王都バトル大会決勝戦
「うおっしゃあ! 今日こそ暴れてやるぜ!」
昨日はほとんど何も出来ずに終わってしまったクロ将軍がやる気満々だ。
「さて、対戦相手は前衛がレーヴェとゆき、支援役にシルバーとナノハナ、後衛がうめとさくらか」
「じゃのう、今日はどうするんじゃ?」
「う~む、そうだな、前衛の2人は俺がやるか」
「ほっほっほ、では、後衛の2人はわしがやろう」
「では、支援役の2人は私がやりましょう」
「ちょ~っと待って、俺の分は?」
「そうじゃのう、リオン殿。どうじゃろう、レーヴェをクロにゆずるというのは」
「待ってくれよ、うすき殿。レーヴェは俺にとって弟も同然。実力を見ないわけにはいかない。かといって、レーヴェ1人で俺の相手は辛いだろうからな。ゆきを付けてやるくらいのことはさせてやりたい」
「ふむ、ではブランシュ」
「私の相手のシルバー殿とナノハナ殿はどちらも支援役。私とクロ将軍2人がかりでは、流石に戦力過剰すぎませんかな?」
「うむ、それもそうじゃのう。かといってクロでは遠距離攻撃は出来ないじゃろう?」
「そりゃあ、俺は遠距離攻撃は出来ないけどよう」
「そもそもあれだ。クロ将軍はこの中で唯一の現役メンバーなんだぜ? 流石にクロ将軍が出て行くのは卑怯だろ。ここは引退組みに任せてくれよ」
「いやいや、俺昨日もなにもしてないし」
「おっと、そろそろ試合開始だな。じゃ、そういうことで」
「うむ、承知したぞ」
「ええ、わかりました」
「ううう、わお~ん!」
クロ将軍の悲しみの遠吠えが響き渡った。
一方のチーム妖精の国は、シルバーを中心に今日の作戦の最終確認をしていた。
「わかっていると思いますが、作戦の最終確認をしますよ。相手チームは、ギルマス、クロ、ブランシュ殿が前衛、うすき大臣がどちらかというえば後衛という編成です。なので、考えられる戦法は突撃になるはずです。対してこちらは前衛が2人、支援役が2人、後衛が2人のバランス型。前衛の数が足りないので私が前に出ます。これで前衛3人、支援1人、後衛2人になります」
「うん! 僕はとりあえずリオンおじちゃんと戦えればそれでいいかな」
「では、あたしは父上と戦おうか」
「ええ、では私がクロと戦いましょう。ですが私は本職の前衛ではないので、純粋に戦えばまずクロには勝てません。ですのでナノハナ、支援魔法は私に厚めでお願いします」
「ええ、承知しました」
「それから、うめさまとさくらさまは遠距離魔法での戦いで、2対1でうすき大臣を圧倒して下さい」
「ああ、承知したよ」
「ええ、わかりました」
「ナノハナの支援つきとはいえ、前衛は1対1です。押される可能性もあるため、うめ様とさくら様は出来るだけ素早くうすき大臣を倒して、私達の支援に入って下さい。前衛が欠ける前にうすき大臣を倒せれば、勝ちは確定するでしょう。それと、向こうがこちらの作戦に気づき、うすき大臣が持久戦の構えに入った際は、随時前線への支援攻撃をお願いします」
「ふむ、了解だよ。ただ、ぷうのセリフがきになるねえ」
「そうですね。ぷうさんが言うには、ぴぴさんのせいであの4人はびっくりするほど強いという話ですからね。実際昨日の闘いを見ても、かなりの強さでしたし。まあ、やれるだけのことをやりましょう。それしかやりようもないですし」
「ああ、そうだね」
「さ~さ~さ~さ~、みななん観戦の準備はいいですか? 一方は妖精の国の軍としての精鋭をこれでもかと集めたまさにオールスターチーム! 片やもう一方は伝説のハンターを中心に、レジェンドとも言える老獪なメンバーのチームだ! 私も何十年とバトル大会の司会をやってきましたが、間違いなく今回のこの対決は、過去最高に興奮していると言って間違いないでしょう。くう~、今すぐ戦いが見てみたいぞ~! ということで、これより、王都バトル大会、決勝戦を執り行います! さあ審判さん、始めちゃってください!」
「では、はじめ!」
開始の合図と同時にレーヴェとゆき、そしてシルバーが前に出て、うめとさくらが下がる。ハノハナはどちらにも支援魔法をかけやすいように中間に陣取る。そして、うめとさくらは遠距離魔法の用意を、ナノハナは支援魔法をかけ始める。
「ほう、まさかシルバーが前に出るとはのう」
「ふむ、前衛は俺が遊んでいいって話だったよな。じゃ、俺が3人もらうぜ」
「いえいえ、シルバー将軍とナノハナ将軍は私の獲物ですよ。横取りは慎んで下さい」
「ほっほっほ、まあそこは2人で好きに決めるとよい。わしはわしの獲物をやらせてもらうからのう」
「俺の分は?」
「クロ将軍、少し黙っていような」
「ううう、うを~ん!」
そしてクロ将軍は1人猛ダッシュで突っ込んで行ってしまう。
「これ、クロや、待つのじゃ!」
「仲間はずれはもう嫌だ~!」
仲間はずれになるくらいなら、先につっこんでしまえというトンでも戦法に打って出たクロだった。
「おい、止めるぞ!」
「うむ、そうじゃな。ブランシュ、急ぐのじゃ!」
「はっ!」
「予定通り突進してきたけど、速いよ!」
「速い! 先頭はクロか!」
「レーヴェ、一当たりして下さい。私では対処できん!」
「わかった! いっくよクロ将軍、必殺フレイムクロー!」
猛スピードで迫るクロに対して、レーヴェは全身から火を噴出してのクローを繰り出す。これはギルマスと同じ技だ。そして、今までの模擬戦の結果からすると、お互い本気モードの時の実力はほぼ互角。ただ、過去のギルマス同様、本気モードの継続時間に難を抱えているレーヴェが、次第に押され始めるというパターンが多かった。そのため、トータルでの強さではクロが一歩上回っていた。だが今は、ナノハナの補助魔法をもらっている。本来であればレーヴェが押せるはずだった。
(あれ? 遅い?)
クロもそれには気づいていたのだが、レーヴェが自身に爪を振りかぶって迫ってきているこの状況で感じたことは、想像していたよりもレーヴェの動きが緩慢だったということだ。
(おいおい、どうしたんだレーヴェ。これじゃあ、軽く一撃入れれるぞ)
クロはそんなレーヴェの本気の一撃を軽く交わして、右のわんこぱんちをレーヴェの鼻に叩き込む。
「かふっ」
そんな声ともいえない音を発してレーヴェは吹き飛んだ。
「ええええ!? ちょっとレーヴェ、どうしたんだよ!?」
「くそ、無駄に速いな。追いつけなかった。だが、今の攻撃、当たったのは、本気モードのレーヴェだよな。支援魔法ももらってたっぽいし、ふう、なら死にゃあしねえか」
「これクロよ。まつのじゃ」
「お、おう。待つけどよ。でもなんだ今の、レーヴェのやつが吹っ飛んじまった」
「クロ将軍。あなた、昔から手加減下手なんですから、気をつけてくださいよ。今の一撃、受けたのが本気モードのレーヴェ将軍だからよかったものの、私の娘やシルバー将軍相手に繰り出していたら、顔の骨いってますからね」
「んなばかな」
「んなばかなじゃないですよ。ぴぴさんとの特訓は、私達年寄りでさえ現役最高の時より更に上の力になっているのですよ。現役のクロ将軍の伸び方はすさまじいものがあると言ったでしょう?」
「いや、確かに兄貴や親父、ギルマスからはそう言われたけどよ。でも、ぴぴと何度も戦ったけど、結局一撃も入れれなかったじゃん。それは兄貴だって知ってるだろ?」
「それはぴぴさんが強すぎただけですよ。今ではギルマスの本気モード相手にも、ダメージ与えられるレベルだという自覚を持ちなさい。ただでさえあなたは加減が下手なんですから」
「それも違うって。レーヴェじゃあるまいし、俺は加減できるぞ」
「たった今レーヴェ将軍を盛大に吹き飛ばした攻撃をしておいてそれをいいますか? そもそも訓練と称してギルマス相手に本気で戦ったことしかなかったレーヴェ将軍同様。私やうすき大臣相手に本気で戦ったことしかなかったあなたが、手加減できるわけ無いでしょう」
「いや、でも、今のもなんかレーヴェの動きが妙に遅かったから、ちゃんと手加減したんだぜ?」
「その攻撃ですら、私の娘やシルバー将軍なら、顔の骨が完全にいっていた可能性が高かったんですよ。まったく、シルバー将軍はかまいませんが、私の娘はまだ年頃なんですから、気をつけてくださいよ?」
「お、おう、わかったぜ。あれ、だとすると俺を戦わせなかったのって」
「そうですよ。あなたは自分がどの程度強くなったのか、客観的に見れてませんでしたからね」
「う、なんかごめん、兄貴」
「まあ、いいですよ。あなたの反応が楽しくて、ちょっとからかってしまったことも事実ですしね。それに、レーヴェ将軍の尊い犠牲のおかげで、自覚もできたようですし」
「お、おう!」
「いや、レーヴェ生きてるからな!」
「ブランシュ殿、私の顔ならいいってどういうことですか!? 強度でいったらゆき将軍以下ですよ!?」
まあ、何はともあれ、クロが自身の力を理解できたということで、めでたしめでたし。
いつも見てくださってありがとうございます。
「にゃがために猫はなく」という新作を始めました。
宇宙を舞台に、ハピが世界一のハードボイルドにゃんこを目指すお話です。もちろんぴぴもぷうも大活躍します。
ジャンルはSFですが、地球の未来の話というよりも、この世界の未来のお話になってます。
もしよろしければ見てみてください。
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