チームわんがお対ハンターチーム2
「では、作戦通り行きますよ」
「「おう!」」
「はい!」
カリン達の作戦は単純明快、短期決戦だ。理由としては、ライオンのギルマスはともかく、犬であるうすき、ブランシュ、クロの3人に対しての持久戦は勝ち目が完全にないためだ。
「まず動いたのはハンターチームだ。っと、これはいったいどういうことでしょう。カリン殿に木が纏わりつき、なんとケンタウロスのような姿になった~! いや、それだけじゃない。アオイとエリカの2人の妖精の羽が、ピヨと同じ鳥の羽のように変化した~! さらにピヨも炎の鳥へと変化する。なんということでしょう。全員難易度の高い技を軽々と使いこなしたぞ。流石は☆7ランクのバトルに出てくるだけのことはあるといったところか~!」
そして、カリンは地を駆け、残りの3人は一気に上昇する。
「ほう、あの火の鳥、俺の技と同一のものだな」
「そうじゃのう。しかも、ぴぴとの特訓の前の不完全版ではなく、特訓後の完全版のほうに見えるのう」
「ああ。この技を元から少しでも使えたんなら、俺の耳に入ってなきゃあおかしい。ってことは、元々は使えず、ぷうとの特訓で身につけたってわけか。ったく、すげえ才能だな」
「ほっほっほ、じゃが、お主なら遅れはとるまい」
「当然だ。あの鳥は俺がもらう」
「おぬしに目を付けられるとは、かわいそうにのう。女の子じゃというのに」
「ふん、☆7にわざわざエントリーしてきたんだ。遠慮はいらんだろ」
「ほっほ、聞くところによれば、☆7で出たがったのはカリン殿とアオイの2人だけ、のこりの2人は☆6ハンターなんだから☆6に出たいとゴネておったそうじゃよ」
「ふん、まあいいさ」
「いくよ!」
「おう!」
「はい!」
「フレイムバード!」
「ダウンバースト!」
「10倍コンプレッションファイアーボール!」
「うおお、ハンターチーム、いきなり大技で勝負を仕掛けにいった~! 上空からのピヨの火の鳥と、アオイの強烈なファイアーボールによる攻撃を、エリカの風魔法が加速させる~! いや、それだけじゃない。このダウンバーストによって、チームわんがおの面々は身動きが取れないようだ~!」
狙いはピヨがわんこ大臣ことうすきを、アオイがブランシュをそれぞれ狙い攻撃をしかける。狙いがこの2人なのは単純な消去法だ。ギルマスは単純に個としては一番強そうな上に短期決戦に強いライオンだ。おまけに同じ系統、同じ炎の技を使うということで、ピヨが一撃で倒せる可能性は低い。次にクロ将軍はこれぞわんこという戦法を得意とする、持久力と耐久力に長けたタイプなので、同じく一撃で倒すのは厳しそうだ。というわけで、遠吠えによる支援魔法や、遠距離攻撃が得意という後衛よりのうすき大臣と、金属系の強化魔法を得意とするブランシュの2人に狙いを定めたというわけだ。金属なら、熱でなんとかなるだろうという考えだ。
そしてそれを支援するのはエリカのダウンバーストだ。この風魔法は上空から強烈な下降気流を叩きつけるという技だが、これによりピヨとアオイの技の速度をましましにし、さらに暴風で敵の動きまで封じようというわけだ。
「「うおおおお!」」
「ふん、させるかよ!」
流石はパワー自慢のギルマスだ。この暴風の中でもピヨを捉え、迎撃しようと飛び掛る。だが、それに待ったをかけるものがいた。
「ふしゅううぅ」
どすん!
「ぐあっ」
横から放たれた強烈な矢によってギルマスは吹き飛ばされる。
「くそ、カリン殿か」
「ええ、エリカのダウンバーストと、私がこの攻撃の妨害担当なのですよ。悪いですが、ギルマスにはこのまま私に付き合ってもらいますよ」
「1つ聞いてもいいか?」
「なんでしょうか?」
「なぜあの風の中を容易く動けたんだ?」
「それはエリカが、私には風が当たらないようにしてくれていたからですよ」
「この規模と威力の大魔法で、そんな精密な操作ができるとはな。あの妖精のお嬢ちゃんもただもんじゃないってことか」
「ええ、魔力制御能力に関しては、彼女はずば抜けていますよ。さて、おしゃべりはまだ続けますか? 私の任務はあなたを抑える事なので、いくらでも付き合いますよ」
「いや、終わりにしよう。あいつらが負けるとは思わんが、そっちの作戦にまんまとはまるのは好きじゃねえ」
「わかりました。いきます!」
「おお~っと、このすさまじい暴風の中、ギルマスとカリン殿だけが飛び出して、1対1になったぞ! 暴風の内部が気になるが、すさまじい風のせいで様子がわからない!」
そんな中、エリカのダウンバーストの中ではピヨの攻撃がうすきを捕らえようとしていた。
「ピ~ヒョロ~!」
「ほう、わしが脆いと思い、わしを狙うか。じゃが、そう簡単にやられはせんよ。がう!」
ピヨの上空からの炎の爪による攻撃を、うすきは水の爪で迎撃する。
「な! あんた、接近戦もいける口なのかい?」
「なにをとぼけたことを言っておる。わしは犬じゃぞ? 近接戦は出来て当然じゃろう?」
「ふん、それもそうだね」
「それよりいいのかのう? この下降気流の中では、おぬしは再び飛び上がれまい」
「あたしの相棒の魔力制御能力をなめてもらっちゃ困るね。あたしの上昇に合わせて風を制御するくらい、出来て当然なんだよ!」
その言葉の通り、ピヨが飛び上がろうとすると、ピヨの周りだけはダウンバーストの影響がまったくなくなり、ピヨは簡単に飛び上がった。
「ほっほっほ、なかなかやりおる。じゃが、ならばわしもそれを利用するまでじゃ。わん!」
うすきはすかさず口から水球を飛ばしえピヨに追撃を加えるものの、巻いて来た風によりそれは妨害される。
「うむ、なかなか見事な魔法制御じゃのう。関心関心」
一方アオイの10倍コンプレッションファイアーボールに狙われたブランシュは、これを迎撃しようとまるで対空砲火のような強力な金属魔法を空に向かって放つ。
「わお~ん! わおん、わおん!」
「その程度で、俺の10倍コンプレッションファイアーボールが止まるかよ!」
どっご~ん!
ブランシュの対空砲火をものともせずにアオイの10倍コンプレッションファイアーボールは進んでいき、ついにブランシュに命中する。それと同時にすさまじい爆発が発生する。
「やったか!?」
エリカの暴風により即座に煙が排除される。が、そこには全身を元の白色というよりは、金属光沢のある色のブランシュが平然と立っていた。
「ほう、なかなかの火力ですね」
「無傷だと? 馬鹿な!?」
「もっとも、この程度の攻撃でダメージを受けるほど、私は甘くないですがね。さて、少しまじめに攻撃しましょうか。特訓ではない戦闘は久しぶりですからね。簡単にやられないよう、気をつけてくださいよ?」
「おもしれえ、受けて立とうじゃねえか! エリカ! 支援頼むぞ!」
「はあ、はあ、はあ」
だがエリカは、返事をする余裕などすでになく、肩で息をするくらい疲弊していた。このダウンバーストの魔法、2人を支援するだけじゃなく、☆7ランクの対戦相手の移動を阻害するような威力、かつ広範囲技なのだ。もちろんエリカにとっては、最大出力の大魔法で、当然長時間の持続など不可能だ。なので、最初の攻撃で2人しとめて、すぐ解除する予定だった。なのに、開幕の攻撃をあっさり防がれ、すでに想定時間を越えての展開をしている。前面に立って戦っているわけではないものの、エリカの魔力の消費量は他のだれよりも激しかった。果たしてエリカの魔力が尽きる前に、ピヨとアオイは、うすきとブランシュを倒すことが出来るのだろうか?
そしてダウンバーストの中にいる最後のわんこ。クロ将軍が動き出す。まずはピヨに狙われたうすき大臣こと親父のところにいく。
「親父、支援するぜ!」
「ほっほっほ、わしのことは気にするな。ブランシュを手伝ってやるのじゃ」
「わかったぜ!」
流石親父だ。この程度のことなんともないか。そう思いながら言われたとおりにブランシュこと兄貴の場所に向かって走る。
「兄貴~、支援するぜ!」
「クロ将軍、私は大丈夫ですので、大臣の支援をお願いします」
「わかったぜ!」
くう、兄貴も流石だな。やっぱ支援なんて要らなかったか。ん~、だとすると、そうだ。この暴風を起こしてる女妖精を倒しにいくかな。
「親父~、この暴風の発生源倒しにいっていいか?」
「ん? 今いいところなのじゃ、わしの戦闘に関わることはするんじゃない。ブランシュの手伝いにいくがいい」
あれ? 暴風の女妖精にも手を出しちゃだめなのか? しかたない。兄貴のところに行くかな。
「兄貴~」
「クロ、今いいところなのが見てわかりませんか?」
「いや、でも」
「クロ、うるさい。手出し無用だ」
くうん、兄貴に怒られちゃったぜ。ってことは残っているのは、ギルマスのところだけかな。
「ギルマス~! って、ギルマスも楽しそうに戦ってるよな。うう、俺も戦いたいのに・・・・・・」
妖精軍将軍クロ。個の実力としては、レーヴェすらも上回る、妖精軍最強との噂もある猛者の中の猛者である。しかしそんな彼も、うすきやブランシュの前では、ただの立場の弱い弟キャラなのであった。




