぴぴぷちゃ号に入ってきた。


「毛玉?」

「うん、毛玉爆弾。時限爆弾になってるから、そのうち爆発するよ。それじゃ、猫トラックに乗って出発しよっか」


 こうして3匹は猫ゴーレムトラック(ゴブリンのお面バージョン)に乗り込んだ。


「れっつごー!」


 高射砲塔のような要塞の、垂直の壁に爪をめり込ませながら、のっしのっしと降りていく。そして、虫の群れに突入だ。猫トラックの爪を全開に展開し、進路上の虫を切り裂いていく。ちょっとおかしなテンションになりつつもハピは意気揚々と虫モンスターをひき殺していく。まるでゾンビのゲームでゾンビの群れをひき殺すかのごとく、ハピはあえて虫モンスターの多い場所を狙って進んでいった。


「はっはっは~、まるで虫けらのようだ!」


 いや、実際虫である。ハピは戦闘用のCP技がないため弱いが、CPの量だけはぴぴやぷう並に多かった。ぴぴやぷうが猫岳で修行している間、ハピは猫グッズをこれでもかと作っていたため、ある意味CPを増やす特訓をずっとしていたのだ。そういうわけで、この猫トラックも、ハピでも十分に使えるのだった。


「脱出成功!」


 猫トラックが北門から無事脱出すると、丁度ぴぴの毛玉爆弾が爆発して、高射砲塔のような要塞が崩れ落ちた。


「そういえば、この周辺の地面ってなにで出来てるんだろ。ちょっと変わった色だよね」


 この街の周辺の地面は、普通の色とはちょっと違い、黒っぽい色をしていた。


「虫モンスターの死骸でしょ」

「え、虫の死骸?」

「うん、この城壁も、対虫モンスター用じゃないのかな、街の周囲の木がない草原部分に、虫の死骸がたくさんあったからね」

「あうあうあうあうあうあう」

「ここ攻めたとき、気づかなかった? 虫の死骸とそれをエサにしてるのか、スライムだらけだったよ」

「うう、ここ攻めたときはぷうの銃ゴブリンゴーレムに乗ってて、視点が高かったから気が付かなかった」

「まあ、気にせず行こ~」

「「お~」」


 一行は北門から王都への街道を、ゴブリンゴーレムに追いつくべく、王都へ向けて走り出す。今までの小規模な村や町との間の獣道レベルの道路とは違い、この街から王都への道はかなり幅が広く、石畳になっているなど、そこそこ整備されていた。しかし、順調だったのはほんのちょっとである。なにせハピ達の目の前に、虫のじゅうたんが見えてきたからだ。


「うげ、なにこれ~」

「十中八九、ゴブリンゴーレムが倒したゴブリンの死体に、虫が群がってるってかんじだね~」

「うがああ、もう全部やっつけてやる」


 ハピは虫の群れに猫トラックで突撃する。もうやけだ、全部倒す。時に爪を、時に体当たりで、どんどん虫モンスターを倒していく。小一時間ほどハピによる猫トラックでの虫モンスターの蹂躙が続いたが、ついにその終わりが見えた。今までの虫の絨毯から、赤い絨毯にかわったのである。赤いのはもちろんゴブリンの血だ。3体のゴブリンゴーレム達はさらに先にいるのか、まだ見えてこないものの、虫地獄から抜け出せて、冷静さを取り戻したハピなのであった。


「やっと抜けた~」

「良かったね、ハピ」

「うん、でも今度はゴブリンの死体だらけだね」

「だね~、ゴブリン達、みんな背中から切られてるのか、うつ伏せだね~」

「ほんとだ」


 ゴブリンは大きいほうが強い種族だ。3mもの大きさのゴブリンゴーレムは、ゴブリン達にとっては戦意を保てないほどの強敵に見えたのだろう、逃げながら後ろから攻撃を受けたようであった。ハピには内緒だが、よく見ると街道からそれて、森に逃げ込んだゴブリンもいたのか、森の中には虫モンスターがうごめく様子が見えた。逃げたのは非戦闘員のゴブリンのため、虫モンスターに簡単に捕食されたようだ。


 さらに進んでいくと、前方の小高い丘の頂上付近に、ようやく3体のゴブリンゴーレムの巨大な頭が見えてきた。さらに進んで、そろそろ合流できるかな~っとみんなが思っていると、いきなりぷうの剣を持ったゴブリンゴーレムが吹き飛んだ。


「ゴブリンゴーレム吹き飛んだよ」

「ほんとだ」

「っ!」


 ぷうが顔をしかめる。緊張しているというより、ちょっと気に入っていたゴブリンゴーレムが攻撃されて、いらいらしているようだ。


「見て、ゴブリンゴーレムを吹き飛ばした相手、例のダークグリーンゴブリンじゃない? しかも頭に王冠のせてるよ」

「ほんとだ」

「よくもわたしのゴブリンゴーレムを」


 ぷうの剣ゴブリンゴーレムを吹き飛ばしたゴブリンは、ぷうのゴブリンゴーレムと同じく3mくらいの巨体だ。肌の色はダークグリーン。体は全身筋肉もりもり、しかも、いわゆるゴリマッチョなどというものではない、ゴリラのような筋肉ムキムキの野生動物のもつそれだ。3mの身長に対して、50cm程度の頭部と、頭身もかなりあり、バランスの取れた容姿をしている。身長こそ同じ3mくらいあるが、頭部が1mもあり、3頭身しかないコミカルさ全快のぷうのゴブリンゴーレムとは違い、どことなくかっこいい。服装は頭には王冠、胴体は裸、下半身は半ズボンに腰巻のみ、靴も履いていないというワイルドな装いだ。そして、その手には体と同じ、大きさ3mで、肌よりさらに黒に近い緑色の大剣を持っていた。


 よくよく思い返してみれば、昨日ゴブリンの街で戦った大柄なゴブリンはゴブリン大将軍やゴブリン将軍だった気もする。そしてそいつらはちゃんと鎧やローブを着ていた。でも、こいつは頭の王冠以外、どこかの武芸者のようなかっこうをしていた。


「ぴぴ、ハピ、むかついた。こいつ、わたしがもらってもいい?」

「「どうぞどうぞ」」


 ぷうが怖い。


 先ほどのゴブリンゴーレムに放った一撃は、剣によるものではなく、蹴りによるものであったようだ。ゴブリン王の攻撃さえ耐え切れる計算で作っていた、剣ゴブリンゴーレムの顔に、くっきりと足の形が付いていた。


『貴様ら、どこのものだ』


 ゴブリン王がテレパシーを使い、イメージを飛ばしてくる。


『見てわかんないの? 敵だよ、お前こそ誰だよ』


 ぷうも起き上がった剣ゴブリンゴーレムを通してテレパシーを返す。


『我はこの周辺のゴブリンの国を平定したゴブリンの王である』


 予想通りゴブリン王だった。なるほど強いわけである。しかし同時に違和感を感じていた。色が違うのもそうだが、ゴブリンキングは3mに届かないはずだった。だからゴブリンキングより一回り大きい3mのゴブリンゴーレムにしたのだから。ゴブリンは階級が上がるほど戦闘能力も上がる魔物だ。なにせ弱い個体に従うゴブリンなど存在しないからである。しかし、このゴブリン王は想定していたものよりもちょっと強すぎる。


 ゴブリン王はゴブリンゴーレムの後ろのほうを眺める。そこには街道を埋めるようにゴブリンゴーレムによって倒されたゴブリン達が並び、さらに奥では虫モンスターのエサになっていた。


『よくも我が同胞を!』


 ゴブリン王は怒りを露にした。剣をかまえ、体からダークグリーンの魔力が噴出してくる。ゴブリンゴーレムにいまにも襲い掛かってくるかと思ったとき、ゴブリン王の後方から大量の大型ゴブリンが現れた。大型のゴブリン達は王とは違い、武器に合った普通の防具を着ていた。接近戦用の武器を持ったゴブリンは全身鎧を身にまとい、杖を持ったゴブリンはローブを着ていた。唯一統一されているのは、その防具がすべて真っ黒であるということであった。また、ゴブリン王同様、肌の色はダークグリーンであった。


『王よ、お静まりください』

『止めるな、こやつらは我が手で殺さねば気が済まぬ』

『まだ避難を終えていない民達が大勢います。王がここで全力で戦えば、王都にたどり着いていない民達が犠牲になります。せめて魔力をお納めください』

『わかった。ふう、もう大丈夫だ。忠言感謝する』

『もったいなきお言葉』


 そして真っ黒装備のゴブリン魔法使いは、後方に展開し、なにやら呪文を唱え始めた。どうやら王と逃走中のゴブリン達間に結界を張るようだ。ゴブリン王は以外にも民思いのいい王様であるようだ。


『結界を張り終わりました。この結界ならば王が直接攻撃をしなければ壊れません』

『うむ、ご苦労』


 ゴブリン王は剣をかまえると、改めてダークグリーンの魔力を噴出させた。おそらく、身体強化魔法等の余剰魔力が周囲に噴出しているのだろう。この魔法だけでもゴブリン王が強いことがよく分かる。真っ黒装備のゴブリン達は、戦いに参加する様子はない。


「へ~、あのオーラみたいなの、ちょっとかっこいいな、私も真似しようかな」

「そう? 我輩はぴぴの完全にコントロールされたCP技のがかっこいいと思うけど」

「えへへ、ありがとう」


 ぴぴとハピは完全観戦モードだ。ぷうもゴブリンゴーレムの仇はゴブリンゴーレムで取ると決めていたので、ゴブリンゴーレム3体とゴブリン王だけの戦いだ。仇とはいっても足跡がついただけであるが。


『改めて問おう。貴様らはなにものだ』

『だから、敵だって言ってるじゃん。取り巻きをぞろぞろと連れて来たみたいだけど、雑魚は雑魚だってわかんないのかね』

『そうか、ならば容赦はせん』

『あっそ』


 そしてついに、ゴブリンゴーレム3体と、ゴブリン王の戦いが始まった。ゴブリン王は剣を構えて突撃してきた。いままで出会ったどのゴブリンよりも速い。もっとも、いままで出会ったゴブリンはほとんど何もせずに死んでいったため、逃げ惑うゴブリンの足の速さしか知らないが。


銃ゴブリンゴーレムが即座に反応して銃弾を放つ。銃ゴブリンゴーレムのアサルトライフルが火を噴く。20mmの弾丸がフルオートで放たれ、ゴブリン王に何十発も命中する。しかし、ゴブリン王の身体強化魔法、もしくは防御魔法のために血の一滴もながれない。しかも、痛がる様子も無いことから無視できる程度のダメージしかないようだ。


ゴブリン王は銃撃を無視して、剣ゴブリンゴーレムに切りかかる。上段から大きな顔目掛けての斬撃だ。剣ゴブリンゴーレムは盾でガードしようとする。しかし、剣ゴブリンゴーレムの盾ごと、頭にめり込んだ。


『土人形か、まあよい、すべて倒した後に、人形使いを殺せばいいだけだ』


 そういうとゴブリン王はその場で回転切りを放つ。ゴブリン王のダークグリーンの魔力が剣の軌跡の延長線上に伸び、槍と銃のゴブリンゴーレムの体が真っ二つにされる。さらにその余波による衝撃波は、はるか遠くまで飛んで行った。確かにこんな威力の攻撃を持つものが暴れたら、攻撃の余波だけで雑魚ゴブリンはやられるだろう。


『出てこい、貴様の土人形はすべて倒れたぞ』


 ぷうの魔力で強化してあるとはいえ、対ゴブリン王用とはいえ、元はゴブリンの街の周辺のただの土である。何で出来ているかはわからないが、おそらく金属系の素材で出来た、ゴブリン王の黒緑色の剣には強度で勝てなかったようである。ゴーレムの単純な強度は材質で決まる。土魔法系統のゴーレムならば、砂<土<岩<鉄などの普通金属<魔法金属の順に出来たものの方が頑丈だ。魔法金属とは例えばミスリルや、オリハルコン、ヒヒイロカネやアダマンタイトといった材料だ。もちろん魔力を多く込めれば強度等は上がるが、今回はぷうの土ゴーレムの負けであった。


 少し悔しいが、昨夜以降一度も魔力の補充すらしていない。いや、それを抜きにしてもこのゴーレム達では勝てなかっただろう。ただ、まだコアを破壊されたわけではない。剣ゴブリンゴーレムも、頭半分くらい割られたが、コアは無事だったようである。ゴーレムはコアを破壊されない限り動ける。つまりこのゴブリンゴーレム達はまだまだ戦えるのだ。ぷうは地面を通してゴブリンゴーレム達に魔力を流して、より戦闘用に強化して復活させた。剣ゴブリンゴーレムの盾はゴブリン王の剣に負けないように、厚み50cm、高さ250cm、幅150cmのタワーシールドに、剣も打ち合っても壊れないように剣の幅が50m、厚み30cm、長さ2mのごんぶと剣にかわり、防具も全身鎧に更新された。槍ゴブリンゴーレムは槍はより巨大に、防具も全身鎧に。銃ゴブリンゴーレムはアサルトライフルからライトマシンガンに武器を変更だ。防具は迷彩服にヘルメットスタイルのままだ。そして、共通の変更点として、いままでは1mの大きな頭に対して、体が貧弱であったが、体の厚みが倍以上に増していた。頭部のゴーレムの核もそれに合わせて大型化させ、ゴーレムが使用できる魔力も一気に増える。


『倒れた? 何か敵を倒したのかな?』


ぷうの剣ゴブリンゴーレムがゴブリン王を煽る。そして再びゴブリン王と対峙する3体のゴブリンゴーレム強化版。


『ほう、復活するか、まあよい、次全滅させたら、即座に探し出してくれるわ』


 ゴブリン王はまたも全身からダークグリーンの魔力を噴出させながら、上段から切りかかってくる。しかし、今度は剣ゴブリンゴーレムを真っ二つにすることは出来なかった。強化された盾を切断され、全身鎧の冑は破壊されたものの、頭に半分くらう剣が食い込んだところでゴブリン王の剣が止まった。剣で切りあいたいところではあったが、ゴブリン王の剣が強すぎる。単純な切りあいでは勝ち目がないと考えたぷうは、即座に剣ゴブリンゴーレムの行動パターンを変更する。剣ゴブリンゴーレムは剣を手放し、即座に敵に取り付く。まずは腕を使って敵の剣を掴む。次に、ゴブリンゴーレムは切られた頭を魔力をつかって閉じ、ゴブリン王の剣を拘束しにかかった。さらに、体を変形させて腹部から腕を生やし。ゴブリン王の腕を拘束する。


 単純なパワーだけであればゴブリン王の方がまだ上であろう。普通に考えれば、強引にパワーだけで脱出も難しくないだろう。しかし、剣と腕に全パワーを使っての拘束は、そう簡単には逃げられない。砂や土のゴーレムは強度こそないものの、形状を変化させやすいという利点がある。ぷうはその利点を用いてゴブリン王の拘束に成功した。そして体ごと背後に倒れて、槍ゴブリンゴーレムと銃ゴブリンゴーレムの射線を通した。さらに、地面に接した体を地面と同化させ、拘束を強めていく。


 槍ゴブリンゴーレムは、ゴブリン王の拘束が終わると同時に全力の突きを繰り出した。剣と腕を拘束され、動けないゴブリン王の上半身を狙い攻撃をした。銃ゴブリンゴーレムは、槍ゴブリンゴーレムの攻撃に合わせてLMGのフルオートをゴブリン王に叩き込む。


 ゴブリン王も全力で抵抗をする。魔力を身体強化魔法と防御魔法につぎ込んで、槍ゴブリンゴーレムと銃ゴブリンゴーレムの攻撃を防ぎつつ、剣と腕を拘束から解こうとする。しかし、拘束は簡単には解けない。だが、剣ゴブリンゴーレムのコアに込められた魔力はもう少ない。ゴブリン王が脱出するのは時間の問題だろう。しかし、槍ゴブリンゴーレムと銃ゴブリンゴーレムの激しい攻撃がゴブリン王を襲う。ゴブリン王は防御魔法にどうしても力を使わざるを得ず、拘束から逃れるのに使う身体強化魔法には弱まる。激しい攻防のなかで、ある種の硬直状態になる。剣ゴブリンゴーレムの魔力が切れ、ゴブリン王が拘束から逃れるのが先か、ゴブリン王の魔力が切れ、槍ゴブリンゴーレムと銃ゴブリンゴーレムがゴブリン王にダメージを与えるのが先か、魔力の消耗戦が始まるのだった。


 ぷうの見立てでは、剣ゴブリンゴーレムの魔力切れのほうがわずかに早くきそうであった。ただ、時間いっぱいまで粘れれば、残りは槍と銃のゴーレムだけでも倒しきれるかな。などと考えていたら、いままで動くことの無かったゴブリン王の部下達が、槍ゴブリンゴーレムと銃ゴブリンゴーレムに向けて突撃してきた。傍から見れば剣と腕を拘束されたゴブリン王が、一方的に攻撃されているだけだ。助けに動くのも無理は無いというものだ。


 大型のシールドをもったゴブリンが、銃ゴブリンゴーレムの射線に割り込み銃撃を防ぎ、魔法使いゴブリンが銃ゴブリンゴーレムに魔法攻撃を仕掛ける。接近戦用のゴブリン達が槍ゴブリンゴーレムに攻撃を仕掛ける。


 攻撃が止んだことで防御魔法に使っていた魔力を強化魔法に注ぎ込み、ついにゴブリン王は拘束から逃れるのであった。


『王よ、無粋な横槍、申し訳ありません』

『いや、よい。助かった』

『もったいなきお言葉、民達も十分に距離をとれました。王都からも続々と援軍が来ております。ここからは我々もご一緒させてください』

『うむ。お前らは残りの土人形どもの相手を頼む。我は人形遣いを探し殺す。援軍どもには周囲を囲わせ、敵が逃れるのを防がせろ。ただし、包囲網は出来る限り大きく取らせろ、我の攻撃に巻き込まれる』

『はっ』


 どうやらここからは、ゴブリン王の部下たちも、雑魚ゴブリンを守る任務からはずれ、ゴブリン王と共闘するようであった。ゴブリン王の部下達はゴブリン王の背後に控えるように並んだ。さらにその背後には、王都から大型の武装したゴブリンの集団が接近してきていた。


『ゴブリン風情が、わたしの剣ゴブリンゴーレムを・・・・・・』


 いや、剣ゴブリンゴーレムを犠牲にゴブリン王を拘束したのはぷうの判断である。とんだやつあたりであった。しかしそんなことにはかまわず、ぷうはゴブリン王拘束のせいで壊れかけていた剣ゴブリンゴーレムに地面を通じて魔力を流す、今度は力を測るとかそういうのは無視だ。ゴブリンゴーレムの威厳を守るため、純粋に強さのみを重視した剣ゴブリンゴーレムとして復活させた。ちなみに銃と槍のゴブリンゴーレムは壊れてないのでそのままだ。


 復活した剣ゴブリンゴーレムは5m近い巨体になり、頭部も2mくらいになった。コミカルさはそのままに、いままでの数倍の強さになっていた。武器の盾と剣もその体躯に見合う大きさになっていた。


 すると、それを見ていたゴブリン王は、剣ゴブリンゴーレムに向けていきなり突撃してきた。復活した剣ゴブリンゴーレムを強敵と判断したのだろう、魔力はさきほどの攻防時よりも強大、さきほどまでのような長期戦重視の魔力の使い方をやめ、一気に出力を上げた。全身から魔力が吹き上がる。ゴブリン王自身もその魔力に耐えられないのだろう、限界を超えた身体強化魔法により、骨や筋肉が軋む音がなる。全身の皮膚が切れ、あちこちから出血している。剣にまとう魔力もいままでとは桁が違う。どうやらゴブリン王は体より剣のほうが魔力容量が大きいようである。巨大な魔力をまとった剣が、ぶるぶる小刻みに震える。それを無理やり制御しながら突撃する。


 そして、剣ゴブリンゴーレムに、上段から全力の一撃をはなった。


『ぐぎゃおおおおっ!』


 そんなゴブリン王の攻撃を、ぷうの剣ゴブリンゴーレムは、盾も使わず、素手で受け止めた。


『なっ』


 流石にこれにはゴブリン王も動揺した。そして剣ゴブリンゴーレムの剣が、ゴブリン王を容易く切り裂いた。頭から股下に抜けた斬撃は、ゴブリン王を綺麗に真っ二つにした。


『見たか、これがわたしのゴブリンゴーレムよ。これがわたしの剣ゴブリンゴーレムの実力なのよ』

『バカな、王が・・・・・・』

『あとは雑魚ばっかりか~、よし、襲え』


 ぷうの合図とともに、3体のゴブリンゴーレムがゴブリン達に襲い掛かる。ゴブリン王の取り巻きのグリーンゴブリン達なら、複数でかかれば、銃と槍のゴブリンゴーレム相手ならいい勝負が出来るはずなのだが、ゴブリン王がやられたことで動揺したのか、次々とやられていく。剣ゴブリンゴーレムは一方的にゴブリン達を蹂躙していった。


 丘の上のゴブリンが全滅したので、猫トラックも丘に登っていく。すると、眼前にゴブリンの王都が姿を現した。



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