グラシクローとアオイ
「おい、グラシクロー」
「あら、アオイ様ではございませんか。ごきげんよう」
「やほ~、アオイ様。元気してた~?」
「おう、アオイ様じゃないか、そっちのチームも一昨日は残念だったな」
さっそくグラシクローと組もうとアオイが声をかけたが、その返答は、なんとも微妙な返事だった。
「なあ、そのアオイ様っていうのやめてくんねえ?」
「あら、なにをおっしゃいますか。アオイ様はアオイ様ではありませんか」
「うんうん、グラちゃんの言う通りだよ! アオイ様はアオイ様だよね!」
「そうだぜ。アオイ様はアオイ様だよな!」
この3人、元々はもちろんアオイ様なんて呼んでいなかった。せいぜいグラジオラスがさん付けしていたくらいで、シクラメンとローズは呼び捨てだった。でも、王都でぷうと戦った時以来、アオイ様と呼ぶようになっていた。
「だ~、もう、俺が悪かったから、呼び捨てで呼んでくれよ! 何か月前のことを引きずってるんだよ!」
「ですが、アオイ様はアオイ様ですし」
「そうそう、グラちゃんの言う通りだよ!」
「だな。アオイ様はアオイ様だな」
「はあ、もういいや。ところでよ、この戦い、組まないか?」
「組む? あたし達がアオイ様と?」
「正確には俺っていうか、俺達とだな。どうする?」
「「「うう~ん」」」
そう言って悩むグラシクロー、3人はアイコンタクトだけで会議をし、そして決定した。
「申し訳ございませんが、お断り致しますわ」
「だね~。断るよ~」
「おう、こればっかりはアオイ様の頼みでも難しいな」
「なんでだよ? 協力しなきゃあ倒せるもんも倒せなくなるぞ? 今回のエキシビジョンマッチはぱっと見ではゆるゆるでお遊び要素が強そうに見える。でもよ、大陸最強のモンスターとの模擬戦だぞ? これに勝つことにどれほどの意味があるか、お前らだってわかるだろう?」
「だからですわ」
「うん」
「意味わかんねえよ」
「まあまあ、アオイ様、俺が説明してやるぜ。今回の戦いの重要性は俺達だってもちろん知ってる。だからこそ、足手まといになりたくないから、組むことはしないんだぜ」
「は? そんな理由?」
「だって~、一昨日の試合を見る限り、アオイ様のパーティーの連携は、あたし達より遥かに上だっただでしょ? 正直あんなに連携の取れてるパーティーに混ざったって、お荷物にしかなりそうにないし」
「そういうことですわ。なのでお断りします」
「そういうことだぜ」
「お前ら、まさか一昨日ほとんど何もさせてもらえずに負けて、落ち込んでんのか?」
「アオイ様、その発言は無神経だと思いますわよ」
「うんうん」
「アオイ様にそう言われたら反論できないけどよ。まあ、そういうことだ」
「せーの」
「「「よって断る!」」」
「はあ、わかったぜ」
グラシクローの3人は、どうやら超絶パワーアップしてたにもかかわらず、妖精の国チームにあっさり負けたことをえらく気にしているようだった。アオイとしても3人の心情を理解出来たので、とりあえず引くことにした。
「ただいま」
「どうでしたか?」
仲間のもとにもどったアオイにカリンが結果を話すように促す。
「ダメだった。あいつら、一昨日の負けで相当へこんでるみたいだ」
「そうですか、彼女達の全力攻撃が、一番の有効打になりそうだったのですが、残念ですね」
「ここはもう仕方ない、あいつらに気付かれずにフォローするしかねえ。とりあえず、今までのあいつらの行動パターンから予測すると、後方で全力で魔力をためて、大魔法をぶっぱするに違いない。俺達はそれとなくガードしよう」
「そうですね、それしかありませんか」
「エリカもそれでいいか?」
「はい、構いません」
「そういや、グラシクローの連中以外、例えば優勝したわんがおの連中とは組まないのか?」
ピヨが、グラシクロー以外と組まないのかとアオイとカリンに聞く。
「ん~、たぶん組まなくても平気かな」
「ええ、そうですね」
「そうなのかい?」
「グラシクローの連中は後衛から魔法をぶっぱするのがメインだからな。俺達がフォロー出来るんだけどよ。わんがおの連中は前衛だ。おまけに決勝戦でのクロ将軍のパワーやスピードを考えると、あいつらについて回って細やかなフォローをするっていうのは現実的じゃない。そうなると、普通の前衛と後衛の連携になるんだが、そんなのはいちいち打ち合わせなんてなくていいからな。幸い的はでかいし」
「でも、エリカの支援魔法なら役に立つんじゃないのかい?」
「それに関してもうすき大臣がいますからね。前線に立ちながら支援魔法を使えるうすき大臣と比較すると、エリカさんの場合、後方からの支援魔法になります。そうなると、距離の関係で支援魔法の効率がかなり落ちますからね。かといってエリカさんが前衛と同じようなラインに立つのもリスクが高すぎますから、わんがおの補助魔法に関しては、うすき大臣に任せるのが無難でしょう」
「なるほどね。いつもフォローしてもらってたから、いけると思ったんだが、そういうわけでもないんだね」
「ピヨの場合、接近戦を得意としているといっても、遠距離からのヒットアンドアウェイですからね。私が前に出ずにフォローできるので、相性がいいのです。ですが、わんがおの皆さんは、恐らく一度接近したら離れずに取り付いて攻撃するかと思いますので」
「なるほど。わかったよ」
「じゃ、時間があるうちに作戦を立て直すか。ありゃあ想定よりも化け物すぎるからな」
「そのほうがいいですね」
「はい」
「はいよ」
今回の参加者の中で、良くも悪くも恐竜ゴーレムの実力を一番正確に把握できていたのはアオイ達だった。これはぷうのゴーレム相手にさんざん特訓したからだ。そして、恐竜ゴーレムを見たアオイ達の作戦は、あくまでもサポートに回ることに焦点を当てたものに変更になった。なにせ、アオイの必殺技も、ピヨの必殺技も、そしてカリンの必殺技も、また、どんな連携攻撃をしても、目の前のぷうのゴーレムに通用しないことを、4人は一目恐竜ゴーレムを見ただけで分かったしまったからだ。そして、急遽ではあるが、作戦を立て直すのだった。
アオイ達が作戦会議をしているそのころ、恐竜ゴーレムの咆哮により気絶していた参加者や観客、司会者たちもようやく復活していた。気絶した参加者には、棄権をする猶予も与えられたのだが、流石はエキシビジョンマッチに自ら参加表明したメンバーたちだ。誰一人として引き下がりはしなかった。すばらしい胆力の持ち主たちだ。ただ、なんか胆力がどうのこうのというよりも、みんなやけくそのような雰囲気であるため、一周回って恐怖のリミッターが壊れただけなのかもしれないが、なにはともあれ、みんなやる気満々だ!
「ふう~、皆さん申し訳ありませんでした。お恥ずかしながら私、気絶していたようです。どうやら観客の皆さんも参加者の皆さんも復帰されているようですね。そして、準備もばっちりという感じですね! では、改めまして、これより、王都バトル大会エキシビジョンマッチを開始します!」
「「「「「うおおおおお~!」」」」」
「審判さん、開始しちゃってください!」
「王都バトル大会エキシビジョンマッチ、開始!」




