グラシクロー対妖精国チーム
「さあさあさあさあ、みなさん準備はいいですか? では審判さん、始めちゃってください~!」
「勝負、開始!」
「敵の3人は魔法の威力こそ強力なものの、タメに時間がかかるという明確な欠点持ちですね。以前は魔法が完成しても大したことはなかったようですが、今は危険そうです。向こうの魔法が完成する前に、一気に叩きますよ。うめ様さくら様は攻撃魔法で牽制を、ナノハナは私と共に支援魔法を、ゆき、レーヴェ、2人は突っ込みなさい。では、わお~ん!」
「1分咲き」
「フレイムドラゴンキッズ」
「支援魔法いきます!」
「レーヴェ、遅れないようにね!」
「もっちろん!」
うめ達妖精国チームは開始と同時に動き出す。それはグラシクローも同じだ。
「予定通り突っ込んできましたわね。その程度のこと、想定内ですわ! 予定通り私が前衛2人の足止め、ローズは魔法の迎撃を! シクラメンがフルで魔法を唱える時間を稼ぎますわよ!」
「わ~ってら~!」
「ふんぐぐぐぐぐ!」
「必殺! グラビーム! グラビーム! グラビーム! グラビーム!」
「うおお、ミニビューティフルフレイムレイン! ミニビューティフルフレイムレイン!」
今までは大火力の魔法をただただぶっぱするだけだったグラシクローだが、ぴぴぷちゃ号でハピのぴぴとぷうのかわいい戦闘シーンコレクションの数々を見て、それなりに戦略というものを使う気になってきたようだ。もっとも、ぴぴの戦術は突っ込んで爪で引っかくだけだから、100%ぷうの戦い方を参考にしたと思われるが。そして、グラビームは使い勝手の良い炎属性のビーム魔法だ。ローズのミニビューティフルフレイムレインは、光の球に魔力をぎゅうぎゅうに詰め込んで、飛ばし、そこからファイアーボールを連射するという、例の巨大ドラゴンに使った技のミニで炎なバージョンだ。2人とも杖をブンブン振り回し、どんどん技を連射していく。
ちなみに、例の巨大ドラゴンの時の大技を一瞬で撃てると思い、実際に撃てちゃった、いわゆるゾーンのようなものに関しては、どういうわけか、その後1度も3人の前に訪問してくれることはなかった。
グラジオラスのグラビームが突進してくるゆきとレーヴェに炸裂し、ローズのファイアーボールを連射する光の球がうめとさくらの遠距離攻撃魔法を迎撃する。その間シクラメンは巨大妖精ゴーレムの作成に集中だ。
「へえ、速くて高威力、結構良い攻撃みたいね。ただ、敵として戦うには結構面倒だね」
「ふっふ~ん、僕にはこの程度、きっかないよ~だ!」
ゆきはグラビームを左右に素早くステップを踏んで避けながら、レーヴェはお構いなしに正面から食らいながら、2人は突っ込んでくる。
「ほう、腕を上げたもんだね。まさかあたしら2人の攻撃を1人で食い止めるなんてね」
「わお~ん! うめ様、感心してないでもっと攻撃の密度を上げて下さい。わお~ん!」
「わかっちゃいるけど、これ以上あたし一人じゃどうしようもないよ」
「グラ~! なにしてる、ライオンが突っ込んでくるぞ!」
「わかっていますわ! 必殺! グラララ、ビーム!」
タメなしグラビームは、ゆきは嫌がって回避してくれたので突進速度が緩んだが、無視して突進してくるレーヴェの勢いはまるで削げない。今度はタメなしグラビームとは異なり、若干のタメがあるグラララビームを発射する。今度の一撃は流石にレーヴェも完全無視とはいかず、当たるたびに突進の勢いが落ちる。ただ、それでもお構い無しにどんどん突っ込んで来る。
「グラ! 多少は遅くなってるけど、ぜんぜん止まんねえぞ!」
「グラララ、ビーム! グラ、ビーム! グラララ、ビーム!」
ローズはうめのフレイムドラゴンキッズと、さくらの一分咲きの迎撃で手一杯だ。グラジオラスが狙っているゆきとレーヴェという前衛2人に攻撃する余裕は無かった。
「グラ~! 根性見せろ~! シクラメンのとこに到着しちまうぞ!」
「もう全力ですわ~! グラララ、ビーム! グラ、ビーム! グラララ、ビーム! グラララ、ビーム!」
いくらグラシクローが強いとはいえ、妖精国チームだって十分すぎるほど強い。前衛に接近されて近距離戦を挑まれれば、魔力を大量に溜めるのは困難になる。それでは分が悪い。そして、ゆきとレーヴェという前衛に対抗しうる唯一の手段が、シクラメンのゴーレムなのだ。是が非でもこの開幕のシクラメンの魔法は成功させたい。ローズが被弾覚悟でうめとさくらの攻撃の迎撃を止め、ゆきとレーヴェに攻撃しようか悩んでいる時、ついに待っていたときがやってくる。
「おまたせ~! 出でよ。ニュービューティフルゴージャスパワフルゴーレム!」
周囲の地面がシクラメンの魔力と混ざり合い、さらにシクラメンに纏わり付く。そして、全長30mの妖精騎士ゴーレムが姿を現した。この妖精騎士ゴーレムはいままでシクラメンが得意としていた遠隔操作型のゴーレムではない。はぴが使っていたゴブリンゴーレムを真似て作った、シクラメンが搭乗するタイプのゴーレムなのだ。もちろん見た目は妖精が鎧を着た姿であり、手には巨大な剣と盾を装備している。
「あのライオンと白わんこはまかせて~!」
「わかりましたわ!」
「ああ、頼んだぜ!」
シクラメンの妖精騎士ゴーレムは、背中の羽を光らせたかと思うと、一気に加速する。そして、レーヴェとゆきに襲い掛かる。
「わお~ん! ほう、2人が時間稼ぎの小技を使い、その隙に1人が魔法を完成させる作戦ですか。しかし、小技とはいえ強化魔法のかかったゆきとレーヴェの突進の勢いをあそこまで削ぐとは、なかなかやりますね。わお~ん!」
「感心してる場合かい、完全にしてやられてるじゃないかい」
「わお~ん! ふう、そもそも戦闘開始位置をこんなに離さなければ、向こうの大技の前にゆきかレーヴェが食らいつけたのですよ? わお~ん!」
「あほかい、ここまでメンバー揃えて、さらに戦闘開始位置までこちらに有利にしようって言うのかい? 流石にそれは外聞が悪いって、お主も納得したじゃろう?」
「わお~ん! はあ、まあいいでしょう。私はこのまま強化魔法を繰り出しますので、うめ様は引き続き2人の相手を、ナノハナさんも引き続き全力で補助魔法を使ってうめ様達を強化してください。わお~ん!」
「はい!」
「あのデカブツはどうするんだい?」
「わお~ん! あのデカブツはレーヴェとゆきに任せましょう。あの2人なら、そうそう遅れはとらないはずです。わお~ん!」
「了解だよ」
「ええ」
「よ~っしよしよし。グラの作戦大当たりだな。無事にシクラメンのゴーレムが出来上がったぜ」
「これで厄介なレーヴェ将軍とゆき将軍を抑えられますわね。私達も行きますわよ。高速で飛び回りながら、フルパワーでお相手しましょう」
「おっけ~、そうこなくっちゃな!」
その次の瞬間、うめの後方に巨大な桜の木が出現する。それは実物か幻かはわからないが、唯一わかるのは、それがグラジオラスとローズにとって、都合の悪いものであるだろうということだ。
「なんですの? これは」
「馬鹿な、向こうはみんな攻撃か支援魔法を使っていたはず。なんでこんな大魔法が」
「はあ、はあ、久しぶりに本気で遠吠え強化魔法を使用して、のどが枯れ気味ですよ。うめ様、さくら様ほどではないですが、私も引退を考えてもいい年だというのに。っと、愚痴っぽくなりましたね。2人でこちらの攻撃を凌いで1人が大技を使う。なかなか見事な手段でしたね」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「あの馬鹿でかい桜の木はなんだよ!」
「ふふふ、大技を狙っていたのはこちらとて同じだったというだけですよ。こちらもさくら様には大技を仕掛けてもらっていたのですよ」
「ふざけるな。確かにずっとさくら様の1分咲きは飛んできていた!」
「ああ、やはりご存知なかったようですね。さくら様の1分咲きなどの攻撃は連続技。最初の1分咲きからどんどん木を生長させ、威力を上げていくタイプの技なのですよ。最も、今回は威力重視で1分咲きから一気に10分咲きに強化していただきましたがね。ちなみに本来ならその間桜の木の成長が相手に筒抜けになるのですが、今回はナノハナに光魔法で隠してもらっていました。まあ、完成したのでお披露目しただけですよ」
「ちい、ムカつく狼だぜ!」
「まずいですわね」
「そう悲観することはないですよ。大技はお互い1発ずつの発動に過ぎないですしね。むしろあなた方のほうが個々の能力は上ではないですか。まだ有利と思ってもかまわないのでは? まあ、シクラメンのゴーレムが、本当に100%の力で出せたものなら、ですがね」
「本当にそう思ってるやつの言い方じゃないんだよ! てめえは!」
「むき~! ムカつきますわ! ローズ、ぶっ殺しますわよ!」
「あったりまえだあ!」
グラジオラスとローズは無理やり大技を使おうと魔力を溜める。
「ああ、そうでした。大技といっても、技の性質が違うので気をつけて下さいね」
すると、巨大なさくらの木から、大量の花吹雪が舞って来る。さくらの放った大技、10分咲きだ。
「ローズ、防御魔法を!」
「がってんしょうちだ!」
2人はなんとかこれを防御魔法で防ぐ。だが、当然魔力のタメのあまりない防御魔法だ。そこまで堅牢なものではない。しかもまずいことに、桜の花びらに周囲を完全に囲まれ、まるで竜巻の中に閉じ込められた格好になってしまった。その上、四方八方からランダムに花びらが襲い掛かり続ける。これでは防御魔法を解除して、他のこともできない。
「ほう、私の支援を受けたさくら様の10分咲きをとっさの防御魔法で防ぐとは、なかなかやりますね。では、これはどうでしょうね。うめ様」
「ふん、最初に言っとくがね、あたしゃこいつほど性格悪くは無いからね! ギガントフレイムドラゴン!」
うめの作り出した巨大な炎の竜は、さくらの10分咲きに混ざり合うように合体する。そして、超巨大な炎の竜巻となって2人を襲う。
「きゃああああ! 熱いですわ。熱いですわ!」
「くっそお、蒸し焼きにする気かよ!」
「ほう、なかなかやりますね。普通は即死してもおかしくない熱量なのですがね。ふむ、久しぶりのようで、混ざりがいまいちですか。どれ、私が少し手を貸して、完全な桜炎竜巻にして差し上げましょう」
「グラ! こうなったら上しかねえ!」
「ええ、わかりましたわ」
竜巻というだけのことはあって上空には逃げ場があった。2人は防御魔法を展開したまま上空へと飛翔する。
「おっと、そうはさせませんよ。うめ様、さくら様、お願いしますね」
「はいよ」
「ええ」
2人はシルバーの指示通り、竜巻の上を塞ぎにかかる。
「なんだりゃあ!」
「巨大な炎の竜の顔ですわね」
「そうです。動かなければ桜炎竜の体に締め上げられて敗北、上空に逃げればあの巨大なアギトに噛み付かれて敗北。さ、お好きなほうをお選び下さい」
「はっ! 絶体絶命ってか? だがな、まだシクラメンがいるんだよ。あいつが助けに来るまで、耐え切って見せるさ」
「そうですわ! 流石にこれほどの魔法を使いながら、向こうにはちょっかい出せないでしょう?」
「そうそう、お仲間のゴーレムでしたら、助けにはこれませんからね」
「なんだと?」
「なんですって?」
「ご覧になればよろしいでしょう?」
2人の見た先にいたのは、なんとか2人を助けようとゆきとレーヴェを振り切ろうとする妖精騎士ゴーレムの姿だった。だが、背を向けた瞬間に羽に執拗なまでに攻撃を受けて思うように飛び立てないうえに、ゆきやレーヴェを倒そうと攻撃を繰り出しても、軽く回避されと、まさにもてあそばれているかのように妖精騎士ゴーレムはぼろぼろになっていた。
「むうううう、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔~!」
「そんなことわかってるよ~だ。だって、邪魔してるんだもん」
「そういうことだね。っと、そんなわかりやすい攻撃、そうそう当たらないよ」
「むっきいいいい!」
「シクラメンのゴーレムは確かにすばらしいものがあります。パワー、スピード共に、ゆきやレーヴェを大きく上回るでしょう。ですが、接近戦というのはそれだけで勝てるものではありません。シクラメンがゴーレムに乗り込むようになったのはつい最近ではないですか? しかも、強敵との戦闘経験は0と見ました」
「なぜそれを」
「動きを見ればわかりますよ。はっきりいって、ド素人のそれです。乗り手のシクラメンそのものが、ゴーレムの速度についていけてないのが丸わかりですからね。もっとも、そんな状態にも関わらず、ゆきやレーヴェが完全に避けきれていないあたり、そのスピードには感服いたしますがね」
「「むぐぐぐぐぐぐ」」
しかし、二人の願いはついに届かず。シクラメンの妖精騎士ゴーレムは破壊された。
「さて、どうしますか?」
「むううう~! 降参しますわ」
「くっそおおお! 超ムカつく! 降参だ!」
「ええ、賢明な判断ですね」
「勝者、妖精国チーム!」
こうして、チームグラシクローのめんめんは、不完全燃焼で戦いを終えるのだった。




