王都バトル大会エキシビジョンマッチ
「さあ~やってまいりました。本日は通常のスケジュールから飛び出したおまけの勝負。そう、王都バトル大会エキシビジョンマッチを開催するぞ~! 参加者も熱い、熱すぎるぞ。まずは昨日王都バトル大会☆7ランクの部にて優勝を決めたばかりのこのチーム! チームわんがお~! 続きまして、準決勝で惜しくも敗れた二つのチーム、チームグラシクローと、ハンターチーム! そしてそして、準優勝のチーム妖精の国チームから、レーヴェ将軍とゆき将軍、ナノハナ将軍がエントリーしているぞ! ただ、チーム妖精の国のほかのメンバーは、腰などの痛み等から、本日は来賓席での見学となっている。確かに残念ではあるが、その代わりに強力な助っ人たちが大集合だ。そう、☆6ランクの部の優勝チームをはじめ、☆6以下の部に出場した腕利きたちが全部で1000人くらい出場してくれているぞ! こんな大人数が一度に戦うことなんて過去にあっただろうか、いやない! こんな歴史的なイベントで司会をやれて、私は今、猛烈に感動しているぞ~! 観客の野郎共、歴史の立会人になる準備はいいか~!」
「「「「「「うおおおお~!」」」」」
会場は昨日の☆7ランク大会と同じく王都北の草原だ。ぷうの土魔法により観戦用の飛行船が大量に浮かんでいるのも昨日までと同様だ。そしてそんな北の草原には、合計1000人以上の妖精の国の軍人やらハンターやら、腕自慢が今か今かとバトル開始の時を待っていた。
ちなみに今回は数が多いことと、はぴの操るゴーレムの手加減にいささかの懸念があったため、この1000人にはぷうの泥鎧がひそかにかけられている。細かい理屈は抜きにするが、致死に匹敵するダメージを負うと、石像になる代わりに圧倒的防御力を得れるという魔法だ。当然石像になった時点でその人は脱落だ。
「では、そんな歴史の立会人を代表してさくら女王、一言お願いします」
「今日の敵はとっても強いゴーレムとのことなので、みんな頑張ってね!」
「「「「「おおおお~!」」」」」
「コメントありがとうございます! ではここで、まさに妖精の国ドリームチームといっても過言ではない総勢1000人以上の相手をしなければならない、可哀そうな対戦相手の紹介をするぞ!」
「「「「「うおおおお~!」」」」」
「は、気の毒なこった」
「何分持つと思う?」
「この人数相手だぜ? 秒で沈むんじゃないか?」
「がっはっは、ちげえねえ!」
「では、紹介させていただきます! 対戦相手は、☆8ランクのモンスターの中でも最強との呼び声高い巨木の森の覇者、いや、この大陸の覇者といっても過言ではないだろう! そう、あのビッグヘッドランドドラゴンを模したゴーレム。その名も、恐竜ゴーレムだ~!」
「ぎゃっおおおおおおん!」
ハピの操る恐竜ゴーレムは、地面の中からその巨体を現し、魔力をがっつり乗せた咆哮をぶちかます。するとその瞬間、静寂が訪れた。ここに集まったメンバーは良くも悪くも実力者ばかりだ。だからこそはっきりと認識できた。恐竜ゴーレムがその身にまとう魔力の質、量ともに、レベルが、いや桁が違うということを。
そして、ハピもまた旧王都の時よりも恐竜ゴーレムの扱いに慣れてきていた。そう、前回よりもはるかに操縦技術がパワーアップしてるのだ。特に、昨日の夜の作戦会議で、いかにかっこよく、いかに恐竜っぽく操れるのかを3人で特訓していた。そのため、その身をまとう魔力の禍々しさなんかは、旧王都の時よりも、より本来の恐竜っぽくなっていた。
「がっおおおおおおん!」
ただ、この長時間の静寂には、ハピもちょっと調子が狂っていた。前回は登場即大暴れだったからいいものの、今回はまだ開始の合図がない。しかも、ちょっと調子に乗りすぎたのか、参加者も9割がた震えて動く気配がない。
いや、よく見ればそのパワーアップした禍々しい魔力と、その魔力を乗せた咆哮のせいで、観客席のメンバーの大半は白目をむいていた。そしてその中には、司会者と審判まで含まれていた。
「え~っと、どうしよう? 開始してもいいのかな?」
出鼻をくじかれて、早速ピンチに陥るハピ。ここは助けを求めることにした。
「え~っとこちらさくらです。参加者のみんな、ちょっと待っててね。迫力がありすぎる対戦相手だったから、ちょっと混乱しちゃうわよね。えっと、いまから観客のみんなを起こすから、参加者のみんなは作戦会議でもしててね!」
さくら女王の呼びかけにより、エキシビジョンマッチの開始時間はちょっと延期された。観客や司会者、審判を、さくら女王やうめが起こしている間に、参加者たちも周囲の気絶した人たちを起こしたり、作戦会議を始めたりしていた。
だが、そんな半ばパニックに陥っている者が多い中、平然としているつわもの達もいた。そう、前日の優勝チームにして、このエキシビジョンマッチを望んだある種の戦闘狂集団、チームわんがおのメンバーだ。
「そういや、対戦相手は秘密だったのか? 知らねえ奴が多そうな感じだけどよ」
「ほっほっほ、そんなことはないはずじゃ。なにせ、そもそもわしらのリクエストで決まった対戦相手じゃからのう。隠すようなことではあるまい?」
「だよな。ん~、聞けば答えたけど、聞かれなきゃあ答えなかったとか、そういった感じか?」
「いえ、それは違いますね。昨日参加者募集のチラシを配っていたのでもらったのですが、チラシには対戦相手として、ビッグヘッドランドドラゴンを模したゴーレムときちんと書いてありましたから。まあ、ビッグヘッドランドドラゴンを知らないものもいたでしょうし、知っていたとしても、実際に全長100mの巨体と、あの禍々しい魔力は、その目で見るまで理解できなかったのでしょう。試合のノリも、だれでも参加可能のエキシビジョンマッチという緩い設定でしたし」
「なるほど。だが、実際に見るまで理解できなかったってのは俺もだな。正直こいつは想像以上だ。特に魔力の質と量はすげえな。こんなの、ぴぴとやったとき以来だ」
「じゃのう」
「ええ、同感です」
「ああ、楽しみだよな! なあ親父、今日は思いっきり暴れていいだろ?」
「むろんじゃ。一応中にはハピが乗っているらしいが、手加減不要とぴぴとぷうからお墨付きをもらっておる。じゃが、クロよ、油断禁物じゃぞ。ハピは非戦闘員とはいえ、例の1000m級のドラゴンを仕留めた張本人でもある」
「ああ、わかってるさ。でもまあ、あの未知のドラゴンを仕留めた手段は気軽に使えない禁じ手ってはなしだろ?」
「うむ。その点は大丈夫じゃ。ぴぴとぷうもそうそう使える手じゃないというか、もう使えないと言っておったからな」
そして、この状況で平然としているチームが、あと二つあった。その一つはぷうと一緒に特訓をした、ハンターチームだ。エリカも昨日の夕方なんとか目が覚めた。目が覚めた後は、これ幸いとハピのとってきた美味しい果物を口に無理やり突っ込まれたりして、ちょっと強引にだが、今日のこのバトルに間に合うように回復させられていた。
「ぷうから聞いてたとはいえ、なかなかの迫力だな」
「はい、正直私がお役に立てるのでしょうか?」
「エリカ、弱気は禁物だよ。如何なる時も冷静にって、さんざんぷうに言われただろ?」
「エリカさん、自信を持ってください。エリカさんの補助魔法の実力は間違いなく本物ですから」
「そうだぜ。なんなら俺たちの中じゃ、エリカが一番役に立つ可能性が高い。それで、ちょっと思ったんだけどよ。俺たちの場合って、良くも悪くも純粋なアタッカー気質のやつがいるってわけじゃないよな?」
「そうですね。ピヨさんが一番それに近いですが、ピヨさんも速度で翻弄するタイプですからね」
「でな、ここはちょっと、グラシクローの連中と共闘したいんだが、いいか?」
「グラシクローですか?」
「ああ、あいつらは戦い方が極端なんだよ。なんていうか、目ちゃんこ不器用っていうの? しかもそのくせへんにまじめだ。一昨日も試合開始前から魔力を練って、開幕と同時に最大火力の一撃でもぶちかましてりゃあ、あんな惨敗しなかっただろうに、そういう真似が出来ない。まあ、そこは妖精の国チームがそういうそぶりを見せなかったから、やりにくかったっていう側面もあるかもしれないがな。っと、まあつまり、俺が言いたいのは、あいつらが本来の実力を出せれば十分すぎるほど強いはずなのに、不器用すぎてあいつらだけでそれができるとは思えないってことだ」
「なるほど、そこで私達で彼女達が最大限パワーを発揮できるようにフォローしようというわけですね。ふむ、面白そうではありますね」
「だろ? 俺たちはカリン殿にしろエリカにしろ、直接攻撃よりも支援に回ったほうが活躍できそうなメンバーがいる。俺やピヨは攻撃よりだが、俺とて支援系の動きができないわけじゃないし、あんな化け物相手じゃ、ピヨも直接攻撃よりも速度を生かしたかく乱のほうがやりやすいだろ? ってなわけで、出来ればグラシクローの連中と組みたいんだ」
「私は構いませんよ」
「私も構いません」
「ああ、あたしも構わないよ。確かにあれが相手じゃあ、あたしの攻撃が効果的かって言われると微妙だしね。かく乱のほうがよさそうだ」
「みんなありがとよ。じゃあ、早速話つけてくるぜ」
いまここに、王都バトル大会、☆7ランクの部に出場した2チームが、手を組もうとしていた。果たして王都のみんなは、ハピの操る恐竜ゴーレムを倒せるのだろうか?




